お知らせ
- 2024/11/13
- お知らせ 第1回「中高年女性会社員」への注目#13<ミドルシニアの羅針盤レター>
- 2024/10/23
- お知らせ 第4回 心の高齢化を防ぐキーファクター#12<ミドルシニアの羅針盤レター>
ミドルシニアの羅針盤レター 2024#12 第4回 心の高齢化を防ぐキーファクター
定年後研究所「シニア活躍推進研究会」でご登壇いただき、ご好評をいただいた早稲田大学大学院経営管理研究科教授 竹内規彦氏より「シニア人材の積極活用に向けた視点」を語っていただいています。今回は4回目(最終回)です。
各回タイトル
第1回 「シニアの仕事エンゲイジメントが低い」は本当か?
第2回 シニアになっても衰えない能力はある
第3回 エイジ・ダイバーシティの本質を探る
第4回 心の高齢化を防ぐキーファクター
1.心の高齢化とは?
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」という映画をご存じの方は多いでしょう。1985年にアメリカで公開され、その後世界中で大ヒットしたSF映画です。あまりに有名な映画なので内容は割愛しますが、「未来へ戻る」という逆説的な表現のタイトルに興味をそそられた人たちが多かったことでしょう。なぜなら、時間は不可逆であり、先に進むことはあっても戻ることはできないからです。
このことは、人が生まれてから経験する時間、つまり「年齢」においても同じです。年齢は暦が進むにつれ、一時も止まることなく上昇します。したがって、暦年齢が「バック」することは、現実の世界では残念ながら起こりません。
しかし、人の内面である「心の年齢」はどうでしょうか。心の年齢とは、本人の知覚や主観に基づく「心理的年齢」のことです。確かに、暦上の実年齢(How old you “are”.)に対して、私たちは逆らうことができませんが、この心理的年齢(How old you “feel”.)は、調整する余地が十分にありそうです。つまり、「エイジング・トゥ・ヤング」という逆説(パラドックス)は、心理的年齢に限って言えば、必ずしも不可能ではないでしょう。
2.心の高齢化がもたらす内面の変化
スタンフォード大学ロンジェビティー研究所教授のローラ・カールステンセンが提起した「社会情動的選択性理論」(socio-emotional selectivity theory)とその後の実証研究による裏づけから、心の高齢化により以下のような変化が起こることがわかっています。まず、加齢に伴い個人の関心事は、自身に関連する「リソース・ゲイン(資源獲得)の最大化」から「リソース・ロス(資源損失)の最小化」へとシフトします。
なかでも、若年では、個人の行動は「情報探索」や「知識獲得」により動機づけられる一方、一定の年齢を経ると、個人の行動は「感情調整」により動機づけられるようになります。つまり、若いうちは、「新たな情報や知識を得るには何をすべきか」を意識して行動しますが、年をとるにつれ、新たな経験よりも「自身の感情を安定させるためには何が必要か」を優先して行動するようになるのです。
更に、個人の対人ネットワークの大きさにも変化をもたらします。すなわち、新鮮な情報や知識の獲得に強く動機づけられる若い時期は、より多くの人々、今まで知り合ったことのない人々と交流し、新たな情報や知識の獲得に役立てる傾向がみられます。一方で、加齢に伴い、自身の感情の安定や心の平穏をより強く求めるようになると、配偶者や家族、親友や近しい同僚など、過去に関係を築いてきた人たちとの継続的かつ安定した交流をし、自身の情緒面での安定を優先するようになります。
3.心の高齢化はいつから?
暦年齢とは異なり、心の高齢化には個人差があります。とはいうものの、心の高齢化が見られるおおよその時期があることも、過去の研究で明らかになっています。
ハイデルベルク大学老年心理学部教授のコーネリア・ヴルツらは、対人ネットワークと年齢の関係に関するメタ分析を行い、個人の対人ネットワークの大きさは30歳まで広がるものの、それ以降は徐々に小さくなる傾向にあることを報告しています。
興味深いことに、この研究以外にも、上述のような内面変化について、「30歳」が一つのターニングポイントであることを示唆する研究が数多くみられ、筆者らによる日本人サンプルの研究でも確認しています。
したがって、早い人では、30歳前後から、新たな知識獲得を通じた自己成長にブレーキをかけてしまい、対人関係の幅も限定的になりがちという状況が起こり始めます。そのため、個人の人生の中で、心の高齢化のターニングポイントをいかに後ろ倒しにできるか、また、変化のスピードをいかに遅らせられるかが重要だといえるでしょう。
4.心の高齢化を予防する職業的未来展望
では、心理的年齢は何によって決まるのでしょうか。重要な指標として注目されているのが、「未来展望」(future time perspective)という概念です。未来展望とは、人生の中でこれから先にどの程度、時間や機会があるかに関する自己の主観的な評価を指します。すなわち、同い年の間でも、まだまだ人生は長い、チャンスはあると知覚する人もいれば、残された人生の時間やチャンスは非常に限られていると認知する人もいます。
更に、この概念を職業生活に応用したものを「職業的未来展望」といいます。自身の職業生活はこれからも続き、まだまだ仕事や社会で活躍できる機会が待ち受けているという知覚です。ここで、職業的未来展望の効果に関するデータを紹介しましょう。
図1、図2は、筆者の研究グループが実施した調査をもとに、各年代別で職業的未来展望の上位20%と下位20%、及びその中間の層のそれぞれのグループにおいて、ワーク・エンゲイジメントとイノベーション関連行動(新たなアイデアの提案、活用、普及にどの程度関与しているか)にどのような差があるかを示したものです。いずれも、縦軸のスコアは100が最高値です。
図1、図2から、全年齢層において、職業的未来展望が高いグループでは、ワーク・エンゲイジメント及びイノベーション関連行動ともに安定して高い水準に推移している一方、低いグループではどの年齢区分でもエンゲイジメント・イノベーションともにスコアが低いことがわかります。すなわち、仕事場面で心を若く保つ秘訣は、この「職業的未来展望」をいかに高く保つことができるかだといえるでしょう。
5.「1人ひとりが活躍できる機会の創出」が鍵
以上からわかるように、心の高齢化を防ぐキーワードは「1人ひとりが活躍できる機会の創出」であるといえます。本連載の初回で示したように、シニアのワーク・エンゲイジメントは、個人差こそあれ、決して低い水準にあるわけではありません(むしろ他の年齢層よりも高い水準を示していました)。また、連載2回目の記事でも示したとおり、シニアになっても言語理解の知的領域は衰えず、更にマルチタスクの実行力も高い水準を維持しています。なにより、長年培ってきた経験や人脈などの可視化できない重要な知をシニアは備えています。
企業に叡智が求められるのは、単に定年年齢を延長するという物理的時間だけではなく、シニアの活躍のための機会を創造し、全従業員に活躍のイメージを見せることでしょう。つまり、残りの職業人生で、まだまだ活躍できるチャンスがあるという認識をシニア予備軍のみならず、全従業員にもってもらうことです。これが従業員の心の高齢化を予防する上で、最も留意しなければならない点でしょう。
【参考文献】
竹内規彦. (2019). シニアの 「心の高齢化」 をいかに防ぐか:心理学と経営学の知見を活かす. DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー, 4, 72-83.
【筆者プロフィール】
名古屋大学大学院国際開発研究科博士後期課程修了。博士(学術)学位取得。専門は組織行動論及び人材マネジメント論。東京理科大学准教授、青山学院大学准教授等を経て、2012 年より早稲田大学ビジネススクールにて教鞭をとる。2017年4月より現職。2022年より京都大学経営管理大学院にて客員教授を兼務。
現在、Asia Pacific Journal of Management (Web of Science IF = 5.4; Springer Nature) 副編集長 (2019-)、 欧州Evidence-based HRM誌 (Web of Science IF = 1.6; Emerald Group Publishing) 編集顧問。
これまでに、Association of Japanese Business Studies(米国)会長、経営行動科学学会会長、産業・組織心理学会理事、組織学会評議員、『経営行動科学』副編集委員長 、國立成功大學(台湾)客員教授、京都大学・学習院大学 客員研究員等を歴任。組織診断用サーベイツールの開発及び企業での講演・研修等多数。
当メールマガジンは一般社団法人定年後研究所が総合監修し、配信運営は株式会社星和ビジネスリンクが行っております。
- 2024/10/09
- お知らせ 第3回 エイジ・ダイバーシティの本質を探る#11<ミドルシニアの羅針盤レター>
ミドルシニアの羅針盤レター 2024#11 第3回 エイジ・ダイバーシティの本質を探る
定年後研究所「シニア活躍推進研究会」でご登壇いただき、ご好評をいただいた早稲田大学大学院経営管理研究科教授 竹内規彦氏より「シニア人材の積極活用に向けた視点」を語っていただいています。今回は3回目です。
各回タイトル
第1回 「シニアの仕事エンゲイジメントが低い」は本当か?
第2回 シニアになっても衰えない能力はある
第3回 エイジ・ダイバーシティの本質を探る
第4回 心の高齢化を防ぐキーファクター
1.シニア人材活用をダイバーシティから見る視点
今回は、シニア人材の活用について、「ダイバーシティ(多様性)」の観点から考えてみたいと思います。ダイバーシティとは、性別(ジェンダー)や人種、能力や価値観など様々な違いをもった人々が組織や集団の中で共存している状態を指します。日本では、ダイバーシティというと、ジェンダーや国籍の問題がよく取り上げられます。しかし、欧米では、エイジ、つまり「年齢」も重要なダイバーシティの属性として見られています。
また、産業界や実務家の間では、ダイバーシティはイノベーションの文脈でよく議論されます。その多くは、ダイバーシティの促進が、組織や事業の革新を伴う成長をもたらすのか、に焦点が当てられています。なぜなら、今日、イノベーションの創出は、多くの企業において重要な課題となっているからです。
イノベーションとは、一言でいえば、価値を生み出すためにこれまでとは異なる何かを行うことです。ビジネスの場面では、イノベーションは、新しいアイデア、方法、製品、サービスなどを導入するプロセスであり、その結果、組織内に大幅な改善や進歩がもたらされることを指します。イノベーションは、個人、対人(上司-部下間、同僚間)、職場(部署や部門レベル)、組織(事業部単位や全社レベル)など様々なレベルで起こりますが、果たしてシニア人材の活用は、イノベーションの創出に貢献できるのでしょうか? 以下、シニアの創造性という観点と職場やチームにおけるエイジ・ダイバーシティという観点から見ていきたいと思います。
2.加齢によって創造性は変化するか?
前回の連載記事では、加齢に伴うパフォーマンスの変化について見てきました。図1は、前回示した年齢階級別の3つのパフォーマンスの推移に、新たに創造性の指標をグラフに加えたものです。この結果は、前回同様、日本企業10社に勤務する1,089名とその直属の上司から得られた回答データに基づいており、パフォーマンスと創造性はいずれも上司が評価・回答したデータを採用しています。
図1から、どの年齢階層においても、タスクやチーム、組織への貢献領域に関するパフォーマンス評価よりも創造性の水準は、相対的に低いことがわかります。また、創造性のグラフを見ると、「55歳以上」で大きく落ち込んでいるのがわかります。
この結果をストレートに解釈すると、シニア層は仕事場面における「創造性」が低下しているということになります。一方で、結果の解釈上、いくつか留意する点もあるでしょう。第1に、アサインされている仕事内容について、各年齢層で等しいとは限らないということです。特に、20歳代と55歳以上の層で創造性が低い水準にあることを考えると、入社から間もない若手と定年に近い(もしくは再雇用等の)シニアには、創造性を発揮できる業務があまり課されていない可能性があります。
第2に、この結果は、社員の創造性の評価を上司が行っているため、上司によるステレオタイプ認知バイアスが働いている可能性もあります。つまり、評価する側の中に、評価者の年齢に対する固定観念(中高年は創造性が低い)がある場合、無意識のうちにシニアの創造性を低めに評価してしまうというバイアスが働いているかもしれません。
したがって、業務のアサイン、評価を行う上司の年齢に対するバイアスを取り除くことで、シニアの創造性のスコアが上昇する可能性は十分にあるでしょう。
3.イノベーションに効果のあるダイバーシティとは?
続いて、職場やチームのレベルで、エイジ・ダイバーシティがイノベーションにどのような効果を持つのか、既存の研究結果から見ていきましょう。
組織行動論では、チームや組織におけるダイバーシティの効果を検証する研究は数多く蓄積されています。一言でダイバーシティといっても、性別や価値観、経験など様々な側面での多様性がありますが、大きく以下の3つの分類が用いられています。
(1)「属性ダイバーシティ」・・・メンバーの性別、年齢、国籍が多様なこと。
(2)「深層レベルダイバーシティ」・・・メンバーの性格、価値観などが多様なこと。
(3)「仕事関連ダイバーシティ」・・・メンバーの仕事の専門領域、スキル、経験値などが多様なこと。
この分類に基づき、既存のダイバーシティの効果検証を行った膨大な研究報告をメタ分析という手法で整理し再検証した論文(van Dijk et al., 2012)によると、チームのイノベーションを高める効果が確認されたのは、「仕事関連ダイバーシティ」のみでした。また、仕事関連ダイバーシティはチームレベルのパフォーマンスを高める効果があることも確認されています。
興味深いことに、メンバーの年齢多様性は、イノベーションやパフォーマンスに効果が見られませんでした。このことは、単に年齢の異なるメンバーの組み合わせだけでは、イノベーション喚起もパフォーマンス向上も期待できないということでしょう。
4.シニアの「情報資源」に着目したエイジ・ダイバーシティの促進
上述のとおり、シニアの「年齢」そのものはあくまで属性・シンボルであり、ダイバーシティには必ずしも貢献しないのです。この点は、エイジ・ダイバーシティの議論で誤解されがちな部分です。
大事な点は、シニアが長年培った仕事経験やスキル、専門性、人脈などが、いかに職場やチームの「情報資源」となり得るかという視点でしょう。そもそもイノベーションを引き起こすメカニズムで重要なのは、「異なる知の組み合わせ」です。したがって、シニア人材を採用(再雇用)・配置(再配置)する際に、シニア本人の経験や専門領域が採用・配属後の職場・組織にとって、どのような情報の「新規性」と「補完性」があるかを考える必要があるでしょう。
【参考文献】
van Dijk, H., van Engen, M. L., & van Knippenberg, D. (2012). Defying conventional wisdom: A meta-analytical examination of the differences between demographic and job-related diversity relationships with performance. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 119(1), 38-53.
【筆者プロフィール】
名古屋大学大学院国際開発研究科博士後期課程修了。博士(学術)学位取得。専門は組織行動論及び人材マネジメント論。東京理科大学准教授、青山学院大学准教授等を経て、2012 年より早稲田大学ビジネススクールにて教鞭をとる。2017年4月より現職。2022年より京都大学経営管理大学院にて客員教授を兼務。
現在、Asia Pacific Journal of Management (Web of Science IF = 5.4; Springer Nature) 副編集長 (2019-)、 欧州Evidence-based HRM誌 (Web of Science IF = 1.6; Emerald Group Publishing) 編集顧問。
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- 2024/09/25
- お知らせ 第2回 シニアになっても衰えない能力はある#10<ミドルシニアの羅針盤レター>
ミドルシニアの羅針盤レター 2024#10 第2回 シニアになっても衰えない能力はある
定年後研究所「シニア活躍推進研究会」でご登壇いただき、ご好評をいただいた早稲田大学大学院経営管理研究科教授 竹内規彦氏より「シニア人材の積極活用に向けた視点」を語っていただいています。今回は2回目です。 各回タイトル
第1回 「シニアの仕事エンゲイジメントが低い」は本当か?
第2回 シニアになっても衰えない能力はある
第3回 エイジ・ダイバーシティの本質を探る
第4回 心の高齢化を防ぐキーファクター
前回は、加齢とモチベーション、特に仕事へのエンゲイジメントとの関係について、筆者のデータをもとにその実態を示しました。具体的には、加齢に伴い仕事エンゲイジメントは低下するどころか、むしろ高まる傾向にあり、特に55歳以上で大きく上昇していることを紹介しました。今回は、加齢と能力(知能)や仕事のパフォーマンスとの関係を見ていきたいと思います。
あくまで一般論としてですが、中高年以降、加齢に伴い知能はおおむね低下していく、という見方を持っている読者は少なくないと思います。この点について、知能と年齢の関係を長年研究しているアラン・カウフマン(イェール大学小児研究センター元教授)らの研究成果をもとに見ていきましょう。
知能検査の世界標準として知られる「ウェクスラー成人知能検査」の第四版(WAIS-IV)では、4つの知能領域と加齢の関係について報告をしています。図1では、25歳の時の知能水準を100とした場合、それぞれの知能が加齢に伴いどのように変化するのかを示しています。この図から、「言語理解」と「ワーキングメモリ」は、加齢による影響を受けにくいことがわかります。
言語理解とは、蓄積された経験・知識を活用したり、言葉によって物事を説明したり考えたりする能力を指します。この言語理解の知能は、25歳を超えてから40代後半辺りまで伸び続けます。その後低下には転じますが、その落ち方は非常に緩やかであり、個人差はもちろんありますが、80歳でも25歳の時とほぼ同水準の言語理解力を維持しています。
また、ワーキングメモリとは、情報の一時的な記憶と処理を同時に行うような一時的記憶力や二重課題の遂行力を指します。暗黙の裡に、シニアは「マルチ・タスク」は苦手と考えがちですが、必ずしもそうではないのです。
一方で、図1より、「知覚推理」(視覚的な情報処理や新たな環境適応)と「処理速度」(情報処理のスピードや筆記能力)は、加齢に伴い低下しやすい能力であることがわかります。このように、シニアの知的能力は、必ずしも一様に低下しているわけではなく、むしろ言語理解は、高い水準を維持しているのです。個人差はあるものの、職場での指導的な役割や社内外のステークホルダーに説明が求められる場面などで活躍できる可能性は十分にあります。加えて、記憶と処理を同時並行してこなすワーキングメモリも決して低くはありません。こうした特性を活かしたシニアの職務配置や仕事のアサインメントは有効だと考えられます。
2.シニアの仕事のパフォーマンスは低い?
従業員のパフォーマンスをどのように捉えるかは、職種や部門、業種などの違いにより一様ではないため、その測定は必ずしも容易ではありません。一方で、このような限界はあるものの、より普遍的にパフォーマンスを測定するニーズが存在することも事実です。職種や部門、業種などを横断的に測定する際によく用いられる指標として、(1)タスク・パフォーマンス(個人にアサインされた日々の業務(タスク)そのものの遂行度合い)、(2)チーム・パフォーマンス(職場などにおける他のチームメンバーとうまく協力して仕事を遂行する度合い)、(3)組織パフォーマンス(職場よりも更に上位のレイヤーである「会社全体」にとって必要なことは何かを考え行動する度合い)の3つがあります。
図2は、上記3つのパフォーマンス水準に関する直属の上司から見た評価結果を、部下の年齢階級に沿って図示したものです。つまり、ここでの回答スコアの数値は、従業員本人の自己申告によるパフォーマンスではなく、多くの企業で行われている人事評価(一次評定:直属上司による部下のパフォーマンス評価)の結果に近いものとなります。
図2より、3つのパフォーマンス指標のうち、日々の業務そのものの遂行度合いに関するタスク・パフォーマンスは30代以降、ほぼ同水準で推移しており、シニア層でも必ずしも低くないことがわかります。一方で、55歳以降でやや落ち込みが大きいのは、他のメンバーとの協働と関連するチーム・パフォーマンスであることがわかります。とはいえ、数値としてはそれほど大きな差ではなく、全般的にみて、加齢に伴うパフォーマンスの低下はそれほど顕著なものではありません。少なくとも、与えられた業務(役割)をしっかりとこなす能力は、シニアでも高いことがわかります。
以上のことから、本人のニーズや能力面で個人差はあるものの、シニア社員に対して、(1)言語理解の知的領域を活かせる業務アサインメントや職務配置を検討する、(2)本人がやりがいを感じるマルチ・タスクが何かを把握しその業務割り当てを検討する、そして(3)シニアの業務役割を明確にする、などは、シニアの能力的な特性に合致した対応と言えそうです。
【参考文献】
Lichtenberger, E. O., & Kaufman, A. S. (2009). Essentials of WAIS-IV assessment. Wiley.
【筆者プロフィール】
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これまでに、Association of Japanese Business Studies(米国)会長、経営行動科学学会会長、産業・組織心理学会理事、組織学会評議員、『経営行動科学』副編集委員長 、國立成功大學(台湾)客員教授、京都大学・学習院大学 客員研究員等を歴任。組織診断用サーベイツールの開発及び企業での講演・研修等多数。
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- 2024/09/18
- お知らせ 号外 第1回2025年4月1日施行 改正育児介護休業法 事業主に求められる「仕事と介護の両立」に向けた情報提供とは 号外編#4<ミドルシニアの羅針盤レター>
ミドルシニアの羅針盤レター2024 号外編#4 2025年4月1日施行 改正育児介護休業法
事業主に求められる「仕事と介護の両立」に向けた情報提供とは
ビジネスケアラーの増加により、介護が企業に及ぼす影響が懸念されています。 最近では職場における介護支援を「投資」と考える企業もあり、いま従業員とその家族の「介護リテラシー向上」は、企業にとって優先すべき課題です。
今回のセミナーでは、社労士による改正育児介護休業法の解説に加え、従業員への介護情報の発信を積極的に行う企業の取り組み、また弊社が提供する介護リテラシー向上策についてお伝えします。
なお、すでにお申し込みをいただいた方にもご案内をさせていただいております。
【開催概要】
■主 催:株式会社星和ビジネスリンク
■開催日時:2024年10月4日(金)13:30~15:00
■開催形式:オンライン(Zoomウェビナー)
■定 員:300名(先着) ※セミナーは無料です
お申し込みはこちらから
[第1部]
令和7年法改正対応 介護離職を防げ!働く環境の安心安全の場からおこる従業員のロイヤリティ
講師:社会保険労務士事務所フォーアンド 代表 小山 貴子 氏
[講師紹介]
求人広告の営業社員として採用業務を皮切りに人事業務経験30年。社労士事務所の運営、東証上場企業2社の非常勤監査役、日本テレワーク協会の客員研究員、東京都創業ステーションの相談員等にも携わる。コロナ以前から初期の3年間、毎月2、3日大分の実家に帰省しながら介護をした経験を持つ。
[第2部]
仕事と介護の両立 ハウス食品グループの取り組み
講師:ハウス食品グループ本社株式会社 ダイバーシティ推進部 加藤 淳子 氏
[講師紹介]
2020年、ダイバーシティ推進部長として全社員を対象に介護リテラシーの向上を目的として取り組みを始める。情報不足に起因する社員の不安を解消しながら介護と仕事の両立をサポート。社員には「助けを求めていい」というメッセージを発信しながら、介護状態の社員が働くことを諦めないでいられる組織作りを目指す。
[第3部]
介護離職防止に向けた従業員と家族の「介護リテラシー向上策」
講師:株式会社星和ビジネスリンク 常務執行役員 キャリア開発支援事業本部長 浅田 典之
[講師紹介]
中高年層のキャリア支援を目的としたeラーニング「キャリア羅針盤」の開発を担当。就労期間が長期化する中で、従業員とその家族の「介護リテラシー向上」の必要性を訴求している。
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- 2024/09/04
- お知らせ 第1回 「シニアの仕事エンゲイジメントが低い」は本当か? #9<ミドルシニアの羅針盤レター>
ミドルシニアの羅針盤レター 2024#9 第1回 「シニアの仕事エンゲイジメントが低い」は本当か?
本号からは、早稲田大学大学院経営管理研究科教授 竹内規彦氏より4回にわたり語っていただきます。定年後研究所「シニア活躍推進研究会」でご登壇いただき、ご好評をいただいた竹内氏の「シニア人材の積極活用に向けた視点」をご紹介いたします。
各回タイトル
第1回 「シニアの仕事エンゲイジメントが低い」は本当か?
第2回 シニアになっても衰えない能力はある
第3回 エイジ・ダイバーシティの本質を探る
第4回 心の高齢化を防ぐキーファクター
1.高齢化の現状とシニア活用の課題認識
今日、日本企業では、シニア人材の積極的な活用が求められるようになってきました。日本では、少子化に伴う人口減少が今後加速し、2030年代後半には、3人に1人が65歳以上という時代が到来します。一方で、従来働き手の中心であった15歳から65歳未満までの生産年齢人口は減少しており、2035年には50%台半ばまで落ち込みます(総務省統計局, 2023)。このような状況を考えると、企業がシニア層を積極的に活用した人材戦略を考える必要性はますます高まってくることが予想されます。
しかしながら、企業においてシニア人材の活用が進んでいるとは必ずしも言えない状況です。特に、シニア人材の積極活用を阻む要因として、シニア人材のモチベーションやエンゲイジメントを懸念する声がよく聞かれます。実際に企業では、シニアの活用にあたっては、蓄積してきた仕事経験や技術の活用を期待する反面、健康面やモチベーションの低下を懸念する企業も少なくありません。日本の大手企業を対象とした最近の調査では、継続雇用対象者の課題として「対象者のモチベーション」を挙げる企業が7割を超え最も多く、人件費(53%)や他の従業員との協働(31%)などの要因を大きく上回っています(Works Human Intelligence, 2023)。
では、シニアの仕事に対するモチベーションは本当に低いのでしょうか? 特に、近年、人的資本経営の可視化に伴い注目されている仕事へのエンゲイジメントを中心にみていきましょう。
2.日本における仕事エンゲイジメント
米国の大手世論調査会社(ギャラップ社)が2017年に発表した職場状況に関する国際比較調査において、日本の社員の仕事意識に関し警鐘を鳴らすような結果を公表しました(Gallup, 2017)。具体的には、日本における「熱意のある」社員の割合はわずか6%に過ぎず、71%が「熱意のない」社員に該当し、更に23%は「全く熱意がない」社員という衝撃的な結果でした。この結果は、調査対象国139カ国中、実に132番目と最下位クラスの位置づけであり、日本のビジネスの世界でもにわかに話題となりました(日本経済新聞, 2017)。
それから数年、ギャラップ社の最新のデータ(Gallup, 2023)においても、状況はほぼ変わっていません。「熱意のある」社員は5%とむしろ若干ですが悪化しています。世界全体での「熱意のある」社員の割合は23%(Gallup, 2023)であることからすると、違いは歴然です。
ただし、このデータから、日本における仕事へのエンゲイジメントが本当に低いと結論付けるのは早計でしょう。というのも、ギャラップ社のエンゲイジメント調査で測定しているのは、仕事や組織への「情緒的」な関わりの側面がほとんどだからです。
少し専門的な話になりますが、一般には「熱意」と邦訳される“engagement”ですが、心理学では、熱意という「情緒的」な側面に加え、「認知的」及び「物理的」な側面を含む用語としてエンゲイジメントは理解されています(Kahn, W. A. 1990)。私は、わかりやすく、エンゲイジメントを「ある対象との情緒的、思考的、行動的な関わりの度合い」と説明しています。つまり、仕事エンゲイジメントとは、(1)仕事を楽しいと感じ熱意を覚え(=情緒的)、(2)仕事のことをよく考え集中し(=思考的)、そして(3)実際に行動として、積極的に仕事に従事している(=行動的)状態のことを指します。
データは割愛しますが、私が実施した調査では、確かにギャラップ社の調査結果と同様に、日本における情緒的なエンゲイジメントは低いのですが、思考的、行動的なエンゲイジメントは比較的高い水準にあります。
3.本当は高いシニアの仕事エンゲイジメント
さて、上述の情緒面、思考面、行動面を含む仕事へのエンゲイジメントは、年齢別でどのような違いがあるのでしょうか。図1は、加齢に伴う仕事・学習関連の態度の推移を表したものです。対象者は、日本の民間企業に勤務する正規社員1,089名です。縦軸は、仕事満足度、仕事へのエンゲイジメント、自律的学習のそれぞれを測定する質問項目に対して、7段階の回答スケールを使って回答いただいた結果をそのまま得点化(最低値=1~最高値=7)した指標であり、横軸は年齢階級を指しています。
図1から、仕事満足度、仕事へのエンゲイジメント、自律的学習は、おおむね年齢階級が上がるにつれ、それぞれ上昇していることがわかります。特に、仕事へのエンゲイジメントは、55歳以上の年齢階級で大きくスコアが増加していることがわかります。この結果には、目を疑う読者も少なからずいると思いますが、筆者が過去に約7,000名の勤労者に行った大規模調査でも同様の結果が表れています(詳しくは、竹内規彦,2019 を参照)。つまり、少なくとも私が実施した複数の大規模調査からは、「シニアの仕事エンゲイジメントが低い」という見方は支持されないどころか、むしろ「シニアは仕事エンゲイジメントが高い」可能性が示唆されています。
もちろん、この結果の解釈には注意が必要です。というのも、この調査での対象者はあくまで正規従業員であり、非正規や一時的な雇用者、また自営業者やフリーランスなどの就業形態の人は含まれていません。また、仕事や職場の環境など、個別的な要因もここでは考慮されていません。
とはいえ、55歳以上でしかも正規に雇用されている人々の仕事へのエンゲイジメント、仕事満足度、自律的な学習意欲が相対的に高い値であることは事実です。ともすると、私たちは、正規従業員として働く機会を得ている(得続けている)シニアの仕事へのエンゲイジメントについて、過小評価しているかもしれません。
次回の連載では、加齢に伴う能力やパフォーマンスの変化についてみていきます。
【参考文献】
Gallup, 2017. State of the Global Workplace. Gallup Press.
Gallup, 2023. 2023年版 ギャラップ職場の従業員意識調査:日本の職場の現状レポート. Gallup Press.
Kahn, W. A. 1990. Psychological conditions of personal engagement and disengagement at work. Academy of Management Journal, 33(4), 692-724.
日本経済新聞,2017. 「熱意ある社員」6%のみ 日本132位、米ギャラップ調査. 日本経済新聞, 5月26日朝刊.
総務省統計局,2023. 統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-. 統計トピックス, 138. Retrieved from https://www.stat.go.jp/data/topics/pdf/topi138_summary.pdf
竹内規彦,2019. シニアの 「心の高齢化」 をいかに防ぐか: 心理学と経営学の知見を活かす. DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー, 4, 72-83.
Works Human Intelligence. 2023. 高年齢者雇用に関する調査レポート:大手企業の実態と拡大を阻む課題. Retrieved from https://www.works-hi.co.jp/businesscolumn/elder-employment_report
【筆者プロフィール】
名古屋大学大学院国際開発研究科博士後期課程修了。博士(学術)学位取得。専門は組織行動論及び人材マネジメント論。東京理科大学准教授、青山学院大学准教授等を経て、2012 年より早稲田大学ビジネススクールにて教鞭をとる。2017年4月より現職。2022年より京都大学経営管理大学院にて客員教授を兼務。
現在、Asia Pacific Journal of Management (Web of Science IF = 5.4; Springer Nature) 副編集長 (2019-)、 欧州Evidence-based HRM誌 (Web of Science IF = 1.6; Emerald Group Publishing) 編集顧問。
これまでに、Association of Japanese Business Studies(米国)会長、経営行動科学学会会長、産業・組織心理学会理事、組織学会評議員、『経営行動科学』副編集委員長 、國立成功大學(台湾)客員教授、京都大学・学習院大学 客員研究員等を歴任。組織診断用サーベイツールの開発及び企業での講演・研修等多数。
当メールマガジンは一般社団法人定年後研究所が総合監修し、配信運営は株式会社星和ビジネスリンクが行っております。
- 2024/08/07
- お知らせ 第4回: ライフプランは「幸福学」と人生のミッション #8<ミドルシニアの羅針盤レター>
ミドルシニアの羅針盤レター 2024#8 第4回: ライフプランは「幸福学」と人生のミッション
研修講師、経営コンサルタント、そしてビジネス書作家でもある大杉潤氏による第4回(最終回)のお話は、ライフプランは「幸福学」と人生のミッションについてです。
これまで、中高年向け社員研修が「長く働くこと」を目指す社員に向けたプログラムに変貌していることを説明し、キャリアプランとマネープランの方向性について解説してきました。ライフプラン(人生設計)を考える際の両輪がキャリアプランとマネープランです。私が実施する企業研修では、締めくくりとして「幸福学」の考え方を紹介し、それをベースに自らの「人生のミッション」を考えて整理してもらい、グループの中で1人ひとり発表して相互にフィードバックをし合う演習を最後に行っています。
「幸福学」が明らかにした「幸せの4つの因子」
日本で学問として「幸福(=Well-being)」を研究し、「幸福学」の第一人者と言われている前野隆司・慶應義塾大学大学院教授が日本人だけを対象に調査をし、その結果を因子分析した結論として、幸福度の高い人には、次の「幸せの4つの因子」が共通してあることを明らかにしました。
1.「やってみよう!」因子(自己実現と成長の因子)
2.「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子)
3.「なんとかなる!」因子(前向きと楽観の因子)
4.「あなたらしく!」因子(独立とマイペースの因子)
4番目の「あなたらしく!」因子はのちに「ありのままに!」因子(独立とあなたらしさの因子)と表現を変えていますが、この4つの因子を心的特性として持っている人は、そうでない人に比べて明らかに幸福度が高いことがわかりました。 ライフプラン(人生設計)を考えていくときに、この「幸せの4つの因子」をベースに組み立ていくことが大切なのです。
「ありがとう!」因子から人生のミッションを考える
私の行う研修では、長く働くために、働く期間を3つに分けて考える「トリプルキャリア」という考え方を紹介していることを 第2回:キャリアプランは「自営型」シフト において説明しました。以下の3つに分ける考え方です。
1. ファーストキャリア: 会社員として「雇われる働き方」
2. セカンドキャリア: 定年のない「雇われない働き方」
3. サードキャリア: ライフワークに絞り込む「理想の働き方」
その最後にあたるサードキャリアでの活動、すなわちライフワークを先に決めることが大切で、そこから逆算して(バックキャスティングで)セカンドキャリアとしてどんな仕事をするかを決め、そのための準備としてファーストキャリアの50代にはどんな準備をしていくのかを戦略的に考えていくということでした。
年齢で言えば、体力面・健康面での制約が避けられない75歳以降のキャリア(活動)になり、「そんな先のことはわからないし考えられない」と言う人が大半なのですが、あえて「人生のミッション」として考えてもらうのです。
ミッションの語源はキリスト教にあり、「神から与えられた使命」ということ。キリスト教系の学校を日本では「ミッションスクール」と呼んでいます。ミッションという言葉は、企業経営でもよく使われていて、その場合は「社会的使命」と訳します。我々の会社や事業は「なぜ世の中に存在しているのか」という社会的な存在価値のこと。昨今、注目される「パーパス経営」でいう「パーパス」もほぼ同じ意味になります。
人生でも同じで、「人生のミッション」とは、「自分はなぜ、この世の中に生まれてきたのか」、つまり世の中に存在する意味を自らに問うことなのです。
いきなり「人生のミッション」を問いかけられても戸惑う人が大半です。そこで、考えるヒントとして、幸福学の「幸せの4つの因子」の2番目である「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子)を手掛かりに、これまでの人生で感謝した人や経験を振り返ってもらい、そこから自らの「人生のミッション」を考えてもらいます。
図表4-1のシートを使って、仕事面・生活面・その他に分けて、右列の「感謝すべき人・経験など」から記入し、「優先度」を評価したうえで、「自らの『使命』」を言語化してもらいます。ここでアウトプットした「人生のミッション」をライフワークとして、生涯現役・生涯貢献のライフスタイルで日々を過ごすことが幸福度の高いライフプラン(人生設計)になるのではないかと思います。
以上で、4回連載「最近の中高年社員向け研修の動向とその背景」は終了になります。
最後に、前野隆司教授の著書『99.9%は幸せの素人』(星渉・前野隆司 共著・KADOKAWA)に掲載されていた「IKIGAIベン図」(図表4-2)を紹介します。図表4-2で4つのことが重なるものが「IKIGAI(生きがい)」で、これをライフワークとして生涯現役・生涯貢献で活動するのが幸せなライフプラン(人生設計)ということです。サードキャリアの活動は、ここに集約されるのかも知れません。 人生とは「時間配分」の積み重ねであり、どんな「時間の使い方」をしていくのかが人生そのものと言えるでしょう。
【参考文献】
『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(前野隆司著・講談社現代新書)
『99.9%は幸せの素人』(星渉・前野隆司 共著・KADOKAWA)
『12000冊のビジネス書を読んで試した経営コンサルが名著100冊から「すごい時間のつかい方」を 抜き出して1冊にまとめました』(大杉潤著・WAVE出版)
【筆者 大杉潤氏 プロフィール】
1958年東京都生まれ。フリーの研修講師、経営コンサルタント、ビジネス書作家。
早稲田大学政治経済学部を卒業、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)に 22年間勤務したのち東京都庁に転職して新銀行東京の創業メンバーに。
人材関連会社、グローバル製造業の人事・経営企画の責任者を経て、2015年に独立起業。
年間300冊以上のビジネス書を新入社員時代から40年間読み続け累計1万2000冊以上
を読破して、3400冊以上の書評をブログに書いて公開している。
著書には、『定年ひとり起業』シリーズ3部作(自由国民社)、『定年後不安』(角川新書)、『50代 お金の不安がなくなる副業術』(エムディエヌコーポレーション)などがある。
当メールマガジンは一般社団法人定年後研究所が総合監修し、配信運営は株式会社星和ビジネスリンクが行っております。
- 2024/07/24
- お知らせ 第3回: マネープランは「WPP」と戦略的な準備 #7<ミドルシニアの羅針盤レター>
ミドルシニアの羅針盤レター 2024#7 第3回: マネープランは「WPP」と戦略的な準備
研修講師、経営コンサルタント、そしてビジネス書作家でもある大杉潤氏による第3回目のお話は、マネープランは「WPP」と戦略的な準備についてです。
人生100年時代を迎え、「長く働くこと」を目指す会社員が増えてきたことに伴って、中高年向け社員研修が大きく変わりつつあることを述べてきました。私が実施している「50代向けライフキャリア研修」では次の3つの柱からプログラムを構築しています。
1. キャリアプラン ~ トリプルキャリアと「自営型」シフト 【第2回】
2. マネープラン ~ 「WPP」と戦略的な準備 【第3回】
3. ライフプラン ~ 「幸福学」と人生のミッション 【第4回】
今回の第3回は「マネープラン」についてお話しします。私の研修ではこの「マネープラン」を午前中に、午後から「キャリアプラン」、「ライフプラン」の順に行って、1日研修(7時間程度)とするケースが一般的です。将来の年金制度の展望や自分の年金額シミュレーションのやり方を理解し、長い定年後のマネープランについて危機感を持ったうえで、キャリアプランやライフプランを考えてもらうのです。
老後マネープランは「WPP」
マネープランについては、「先のことまで考えていない」という50代会社員が多く、配偶者に任せきりで、毎月「小遣い制」で暮らしている人が大勢です。あとは夫婦がそれぞれの収入を別々の財布で管理して、共通の支出についてだけ大まかな分担を決めているケース。おひとりさまの場合は、将来に対する危機感からいろいろと考えているものの、明確な準備行動をとっている人は意外と少ない。私が日々、研修の場で接している50代会社員はおおよそこんな感じです。
特に将来の年金については、何となく「自分がもらえる年金額は少なそうだ」という漠然とした不安を持っているものの、毎年送られてくる「ねんきん定期便」はチラリと見るだけで深く考えない人がほとんどです。「見たくないものは見ない」という感覚なのかも知れません。
私がまずお話しするのは、老後マネープランを野球のピッチャーの継投に例えた「WPP」という考え方です。それぞれ、以下の頭文字になります。(図表3-1参照)
W:Work Longer(長く働く)→ 先発
P:Private Pension(私的年金)→ 中継ぎ
P:Public Pension(公的年金)→ 抑え
この中で、最も大切なのは、先発ピッチャーの「長く働く」こと、次が抑えピッチャーの「公的年金」で,野球のゲームプランと同じです。
2019年の金融庁レポートで「老後2000万円不足問題」が大きな反響を呼び、資産運用(投資)が重要だということで、金融機関の投資セミナーが連日満員になりました。しかしながら、退職金や資産運用(投資)などは脇役なのです。
「年金3点セット」で自分の年金額を把握する
それを踏まえたうえで、次の「年金3点セット」で自分の将来の年金額を把握することが大切です。現状把握がしっかりできなければ、マネープランの戦略は立てられません。
1.「ねんきん定期便」を毎年チェック
2.「ねんきんネット」に登録して自らの年金額をシミュレーション
3.日本年金機構の窓口相談(予約制・ひとり45分間・無料)
ねんきんネットによるシミュレーションは、何歳までいくらの年収で働くか、年金を基礎年金・厚生年金でそれぞれ何歳から受給するかなど、条件を変えて自在にシミュレーションができる優れものです。これを行ったうえで、年金事務所の窓口に相談に行けば、とても有益な情報が得られます。夫婦で行けば連続の時間枠で90分間、じっくりと相談ができます。
家計版の「キャッシュフロー表」で戦略的な準備
将来の年金収入を何とおりかシミュレーションして把握すれば、家計としての毎年の収支バランス(収入マイナス支出)を計算できます。それを現在からできれば90歳、95歳くらいまでのものを毎年計算して一覧表にする「家計版キャッシュフロー表」を作成することを勧めています。最初に作るときは大変ですが、一度作成しておくと、あとは毎年見直しをするだけなので、機動的に戦略を立てて老後資金の準備ができます。(図表3-2参照)
更に毎年の年末時点での家計の資産、負債および純資産を把握する 家計版「貸借対照表」(バランスシート)」を作成しておくと、より適切な準備ができます。(図表3-3参照)
マネープランについては、配偶者や子どもの有無、居住地、相続、介護など個別事情による個人差が大きく状況がさまざまなので、研修では個人ワークとして取り組んでいただき、グループでの共有などは行わない運営としています。ただ、作業をしてみた感想を述べ合うことで、自分の意識や準備について、いろいろと刺激を受けるようです。
次回の第4回(最終回)では、「ライフプラン」についてお話しします。
【参考文献】
『WPP.シン年金受給戦略』(谷内陽一著・中央経済社)
『知らないと損する年金の真実』(大江英樹著・ワニブックスPLUS新書)
『定年ひとり起業 マネー編』(大杉潤著・自由国民社)
権丈善一・慶應義塾大学教授の東洋経済ONLINE記事
【筆者 大杉潤氏 プロフィール】
1958年東京都生まれ。フリーの研修講師、経営コンサルタント、ビジネス書作家。
早稲田大学政治経済学部を卒業、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)に 22年間勤務したのち東京都庁に転職して新銀行東京の創業メンバーに。
人材関連会社、グローバル製造業の人事・経営企画の責任者を経て、2015年に独立起業。
年間300冊以上のビジネス書を新入社員時代から40年間読み続け累計1万2000冊以上を読破して、3400冊以上の書評をブログに書いて公開している。
著書には、『定年ひとり起業』シリーズ3部作(自由国民社)、『定年後不安』(角川新書)、『50代 お金の不安がなくなる副業術』(エムディエヌコーポレーション)などがある。
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- 2024/07/10
- お知らせ 第2回: キャリアプランは「自営型」シフト #6<ミドルシニアの羅針盤レター>
ミドルシニアの羅針盤レター 2024#6 第2回: キャリアプランは「自営型」シフト
研修講師、経営コンサルタント、そしてビジネス書作家でもある大杉潤氏による第2回目のお話は、キャリアプランは「自営型」シフト についてです。
第1回では、中高年向け社員研修が、これまでの「ソフトランディング型」研修から、中高年社員の積極活用を志向した「再活性化型」研修へ転換していることを示しました。その背景として、人生100年時代を迎え、「長く働くこと」を目指す会社員が増えてきて、会社もその支援を積極的に行うようになってきたことを「3つの要因」から説明しました。
第2回から第4回では、「長く働くこと」を志向する中高年社員向け研修は実際にどのようなプログラムで実施されているのかを見ていきます。私が中高年社員向けに行っている「50代向けライフキャリア研修」(名称は、キャリアデザイン研修、リフレッシュ研修などさまざま)をベースに最新プログラムを、3回に分けて紹介・解説していきます。
プログラムの柱は以下の3つからなり、それぞれ第2回、第3回、第4回において具体的な内容とその狙いについて説明していきます。
1. キャリアプラン ~ トリプルキャリアと「自営型」シフト 【第2回】
2. マネープラン ~ 「WPP」と戦略的な準備 【第3回】
3. ライフプラン ~ 「幸福学」と人生のミッション 【第4回】
第2回の今回は「キャリアプラン」についてです。
定年後の働き方「4つの選択肢」
一般的に60歳定年後の選択肢は以下の4つと言われています。
1. 定年再雇用
2. 出向・転籍
3. 転職
4. 独立・起業
このうち、8割以上の会社員は1番目の定年再雇用を選択し、大企業では9割以上と言われています。再雇用は一見リスクがなさそうに見えますが、65歳以降も「長く働く」というライフスタイルを目指す場合、65歳のときに取れる選択肢が狭くなり、実はリスクが大きいとも言えます。
一方で、4番目の独立・起業はハードルも高く最もリスクが大きく感じられます。しかし今後は企業が70歳までの就業機会を確保する観点から、雇用にはこだわらず「業務委託契約」を締結する形で会社員の起業を支援する流れも出てくるものと思われ、意外にリスクが少ないかも知れません。「65歳以降の人生が長い」ということをベースとした人生の全体像から、60歳以降の働き方やキャリアプランを組み立てる時代になってきたのです。
長く働くための「トリプルキャリア」という考え方
私の行う研修では、長く働くために、働く期間を3つに分けて考える「トリプルキャリア」という考え方を紹介しています。次の3つに区分します。
1. ファーストキャリア: 会社員として「雇われる働き方」
2. セカンドキャリア: 定年のない「雇われない働き方」
3. サードキャリア: ライフワークに絞り込む「理想の働き方」
それぞれ「65歳の壁」、「75歳の壁」という年齢の壁を迎えるまでに、ファーストキャリアからセカンドキャリアへ、セカンドキャリアからサードキャリアへ、働き方を戦略的に変えていくのです。「65歳の壁」とは完全定年の壁で、これを越えて「雇われる働き方」では働き続けることが難しくなります。「75歳の壁」は体力・健康面の壁で、それまでと同じフルタイムでの働き方は難しくなります。 そうした年齢による壁はあらかじめわかっているので、そこに備えて50代のうちから計画的に準備をしていくのが「トリプルキャリア」という考え方です。
コツは、人生の最期まで続けたいサードキャリアでの活動、すなわちライフワークを先に決めること。そこから逆算して(バックキャスティングで)セカンドキャリアとしてどんな仕事をするかを決め、そのための準備としてファーストキャリアの50代にはどんな働き方をしていくのかを戦略的に考えていくのです。(図表2-1参照)
人生とキャリアの棚卸しで、「好き」や「強み」を再発見する
雇われない働き方のセカンドキャリアへ移行して長く働き続けるには、自分の「好き」や「強み」を明らかにして、それを組み合わせることが必要になります。できれば3つ以上の個性や専門性を組み合わせることで「オンリーワンの存在」になることを目指すのです。
研修では、生まれてから現在までの人生とキャリアを棚卸しして、その時々の「人生満足度」を数値化してグラフに描いてもらいます。さらに、エドガー・シャインが提唱するキャリア・アンカーの「動機」「コンピタンス」「価値観」というフレームを、そのベースとなるキャリアプランニングの3つの視点「Will(したい)」「Can(できる)」「Must(すべき)」に対応させて、3つが重なるコンセプトを内省してもらうのです。(図表2-2参照)
そうした個人での思考、言語化を通して、サードキャリアでのライフワークにつながる活動のイメージを考えてもらいます。将来のキャリアを自ら描くという時間をもって、同世代の仲間とアウトプットし合うのは貴重な体験になります。 グループ演習による意見交換・情報交換を経て、50代からは会社の中で、メンバーシップ型でもジョブ型でもない、「自営型」の働き方をすべきではないかと考える人が多くなり、キャリア自律につながっていくのです。
【参考文献】
『「自営型」で働く時代』(太田肇著・プレジデント社)
『定年ひとり起業』(大杉潤著・自由国民社)
『定年後不安』(大杉潤著・角川新書)
【筆者 大杉潤氏 プロフィール】
1958年東京都生まれ。フリーの研修講師、経営コンサルタント、ビジネス書作家。
早稲田大学政治経済学部を卒業、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)に 22年間勤務したのち東京都庁に転職して新銀行東京の創業メンバーに。
人材関連会社、グローバル製造業の人事・経営企画の責任者を経て、2015年に独立起業。
年間300冊以上のビジネス書を新入社員時代から40年間読み続け累計1万2000冊以上を読破して、3400冊以上の書評をブログに書いて公開している。
著書には、『定年ひとり起業』シリーズ3部作(自由国民社)、『定年後不安』(角川新書)、『50代 お金の不安がなくなる副業術』(エムディエヌコーポレーション)などがある。
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- 2024/07/04
- お知らせ 第1回: 自社内にロールモデルとなるシニア社員はいますか~社内外で新たな役割を創り出すロールモデルに学ぶ~ 号外編#3<ミドルシニアの羅針盤レター>
自社内にロールモデルとなるシニア社員はいますか
~社内外で新たな役割を創り出すロールモデルに学ぶ~定年後研究所*1の池口です。弊所では、中高年社員の活性化に関心のある企業人事担当者の情報交換の場として「シニア活躍推進研究会*2」を対面方式で定期開催しています。そこでは産官学の有識者のご講演とともに、分科会で人事担当者同士の忌憚のない情報交換をしていただいております。
シニア社員のキャリア課題
実に様々な悩みが企業人事担当者から聞かれますが、最も多いのは、
「受け身のキャリアを重ねてきたシニア社員は、自ら役割を創り出す心構えが薄い」
「プロボノや副業など外に目を向ける機会を設けても手を挙げるのは若手社員ばかりで、
シニア社員からの反応がない」
「キャリア研修を希望制に変更したが、キャリア自律意識の低い層は手を挙げてくれない」
「体験発表をお願いできるようなロールモデルとなりえるシニア社員やOB・OGが見当たらない」 との声です。皆様の会社ではいかがでしょうか。
キャリアの一定の振り返りはできても、セカンドキャリアをこれまでの延長でしかイメージできないとの声もよくお聞きします。
私自身も長年受け身のキャリア形成をしてきた世代の一人として、外に目を向けようとしないシニア社員の内面が理解できるような気がします。自社内に限られた職場経験だけでは、未知の分野で自分の能力が通用するのか想像もできず、尻込みをしてしまうのは無理もないことかも知れません。
シニア社員の自己効力感*3を高めるには
自己効力感の研究で著名なバンデューラは、自己効力感の形成や変容に影響を及ぼす4つの要素の一つに「代理学習」をあげています。自分が実際に行動していなくても、他者の経験を観察することで、「これは自分にもできそう」「少し背伸びや勉強をしてみることで、自分もあの先輩のようになれるかもしれない」と感じることができれば、自己効力感は高まります。そして新たなチャレンジや社外への踏み出しを促すことも期待されます。
私がアドバイザーを務める「早稲田大学キャリア・リカレント・カレッジ*4」では、「キャリア羅針盤*5」を活用した自己理解作業に加えて、多彩なロールモデルにご登壇をいただき、受講生に豊富な「代理体験」の機会を提供しています。同じ世代や少し先輩にあたる等身大のロールモデルが語るキャリアストーリーは、受講生一人一人のキャリアの可能性、自己効力感を徐々に広げていき、やがて自らが、自分たちの志向にあったロールモデルを探しだし、能動的に学びを重ねていく行動変容に繋がっています。
キャリア羅針盤「ロールモデルに学ぶ」
定年後研究所では、これまでも多彩なロールモデルにインタビューを行い、その意識と行動変容のプロセスを調査研究してきています。今回、その集大成の一つとして「キャリア羅針盤:ロールモデルに学ぶ」をご提供する運びとなりました。
「役職定年後の新たな役割に生きがいを見出し、意欲的に学習することでセカンドキャリアの道筋も描いた方」
「早期退職勧奨に応じ、学びのインターバルを置くことで、本来やりたかったことにチャレンジし、パラレルキャリアを実現した方」
「再雇用後の社内での仕事にやりがいを見出せず、社外公募に手を挙げたことから、再雇用期間を活かしきり、65歳以降のキャリアの充実を手にした方」
など5名の方に語っていただき、自らのキャリア後半の探索に前向きになっていただくことを狙いとしています。
ご関心のある方は、定年後研究所のサイト「お問い合わせ」よりご照会ください。
◎一般社団法人定年後研究所 お問い合わせフォームはこちら
*1 一般社団法人定年後研究所 概要等(HP)はこちら
*2 シニア活躍推進研究会
主として大手企業の中高年社員の活躍をテーマに、人事担当者を対象に「付加価値の高い情報提供」と「人事担当者の情報交換の場づくり」を目的として、東京・大阪会場別日程にて対面方式で定期開催しています。
*3 自己肯定感 バンデューラが提唱した概念で、目標を達成するための能力を自らが持っていると認識すること。
*4 早稲田大学キャリア・リカレント・カレッジ
ミドルシニアのビジネスパーソンが自分らしいキャリア後半を設計することを目的に、早稲田大学と定年後研究所共同で開発した半年間の履修証明プログラム。今期は2024年10月開講予定。
*5 キャリア羅針盤
中高年社員が、自身のペースで深い自己理解、キャリア探求を行うeラーニングプログラム。定年後研究所が総合監修し、渡辺三枝子氏、川島隆太氏など各界の第一人者が内容を執筆。
- 2024/06/26
- お知らせ 第1回: 「長く働くライフスタイル」を目指す背景 #5<ミドルシニアの羅針盤レター>
ミドルシニアの羅針盤レター 2024#5 第1回: 「長く働くライフスタイル」を目指す背景
本号から新しいテーマになります。4回にわたり、研修講師、経営コンサルタント、そしてビジネス書作家でもある大杉潤氏より、最近の中高年社員向け研修の動向とその背景について語っていただきます。1回目は、 「長く働くライフスタイル」を目指す背景です。
中高年向け社員研修が今、大きく変わり始めています。これまでの「ソフトランディング型」研修から、中高年社員の積極活用を意図した「再活性化型」研修への転換です。
研修受講後の目指す姿は、自ら内省を深めて情報収集や「学び直し」の行動を起こすこと。自らキャリアや人生を設計する中で、自発的なリスキリングによって長く会社に貢献しようというモチベーションアップやキャリア自律を果たしていく姿です。
その背景として、人生100年時代を迎え、「長く働き続ける」会社員が増えてきて、会社もその支援を積極的に行うようになってきたことがあります。
第1回では、「長く働くこと」を目指す背景を3つに分けて説明していきます。
「働き手不足1,100万人」の衝撃【経済要因】
会社員が定年後も長く働き続ける第1の背景は、経済要因です。2027年から生産年齢人口(15~64歳)が本格的に減少し始めます。働き手不足が拡大し、2040年には1,100万人もの不足が生じるという衝撃的な予測があります。リクルートワークス研究所によるレポート「未来予測2040 労働供給制約社会がやってくる」(2023)で発表された数字で、その根拠は、国勢調査や国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」の中位推計をベースにした人口推移の予測です。(図表1―1、1-2参照)
働き手とされる生産年齢人口の減少が加速していく一方、65歳以上の高齢者人口は横ばいから微増となって生活維持サービスの需要はむしろ拡大するため、輸送・運搬(ドライバー)、建設、販売、介護、医療などの生活サービスを担う働き手(エッセンシャルワーカー)が大幅に不足するのです。2024年現在でもドライバーや介護分野での高齢化と人材不足は明らかですが、2027年からは不足人数が急拡大します。
こうした状況下で、元気な高齢者に対する労働需要は増加し、働き手として強い期待が続くものと考えられます。
年金財政の逼迫が加速化【財政要因】
第2の背景が財政要因です。先ほど述べた人口構成の推移により、年金保険料を支払う現役世代と年金受給者である高齢者のバランスが更にいびつになっていくことから、年金の受給金額は下がっていくでしょう。正確に言えば、これからはインフレによって名目金額は上がっていくでしょうが、物価上昇率ほどには上がらないということになります。年金制度自体に「マクロ経済スライド」という仕組みがビルトインされていて、物価上昇率より少ない年金額上昇率にすることで、人口構成のゆがみを調整していく仕組みになっているからです。
したがって、年金生活者の購買力は年々、下がっていくことになり、おのずと年金をもらいながら働いて生活費不足分を補うというライフスタイルが一般的になっていくでしょう。
健康面でも「働き続けるメリット」が大きい【身体要因】
長く働き続ける3つ目の背景が身体要因です。高齢者の就業率トップの長野県の平均寿命が全国的に高いことをはじめ、世界的にも「健康長寿の人には長く働き続けている人が多い」という調査・研究が数多くあります。
「健康だから働いている」と解釈する人も多いのですが、私は逆だと考えていて、「働き続けているから健康なのだ」と思うのです。働いてお金を稼ぐには、規則正しい生活を続け、緊張感を持って日々を過ごし、仕事の関係で人との会話や交流があって孤独を感じることは少ない傾向です。無理のない働き方であれば、心身の健康に「働くこと」は大きなメリットになるでしょう。最大の予防医療は「働くこと」と提唱している医学の専門家も多いのです。(拙著『定年ひとり起業 生き方編』を参照)
以上の3つの背景、すなわち「経済要因」「財政要因」「身体要因」から、今後ますます「長く働き続ける」というライフスタイルが増えていくでしょう。ただし、働き方は多様化していくものと思われます。2021年4月に施行された「改正高年齢者雇用安定法」では、雇用という形態にはこだわらず、「70歳までの就業機会の確保」を大企業の努力義務として定めています。その大企業の中でも対応している企業はまだ3割程度と言われていますが、今後は中小企業も含めて多くの企業で、「長く働くライフスタイル」を支援する取り組みがなされていくでしょう。
【参考文献・資料】
『「働き手不足1100万人」の衝撃』(古屋星斗ほか著・プレジデント社) 2024年2月18日付日本経済新聞朝刊記事「70歳以降も働く、最多39% 将来不安「経済」が7割」
『定年ひとり起業 生き方編』(大杉潤著・自由国民社)
【筆者 大杉潤氏 プロフィール】
1958年東京都生まれ。フリーの研修講師、経営コンサルタント、ビジネス書作家。
早稲田大学政治経済学部を卒業、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)に 22年間勤務したのち東京都庁に転職して新銀行東京の創業メンバーに。
人材関連会社、グローバル製造業の人事・経営企画の責任者を経て、2015年に独立起業。
年間300冊以上のビジネス書を新入社員時代から40年間読み続け累計1万2000冊以上を読破して、3400冊以上の書評をブログに書いて公開している。
著書には、『定年ひとり起業』シリーズ3部作(自由国民社)、『定年後不安』(角川新書)、『50代 お金の不安がなくなる副業術』(エムディエヌコーポレーション)などがある。
当メールマガジンは一般社団法人定年後研究所が総合監修し、配信運営は株式会社星和ビジネスリンクが行っております。
- 2024/06/19
- お知らせ 第5回 HRカンファレンス「中高年女性社員の活躍」に関する講演内容について 号外編#2<ミドルシニアの羅針盤レター>
ミドルシニアの羅針盤レター 号外編#2 HRカンファレンス「中高年女性社員の活躍」に関する講演内容について
5月16日、日本の人事部主催の「HRカンファレンス」で、特別講演として「中高年女性社員の活躍に向けた現状課題と解決策の考察 ~あいおいニッセイ同和損保*1の取り組み事例とともに~」で登壇し、多くの大手企業の人事担当者、ダイバーシティ推進担当者の方々にご視聴をいただきました。
日本の人事部・事務局から、「募集早々に満員締め切り」になったと連絡を受けたことで、このテーマの関心の高さがうかがえました。そこで、この場をお借りして、「講演概要」をお伝えいたします。詳しい資料をご希望の方は、末尾の請求方法をご参照いただき、ご請求をお願いいたします。
定年後研究所とニッセイ基礎研究所との共同調査研究
先ず、第1部では、定年後研究所*2所長の池口から「定年後研究所とニッセイ基礎研究所との共同調査研究」として、(1)中高年女性正社員のキャリアや管理職に関する意識調査(2023年10月実施のアンケート調査:量的調査)と(2)ダイバーシティ・中高年社員活躍に関する大企業の取り組みへの調査(2023年9~10月実施のインタビュー調査:質的調査)をご報告しました。
第1部(1)中高年女性正社員のキャリアや管理職に関する意識調査
調査では45~69歳の女性正社員を対象に、一般職と総合職の対比の中で、これまでのローテーション経験や社内研修受講の経験に加え、管理職志向や、今後の仕事への姿勢、学び直しの意向、定年や介護に関する意識などを幅広く調査しました。特筆すべきは、これまでの社内経験が一般職と総合職とでは大きく異なる中で、50代後半の一般職の2割程度は「管理職志向」を持っていること、6割弱が「学び直し」に関心を持っていることです。また、少数ながら管理職に就かれた層が、管理職経験を極めて前向きにとらえていることや、一方で管理職経験に関する課題意識も多岐にわたって持っていることも明らかになりました。
第1部(2)ダイバーシティ・中高年社員活躍に関する大企業の取り組みへの調査
調査では「コース別人事」が徐々に消滅しつつあること、成長戦略やガバナンス強化を本質的な目的とするダイバーシティ化が推進されていること、性や年齢にとらわれない「人物本位」の登用が進められていること、更に「働き方改革」の中でも男性育休取得に注力されていることなどが明らかになりました。また、中高年社員活性化の側面では、定年や役職定年の見直しが進捗しつつあること、社内外での公募拡充など配置ポストが新設されつつあること、キャリア研修の中身や対象年齢、実施方式が見直されつつあること、更には副業もセカンドキャリア開発目的で促進されつつあることが明らかになりました。
第2部 あいおいニッセイ同和損保の取り組み事例
続いて第2部では、あいおいニッセイ同和損保の取り組み事例を、同社でダイバーシティ推進を担ってこられた宮崎智恵様からご紹介をいただきました。大きく「中高年社員の活躍に向けた取り組み」と「女性社員の活躍に向けた取り組み」を、制度面・運営面に分けて詳しくご紹介をいただきました。「中高年社員の活躍に向けた取り組み」では、「65歳以降も含めて年齢に関わらず活躍できる機会の提供」や「60歳以降のロールモデル社員と若手・中堅社員との交流会」に注力されていることが特徴的でした。
また、「女性社員の活躍に向けた取り組み」では、役職段階ごとにきめ細かくマネージャートレーニング制度を運営されていること、働きやすい職場風土づくりに向けて「部支店ごとのダイバーシティ推進会議の開催」や「異動ローテーションの機会が再雇用社員にも幅広く提供されている」ことが印象的でした。
会場からのご質問も、「男性育休の意義や目的」を経営陣に如何に伝えていくか、「年齢で一律的に給与ダウンが生じる人事制度への向き合い方」など本質的なものをいただき、人事担当者様の真摯なお悩みに触れることができました。
定年後研究所では、これからも「中高年社員の活性化、持続的な活躍」に関する質の高い調査研究の提供に務めて参ります。読者の皆様からも、ぜひ「調査研究の視点」などご希望ご要望をお聞かせいただければ幸いです。
当HRカンファレンスで紹介しました「スライド資料」や「共同調査研究報告書」をご覧になりたい方は、定年後研究所サイトの「問い合わせ」よりご連絡ください。
*1 あいおいニッセイ同和損害保険株式会社
*2 一般社団法人定年後研究所
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- 2024/06/12
- お知らせ 第4回 定年延長を進めるうえで考えるべきこと #4<ミドルシニアの羅針盤レター>
ミドルシニアの羅針盤レター 2024#4 第4回 定年延長を進めるうえで考えるべきこと
学習院大学今野名誉教授の第4回(最終回)は、「定年延長」についてお話しいただきます。
定年制の機能変化を理解すること
これまでシニア社員(企業で働く60歳以上の高齢者)が活躍できる働く場を作るために、企業とシニア社員が行うべきことを説明してきたが、そこでは定年後に再雇用されたシニア社員を想定してきた。そのため定年を延長する、あるいは定年を廃止する企業にとっては関係のない話であるし、再雇用ではシニア社員を戦力化できないと考える読者も多いかもしれない。
しかし、それには多くの誤解があり、再雇用と定年延長・定年廃止(以下では「定年延長等」と呼ぶ)は何が異なるのか、定年延長等を進める意味とは何かを改めて考えてみる必要がある。定年延長等に取り組む企業が増えているので、今回は連載の最後として、この点について考えてみたい。
まず重要なことは、希望者全員を65歳まで雇用することが法律で義務づけられているので、企業はすでに「実質65歳定年制」時代にあること、そのなかで現状の60歳定年制はこれまでとは異なる定年制に変質していることを理解することである。
定年制の主要な機能は、定年年齢を理由に一律に社員との雇用関係を終わらせる雇用終了機能であるが、現行の60歳定年制はすでに「実質65歳定年制」のなかで雇用終了機能を喪失している。しかし他方では、多くのシニア社員が定年を契機にキャリアと役割を見直していることから分かるように、定年制はキャリア・役割の転換を促進する機能を果たすようになっている。
定年延長等にどう対応するかについては、この60歳定年制の機能変化を踏まえて考える必要があり、特に以下の2つのポイントに注意してほしい。
キャリア・役割転換の装置をどう作るのか
第一のポイントは、再雇用、定年延長等にかかわらず職業生活が65歳まであるいはそれ以上に長期化するので、労働者は高齢期のある時点でキャリアと役割の転換を経験せざるを得ない、ということである。更に言えば、この転換を上手に行わないと、シニア社員は60歳を超えても職場の戦力として働き続けることが難しい。そうなると企業は、キャリア・役割転換を効果的に行う仕組を整備することが必要になる。
この点から現状をみると、上記のように60歳定年制がその転換を促進する装置として機能している。キャリア・役割をどう転換するかは個々の社員の状況によって異なり、ある人は転換が必要ないかもしれないし、ある人は大きく転換する必要があるかもしれない。それにもかかわらず定年を契機に一律に役割・キャリアを見直すという対応は、定年がもともと働き方や生き方の転換を生む重要なイベントであるため、社員の納得を得やすい方法であるうえに、キャリア・役割を見直す苦しい作業に踏み出すようにシニア社員の背中を押すという点で効果的な方法である。
それを踏まえたうえで定年延長等を選択するのであれば、60歳定年制に代わる、キャリアと役割の転換を促進する装置を新たに構築する必要がある。しかも、キャリア・役割転換はもともと、企業にとってはシニア社員の納得を得ることが難しく、シニア社員にとっては苦しい作業であるので、その装置は強力なものとして作られる必要がある。
核心は「型」より人事管理のコンテンツ
第二のポイントは、企業にとって、再雇用であっても定年延長等であっても、シニア社員を戦力化することの重要性と、戦力化するための人事管理に大きな違いはない、ということである。
定年延長等はシニア社員を戦力化する切り札であると考える風潮が強いように思うが、定年延長等をとってもシニア社員を戦力化できていない会社もあるし、再雇用であっても戦力化できている会社もある。つまり問題の核心は再雇用、定年延長等のどちらを選択するかではなく、シニア社員を戦力化する配置、処遇等の人事管理をどう構築するかである。
このことは次のように言い換えることができる。65歳まで雇用する制度的な「箱」はすでに出来あがっており、「箱」には再雇用型と定年延長等型の2つのタイプがある。このことを前提にシニア社員の人事管理を考えるにあたって大切なことは、定年延長等型が再雇用型より優れているという原則も、あるいはその逆の原則もなく、いま問われていることは、「箱」の中に盛り込むコンテンツである。
つまり、シニア社員の人事管理の検討は再雇用型にするか定年延長等型にするかを決めるという点から入らないでほしい。シニア社員の役割・キャリア転換を円滑に進め、シニア社員を戦力化するにはどのような人事管理をとるべきかを自社の事情に沿って考え、そのうえで、人事管理を効果的に運用するには再雇用型、定年延長等型のどちらの「箱」が望ましいかを考え選択する、というアプローチをとってほしい。
【筆者プロフィール】
今野 浩一郎氏
1946年生まれ。1973年東京工業大学大学院理工学研究科(経営工学専攻)修士課程修了。神奈川大学、東京学芸大学を経て学習院大学教授。現在は学習院大学名誉教授、学習院さくらアカデミー長。著書には『マネジメントテキスト―人事管理入門』(日本経済新聞出版社)、『正社員消滅時代の人事改革』(日本経済新聞出版社)、『高齢社員の人事管理』(中央経済社)、『同一労働同一賃金を活かす人事管理』(日本経済新聞出版)等がある。
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- 2024/05/22
- お知らせ 第3回 シニア社員に取り組んでほしいこと #3<ミドルシニアの羅針盤レター>
ミドルシニアの羅針盤レター 2024#3 第3回 シニア社員に取り組んでほしいこと
学習院大学今野名誉教授の第3回は、シニア社員(企業で働く60歳以上の高齢者)の活躍の場を作るために、シニア社員に求められること、そして、そのために企業が行うべき支援についてお話しいただきます。
キャリア形成の「組織内自営業者化」
前回は企業のとるべき人事管理を「どのような仕事に配置し、どのように賃金を決めるのか」の視点から説明したが、シニア社員の活躍する働く場を作るためにはシニア社員にも取り組んで欲しいことがある。今回はこの点について考えてみたい。
まずシニア社員に求められることは、キャリア形成の考え方を変えることである。職業経験のない新人として会社に入り、その後は職業人として成長しながら、上のポジションを目指して働く。多くのシニア社員は、この「昇る」キャリアを目標に働いてきたはずである。
しかし、60歳以降も働くことになれば、職業人生の最後まで「昇る」キャリアを続けることは難しい。多くのシニア社員が定年を契機に職責を落とし一担当者として働いているように、社員は高齢期のある時点でキャリアの方向を切りかえ、担うべき役割を変えることが必要になる。
定年がなく働き続ける自営業者は高齢期になると、体力等に合わせて事業内容と働き方を調整しキャリアの方向を変える。シニア社員には、こうした自営業者に似たキャリアを踏むこと、つまりキャリア形成の「組織内自営業者化」をはかることが求められているのである。
しかし、「昇る」キャリアを目標にしてきたシニア社員にとって、この切りかえは苦しい選択である。その時にシニア社員にとって大切なことは「自分を知る」と「自分を変える」である。
人材ニーズを通して「自分を知る」
シニア社員がキャリアや役割の転換に立ち向かうにあたって重要なことは、雇用とは、労働者にとっては「成果をあげて賃金を得ること」、会社にとっては「成果をあげてもらって賃金を払うこと」であり、その内容は会社の人材ニーズと労働者の働くニーズを擦り合わせて決まる、という雇用の原則に立ち戻ることである。それは、この原則を軽視することが「福祉的雇用」の現状を生んでいるからである。
ここで想定しているのが定年後も継続して雇用されるシニア社員であるので、改めて雇用のあり方を考え直す必要はないと思われるかもしれない。しかし、シニア社員が経験する役割転換は雇用の内容を見直すことに等しいし、ましてや、多くのシニア社員が経験する再雇用は、定年を契機にした雇用契約の再締結であり「社内中途採用」に等しい。したがって、通常の中途採用がそうであるように、シニア社員がどう働くかは、会社の都合とシニア社員の都合の擦り合わせで決まる。
そうなるとシニア社員は企業の人材ニーズをみて「何ができるのか」(つまり、社内で自分が、どのような仕事でどの程度売れる存在であるのか)を知り、会社や職場にどう貢献するかを考えることが必要になる。これが「自分を知る」である。
新しい役割に合わせて「自分を変える」
シニア社員に求められるもう一つは「自分を変える」である。それは、定年を契機に役割が変われば、それに合わせて「働く態度、行動、スキル」を再構築することが求められるからである。それでは、シニア社員に求められる「働く態度、行動、スキル」とは何なのか。それを表したのが図表である。
もちろん高度な専門能力を持っていることに越したことはないが、それとともに、あるいはそれ以上に重要なことは新しい役割のなかで活躍するための基盤となる能力(「プラットフォーム能力」と呼ぶ)を持つことである。
健康であること、働く意欲のあることが基本になるが、それに加えて3つの能力が必要である。第一は、過去にとらわれずに、新しい役割に前向きに向き合うことのできる「気持ち切り替え力」である。第二は、新しい役割に合わせて人間関係を構築できる「ヒューマンタッチ力」である。特に一担当者としての役割が求められる多くのシニア社員は、職場の若い同僚と水平的な視点で人間関係を作ることが大切になる。更に、一担当者であれば自分の仕事は自分で行うことになるので、担当者であれば当然持っていなければならないITスキル等のテクニカルスキル(「お一人様仕事遂行力」)を持つことが必要になる。
これまでシニア社員に求められる「自分を知る」と「自分を変える」を説明してきたが、それに対応することはシニア社員にとって苦しいことである。そこで企業には、それを支援することを求めたい。その有力な施策は、「自分を知る」を踏まえて定年後のキャリアと役割を考え、それを実現するために「自分を変える」を支援するための研修である。これは高齢期のキャリアに新たに踏み出す準備のための研修であるので、準備のための時間を考えると定年直前では遅く、50歳代前半には行いたい研修である。
【筆者プロフィール】
今野 浩一郎氏
1946年生まれ。1973年東京工業大学大学院理工学研究科(経営工学専攻)修士課程修了。神奈川大学、東京学芸大学を経て学習院大学教授。現在は学習院大学名誉教授、学習院さくらアカデミー長。著書には『マネジメントテキスト―人事管理入門』(日本経済新聞出版社)、『正社員消滅時代の人事改革』(日本経済新聞出版社)、『高齢社員の人事管理』(中央経済社)、『同一労働同一賃金を活かす人事管理』(日本経済新聞出版)等がある。
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- 2024/05/09
- お知らせ 2024年6月11日 ミドルシニアの羅針盤セミナー2024 早稲田大学における社会人教育の進化~キャリア・リカレント・カレッジでの意識・行動変容の事例から~ 号外編#1<ミドルシニアの羅針盤レター>
ミドルシニアの羅針盤レター2024 号外編#1 2024年6月11日 ミドルシニアの羅針盤セミナー2024
早稲田大学における社会人教育の進化
~キャリア・リカレント・カレッジでの意識・行動変容の事例から~
「早稲田大学と一般社団法人定年後研究所が、2023年9月に立ち上げたキャリア・リカレント・カレッジ(CRC)は、本年(2024年)3月に半年間の第1期講座を終えました。受講生の声も受け、今般第2期のCRCを開校(2024年10月~)いたしますが、今般当プログラム紹介する公開セミナーを以下のとおり開催します。第1期受講生の受講を通じた意識と行動変容の実情をお伝えするとともに、受講生の生の声もご披露します。是非とも、お申込み、ご参加頂ければと存じます。」
定年後研究所所長の池口です。ご縁をいただいてCRCのアドバイザーを務めております。
【第1期講座を伴走してみて】
CRCは、40~50代の会社員が自分らしいキャリア後半を設計する実践講座として、昨年秋開講され、小職はプログラム開発にあたると同時に、実際の講座で半年間伴走させていただきました。受講生の意識と行動変容を間近で見るにつけ、CRCは、ミドルシニア世代のビジネスパーソンがこれからのキャリア人生を考え、色鮮やかに描くには最高の場所であることを感じました。
早稲田大学教授陣を始めとする各界第一人者による講義では、受講生の皆様は長年のキャリアや人生経験を持たれた世代であるがゆえに、学びの楽しさが倍加され、知識のブラッシュアップや新たな視座の獲得に繋がったようです。また、各分野で活躍を続ける等身大の多様なロールモデルに直に触れる機会を提供することで、これまでの仕事や人生とは異なるフィールドで、自らが活躍できる可能性を肌で感じ取っていただきました。
そして、キャリア後半に関して同様の課題意識を持ち、実に多彩なバックグラウンドを持つ受講生同士が、互いを尊重し合い、教え教えられる素敵なコミュニティを築かれていきました。何よりもこの事実が、小職が「CRCが最高の場所」と感じた大きな要因となっております。
「将来が、不安から楽しみに変わった」「新たなチャレンジ精神が沸々と湧いてきた」
今年3月に閉講した第1期生の皆様のそのようなご挨拶は、CRCの大きな財産でもあります。 今回のセミナーでは、この意識と行動変容のプロセスを、早稲田大学の守口教授と共にご紹介するとともに、実際に修了された方の生の声をお届けしたく考えています。 企業人事ご担当者にとって、中高年社員の活性化対策を検討される上でのご参考になれば幸いです。
一般社団法人定年後研究所 所長
早稲田大学CRCアドバイザー
池口 武志
【ミドルシニアの羅針盤セミナー2024開催概要】
■タイトル:早稲田大学における社会人教育の進化
~キャリア・リカレント・カレッジ(CRC)での意識・行動変容の事例から~
■主 催:一般社団法人定年後研究所
■共 催:株式会社星和ビジネスリンク
■開催日時:2024年6月11日(火) 14:00~15:00
■開催形式:Zoom(ウェビナー)
■定 員:300名(先着)
<第Ⅰ部「CRC」について> 14:00~
1 早稲田大学社会人教育事業室長 商学学術院教授 守口 剛 氏
・早稲田大学提供の社会人向け講座の全体像と、学びの実情
・CRC第1期の評価、今後の展開
2 定年後研究所 所長 早稲田大学CRCアドバイザー 池口 武志
・第1期を伴走した所感、第2期のプログラム
・中高年会社員の意識と行動変容のプロセス
<第Ⅱ部「CRC」第1期受講生の声> 14:35~
3 川崎汽船株式会社 人事部 理事 山内 潤毅 氏
・受講前の期待と、受講後の所感
・意識、行動等の変化
・企業内キャリア教育への視座等
- 2024/05/08
- お知らせ 第2回 シニア社員の人事管理の方向 #2<ミドルシニアの羅針盤レター>
ミドルシニアの羅針盤レター 2024#2 第2回 シニア社員の人事管理の方向
学習院大学今野名誉教授による第2回のお話は、シニア社員の人事管理の考え方です。シニア社員(企業で働く60歳以上の高齢者)の仕事、賃金の考え方についてお話いただきます。
仕事の決め方は「需要サイド型」に
前回は、企業はシニア社員を戦力化する「覚悟」を、シニア社員は職場の戦力として働く「覚悟」を持つことが、シニア社員が活躍する働く場を作るうえでの出発点であることを強調した。それでは企業はシニア社員を戦力化するために、どのような人事管理をするべきなのか。今回は、この点を多くの企業がとる「60歳定年+再雇用」を前提に考えてみたい。
まずはシニア社員の仕事の決め方である。これまでは、どちらかというと、会社が「シニア社員がいるので、それに合った仕事を探す(あるいは作る)」という、労働サービスを提供するシニア社員に仕事を合わせる「供給サイド型」の方法をとる傾向が強かった。しかし、これではシニア社員が職場から必要な人材として受け入れられ、戦力として働くことは難しい。そこで、これからは「業務ニーズを満たす人材をシニア社員から探す」という、人材に対する需要に焦点を当てる「需要サイド型」の方法をとる必要がある。
そのためには、シニア社員に担ってほしい業務(つまり、シニア社員に対する人材ニーズ)を明確にする必要がある。更にシニア社員は、こうした人材ニーズをみて職場にどう貢献するかを考え、自分を売り込むことが求められる。
では、どうするのか。職場の管理者が人事部門の支援を得ながら、職場の人材ニーズとシニア社員の事情を個別的に考えて対応するという方法が中心になるが、シニア社員が増える、シニア社員の戦力化の要請が強まる、職場を超えて仕事につくシニア社員が多くなる等の状況が進むと、何らかの制度的な対応が必要になろう。職場の「この仕事につく人材がほしい」という求人情報と、シニア社員の「この仕事で働きたい」という求職情報を社内から集め、人事部門等が社内ハローワーク的機能を果たして両者のマッチングをはかる、シニア社員版の社内公募制がその有力な制度になろう。
●シニア社員の賃金の2つの原則
次の賃金の決め方は、シニア社員がどのような特性を持つ社員であるかに規定される。定年(60歳)前の社員(以下では定年前社員と呼ぶ)は、長期にわたって雇用することを前提に、将来の貢献を期待して育てて活用する長期雇用型社員である。それに対してシニア社員は、現状では60歳から65歳までの短い期間で働くことが想定されている。そうなると、シニア社員は育成しながら働いてもらう社員にはならず、いまの成果を期待して、いまの能力をもって働いてもらう短期雇用型社員の特性を持つ。それに合わせてシニア社員の賃金は、担当する「仕事の重要度」に基づいて決めることが合理的であり、このことを「仕事原則」と呼ぶことにする。
シニア社員のもう一つの特性は、業務ニーズに合わせて働く時間、働く場所を柔軟に変える定年前社員と異なり、働く時間、働く場所が制約的になるということである。この働き方の制約度の違いに合わせて、シニア社員の賃金は仕事が同じであっても定年前社員より低く設定される必要がある。これを「制約配慮原則」と呼ぶことにする。
シニア社員の賃金は、この「仕事原則」と「制約配慮原則」に基づいて決定される必要があり、これらの原則に基づいて定年を契機に賃金がどう変わるかをみると図表になる。
●「シニア社員の賃金の決まり方
まず、定年前の賃金が成果主義型賃金をとる場合について考えてみる。ここでは定年時の賃金は仕事と成果によって決まるので図表の「仕事・成果に対応する部分」になる。そのうえで定年後の仕事が定年前と変わらないとすると(図表の【現職継続の場合】)、シニア社員の賃金は「仕事原則」にしたがって定年前と同じ水準になるが、「制約配慮原則」にしたがって働き方の制約度の変化に対応する「制約化部分」だけ低くなる。したがって、シニア社員の賃金は「定年前賃金-制約化部分」になる。
しかし現状をみると、多くのシニア社員は定年前と同じ分野の仕事についたとしても職責が低下する「仕事が変わる場合」に当たる。この場合の賃金は、「仕事原則」にしたがって「仕事の重要度」の低下に合わせて「仕事変化部分」だけ低下する。更に「現職継続の場合」と同様に「制約配慮原則」が適用されるので、シニア社員の賃金は「定年前賃金-制約化部分-仕事変化部分」になる。
次に定年前の賃金が年功賃金の場合を考えてみる。賃金の決め方の基本は成果主義型賃金と同じであるが、図表に示したように、「仕事変化部分」、「制約化部分」に加えて「後払い部分」を考慮する必要がある。つまり定年時の賃金が仕事・成果を上まわるので、シニア社員の賃金を決める際には、この上まわる部分に当たる「後払い部分」を控除する。したがってシニア社員の賃金は、「現職継続の場合」では「定年前賃金-後払い部分-制約化部分」、「仕事が変わる場合」では「定年前賃金-後払い部分-制約化部分-仕事変化部分」になる。
【筆者プロフィール】
今野 浩一郎氏
1946年生まれ。1973年東京工業大学大学院理工学研究科(経営工学専攻)修士課程修了。神奈川大学、東京学芸大学を経て学習院大学教授。現在は学習院大学名誉教授、学習院さくらアカデミー長。著書には『マネジメントテキスト―人事管理入門』(日本経済新聞出版社)、『正社員消滅時代の人事改革』(日本経済新聞出版社)、『高齢社員の人事管理』(中央経済社)、『同一労働同一賃金を活かす人事管理』(日本経済新聞出版)等がある。
- 2024/04/25
- お知らせ 第1回 求められる「覚悟」 #1<ミドルシニアの羅針盤レター>
ミドルシニアの羅針盤レター 2024#1 第1回 求められる「覚悟」
昨年度まで皆様にお届けしてまいりました「星和HRインフォメーション」は、今年度から「ミドルシニアの羅針盤レター」として生まれ変わります。配信運営は変わらず株式会社星和ビジネスリンクが行いますが、コンテンツについて、一般社団法人定年後研究所が総合監修を行います。併せて、配信を基本的に隔週にさせていただきます。引き続きご愛顧のほどお願い申しあげます。 新年度最初の企画として、本号から4回にわたり、学習院大学名誉教授の今野浩一郎氏より、シニア活躍のための視点について語っていただきます。 1回目は、企業、シニア社員双方に求められる覚悟です。
わが国にとって、高齢者に働き手として活躍してもらうことは重要な課題であり、そのためには働く環境を整備する必要がある。今回の連載では、それに向かって企業は何を、高齢者は何をすべきかを考えてみたい。なお、一般的には60歳以上の高齢者が問題になっているので、以下では60歳以上を高齢者、企業で働く高齢者をシニア社員と呼ぶことにする。
まずはシニア社員が企業にとってどの程度重要な存在であるかを確認する必要がある。わが国の労働市場は当面、労働力人口のほぼ5人に1人が60歳以上という状況にある。このように高齢者が大きな労働者集団として登場した背景には、少子高齢化のなかで高齢者が増えているうえに、高齢者の労働力率が高いことがある。
わが国はもともと高齢者の労働力率の高い国であるが、ここにきて労働力率が確実に増加している。図表高齢者(男性)の労働力率の推移をみると、労働力率は21世紀に入るまで長期にわたって一貫して低下している。その背景には、年齢に関わりなく働く自営の人たちが減少したことと、年金の充実等を背景に「高齢者になれば働くことから引退する」が雇用社会に広く浸透したことがある。しかし、その後の推移をみると、年金支給開始年齢が65歳まで延び60歳を超えても働かざるを得ない高齢者が増えたことを背景に、高齢者の労働力率は一貫して上昇し、「高齢者になっても働き続ける」ことが働く人のなかで普通のことになってきている。
こうした労働市場の状況は企業の平均的な姿を表しているので、わが国企業は「社員の5人に1人がシニア社員」の時代を迎えていることになる。この大きな社員集団化したシニア社員が労働意欲の低い社員集団になれば、その経営に及ぼす影響は余りにも深刻である。そうなれば企業はシニア社員を戦力化することに踏み出さなければならないし、シニア社員は引退気分で働くことは許されず、職場の戦力として働くことが求められる。
ではこうした状況に、企業はどのように対応してきたのか。高年齢者雇用安定法によって、希望者全員を65歳まで継続して雇用することが義務付けられるなかで、多くの企業は60歳定年後に再雇用するとの対応をとってきた。そのため多くの企業は、60歳定年までを正社員、それ以降のシニア社員を嘱託社員等の非正社員とし、両者に異なる人事管理を適用する「1国2制度型」の人事管理をとってきた。問題はその内容である。
この点を「何の仕事」に従事して「何時間」「どこで」、働くのかという労働給付の面と、働きぶりを「どう評価して」「どう賃金を払うのか」という反対給付の面から整理すると、概ね次のようになる。
まず労働給付については、「何の仕事」は、定年前と同じ分野の仕事に従事するが職責は低下する、「何時間」は、定年前と変わらずフルタイムで働くが、残業等が少なくなり労働時間の限定性は高まる、「どこで」は、転勤や出張が少なくなり働く場所の限定性は高まる。
反対給付については、評価は行わず、賃金は定年時から一律に下げ、その後の昇給はないとする企業が少なくない。この対応をみると企業は、いかに頑張って働いても評価されないし、賃金に反映されることもない、つまり貢献を期待することなくシニア社員を雇用する「福祉的雇用」と呼ぶにふさわしい人事管理をとってきたことが分かる。
60歳以降の雇用確保が法律で義務付けられていることが背景にあるとは思うが、これではシニア社員からすれば意欲をもって働く気になれないし、企業からすればシニア社員を戦力化して経営成果をあげることにはならない。
●「覚悟」が全ての出発点
それでは、どうするのか。企業に求められることは、どのような施策をとるべきかを考える前に、まずはシニア社員を戦力として活用する「覚悟」を持つことである。いかに立派な施策を作っても、「覚悟」がなければ機能しない。またシニア社員も職場の戦力として働く「覚悟」を持つことが求められる。それは、60歳を超えても戦力として働くことを受け入れられないシニア社員が少なくないからである。企業にとってもシニア社員にとっても、「覚悟」を持つことが全ての出発点である。
「働く」の本来の姿は、働く意欲があって、必要とされる仕事があれば年齢と関係なく実現するはずである。それにも関わらず「高齢者になっても働き続ける」ことがここにきて大きな問題になるのは、「高齢者になれば働くことから引退する」が長く雇用社会の常識であったからである。「高齢者になっても働き続ける」ことは「働く」の本来の姿に近づく動きといえるのかもしれないのである。【筆者プロフィール】 今野 浩一郎氏 1946年生まれ。1973年東京工業大学大学院理工学研究科(経営工学専攻)修士課程修了。神奈川大学、東京学芸大学を経て学習院大学教授。現在は学習院大学名誉教授、学習院さくらアカデミー長。著書には『マネジメントテキスト―人事管理入門』(日本経済新聞出版社)、『正社員消滅時代の人事改革』(日本経済新聞出版社)、『高齢社員の人事管理』(中央経済社)、『同一労働同一賃金を活かす人事管理』(日本経済新聞出版)等がある。
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- 2024/03/19
- お知らせ 定年後研究所 News Letter #6
社会福祉の現場で、人材育成の原点をみた
日頃は、「星和HRインフォメーション」をご覧いただきありがとうございます。本年度の最終配信となる本号は、「定年後研究所 News Letter #6」として、池口所長の越境体験記をお届けいたします。
社会福祉の現場で、人材育成の原点をみた
昨年還暦を迎え、定年後研究所長としての業務の傍ら、セカンドキャリアやサードエイジを徐々に自分事として考える機会が増えてきました。
小職は、これまで定年後に活躍する数多くのロールモデルにインタビューをし、その取材成果を書籍や論文で紹介してきました。その中でロールモデルとなる方の多くは、長年勤めた会社とは異なるフィールドで、自身の存在価値を新たに見出し、周囲から頼りにされることで「やりがい」や「生きがい」を獲得されているように感じています。
日頃、キャリア研修や中高年向けの住民セミナーで、将来に向けた「試行錯誤の第一歩」をお勧めしている手前、小職も去る1月末に二日間にわたって自宅に近い知的障がい者の就労支援施設でボランティア活動を行ってきました。
この施設は、「就労継続支援B型」と言われる中軽度の知的障がい者を対象に、通い方式での就労機会を提供し、生産高に応じた工賃を支払う区立の施設です。40名の利用者が、近隣の複数の町工場から受託した「比較的簡易な軽作業」を幾つかの工場ごとのラインに分かれて、朝の9時から16時まで従事されていました。
「長年の仕事人生で培ったマネジメント力を、福祉の現場で活かしたい」と意気込んでいた小職でしたが、初日・二日目ともに、利用者のみなさんと同じライン作業に専念することになりました。
周囲を見渡すと、片腕で器用に黙々と作業をこなされている方もいれば、ずっと賑やかに話し続けながら作業に従事する人もいました。中には午後になると、こくりこくりとされる人もおられ、当日納期の作業に間に合わせるため、施設の職員さんが慌ててラインに入られたり、小職も別ラインの応援に駆り出されたり、慌ただしい中で一日を終えました。
15時30分からのミーティングでは、「納期」に間に合ったことの共有が図られ、作業場に大きな拍手が起きました。その後は、チームに分かれ、班長である職員と、5名前後の利用者一人一人との懇談が始まりました。
そこでは、
「今日は、いつもよりも仕事のスピードが遅かったけど、原因は何かな?」
「先週出来なかった作業が、ついに出来るようになったね!」
「もうひと頑張りを期待しているよ」
「朝から大声を張り上げて部屋に入ってくるのは止めたほうが良いのではないですか?」
など、フェースto フェースで16時まで行われました。
小職は、30代前半で、保険会社の小さな営業所の所長として勤務し、30名程度の営業社員を管理・指導する立場にありましたが、個々の営業社員の働く環境の違いや、経験・スキル格差を踏まえた個別指導が十分出来ずに、上辺だけのマネジメントに留まっていたことが突然脳裏に蘇ってきました。
コロナ禍以降、テレワークが急速に普及し、メールだけでなく、チャットやメタバース空間での執務環境も整備されつつありますが、
「大切なことをメール一本で済ましてはいないだろうか?」
「もっと踏み込んで社員一人一人と向き合うことが重要ではないか?」など、
日常の周囲への関わり不足を反省しきりで、施設を後にしました。
弊所では、シニア社員の活躍に向けた企業人事担当者の研究会を定期開催しています。2024年1月開催の研究会では、「60歳以降社員の一層の活躍に向けて~社会貢献も視野に~」をテーマに、厚生労働省高齢者雇用対策課の宿里課長から改正高年齢者雇用安定法への対応状況の共有と企業への期待を、また公益財団法人さわやか福祉財団の清水理事長からは社会貢献活動を通じた人材育成についてご講演を頂戴しました。
そこで、多くの人事担当者から聞こえてきたのは「シニア社員の活躍場所の一つとして社会福祉領域もあることに気づいた」「社会の課題に触れる越境体験が、視野拡大に繋がることが理解出来た」「改正高年齢者雇用安定法が定めた社会貢献活動への従事の可能性を検討したい」との声でした。
まさに、自らも越境体験することで、多くの気づきを得ることが出来ましたので、自信を持って、企業人事のご担当者にも社会福祉領域やNPOへの越境をお勧めしたいと思っております。
社会福祉法人やNPOへの具体的な越境体験、副業・出向も視野に入れたセミナーも開催していますので、ご関心ある方は弊所または星和ビジネスリンクの担当者にお声がけいただければ嬉しく思います。
【筆者略歴】
池口 武志(いけぐち・たけし) 一般社団法人定年後研究所 理事 所長
1986年 日本生命保険相互会社入社。
本部リテール販売部門、人事、営業企画、契約管理、販売最前線等で長く管理職(部長、支社長など)を経験し、多様な職種の人材育成にかかわる。その間、オックスフォード大学 Diplomatic Studies修了。
2016年 研修事業も行う株式会社星和ビジネスリンクに出向。
「キャリア羅針盤®」の開発を統括。現在、同社取締役常務執行役員も務める。
2023年3月 桜美林大学大学院老年学修士課程修了。キャリアコンサルタント、消費生活アドバイザー、AFP、日本心理的資本協会理事、シニア社会学会会員
著書に『定年NEXT』(廣済堂新書 2022年4月)、『人生の頂点は定年後』(青春新書インテリジェンス 2022年10月)
【定年後研究所とは】
一般社団法人定年後研究所は、定年後の人生を豊かにするための調査研究を行う機関として2018年に発足致しました。人生100年時代の中で、特に、50代以上の企業人のセカンドキャリア支援・準備に向けた研究活動を行っています。
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- 2024/03/13
- お知らせ 中高年社員にこそキャリア研修が必要だ(3)
ジョブ・クラフティングの機会としてのキャリア研修
~仕事の意味の捉え直し~中高年層に向けたキャリア研修の必要性について語る木暮淳子氏の連載3回目。最終回となる今回は、「ジョブ・クラフティングの機会としてのキャリア研修~仕事の意味の捉え直し~」をテーマにお話しいただきます。
ワーク・エンゲージメントの向上にジョブ・クラフティングが役立つ
従業員のワーク・エンゲージメント向上に、ジョブ・クラフティング(Job Crafting)が役立つという研究が2020年頃から始まっています。しかも、高齢雇用者の活性化に有効であるとの指摘もあります。ジョブ・クラフティングとは、従業員一人ひとりが仕事に対する認知や行動を自ら主体的に修正していく取り組みのことです。例えば、退屈な作業や“やらされ感”のある仕事を“やりがいのあるもの”へと捉え直すこともジョブ・クラフティングの一つと言われています。
こうした仕事の意味の捉え直しは、何かきっかけがなければ個々人が容易にできるものではありません。しかし、自己を内省する機会をつくることによってそれらを導き出すことができます。キャリア研修はその機会としてとても適しているのです。
ジョブ・クラフティングは、心の中に存在する考えを認知することから始まる
私たちが実施している中高年向けキャリア研修では、同じ年代の人が集まり、「今、気がかりになっていること」を出し合うことから始めます。日頃心のどこかでなんとなく気にはなっていても、「まあ、いいか」と見ないように、あるいは考えないようにしてきたことを、この機会に立ち止まって考えるのです。そこでは、子どものことや、家族関係のこと、自身の老後のこと、健康のことなど、実に様々な項目があがってきます。このように考えることも内省の一つなのです。自身の考えを改めて認識し、同世代の人たちと相対化することができるのもキャリア研修の大事な側面です。
また、今の自身を形成しているものや、強み・弱みのほか、仕事上の役割の変化に伴い、これからすべきこと、やりたいことについても考えます。そうすることで、日頃は考える機会がないようなことの中から、これからの人生に大切なことを一つひとつ明らかにしていくことができるのです。
いまの中高年層は、これまで全速力で走ることをよしとされてきたわけですが、私は、もっと立ち止まる時間が必要だと考えています。ジョブ・クラフティングにおいても、まずは立ち止まり、自身の今の心の奥底にある気持ちや考えを明らかにしてみることから始めます。
図1 中高年社員の気がかりを表層化する(例)□子どもの教育のことが心配だ
□子どもが思春期になっていろいろと難しい
□子育てが一段落して専業主婦だった妻が働き始めるなど、家族の中で何らかの変化が起きている
□親の介護のことが心配だ
□以前に比べて、健康に対する関心が増してきた
□自分自身の疲労回復が遅くなったと感じる
□これから自分ができる仕事のことや出世のことなどについて考えるようになった
□老後に漠然とした不安を感じる
「仕事の意味」「人生の意味」の捉え直しを促進するキャリア研修
人は50歳にもなると、仕事の仕方や考え方が固定化してしまう人も多く見受けられます。それだけに、研修で変われるものなのか?との疑問も芽生えます。このような中高年社員が「仕事は単調なことの連続である」「昨日も未来もさほどそんなに変わらない」という仕事観をもっていたとしても、それは否定すべきものではありません。大切なポイントは、「なぜ、そのように自分は考えるのか」「本当にそうなのか」を立ち止まり振り返ること。「自分の活動の原動力は何か」であったり、これからの「仕事のあり方」「人生のありよう」をじっくり考えることで、仕事や人生の意味をより柔軟に捉えていく可能性が広がります。
仕事を含めて人生は、偶然が支配することが多いものです。これまで運が良かったこともあれば、悪かったこともあるでしょう。これらのことを、今一度振り返ることによって、あのときの出来事は起こるべくして起きたのだと、偶然を必然に変えていく見方も身についていきます。邂逅(かいこう)というコトバは、偶然にその人に会う、偶然ある出来事に遭遇する、といった意味で使われますが、邂逅によって、大きく人生が変わることもあります。
これまで自分に起きた様々な出来事を振り返り、今の自分を形成しているもの(自己理解)を深めていくのもキャリア研修です。
ジョブ・クラフティングからポジティブ思考を養う
仕事の境界に関する認知等を変えていくジョブ・クラフティングは、止まる、振り返る、ことによって、「切替える力」を養ってくれる機会です。自身がネガティブな考えに覆われていたなら、ほんの少しの勇気を出してプラスの方向への解釈を試してみたり、自身の中で固定化した考え方と向き合ってみてください。そのことが、思い込みの連鎖を断ち切り、視座を拡げてくれます。
誰もが、仕事を通じて発展したいと心の底で思っているのではないでしょうか。良い仕事をしたい、貢献したいと考えているはずです。しかし、思っていたようにはいかないことも多々あります。哲学者であった九鬼周造氏は、「たとえ、自分には価値がないと思っていても、偶然の現在を受け止め、未来に自己を投企すると、思ってもいないような価値を生み出す可能性がある」と述べています。
年齢や性別を問わず、未来という時間軸に向かって価値を生み出し、個々人の力を発揮してもらうために、ジョブ・クラフティングの機会を提供することは有効な手立てとなりえます。特に中高年社員にとっては、ポジティブなワーク・アイデンティティーへの転換につなげることができます。岸田泰則氏(法政大学大学院講師)は、「高齢雇用者のジョブ・クラフティング行動は、組織に対しては現役世代の育成につながり、個人に対しては仕事の満足度の向上や職場の人間関係の安定化に役立つ」と主張しています。学びは知識を詰め込むことではありません。正解探しではなく、考えることを促すことが必要です。これが、ジョブ・クラフティングの真の意味であると考えています。
(参考文献)
・岸田泰則(2019)「高齢雇用者のジョブ・クラフティングの規定要因とその影響 ―修正版グラウンデッド・セオリ-・アプローチからの探索的検討―」『日本労働研究雑誌』703,65-75
【筆者プロフィール】
一般社団法人ソシエトス 代表理事 木暮淳子
外資系食品メーカーのマーケティング、法人営業を担当し、英国勤務を経て2001年退職。
その後も外資系企業の新規事業開拓責任者、企業再生等の仕事に従事する。
2008年よりコンサルティング会社にて人材開発・組織開発を担当し、2016年に一般社団
法人ソシエトス設立。理事にわが国のキャリア形成支援第一人者で数多くの著書を持つ
筑波大学名誉教授・渡辺三枝子先生を迎え、個に寄り添ったミドルシニアのキャリア形成
を支援している。
現在、ライフ・キャリア開発研修を軸に、都市圏ミドルシニアの活躍の場として地方創生とマッチングする活動や、1on1キャリアコンサルティングで活躍中。
◎ 株式会社 星和ビジネスリンク お問い合わせフォーム
◎ 星和ビジネスリンクは、現役世代が定年後の人生を豊かに過ごすための調査研究を行う機関として、「一般社団法人 定年後研究所」を設立しました。
定年後研究所のWebサイトはこちら
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- 2024/03/06
- お知らせ 中高年社員にこそキャリア研修が必要だ(2)
中高年社員のワーク・モチベーションを高めるために必要なこと
会社の成長には中高年社員のエンゲージメント向上が不可欠
中高年層に向けたキャリア研修の必要性について語る木暮淳子氏の連載2回目。今回は、「会社の成長には中高年社員のエンゲージメント向上が不可欠」をテーマにお話しいただきます。
従業員の意欲や満足度、仕事への参画意識を重視する従業員エンゲージメントという概念が注目されています。これは会社の目指す方向を従業員がきちんと理解・共感し、その組織に誇りや愛着を持って能力を発揮できる状態を作るための経営手法のひとつであり、単に従業員満足度を高めて社員を組織につなぎとめることではありません。
元々、組織心理学や経営学の研究、企業実践の中から派生してきたもので、近年同様に注目されている「パーパス」を中心に据えた企業経営とシンクロさせながら日本企業でも広がりを見せています。
高い従業員エンゲージメントがある組織は、(1)業績向上 (2)モチベーション向上 (3)よい雰囲気の職場づくり (4)顧客満足度向上 (5)離職率低下 がみられると言われているのは、ご承知のとおりです。
しかし、従業員エンゲージメントを高めて自律的で活力のある組織をつくろうという活動を推進していくうえでは、ワーク・モチベーションが低下した中高年社員がチームにいることはマイナスの影響をもたらしかねません。
中高年社員も巻き込みながら高エンゲージメント・チームを作る必要性
筆者がキャリアコンサルティングを実施しているある中堅イベント会社では、新社長(48歳)が、バブル前入社の高年齢社員が70%を占める組織において、若手社員の離職が続く現状に危機感を募らせていました。知識も経験も豊富な中高年社員が仕事の要諦を押さえてくれるのはありがたいが、「定年まであと○年」と唱える高年齢社員のワーク・モチベーションの低下が、若手によくない影響を与えているというのです。
よく聞く事例ですが、人手不足の中、貴重な若手社員が「辞めてしまう」、あるいは「やる気を失ってしまう」状況というのは大きな損失です。中堅企業にとっては、配置転換や新規採用で打つ手は限られています。また、大企業であっても80年代に揶揄されたような「窓際族」を維持していく余裕はもはやないでしょう。あらゆるチームのリーダーは、中高年社員も巻き込みながら高エンゲージメント・チームを作り上げ、目標達成に向けてマネジメントを推進していかなければならない、そんな時代となっているのです。
エンゲージメント調査の質問文から透けて見える理想のチームの姿
2019年に米国のコンサルティングファームであるADPリサーチ・インスティチュートが、世界1万9千人の勤労者に対して8つの質問文(表1)を使って、従業員エンゲージメントの大規模調査を実施しました。これらの質問の答えに肯定的な評価をした回答者が多ければ、その組織は従業員エンゲージメントが高い組織と言うことができます。
この8つの質問文から、従業員エンゲージメントが高い職場では、従業員がその会社で働くことを心から喜び、メンバー同士がお互いの価値観を認めて信頼し合っていて、それぞれの強みを活かしながら仕事を遂行している様子や、困ったときにはサッとサポートを申し出てくれる仲間が隣にいる安心を感じることができる。そんな職場風景が透けて見えてきます。
同調査の分析では、高エンゲージメントの組織をつくるためには、年齢に関わらず「孤独な仕事」ではなく、いかに一緒に仕事をする同僚との関係を作るか、そして、その同僚と質の高いやり取りができるかといった「チームづくり」の重要性を主張しています。大小を問わず会社組織は、意思決定の連続体でもあります。不確実性が高い経営環境では、謙虚に叡智を結集する必要があります。そのため、リーダーはチームを信頼し、働ける環境を整えていく必要があるのです。
45歳以上64歳以下の雇用者数が雇用者全体の約43%(表2 総務省統計局「労働力調査」2022)に達している現状を踏まえると、中高年社員にもその能力を最大限発揮してもらうことが求められています。エンゲージメントの向上を図るため、チームの一員として中高年社員をオープンマインドで迎え入れ、個を尊重する雰囲気づくりが必要となっています。その際に、とりわけ重要になるのが、個に寄り添ってくれるリーダーの存在です。社員が直面している課題を理解し、社員のウェルビーイングに気を配ってくれるような伴走型のリーダーシップが求められています。
組織全体で中高年社員の役割を捉え直す
「インポスター症候群(Impostor Syndrome)」をご存じでしょうか。これは「自分の成功や地位、あるいは自分の本当の実力を、外的な理由から周囲が過大評価している」と考えてしまう傾向のことです。そして、多くのリーダーが孤独になる要因のひとつに、「インポスター症候群」があると考えられています。筆者もこのようなリーダーに多く接します。
仮に、リーダーがインポスター症候群に苦しんでいると仮定すると、これを支えていく人材が必要になります。この役割は、勿論、リーダーの上長に求められますが、中高年の方々にも、リーダーを支える役割としての期待が大きいのです。
事例にあげたイベント会社の社長は、中高年社員の活躍の場として、若手から中堅、およびリーダーのサポート役としての役割を担ってもらうことにしたそうです。豊富な経験を振り返り、「自分もそうだった」と気づくことで、リーダーを支えることができるのです。業務遂行のみならず、チームメンバーの一人ひとりをケアしながらマネジメントを実施する現場リーダーには、大きな負担がかかってきます。一人のリーダーが孤高にそびえるのではなく、チームでマネジメントを推進できてこそ、組織の力が向上します。
中高年社員のワーク・エンゲージメントを引き出すキャリア研修の意義
中高年社員のワーク・エンゲージメントを向上させるためのキャリア研修では、これからの職業人生を生きていくうえで、自身の感情に気づき、それをコントロールすることを学ぶこともひとつの目標です。「もう自分は終わりに近づいている」のではなく、「まだまだできることがある」と捉え直しをすることが必要なのです。もしかしたら、負の感情が自分の内面から湧いて来るかもしれません。例えば、同期が高い地位にいたり、社会で華々しく活躍していれば、「なぜ自分だけこのような境遇にあるのか」と考えてしまうこともあるかもしれません。しかし、「なぜ自分がそんな感情に振り回されるのか」
「なぜ他人と比較してしまうのか」「自分とは何者か」等について冷静に捉え直し、認知のあり方を前進する方向に変えることができれば、その感情に振り回されなくなります。キャリア研修で、「自分はどのような未来を恐れているのか」といった本質の議論に向き合い、自分を外からみつめる機会をもつことで、様々な不安、恐れといった感情は急速に影響力を失います。その機会としてキャリア研修を活用し、自分のこれからの人生について前向きに考えていただければ、それは非常に意義深いものとなり、単なる仕事やキャリアの探索に留まらず、生きるうえでの自信にもなっていきます。
(参考文献)
・『ダイヤモンド ハーバード・ビジネスレビュー』 2019年11月号:「チームの力が従業員エンゲージメントを高める」M.バッキンガム、A.グッドール著
・「労働力調査」(2022) 総務省統計局 年齢階級別雇用者数(5歳階級)
【筆者プロフィール】
一般社団法人ソシエトス 代表理事 木暮淳子
外資系食品メーカーのマーケティング、法人営業を担当し、英国勤務を経て2001年退職。
その後も外資系企業の新規事業開拓責任者、企業再生等の仕事に従事する。
2008年よりコンサルティング会社にて人材開発・組織開発を担当し、2016年に一般社団
法人ソシエトス設立。理事にわが国のキャリア形成支援第一人者で数多くの著書を持つ
筑波大学名誉教授・渡辺三枝子先生を迎え、個に寄り添ったミドルシニアのキャリア形成
を支援している。
現在、ライフ・キャリア開発研修を軸に、都市圏ミドルシニアの活躍の場として地方創生とマッチングする活動や、1on1キャリアコンサルティングで活躍中。
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- 2024/02/29
- お知らせ 中高年社員にこそキャリア研修が必要だ(1)
中高年社員のワーク・モチベーションを高めるために必要なこと
本号から3回にわたり、一般社団法人ソシエトスの代表理事であり、キャリアコンサルタント・研修講師としても活躍されている木暮淳子氏から、中高年層に向けたキャリア研修の必要性についてお話しいただきます。
1回目となる今回のテーマは「中高年社員のワーク・モチベーションを高めるために必要なこと」です。
人手不足が叫ばれる昨今、在籍する社員それぞれが年齢や性別等にかかわらず個人の能力を最大限に発揮し、戦力として活躍できる職場をつくることは、企業経営にとって大きなテーマのひとつであるといえるでしょう。
しかし、現実はワーク・モチベーションを下げてしまった社員も多く散見され、企業の経営者や人事の方からは、「一度下がってしまった中高年社員のワーク・モチベーションを上げることができるのか」「そのためには何をすべきか」と質問を受けることもしばしばあります。
「やる気」の低下は40代の早い時期から起きている
中高年社員が活力を失う状況があります。例えば、「仕事上の責任が与えられない」「期待されていない」といった、“挑戦への領域”が失われた場合や、「現在の職位以上の昇進可能性が非常に低い」といったキャリア上の行き詰まりを感じる状態などです。
この活力の低下については、50代の役職定年者や、60歳以上の定年後再雇用者よりも、むしろ40~54歳の非管理職の方が仕事への意欲に課題があるという研究結果(石山(2021))もあり、40代の割と早い時期から「やる気」を失ってしまっている状況が存在していることがわかっています。
これまで50代社員のライフ・キャリア研修を担当してきた筆者は、最近依頼を受ける研修の対象年齢が下がってきていることを実感しています。昇進の可能性が低いと認識したり、成長を実感できない状態が長く続く、または周りから成果を期待されない状況は、役職定年期だけに引き起こされるのではなく、組織によっては40代から生じている場合もあるのです。それだけに、これらの人が早いタイミングからキャリア研修を通して、内省する必要性を強く感じています。
重要なことは「裁量度」と「人間関係の良し悪し」
ワーク・エンゲージメントとは、ご承知のとおり、“仕事上のやる気”に非常に関係がある概念で、近年「エンゲージメント経営」を採り入れる企業も増えてきています。
・仕事から活力を得て、生き生きしている。 「活力」がある。
・仕事に誇りとやりがいを感じている。 「熱意」を持つ。
・仕事に熱心に取り組んでいる。 「没頭」する時間がある。
これら3つがワーク・エンゲージメントと定義されています。職務満足感や、離転職意思の低下、役割外の自発的な行動などに肯定的な影響を与えることも知られています。
(独)労働政策研究・研修機構が実施した「人手不足等をめぐる現状と働き方等に関する調査(2019)」をもとに厚生労働省が作成した「令和元年版 労働経済の分析」によると、日本企業の正社員のワーク・エンゲージメントは、「年齢が高いほど」「職位・職責が高くなるほど」そのスコアは高いという調査結果がでています(図1)。わが国では、年齢が高いほど職位や職責が高い傾向にあり、職位が高まれば、自分で仕事をコントロールできる範囲が広がることや挑戦することが多いため、やりがいや成長実感が得られやすいからではないかと分析しています。
また、調査対象者に1年前との比較でワーク・エンゲージメントのスコアの違いを聞いたところ、特に、仕事における「裁量度」と「職場の人間関係の良し悪し」の変化がスコアに大きな影響を与えているということも同調査によって示唆されています。ある程度自分で仕事をコントロールできる立場であることと、良い人間関係の中で仕事ができることが「仕事上のやる気」を引き出していると考えられます。
この結果を見ると、中高年社員にいつかは訪れる「役職定年」などのポストオフは、ワーク・エンゲージメントの重要な要素のひとつであった「裁量度」が減少することを意味し、それがモチベーションの低下を生み出していることが容易に理解できます。「ポストオフ前後の気持ちの変化」について、リクルートマネジメントソリューションズ(2021)が実施したアンケート調査(n=766)によると、一度やる気が下がったとする人は6割近くにのぼり、その後も下がったままという人が4割前後(再浮上した人は2割前後)いるという結果が出ています。このことは、ポストオフを経験した、実に4分の1の人がやる気を失ったままという状況を示しており、結果として労働意欲の低い中高年社員層ができあがっているわけです。
自分を客観的に見るきっかけとなるキャリア研修
中高年社員のワーク・モチベーションの低下を食い止め、できるかぎり向上・維持させるためには何が必要なのか、近年盛んに研究が進められています。環境変化に合わせて常に能力を磨くリスキリングの努力が中高年社員に求められていると同時に、会社側も制度や風土に関する対応策を構築することが欠かせないでしょう。
筆者は中高年社員のワーク・モチベーションをいかに向上させるかという観点からの活動に取り組んできました。その中で、「キャリア研修」で、全てを解決することはできないが、効果的であるとの見解に至っています。その理由のひとつは、研修という場で、日常からいったん離れ、これからの人生について他者と共に考える時間を持つことが、自分を客観的に見つめる視野を得ることになり、そのことが深い内省の時間をもたらし、人生の位置づけや仕事の意味を深く認識することに繋がるからです。また、そうすることで、自分を落ち着かせることもできるようになります。仮に同期が高い地位に就いていても、もう比較することもなくなります。また、他者も同じ感覚であることを知れば、安心することもでき、前に向かって歩き出そうという意欲もわいてきます。これが内省する強みです。
ふたつめの理由は、こうした内省が自らのこれからの役割について、考えを深めることに繋がるということです。ある方は組織運営における知識力向上に役立とうと考えたり、若い人たちに技術を伝承していこうと考えたり、その会社で弱いとされている部分に積極的に関与して役に立とうと行動計画を立てるなど、期待役割を別の観点から見いだせるようになりました。中高年を対象としたキャリア研修では、現在のご自身の位置から、ある程度の方向性を見いだしていくことができるのです。
このように、中高年社員のワーク・モチベーションは、ご自身の内面をしっかりと認識することで向上可能だと捉えています。キャリア研修を受講した中高年社員がこれまでの経験を大切にしながら、他者と共に考え、年齢の枠も乗り越え、これからも組織で活躍し続けられる人材となることを期待しています。
(参考文献)
・石山(2021):「中高齢労働者によるジョブ・クラフティングの規定要因の解明」石山恒貴
・(独)労働政策研究・研修機構(2019):「人手不足等をめぐる現状と働き方等に関する調査」
・厚生労働省(2019):「令和元年版 労働経済の分析」
・リクルートマネジメントソリューションズ(2021):「ポストオフ・トランジションの促進要因-50~64歳のポストオフ経験者766名への実態調査」
【筆者プロフィール】
一般社団法人ソシエトス 代表理事 木暮淳子
外資系食品メーカーのマーケティング、法人営業を担当し、英国勤務を経て2001年退職。
その後も外資系企業の新規事業開拓責任者、企業再生等の仕事に従事する。
2008年よりコンサルティング会社にて人材開発・組織開発を担当し、2016年に一般社団
法人ソシエトス設立。理事にわが国のキャリア形成支援第一人者で数多くの著書を持つ
筑波大学名誉教授・渡辺三枝子先生を迎え、個に寄り添ったミドルシニアのキャリア形成
を支援している。
現在、ライフ・キャリア開発研修を軸に、都市圏ミドルシニアの活躍の場として地方創生とマッチングする活動や、1on1キャリアコンサルティングで活躍中。
◎ 株式会社 星和ビジネスリンク お問い合わせフォーム
◎ 星和ビジネスリンクは、現役世代が定年後の人生を豊かに過ごすための調査研究を行う機関として、「一般社団法人 定年後研究所」を設立しました。
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- 2024/02/20
- セミナー情報【公開セミナー】一般職女性の高い管理職志向が明らかに!
2024年 星和Career Next 特別セミナー
定年後研究所・ニッセイ基礎研究所 共同調査研究
「中高年女性社員の活躍に向けた現状と課題」
65歳までの雇用確保義務の経過措置終了まで、あと1年とわずかになりました。 弊社では、今年も星和Career Next(公開セミナー)を通して、企業に勤務する中高年社員のキャリア支援に関する情報を発信してまいります。
今回のセミナーでは、一般社団法人定年後研究所と株式会社ニッセイ基礎研究所が昨年実施した最新の共同調査研究の結果をもとに2人の講師からお話をいただきます。
≪本調査の目的≫
大企業が取り組む中高年社員を対象とした「キャリア支援(活性化への取組)」では、男性の総合職を前提としていることが多く、「女性活躍推進への取組」においても、若手や中堅層が対象となることが多いと感じられます。このことから、本調査では中高年女性の一般職層に焦点をあて、就労意識や働く環境認識を明らかにすることで当該層の活性化に向けた企業の環境整備を考えていただくことを目的としています。
<開催概要>
■主 催:株式会社星和ビジネスリンク
■開催日時:2024年3月14日(木) 13:30~15:00
■開催形式:オンライン(Zoom)
■定 員:先着300名
お申し込みはこちらから
※お申し込みをいただいた方には、後日視聴のための事前登録のURLをご案内いたします。
※競合他社・同業者からのお申し込みは、視聴をお断りさせていただくことがあります。
【第一部】
「中高年女性正社員のキャリアや管理職に関する意識調査 結果報告」
株式会社ニッセイ基礎研究所
生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室 兼任
坊 美生子(ぼう・みおこ)氏
*セミナーでは、大企業に勤務する45歳以上の正社員の女性1,326名に実施したアンケートをもとにお話しいただきます。
[講師Profile]
神戸大学大学院修士課程修了後、2002年読売新聞大阪本社に入社し、大阪本社社会部や東京本社社会部に在籍。厚生労働省などを担当し、労働問題を中心に取材する。2017年ニッセイ基礎研究所入社。生活者の視点から、中高年女性の暮らしや雇用、消費等について研究を行っている。老後の女性の生活水準向上と、日本のジェンダーギャップ解消を目的として、女性活躍推進の調査研究にも力を入れている。
【委員活動】
2023年度 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
【第二部】
「ダイバーシティ・中高年社員活躍に関する大企業取組インタビュー調査 結果報告」
一般社団法人定年後研究所 理事所長
池口 武志(いけぐち・たけし)氏
*セミナーでは、11社の大企業に勤務する人事担当者へのインタビューを もとにお話しいただきます。
[講師Profile]
1986年 日本生命保険相互会社入社
本部リテール販売部門、人事、営業企画、契約管理、販売最前線等で長く管理職(部長、支社長など)を経験し、多様な職種の人材育成にかかわる。その間、オックスフォード大学 Diplomatic Studies修了。
2016年 研修事業も行う星和ビジネスリンクに出向。キャリア羅針盤の開発を統括。現在、同社取締役常務執行役員も務める。
2023年3月 桜美林大学大学院老年学修士課程修了。キャリアコンサルタント、消費生活アドバイザー、AFP、日本心理的資本協会理事、シニア社会学会会員
著書に『定年NEXT』( 廣済堂新書 2022年4月)、『人生の頂点は定年後』(青春新書インテリジェンス 2022年10月)がある。
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- 2024/02/14
- お知らせ 人生100年時代の理想の働き方とマネープラン(3)
人生100年時代のマネープラン~“勘違い”していませんか?~
得丸氏による連載の最終回、今回は長くなった老後を活力的に過ごすために「マネープランとライフプランは車の両輪である」という考え方についてお話しいただきます。
「人生100年」の時代
2016年に『LIFE SHIFT~100年時代の人生戦略』の日本語訳版(リンダ・グラットン / アンドリュー・スコット著 池村千秋訳:東洋経済新報社)が出版されて以来、「人生100年時代の到来」が当たり前のように語られるようになりました。
『人生が長くなるとやりたいことができる時間が増える半面、長い老後をどう暮らすのかという不安が生じる。「人生100年」という言葉は、国民にその現実を突きつけた』。日本経済新聞のコラム(大機小機:2019年)にこのような記述がありました。
50歳代世帯の8割以上が「老後不安」を抱えている
日本銀行の金融広報中央委員会が行った調査によると「老後生活に対する不安」について、このような結果がでています。
世帯主が20歳以上80歳未満の単身世帯(2,500世帯)および二人以上世帯(5,000世帯)に、「あなたは、老後の暮らしについて、経済面でどのようになるとお考えですか」と聞いたところ、単身世帯で79%、二人以上世帯で78%が「心配である」と回答しています。
世帯主が50歳代の世帯においては、単身世帯で85%、二人以上世帯で83%が「心配である」と思っていることが分かりました。特に単身世帯では約6割が「非常に心配」と回答しています。
(図表1参照)
この調査結果を見る限りでは「老後不安はあって当たり前」であることが分かりますし、「十分な金融資産がない」、「年金や保険が十分でない」というのが“不安の要因”であるようです。
昔からライフプラン(とりわけリタイアメントプラン)の役割は「老後不安の払拭」と言われてきました。しかしながら、人生100年という「誰も経験したことのない老後」を想定した時、「いかに貯蓄を増やすか」に終始していた従来型ライフプランでよいのでしょうか?
マネープラン(ファイナンシャルプランニング)の役割も変わった
「現役時代はとにかく貯蓄に励みましょう、そしてリタイア期を迎えたら節約しながら上手に貯蓄を取り崩していきます」というのが、従来のマネープラン(ファイナンシャルプランニング)の定石でした。
マネープランの主要ツールである「ライフイベント表」や「キャッシュフロー表」を使って、家計の将来収支を想定し、結果としての金融資産残高の推移を見通すというプランニングのプロセスは変わっていませんので、前述の“定石”そのものは間違いではありません。
ポイントは、マネープランの目的である「フィナンシャルゴール」の捉え方(認識)にあるのだと思います。「ライフイベント表」や「キャッシュフロー表」を使ったプランニングのプロセスのゴールが「老後に向け1円でも多く貯める」という老後不安の払拭にあった従来の考え方に対して、これからは、家計の将来不安・課題を想定して解決し「理想の生き方を実現する」をゴールと捉えることです。(図表2参照)
筆者のファイナンシャルプランニング相談の経験からすると、「60歳定年、人生80年」と言われていた時代では、現役時代にがんばって1円でも多く貯蓄し、「定年後20年間くらいは……」という水準の老後資金のプランニングは比較的現実的であったように思います。ところが、「人生100年、定年後35~40年間」と言われても、「これだけあれば大丈夫」という水準は提示できないのです。なぜなら、老後生活が「金融資産を取り崩して生活する局面」に入ってしまうと、いくら十分な蓄えがあっても「残高が減ることによる不安」は必ず出てくるからです。
人生100年時代においては、“拭いきれない不安” にいつまでも囚われ続けるよりも、いかに“理想の生き方”を追求するかということに関心を置き注力するかが大切なのではないでしょうか。場合によっては「苦労するかな?」ということになるかもしれませんが、ゴールが「理想の生き方の実現」であれば少々の苦労もいとわないで前向きになれるでしょう。
これからの「ライフプラン研修」には「マネープラン」が必須
フィナンシャルゴールを「理想の生き方の実現」とした場合に大切になってくるのが、定年前後の「働き方」だと思います。第1回目で紹介した「生計就労から生きがい就労へいかにソフトランディングするか」ということです。
従業員のための「マネープラン研修(セミナー)」を、とりわけ50代以降のシニア社員向けに実施する場合は、「生計就労」としての家計収支、「生きがい就労」としての家計収支を意識した研修であることが望まれるのだと思います。
「個人のプライバシー領域である“家計”に過度に立ち入るべきではない」、「定年後の家計は会社の責任外である」などの考え方から、シニア向けマネープラン研修が「単なるマネー関連情報提供の場」であったり、「定年前後の諸手続きのガイダンス」で終わってしまうのはいかがなものでしょうか。
『キャリア羅針盤®』(eラーニングプログラム)では、「ライフキャリア」と「マネープラン」の二つの講座をメインプログラムとして構成しています。最近では、『キャリアプランとマネープランは車の両輪』という考え方を持つ人事部門も増えてきました。
キャリアプランにもとづき「理想の生き方の実現」を追求するためのマネープラン研修を実施することで、結果として「キャリア自律」を促すことになったという事例も出てきています。(終)
*『キャリア羅針盤®』は株式会社星和ビジネスリンクの登録商標です。
【筆者プロフィール】
得丸英司(とくまる・えいじ)
一般社団法人定年後研究所 特任研究員、CFP®資格認定者
1957年生まれ。
日本生命保険相互会社の営業教育部門で25年間FP業務に従事。日本FP協会常務理事・特別顧問、慶應義塾大学大学院講師、定年後研究所初代所長などを歴任。
著書:『「定年後」のつくり方』(廣済堂新書)
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- 2024/02/09
- お知らせ 人生100年時代の理想の働き方とマネープラン (2)
20年以上前から「生きがい就労」を実践する集団があった
~「ディレクトフォース」の存在~得丸英司氏による連続コラム、前回は生計のための就労から、生きがいを得るための就労へとシフトするときに必要な「マネーの基礎知識」についてお話をいただきました。
2回目となる今回は、得丸氏自身もメンバーとして活動している「一般社団法人ディレクトフォース」を通じた「生きがい就労」についてお話しいただきます。
●社会貢献とやりがいの両立を目指したシニア集団
私が所属する「一般社団法人ディレクトフォース(DF)」は、“世界のシニアの先駆者集団”を目指して活動中で、昨年創立23年目を迎えました。
DIRECTFORCE(DF)は、DirectorとForceを合体させた名前で、現在会員数が約600名、会員は企業や団体をリタイアした方ばかりで、平均年齢は73歳のシニア集団です。
メンバーは「社会貢献を通じ、価値ある生き方を求める」「自己研鑽に励み、充実した生活を求める」「健康に留意し、交友の輪を広げ、人生を楽しむ」ことを活動理念としています。
現在、DFには教育支援や企業支援を実践する7つのグループ、10の部会・研究会、33の同好会があり、まさに「生きがい就労」のデパートのようです。メンバーはいずれかに所属して、各々の生きがいを見つけています。
●子どもたちの「驚き、喜び」に魅せられて
DFでは学校などで理科実験の出張授業を行っています。現役時代に製造業などで技術系の仕事に従事してきた経験豊富な80人ほどのメンバーが、「子どもたちに理科好きになってほしい」という想いで年間200回を超える授業を展開しています。
出張授業はすべてメンバーが手を動かして準備をします。実験の材料も「100円ショップ」などで調達した材料をつかって自らつくり出すという手間の掛けようです。
様々な業界の経験者がアイデアを出し合って、「墨流しで絵葉書をつくろう」「エタノールで船を走らせよう」「光の花を咲かせよう」等々、全部で25もの実験テーマをラインアップしています。
それだけに、「すごーい!」「えっ!どうして?」「なるほど!」といった、子どもたちの驚きや喜びに接したときの満足感が金銭にも勝る“最高の報酬”になるといいます。
DFの中でも理科実験グループの活動は、経済的事情よりも「やりがい」に軸足を置いた「生きがい就労」の典型事例と言えます。
●ビジネスの世界での貢献活動で報酬を得る
理科実験グループの活動は、DFの「教育支援活動」の代表例ですが、DFでは会員の経験や知見を企業の経営や企業活動に活かすための「企業支援活動」も展開しています。
例えば、優れた技術力を持っているものの、営業体制が脆弱なため、販路開拓に苦戦している企業からのヘルプ要請に対しては、DF会員の豊富な人脈・企業脈が活かされます。また、「自社ブランドを立ち上げたい」という若手経営者等の場合は、現役時代に流通・小売業でマーケティング・ブランディングに従事していたDF会員の腕の見せ所となります。
ある大企業の工場に出入りしている中小企業経営者には、大企業の工場長経験者であるDF会員が寄り添って「伴走支援」を行います。なかには、毎月DFの事務所を訪れて、DF会員と雑談的に様々な話をして帰る経営者もいます。
このようにDFの企業支援活動は、DF会員の経験、知識、スキル、人脈等を無駄に眠らせることなく、現在の企業経営に活かすことによって社会に貢献しようとするものですが、支援対象が営利企業の場合は、ビジネスとしての対価を求めています。その報酬形態は、コンサルティング料であったり、紹介料や成約報酬であったり様々です。
この企業支援活動からの収入は、社団全体の収入のかなりのウエイトを占めていて、社団運営のための物件費、人件費捻出に大きな役割を担っています。また、社団が得る報酬は、企業支援活動に従事するDF会員にも還元されています。
●「生きがい就労」実現のために
DFを立ち上げた頃には、会社人生の後に「自走人生」がやって来る「人生ふた山論」といった、私が定年後研究所の所長として提唱していた考え方も無ければ、「プロボノ」「越境学習」等といったコトバも無かったでしょう。
「会社を卒業してもまだまだ元気なのだから、何かをやらなくては……。どうせなら、世のためになることをしよう」というように“自然発生的”にDFは出来たのではないでしょうか。
理科実験グループが生まれたのも、あるイベントで「理科実験をやってくれないか」と頼まれたのがきっかけで、最初は「子ども相手の理科実験を手伝うのか?」という疑問の声も多かったようですが、実際にやってみると、喜んでくれた子どもたちの反応に強く背中を押されて、レギュラーの貢献活動として続けていくことになったそうです。
「生きがい就労」のネタは身近にたくさんあると言われていますが、個人の努力や企業単独で準備するには、まだハードルが高いようにも思います。“自然発生的に”生まれたDFですが、世の中に「生きがい就労」の道を提供できる団体としての期待は大きいのではないでしょうか。DFとしても「生きがい就労」を模索する“現役会社員”に門戸を開放するなどの展開は検討の余地がありそうです。
私は今後、70歳までの雇用を考えるとき、このような社会貢献活動も一つの選択肢となるのではと考えています。
【筆者プロフィール】
得丸英司(とくまる・えいじ)
一般社団法人定年後研究所 特任研究員、CFP®資格認定者
1957年生まれ。
日本生命保険相互会社の営業教育部門で25年間FP業務に従事。日本FP協会常務理事・特別顧問、慶應義塾大学大学院講師、定年後研究所初代所長などを歴任。
著書:『「定年後」のつくり方』(廣済堂新書)
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- 2024/01/31
- お知らせ 人生100年時代の理想の働き方とマネープラン (1)
「生きがい就労」との付き合い方~
65歳までの雇用確保いよいよ完全義務化へ本号から3回にわたって、一般社団法人定年後研究所 特任研究員で元日本FP協会常務理事[CFP®]の得丸英司氏より、「人生100年時代の理想の働き方とマネープラン」についてお話しいただきます。
1回目となる今回は、生計のための就労から、生きがいを得るための就労へとシフトするときに必要なマネーの基礎知識についてです。
●「生計」から「生きがい」へ
人生100年時代に相応しい働き方をイメージすると、次のようなパターンが一つの理想ではないかと思います。それは、「65歳までは生計のための就労(=生計就労)に勤め、その後は85歳くらいまで生きがいのための就労(=生きがい就労)に従事する」というものです。(図表1参照)
このように語るのはニッセイ基礎研究所ジェロントロジー推進室の前田展弘(まえだ・のぶひろ)上席研究員です。前田氏と筆者のかかわりは、2006年の東京大学ジェロントロジー(高齢社会総合研究)寄付研究部門創設の前後からですので、かれこれ20年近くになります。2018年の定年後研究所設立の際にも、高齢者就労に関する専門家の立場からご指導をいただきました。
「生きがい就労」について、前田氏はさらに次のように述べています。
「65歳からの生きがい就労は、現役当初と同じような働き方ではなく、週2~3日、1日2~3時間くらいの軽度な仕事です。<中略>それくらいの負荷で自分のペースで高齢期も働けることはむしろ恵まれた環境と言えるのではないでしょうか」
●「生きがい就労」を視野に入れたマネープランを
図表2は「60歳からの収入の構図」について概観したものです。筆者が、『キャリア羅針盤®~マネープラン』(eラーニングプログラム)で履修ガイダンス研修を行う際に使用しているものです。年金等の各制度の概要を全体的に俯瞰できるようにまとめたものなので、全ての個人の事例に必ずしも一致しているとは限りませんが、『キャリア羅針盤®~マネープラン』において「ライフプランシミュレーション(キャッシュフロー表)」を作成する際には不可欠の基礎資料となるものです。
今回は、前田氏の提唱する「65歳までの生計就労と、その後の生きがい就労」を前提とした“概観図”に修正を加えてみました。
「構図」では、60歳以降の収入を、
(1)勤労収入(自ら稼ぐ収入)
(2)国からの収入(公的年金)
(3)企業からの収入(退職金、企業年金等)
の3つに分類しています。
このうち「勤労収入」に該当するのが、前田氏のいう「生計就労や生きがい就労による収入」です。
従業員個人としては、勤務先の60歳以降の雇用・勤務形態や賃金水準等の処遇がどのようになっているのかをきちんと把握しておく必要がありますし、公的制度の改正等の情報についても注意しておかなければなりません。ですので、企業の立場としては、従業員への適切な情報提供に努める必要があります。
公的制度の改正等については、以下の通り2025年度に転機を迎える制度改正があります。
(1)雇用保険法にもとづく高年齢雇用継続給付の縮小(2025年4月施行)
⇒同給付は、60歳から65歳未満の賃金の低下を補償するものですが、給付率が10%に引き下げられる(現行15%)とともに段階的に廃止されることになっています。なお、10%適用になるのは、2025年4月1日以降に新たに60歳になる労働者からです。
(2)高年齢者雇用安定法における65歳までの雇用確保義務の経過措置の終了(2025年3月末)
⇒企業が導入する継続雇用制度の適用を、年齢により制限できる経過措置が終了となりますので、65歳まで継続雇用を希望する従業員について「希望者全員雇用」の義務が発生するようになります。
●必ずしも“雇用”を前提としない「生きがい就労」
前田氏の提唱する「生きがい就労」では、継続雇用(再雇用)や再就職等のように雇用されるケースばかりを想定しているわけではありません。「起業・独立」やNPO等の「地域貢献活動」、あるいは「協同労働」「ボランティア活動」等様々な選択肢を想定しています。(図表1参照)
「65歳からもこうした様々な働き方、活躍の仕方がある、自分のキャリア・人生を拡げられる可能性があるということを認識いただいたうえで、高齢期の働き方・活躍の仕方について一度考えてみてください」(前田氏談)
マネープランのうえでの「収入構造」としてとらえると、まず「雇用形態か否か?」という点がポイントになるでしょう。
〇雇用による勤労収入が「給与所得」であれば、65歳になって取得する「老齢年金受給 権」との兼ね合いを考慮しなければなりません。老齢厚生年金が「在職老齢年金」に該当すると、本来の年金額の削減を受けることになるからです。
⇒ポイントは、給与を受けながら働く際に「厚生年金の被保険者」であるかどうかの確認が必要です。
〇「起業・独立」しての稼ぎが、「事業所得や雑所得」である場合で、厚生年金の被保険者ではないケースは、在職老齢年金の適用外ですので、本来の年金額の削減は心配ありません。
〇65歳以降何らかの収入が得られる場合は、老齢年金の受給開始時期を任意に遅らせる申請ができます(繰下げ受給)。その場合、1か月繰り下げるごとに本来の年金額が0.7%ずつ増加します。計画的に年金額を増やすことができるのです。なお、繰下げ受給は、老齢厚生年金、老齢基礎年金ごとに繰り下げることができますので、配偶者とともにダブルインカムの世帯であれば、それぞれが「老齢厚生年金、老齢基礎年金の両方を繰下げる」「両方ともに繰り下げない」「どちらか一方だけを繰下げる」という選択肢を持っていますので、全部で16通りの受給パターンがあることになります。
〇退職金収入については、勤務先によって制度が異なりますが、「一時金受取」か「分割受取(企業年金)」かによって“収入時期”が異なってきますし、企業年金の場合であっても「一時金受取、確定年金受取、終身年金受取」などの選択余地がある等、他の収入との兼ね合いを考慮しなければなりません。
このように、「どのような生きがい就労にするのか」によって、収入の構図が変わってくるのです。このことが「キャリアプランとマネープランは車の両輪」といわれる所以です。
昔から多くの企業で実施されている「マネー研修(セミナー)」ですが、マネー知識の詰め込みだけでは役に立ちません。『キャリア羅針盤®』をベースにしたマネープラン講座では、この「収入の構図」をイメージするところから始めます。
筆者も昔やっていた「我が国の公的年金制度は、このようになっていまして……」といったマネー研修はすっかり影を潜めています。
次回は「生きがい就労の実例」についてお伝えいたします。
【筆者プロフィール】
得丸英司(とくまる・えいじ)
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- 2024/01/24
- お知らせ 中高年女性社員「一般職層」の高い管理職志向が明らかに 定年後研究所 News Letter
定年後研究所・ニッセイ基礎研究所 共同調査研究
「中高年女性社員の活躍に向けた現状と課題」の一部を初公開一般社団法人定年後研究所と株式会社ニッセイ基礎研究所は、一般職の女性社員のキャリアに関する詳細な意識調査等を実施しました。本号では、これらの調査から見えてきたことを定年後研究所の池口所長から紹介していただきます。
●一般職の女性社員を対象にしたアンケート調査・企業インタビューを実施
定年後研究所は、ニッセイ基礎研究所と共同で中高年女性社員、とりわけ一般職層に焦点を当てて、当該層のキャリアに関する意識調査(Webモニターアンケート調査)を行いました。並行して企業の人事部門(ダイバーシティ担当部署やシニア社員活躍担当部署)に対してキャリア形成支援に関する取り組みについてインタビュー調査を実施しました。
調査の全貌をまとめたレポートは2月に公開予定ですが、メールマガジン読者の皆様には、ほんのさわりだけですが、その概要をお届けします。
● 調査の背景
役職定年や定年後再雇用を受けての中高年社員をめぐる処遇面での厳しい現実が、時折マスメディアやビジネス雑誌にセンセーショナルに取り上げられています。私たち定年後研究所も、これまで中高年社員の活性化に焦点を当てた企業人事部門の取り組み内容のヒアリングや、中高年社員当事者のキャリア価値観を探るインタビュー取材などに力を入れてきました。ただ、これらの調査と発信は、対象を暗黙裡に「総合職男性管理職」にしていたケースが多かったのではないかと思います。
一方、ダイバーシティ経営に目を移すと、その本丸とも言える「女性活躍推進」は多くの企業で既に長期間にわたって取り組まれ、広く、深く展開されていることは衆目の一致するところです。「女性管理職占率〇〇%」などの経営目標が掲げられ、若手中堅の女性社員を対象にして管理職候補の裾野拡大に力が注がれ、これらの努力が着実に実を結びつつある企業が多いことを実感しています。ただ、これらの取り組みも暗黙裡にその対象を「総合職女性」や「総合職転換に応じた若手中堅女性社員」としているケースが多いのではないでしょうか。
●共同調査の概要
Webモニターアンケート調査は、大企業勤務の45歳以降の女性正社員(総合職・一般職・定年後再雇用に区分)1,300人強を対象に「就業価値観(働く動機、管理職志向、仕事への姿勢等)」「これまでの経験(転勤、研修、産休・育休、介護、学び直し等)」「今後希望する働き方(いつまで働きたいか、会社への支援要望等)」「プライベート情報(家族状況、収入水準、健康状態等)」「属性情報(学歴、業種等)」の幅広い視点で行われました。
●調査から見えてきたもの
特徴的だったのは、「50代後半の一般職層」で約2割が管理職への登用希望を持っており、同じ年代の総合職層との違いがさほど大きくないとの結果であります。50代の一般職層は、これまでの社内研修受講経験が少なく、管理職登用研修の受講率はわずか5%程度でありました。ただ約2割の登用希望層は、経験はなくても管理職登用研修や、転勤を伴う異動、チームリーダー職務への希望が極めて高く、機会の付与次第では女性管理職登用の有望な候補層と見なせることが明らかになりました。併せて当該層は「高度な仕事へのチャレンジ意欲」や「業績への貢献意欲」も旺盛であることから、彼女らを活かす職場でのマネジメントや人事制度運用が重要と言えるでしょう。
企業人事部門に対してのインタビュー調査は、様々な業種の日本を代表する大企業11社からお話を伺うことができました。
大半の企業では、ダイバーシティ担当者とシニア活躍担当者にご同席をいただき、「社名は一切非公表」を前提に、「中高年社員(50~60代)の活性化」「女性活躍、ダイバーシティ推進」「中高年女性社員への期待」の3つの視点で、半構造化インタビュー方式で比較的自由にお話を伺いました。
結果として、
・ポストオフ後のシニア社員の活躍に関しては、経験を活かせるプレーヤー型のポスト開発の検討が進みつつある。
・女性活躍に向けては、意識改革の機会提供や、働きやすさに配意した環境整備等メニューは出そろった感があり、今後は制度の円滑な運用や、人物本位の登用に焦点が当たってきている。
・中高年女性の中には、初めて全国転勤を希望する層が出てきたことや、高い実務力とコミュニケーション能力を活かす方向での活用対策・期待感に言及する企業も数多く見られる。
このような点が特徴として見えてきました。
2月の完成版レポートには、11社の具体的な取り組み内容も記載しておりますので、ご期待いただければと存じます。
当レポートにご関心をお持ちの方は、定年後研究所Webサイトの「お問い合わせ」より、「中高年女性社員の活躍に関するレポート希望」の旨のご連絡をお願い申し上げます。
【筆者略歴】
池口 武志(いけぐち・たけし) 一般社団法人定年後研究所 理事所長
1986年 日本生命保険相互会社入社。
本部リテール販売部門、人事、営業企画、契約管理、販売最前線等で長く管理職(部長、支社長など)を経験し、多様な職種の人材育成にかかわる。その間、オックスフォード大学 Diplomatic Studies修了。
2016年 研修事業も行う株式会社星和ビジネスリンクに出向。
「キャリア羅針盤®」の開発を統括。現在、同社取締役常務執行役員も務める。
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- 2024/01/16
- お知らせ 2024年をミドル・シニアの行動変容元年に
定年後研究所2024年年頭所感
明けましておめでとうございます。今年も、星和ビジネスリンクのメールマガジン「星和HRインフォメーション」をよろしくお願い致します。2024年最初のお届けは、一般社団法人定年後研究所の池口所長の年頭所感です。
新年おめでとうございます。定年後研究所の池口です。定年後研究所では、昨年から4つの新たな取り組みを進めています。
●早稲田大学と共同で進める講座「キャリア・リカレント・カレッジ」
1つ目は早稲田大学と産学協働で創設した「キャリア・リカレント・カレッジ(CRC)」です。
主に50代半ばから後半にかけた、異業種からの多彩な受講生に、昨年の9月末から今年3月末までの半年間にわたる「キャリア探索と知識と実践」の融合プログラムに自費で参加いただいています。平日夜間と土曜日中心の講座やワークショップでは、多様なキャリアや価値観が交錯しあう中で、新しい自分の発見や自らの可能性の広がりが展開されています。受講生の皆さんは、決して転職ありきではなく、自社で働く意味合いを再構築したい、後進世代を支えつつ自らも成長を続けたい、そして定年後も社会に貢献し続ける自分でありたいとの旺盛な自己実現欲求を発露されており、早稲田大学日本橋キャンパスで新しいミドル・シニアのロールモデルが生まれつつあります。
●ミドル・シニアの新しい社会貢献「社会福祉領域への越境プロジェクト」
2つ目は大企業に勤める中高年社員の社会福祉領域への越境プロジェクト構想です。
要介護者や知的障がい者を支える福祉施設での人員・人材不足が深刻化する中で、セカンドキャリアを探索する中高年社員に、福祉施設をボランティアなどで越境体験していただき、その担い手としての可能性を広げていく実験的取り組みを進めています。弊所主催の企業人事担当者の情報交換会「シニア活躍推進研究会」でも、福祉法人の経営者に直接ご講演いただき、日常垣間見えない世界で、会社員としての経験や無形のスキルの蓄積を活かせる新しい場所としての可能性を感じていただきました。中には、福祉施設を直接訪問し、未知の世界を自ら体感し、社員に語りかける人事担当者もおられ、かけがえのない社員の活躍場所創出への熱い思いに共感させていただいています。
●ニッセイ基礎研究所との共同研究プロジェクト
3つ目は、ダイバーシティ経営の中で、中高年社員、とりわけ中高年女性社員の活躍にスポットを当てる研究プロジェクトです。
これまで主に女性活躍の視点で、大半の企業でダイバーシティ&インクルージョンの取り組みが展開されていますが、シニア社員をその対象に組み込むことで、より多様な人材や価値観の交互作用を経営に活かすマネジメントが胎動しています。弊所では、昨年秋以降、ニッセイ基礎研究所と共同で「大企業の中高年女性社員に対するキャリア開発」に関する意識と実態調査、および企業インタビュー調査を実施しています。現在分析中でありますが、一般職として採用された方(一般職層)を中心に、これまで社内では十分なキャリア開発機会を受けていないこと、一方で社外での学びの経験は総合職よりも多いこと、さらには50代後半の一般職層もおおむね2割の方が上位職志向を持っていることなどが分かりつつあります。企業インタビューでも年齢や性別によらない「人物本位」の人材登用を人事の方々に熱弁いただく場面が多く、人的資本開発に厚みが出てくる動きに期待しています。
●ミドル・シニアの羅針盤となるキャリア研修プログラムの開発
最後の4つ目は、ロールモデルに着眼したキャリア研修プログラムの開発です。
ロールモデルの有無によってワーク・エンゲージメントの高低に影響がでることが明らかにされています※1。また、中高年社員向けのキャリア研修に退職した先輩から経験談を語ってもらうコマを設ける企業もあります。ただし、社内には目標となるロールモデルが見当たらないとの声も数多く聞かれます。そこで弊所では多様なキャリアを歩まれ、定年後も多彩な活躍を続けられるロールモデルへの丹念な取材を通じたリアリティーあふれる研修プログラムを開発し、今春にはリリースの予定です。
●2024年を「ミドル・シニアの行動変容元年」に
これら4つの取り組みを進めて感じることは、
(1)大半の中高年社員は自らを成長させたいとの強い内発的動機を元来持っている。このことは、加齢とともにワーク・エンゲージメントが上昇するとの先行研究※1からも意を強くしています。
(2)この成長欲求に応えようとする人事担当者の思いや情熱も同様に強いものがあり、定年制度の見直しにとどまらず、活躍ポストの開発、ライフに配意した両立支援制度の整備、キャリア探索機会の提供など、人事施策のブラッシュアップに意欲的に取り組まれています。
(3)ただし、中高年社員の意識や行動が1日で変容することはなく、時間をかけた支援行動が必要です。この点、冒頭紹介の早稲田大学CRCでは弊所監修の「キャリア羅針盤(R)」を活用し、eラーニングでの事前履修を経た後に設定するワークショップでの高い研修効果により、半年間にわたる意識変容を上書きしていけることが分かってきました。中高年社員への支援行動には、機能面での何らかの工夫も必要ではないでしょうか。
辰年の人はスケールの大きい夢を見る特性を持つそうです。阪神タイガース・岡田監督の「アレ」には到底及びませんが、弊所も4つの取り組みを進化させていく中で、今年を「ミドル・シニアの行動変容元年」にしていきたいと意気込んでいます。企業人事担当者の皆様と、「シニア活躍推進研究会」やセミナーなどで意見交換させていただくことを楽しみにしています。これらを通して昨年還暦を迎えた小生も成長を続けたいと思います。
読者の皆様の今年1年のご健勝を祈念しております。※1厚生労働省 令和元年版 労働経済の分析 ―人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について―
【筆者プロフィール】
池口武志(いけぐち・たけし) 一般社団法人定年後研究所 理事所長
1986年 日本生命保険相互会社入社。
本部リテール販売部門、人事、営業企画、契約管理、販売最前線等で長く管理職(部長、支社長など)を経験し、多様な職種の人材育成にかかわる。その間、オックスフォード大学 Diplomatic Studies修了。
2016年 研修事業も行う株式会社星和ビジネスリンクに出向、「キャリア羅針盤®」の開発を統括。現在、同社取締役常務執行役員も務める。
2023年3月 桜美林大学大学院老年学修士課程修了。キャリアコンサルタント、消費生活アドバイザー、AFP、日本心理的資本協会理事、シニア社会学会会員
著書に『定年NEXT』( 廣済堂新書 2022年4月)、『人生の頂点は定年後』(青春新書インテリジェンス 2022年10月)がある。
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- 2023/12/21
- お知らせ 公開セミナーの録画映像をご視聴いただけます!
2023年開催の公開セミナーを振り返る
早いもので今年も師走を迎えました。読者の皆様におかれましては益々ご多忙な毎日をお過ごしのことと存じます。
星和ビジネスリンクでは、これまでにもメールマガジンや公開セミナーを通じて、働く中高年社員のキャリア支援に関する情報をお届けしてまいりました。年内最後となる今回のメールマガジンでは、今年開催した4回の公開セミナーを振り返りながら、新年度以降にお届けする情報をより有益なものとするために皆様からのご意見をいただきたいと考えております。
本文の最後に簡単なアンケートを用意しましたのでご協力をお願いします。また、アンケートの中では、今年開催した公開セミナーの録画映像の再視聴をご案内しています。視聴をご希望される方は、アンケートよりその旨お知らせください。後日、弊社担当者より連絡申し上げます。
●第1回公開セミナー(2023年6月20日)
「近未来 未曽有の労働力不足にどのように備えるか?」
明治大学大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授 野田 稔 氏
野田教授からは、雇用期間が延長されているにも拘わらず、2040年には生産年齢人口が現在に比べ、1,100万人も不足するというお話がありました。その予測を背景に、ミドルシニアの活躍が社会的ニーズであること、そして彼らが引き続き活躍するためには、キャリアについて考える機会を持つことが不可欠であるというお話をいただきました。
また、シニア世代が組織のなかで今後も活躍し続けるためには、40代でその後の人生について考える必要があり、それが人生後半の充実と組織の発展に大きく影響すると強調されました。
セミナーのなかでは、シニア世代になっても生きがいを持って働くためのセルフブランディングや、フラットな人間関係の重要性など興味深いお話がありました。
講演はオンラインセミナーの特長を活かし、対話方式で進行しました。視聴中の皆様に、ミドルシニア社員の職域開発支援や50代で後進に道を譲るための管理職研修、キャリア支援の有無をお聞きしその結果に対するコメントを野田教授よりいただいています。
●第2回公開セミナー(2023年7月19日)
「中高年 自律的学びのすゝめ」
慶應義塾大学 SFC研究所 上席所員 高橋 俊介 氏
2022年に引き続きご登壇いただいた高橋氏からは、社会環境・ビジネス環境が大きく・急激に変化をするなか、組織はそれに対応し得る人材を育成し、組織のなかで働く人は新たな能力・スキルを習得しなければならないというお話をうかがいました。
AI技術の急速な進歩に代表される近年のイノベーションの本質や、厳しい社会環境のなかにあっても成長のスパイラルを作り出し、自らを高め続けられる人とそれを促す組織の取組みについてもお話しいただきました。
視聴者との質疑応答ではご視聴の皆様から、キャリア自律のために取得した資格をどう生かすべきか? キャリア自律の必要性をミドル社員にどう伝えるべきか? などの質問があり、それらに対して高橋氏から回答をいただきました。
●第3回公開セミナー(2023年9月7日)
「70歳法※を見据えた、シニアからの新たな働き方の選択肢」
リスタートサポート木村勝事務所 代表 木村 勝 氏
70歳までの現役就業に向けた提言として、新たに起業するということではなく、もと居た会社で慣れ親しんだ仕事を業務委託として請け負う「“半”個人事業主」という働き方についてお話をいただきました。個人にとっては慣れ親しんだ職場で実力を発揮できる、組織にとっては業務知識に精通した労働力が確保できる、労使双方にメリットが大きい働き方であること、また、子育てや介護などで仕事を休む社員のリリーフとしても会社に貢献できるシニアの新しい働きかたであることを、導入の方法を注意点と共に示していただきました。
質疑応答では、シニアとの業務委託契約の人事上のメリットは? 管理職経験のない社員との業務委託契約は会社にどんなメリットをもたらすのか? などの質問がなされ、木村氏、定年後研究所の池口所長からそれぞれのご見識を交えたご回答をいただきました。※令和3年4月1日施行の「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の略称として使用しています。
● 第4回公開セミナー(2023年10月19日)
「ミドルシニアの越境学習~はじめの一歩の歩みかた~」
法政大学大学院 政策創造研究科 教授 石山 恒貴 氏
石山教授からは、「越境学習」は会社が主導するものと、社員一人ひとりが自発的に行うものがあり、社員一人ひとりが行う越境学習の機会は日常に多くあることや企業が主導して越境学習を実施する場合の注意点と好例についてご解説をいただきました。
セミナーのなかでは、投票機能を使って越境学習に対する意識調査も行われました。質疑応答では、越境学習を終えて職場に復帰した社員に対する上司の行動や副業に消極的な組織に対するアドバイスは? などの質問が多く寄せられ、それらに対してのアドバイスをいただきました。
今期、弊社が開催したセミナーは、皆様の会社のキャリア支援のお役に立つことができたでしょうか。今般紹介させていただいた公開セミナーの様子をご視聴希望の方は以下のアンケートからお申し込みください。
2023年の星和HRインフォメーションは本号で最後となります。2024年は1月10日から配信の予定です。
新年も、皆様からのご支援ご厚情を賜りますようよろしくお願い申しあげます。
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- 2023/12/19
- お知らせ 多くの中高年会社員が避けては通れない介護問題を考える(4)
「幸せな介護」実現のために
介護職員の育成と介護問題の解決に取り組む矢野憲彦氏のコラム。最終回は、家族の介護にあたって最低限知っておくべきことと心構えについてお話しいただきます。
●「幸せな介護」実現のために
前回のメールマガジンでは介護離職を防ぐために活用すべき支援制度などについてお話ししました。
支援制度をうまく活用することで、家族の介護と仕事が両立できれば、精神的、肉体的、経済的な苦しみは軽減すると思います。
しかし、それだけでは介護する前の状態に近づいただけです。私は、家族の介護という、貴重な経験をただ苦悩や負担を軽減するだけのもので終わらせては「もったいない」と考えます。
介護を通じて「家族との絆」を深め、「人生観や死生観」を育み、あなたと家族の人生の質(QOL)の向上を目指して欲しいと思っています。
介護を経験したからこそ実感できる充足感、それが「幸せな介護」なのです。
幸せな介護については、星和ビジネスリンクのeラーニングプログラム『キャリア羅針盤 ~幸せな介護』で詳しく学ぶことができますが、ここでは最低限知っておくべきことについてお話しします。
●老化と認知症の理解
家事や仕事をテキパキとこなしていた親がだんだん衰えて、人の手を借りないと生活できなくなってしまう……。そんな親の姿を見るのは、とても辛く、悲しいことです。しかし、これは老化現象であり、できないことが増えていくのは自然なことです。
心身に生じる様々な変化をあらかじめ知っておくことで、親の衰えに対する否定的な考えや感情を和らげることもできるのではないでしょうか。年齢を重ねていくことで、生じる変化の代表的なものを以下にまとめてみました。
肉体的には、
・老眼による視力低下、視野狭窄、色覚低下、ドライアイが発生しやすくなる。
・認知機能の低下が起こりやすくなる。
・嗅覚や味覚が鈍感になる。摂食嚥下がしにくくなり、むせたり、誤嚥性の肺炎を起こしやすくなる。
・高音域の聴力が著しく低下し、老人性難聴が生じやすくなる。
・消化管運動が低下し、便秘や便通異常、逆流性食道炎などが起こりやすくなる。
・血管が硬くなり、心筋梗塞や心肥大、高血圧、動悸が起こりやすくなる。
・皮膚感覚が低下して、寒暖や痛みに対して鈍感になる。
・膀胱が硬くなり、頻尿の症状が出やすくなる。時には失禁してしまうこともある。
・骨量が減り骨折しやすくなり、また関節炎も起こりやすくなる。
・バランス能力が低下して、転倒しやすくなる。
・筋力、持久力、敏捷性が低下して、歩行は前傾、すり足、歩幅縮小、歩行の速度が低下する。
また、心理的側面を見てみると、
・頑固になり、保守的傾向が強くなることがある。
・人に対して厳しくなり、疑いの感情を抱きやすくなることがある。
・死に対する不安から、自身の健康状態への関心が異常に高まることがある。
・認知症を発症すると、記憶障害、見当識障害、理解判断力や実行機能障害などの中核症状といわれるものに加え、周辺症状である抑うつ、妄想・幻覚、暴言・暴力、徘徊、不潔行為、食行動異常など様々な症状が出ることがある。
一般社団法人QOLアカデミー協会調べ
認知症患者は今後急速に増加すると予測されており、ご家族が発症する可能性も少なくありません。認知症については前回でもお伝えしたとおり、症状が多岐にわたり、ここで全てを説明することはできません。ご自身で確認しておきましょう。
●介護とお金について
あなたは、介護にどれくらいのお金がかかるか知っていますか? 介護にかかる費用は、在宅介護か施設介護か、また介護度や介護を受ける本人の所得によって大きく異なります。
在宅介護の場合、自己負担の費用は平均すると月約4~5万円ですが、本人の所得によってはこの2~3倍になることもあります。
一方、施設介護は、介護にあたる家族の肉体的・精神的負担を軽くすることができます。しかし、経済的負担は大きくなり、月に10~35万円と高額の介護費用を覚悟しなければなりません。また、施設介護は施設の種類によって負担額が大きく変わります。ケアマネージャーとよく相談し、ケアプランを決めてください。
例えば、要介護2の場合、在宅介護でも、年間50~60万円、要介護5となると、年間90万円は必要です。また、施設介護では、「特別養護老人ホーム」の場合、年間約120~150万円、有料老人ホームの場合、年間約200~400万円は必要となります*1。
介護期間は平均で約5年ほどですが、7人に1人は10年以上ともいわれています*2。あなたのご両親や配偶者が10年以上施設で介護を受けることになったら経済的に可能なのかなど、一度シミュレーションしてみることをおすすめします。
このように、家族の介護にかかる費用はケースバイケースで大きく異なりますが、介護費用は介護を受ける本人が負担するのが原則です。
可能な範囲で本人に、預貯金・有価証券・不動産、公的年金・個人年金などの有無や、銀行口座や通帳・カード、印鑑の保管場所などを確認しておくことも大切です。また、債務がある親はそれを隠そうとする傾向があります。注意深く確認してください。
●最幸のエンディングに向けて
多くの人が介護は、苦しく辛いと考えています。
家族の介護は誰もが経験する可能性がある一方で、日本では介護に関する知識や技術、心構えについて学ぶ機会がないことが要因です。
介護を開始した時に何の予備知識もないと、闇雲に頑張り続け、その結果疲弊してしまい、「不幸せな介護」に陥ってしまうことがあります。
私が代表を務めるQOLアカデミー協会は、介護の時間を人生の幸せな一コマに昇華させることを目指し活動しています。私たちの目的は、「介護を悲劇ではなく、親が命を懸けて体験させてくれたギフトだった」と感じられるようになっていただくことです。介護がポジティブな体験となり、その時間が家族や介護者にとって意味深いものとなるよう、知識や心構えを提供し、サポートしています。
・介護が始まる前に知っておくべきこと
・準備しておくべきこと
・親に聞いておくべきこと
・介護が始まった時の対処法
・心の持ち方や本当の親孝行
これらを学び、介護の準備や実際のケアにおいて有益な情報やスキルを身につけ、実践することで、人生全体の質を向上させることができると考えています。
我々は、介護に携わった人が後悔のない最幸のエンディングライフを迎えるために、必要なサポートを提供し、その実現を願っています。
これまで4回にわたり、幸せな介護についてお伝えしてきました。皆様のキャリアや大切な人生にお役立ていただければ幸いです。
*1介護費用に関しては、一般社団法人QOLアカデミー協会調べ
*2 生命保険文化センターの調べによると介護期間は平均5年1か月
【筆者プロフィール】
矢野 憲彦(やの・のりひこ)
株式会社 QOLアシスト 代表取締役
一般社団法人 QOLアカデミー協会 代表理事
関西学院大学卒業。東京の健康医学の研究所にて自然治癒力の研究と教育に専念。
東京大学大学院医学系研究科に研究生として通い、健康講座を全国で1,400回以上開催、健康人生相談は5,000件以上実施。
2010年独立後、介護の学校を立ち上げ1,800名以上の介護職員を養成。シニアとその家族の人生の質(QOL)を高めることを使命に活動中。
現在、高齢の親が家族に迷惑をかけず、悔いのない人生を送るために、認知症予防や自己肯定感向上をサポートし、見守りと親孝行ができる「わた史書・回想サービス」を展開中。
上級心理カウンセラー、介護離職防止対策アドバイザー®、心療回想士、ヘッドリンパセラピスト、JADP認定メンタル心理カウンセラー®、1級フードアナリスト®などの資格取得。
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- 2023/12/15
- お知らせ 多くの中高年会社員が避けては通れない介護問題を考える(3)
介護離職を防ぐ職場の支援
介護職員の育成と介護問題の解決に取り組む、矢野憲彦氏のコラム。
3回目の今回は、介護離職のデメリットと介護離職を防ぐための仕組みや取り組みについてお話をいただきます。
●介護離職のデメリット
前回のメールマガジンでは家族介護の現実についてお話ししました。
介護の知識や準備、制度を理解していないと、介護は精神的にも肉体的にも苦しくつらいものになってしまいます。毎年約10万人が介護離職をしています。また、介護と仕事の両立がつらく、仕事を辞めたら楽になるだろうという考えは大きな誤りです。安易に離職してしまうと、個人的には以下のような問題が生じます。
・収入が減少し、生活水準が低下する。
・キャリアやスキルが停滞し、再就職が困難になる。
・仕事と介護のバランスが崩れることで、心身の健康が損なわれる。
・介護をする人、介護を受ける人双方の生活の質(QOL)が低下し、家族との関係が悪くなる。
また、企業や組織においても、労働力や生産性が減少し、競争力やイノベーション力が低下してしまうかもしれません。
これらの問題は、今後ますます深刻化する可能性がありますし、コロナ禍で在宅勤務やテレワークが普及したことで、仕事と介護の境界線が曖昧になり、家族介護を担う方の負担が増加している例は少なくありません。
安易な介護離職のデメリットについてはおわかりいただけたでしょうか。ここからは、介護離職を防ぐための対策についてお話しいたします。
●介護離職を防ぐために
◆介護保険制度の理解と活用
40歳以上の方は、毎月給与から介護保険料が引去りされています。介護保険制度とは、高齢者や障がい者が自立した生活を送るために必要な介護サービスを受けられるようにする制度です。
介護保険制度を利用するには、まず介護認定を受ける必要があります。介護認定とは、介護保険の給付対象となるか否か、介護の必要度を判定することです。
認定調査員が自宅や施設などで面接や身体機能の測定を行い、その結果をもとに専門家の会議で介護の必要性と要介護度が判定されます。
介護認定の結果は、要支援1・2や要介護1~5の7段階に分類され、段階に応じて介護者(家族など)とケアマネージャーが相談しながらケアプランを作成します。
サービスには在宅サービスや施設で生活する入所サービスなどがあるので、これらを上手に活用しながら仕事との両立を目指しましょう。
◆介護と仕事の両立支援制度
1.介護休業制度
社員が要介護状態にある対象家族を介護するための休業で、 休業期間中に、仕事と介護を両立できる体制を整えることが大切です。
・対象家族:配偶者(事実婚を含む)、父母、子※1、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫。
・対象労働者※2:対象家族を介護する男女の労働者(日々雇用を除く)。
・休業期間:対象家族1人につき3回まで、通算93日まで休業できます。
・休業給付金:雇用保険の被保険者で、一定の要件を満たす方は、介護休業期間中に休業開始時賃金月額の67%の介護休業給付金が支給されます。
2.短時間勤務制度※3
社員が要介護状態にある対象家族を介護するための所定労働時間の短縮等の措置のことです。
・対象家族:配偶者 (事実婚を含む) 、父母、子※1、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫。
・対象労働者:対象家族を介護する男女の労働者(日々雇用を除く)。
・勤務時間:通常の勤務時間よりも短い時間で働くことができます
(週30時間の勤務などが一般的です)。
・給与:勤務時間に応じた給与が支給されます
(週30時間勤務なら、週40時間勤務と比べて給与は7割程度になります)。
・制度の活用方法:社員と会社が相談し、適切な短時間勤務のスケジュールを決定します。
3.介護休暇制度※4
社員が要介護状態にある対象家族を介護するための休暇で、年次有給休暇とは別に取得できます。
・対象家族:配偶者(事実婚を含む)、父母、子※1、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫。
・対象労働者※5:対象家族を介護する男女の労働者(日々雇用を除く)。
・休暇期間:対象家族1人につき年5日(対象家族が2人以上の場合は年10日)まで、1日単位、時間単位での取得ができ、対象家族の病院の付き添いや施設への送迎などに利用することができます。
休暇給付金:介護休業給付金とは異なり、介護休暇には給付金の制度はありません。
これらの介護制度やサービスを活用し、決して一人で介護を抱え込まないようにしましょう。
※1介護関係の「子」の範囲は、法律上の親子関係がある子(養子含む)のみ。
※2労使協定を締結している場合に対象外となる労働者もいます(入社1年未満の労働者、申し出の日から93日以内に雇用期間が終了する労働者、1週間の所定労働日数が2日以下の労働者)。
※3短時間勤務等の措置は、会社によって利用できる制度が異なります。
※4有給か無給かは、会社の規定によります。
※5労使協定を締結している場合に対象外となる労働者もいます(入社6か月未満の労働者、1週間の所定労働日数が2日以下の労働者)。
◆職場で支える家族の介護
1.介護について相談しやすい職場づくり
介護に直面したときに同僚、上司、人事担当者などに相談しやすい環境づくりのためには、誰もが介護に直面する可能性があることを知り、日頃から情報の共有と介護に関する基本知識を持っていることが大切です。
2.介護に直面しても活躍し続けられる職場づくり
介護に直面すると残業ができなかったり、急な休暇をとるなどの可能性があります。チームワークと柔軟で多様な働き方で成果を出し続けられる職場づくりが重要です。日本の超高齢社会では、家族介護は大きな課題です。家族の介護と仕事が両立できるようになれば、社会全体がより豊かで活力あるものになり、家族のQOLも向上することになります。
以上、介護離職を防ぐための考え方や制度の活用について少しだけお話ししました。
次回の最終回では、介護を苦しみではなく、介護を経験することによって人生をより充実したものにする「幸せな介護」の進め方についてお話しします。
【筆者プロフィール】
矢野 憲彦(やの・のりひこ)
株式会社 QOLアシスト 代表取締役
一般社団法人 QOLアカデミー協会 代表理事
関西学院大学卒業。東京の健康医学の研究所にて自然治癒力の研究と教育に専念。
東京大学大学院医学系研究科に研究生として通い、健康講座を全国で1,400回以上開催、健康人生相談は5,000件以上実施。
2010年独立後、介護の学校を立ち上げ1,800名以上の介護職員を養成。シニアとその家族の人生の質(QOL)を高めることを使命に活動中。
現在、高齢の親が家族に迷惑をかけず、悔いのない人生を送るために、認知症予防や自己肯定感向上をサポートし、見守りと親孝行ができる「わた史書・回想サービス」を展開中。
上級心理カウンセラー、介護離職防止対策アドバイザー®、心療回想士、ヘッドリンパセラピスト、JADP認定メンタル心理カウンセラー®、1級フードアナリスト®などの資格取得。
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- 2023/12/12
- お知らせ 多くの中高年会社員が避けては通れない介護問題を考える (2)
家族の介護は突然やってくる!
介護問題に取り組む、「一般社団法人QOLアカデミー協会」「株式会社QOLアシスト」の代表 矢野憲彦氏からビジネスパーソンが理解すべき介護問題についてお話をいただきます。今回は、突然はじまる介護の時、介護者に何が起こるのかをご説明いただきます。
◆家族介護の現状と苦悩
前回のメールマガジンでもお伝えしたとおり、我が国の高齢化は急速に進んでいます。それに伴い、今後は介護を必要とする方が急速に増えることが予想されます。
もし明日、ご家族が突然倒れ、あなたが介護を担うことになったとしたら、あなたの人生、仕事、家庭、収入、健康、未来はどうなるのか、考えたことはありますか?
家族介護とは、身近な家族を自宅で介護することをいいます。日本では、高齢者の約8割が自宅で暮らしており、そのうちの約6割は家族介護を受けています。
家族介護は、大切な家族を見守るという意味で素晴らしいことですが、同時に肉体的、精神的、経済的に受ける負担から、ストレスを感じて感情的になってしまう介護者の方もいます。また、仕事と介護を両立させることが難しく、介護者の多くが仕事を辞めるか、減らすことを余儀なくされています。
介護でストレスを感じてしまう主な原因には以下のことがあげられます。
◆一人で抱え込む
相談できる家族や、手伝ってくれる人がいないと、全ての介護を一人で抱え込んでしまい、身体的にも精神的にも過度のストレスを感じます。
◆自分の時間が制限される
家庭環境や要介護者の状態によっては、1日中離れられない状態となり、毎日の生活を要介護者のペースに合わせるために、自由に自分の時間が取れなくなります。
◆疲労や睡眠不足に陥る
身体が不自由な方を介護する場合、車いすやベッドへの移乗や移動により介護者の身体的な負担は大きくなります。また、夜のトイレ介助や徘徊、たんの吸引などで介護者の疲労は慢性的なものとなり、睡眠不足に陥ることも珍しくありません。
◆経済的に不安定になる
自宅での介護には、住居の改修に加え、介護用ベッドや車椅子など、多くの介護用品が必要となることから、支出がかさみます。また、介護者の中には、仕事を時短にするだけでは対応できず、仕事を辞めざるを得ない状況となる場合もあり、介護がはじまると、支出の増加に加え、減収となることも多くあります。
◆「介護うつ」になる
介護者がストレスを溜めすぎると、うつ状態に陥ることもあります。介護うつとは、介護者が身体的、精神的にストレスを溜め込むことが原因となり発症するうつ病。本人や周囲の人も気づきにくく、知らず知らずのうちに症状が進行し、気づいた時には深刻な状態になっていることも多々あります。
この、うつ状態が悪化し、自殺や虐待、介護殺人に発展するケースも毎年のように起こっています。
ここで、本人も周囲も気づきにくい介護うつの症状について少しだけ触れておきます。以下のような症状が2週間以上続くと、介護うつの可能性があります。定期的に確認を行い、変化を感じた場合には医師に相談しましょう。症状 特徴 食欲不振 食欲がわかず、体重の減少や体力の低下につながる 睡眠障がい 疲れているのに眠れない、何度も目が覚めるといった症状が現れる 慢性的な疲労感 疲労が取れず、肩こりや腰痛、頭痛といった不調が続く 無気力、無関心 気分が落ち込み、何事にもやる気や関心が起きなくなる 焦燥感 原因がわからない不安や焦りを感じ、神経質になることがある 自殺願望 介護うつによる思考障がいから、自殺願望が生まれることがある 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター発表のデータを基に筆者作成
◆人生を介護の犠牲にしないために
介護に直面すると、「何をしたらよいのだろう?」「お金はどうしよう?」「いつまで続くのだろう?」といった不安がわいてきます。これまでに介護の経験がない方ならなおさらです。
あなたの人生を介護の犠牲にしないために、そして、幸せな介護を実現するためには、知っておくべき事や、取り組むべき事があります。これらをしっかり理解し、実践することで、介護による不安や苦労、ストレスは、かなり和らぐと思います。
突然の介護に立ち向かうための主なポイントは以下のとおりです。
◆介護の知識と計画
介護は突然やってくることが多いため、事前の準備は不可欠です。
まずは、お住まい地域の「地域包括支援センター」の場所や連絡先を調べましょう。また、介護保険や支援制度などの内容を理解し、有事の際に上手く活用することが大切です。
◆家族や友人のサポートを受ける
単独で介護を行うことはとても困難で、支えが不可欠です。家族や友人と協力し、介護の負担を分散しましょう。近所の方の助けを借りることもできるかも知れません。
◆自分の身体のケアをしっかりと
ご自身の健康と幸福は、介護を成功させるためにも不可欠です。適切な休息を取り、燃え尽き症候群(バーンアウト)を防ぐためにも自身の時間を確保しましょう。介護者の健康こそが、家族の介護を行う時に最も重要となります。
◆介護離職を避ける
家族介護を経験した人なら、その苦労と疲れから「仕事を辞めて介護に専念した方が楽になるのでは」と考えたことがあるかもしれません。しかし、仕事を辞めると経済的にはもちろんのこと、かえって精神的、肉体的な負担を増大させることになります。
家族の介護は突然やってきますが、準備と対策を行うことで乗り越え、幸せな介護を実現することができます。一方、それらを怠っていると、あなたの健康や人生の大きな負担になりかねません。
次回以降のメールマガジンでは、介護による離職を避け、人生をより豊かにするヒントについてお話しいたします。
【筆者プロフィール】
矢野 憲彦(やの・のりひこ)
株式会社 QOLアシスト 代表取締役
一般社団法人 QOLアカデミー協会 代表理事
関西学院大学卒業。東京の健康医学の研究所にて自然治癒力の研究と教育に専念。
東京大学大学院医学系研究科に研究生として通い、健康講座を全国で1,400回以上開催、健康人生相談は5,000件以上実施。
2010年独立後、介護の学校を立ち上げ1,800名以上の介護職員を養成。シニアとその家族の人生の質(QOL)を高めることを使命に活動中。
現在、高齢の親が家族に迷惑をかけず、悔いのない人生を送るために、認知症予防や自己肯定感向上をサポートし、見守りと親孝行ができる「わた史書・回想サービス」を展開中。
上級心理カウンセラー、介護離職防止対策アドバイザー®、心療回想士、ヘッドリンパセラピスト、JADP認定メンタル心理カウンセラー®、1級フードアナリスト®などの資格取得。
◎ 星和ビジネスリンクは、現役世代が定年後の人生を豊かに過ごすための調査研究を行う機関として、「一般社団法人 定年後研究所」を設立しました。
定年後研究所のWebサイトはこちら
◎ 一般社団法人 定年後研究所 お問い合わせフォーム
- 2023/12/08
- お知らせ 多くの中高年会社員が避けては通れない介護問題を考える(1)
働きながら「幸せな介護」を目指す
これから4回にわたり、介護問題に取組む、「一般社団法人QOLアカデミー協会」「株式会社QOLアシスト」の代表 矢野憲彦氏からビジネスパーソンが理解すべき介護問題についてお話をいただきます。
◆人生の質を高めるために
このメールマガジンをお読みになっている皆様の中には、そろそろ家族の介護や将来のことが心配になっている方や、すでに介護の悩みや不安を抱えている方もいるのではないでしょうか。
今は介護の不安はないという方も「辛く、苦しく、悲しい」と考えられがちな介護を恐れて見ないふりをしていらっしゃるのかもしれませんね。
しかし、高齢の親や家族を持つ方であれば、明日にでも介護問題に直面する可能性があります。
この「介護」という人生における大きなイベントが、自分の人生や仕事を犠牲にするものではなく、家族に喜ばれ、満足いくものにできたら素晴らしいと思いませんか?
私が代表を務める一般社団法人QOLアカデミー協会、株式会社QOLアシストでは、シニアとその家族の人生の質(QOL=クオリティーオブライフ)を高めるための活動を行っていますが、このQOLを高めるためには、「介護」という課題を避けて通ることはできません。
このメールマガジンでは、これから4回にわたり介護に関する情報を発信してまいりますが、働く世代の方々に後悔のない人生とQOL向上を実現し、「幸せな介護」を実感いただくヒントとなれば幸いです。
◆日本の超高齢社会の現状と課題について
今、日本が超高齢社会に突入しているということは皆様もご存知のところだと思います。WHOの定義では65歳以上を「高齢者」と定義しています。そして、ある国の65歳以上の人の割合を「高齢化率」として発表しています。
高齢化率が7%を超える社会を「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」としています。
日本ではそれとは別に65歳以上75歳未満の人を前期高齢者、75歳以上の人を後期高齢者と呼んでいます。
日本では1950(昭和25)年頃の高齢者は総人口の5%程度でした。その後1970(昭和45)年は7%、1994(平成6)年は14%を超えています。
そして現在、65歳以上人口は3,627万人で総人口の29.1%を占めています※1。
この高齢化率は、WHOが定義する「超高齢社会」の21%以上の基準を大きく上回っており、他の国と比べても突出して高い水準です。
ちなみに世界の国の高齢化率(2020年)でみてみると、アメリカ16.6%、中国12.0%、フランス20.8%、インド6.6%です※2。
日本の高齢化は今後も進行すると見込まれており、2065(令和47)年には65歳以上人口は総人口(8,808万人)の38.4%で約2.6人に1人、3.9人に1人が75歳以上となる社会が到来すると推計されています※3。
◆少子高齢化の現状と課題
高齢化と共に問題となっているのは「少子化」です。1人の女性が一生涯に平均して出産する子どもの数を示す合計特殊出生率が2.1以上であれば、人口は増加するとされています。
日本では1960年代から1970年代初頭にかけては、おおむね2.0以上という高い水準を維持していました。しかし、1970年代中頃以降、急速に低下し、1.5以下にまで落ち込み、2020年代に入ると約1.3前後で推移しています。2022年には、新型コロナによる影響で、過去最低だった2021年の1.30を0.04ポイント下回り過去最低の1.26を記録し、出生数も前年を4万875人下回る77万747人となり、初めて80万人台を割り込みました※4。
1947年から1949年は第一次ベビーブームで、出生数は急増しました。この3年間に約964万人が生まれ、「団塊の世代」と呼ばれています。2025年にはこの世代が75歳以上の後期高齢者になり、医療や介護などの社会保障費の増大が懸念され、「2025年問題」ともいわれています。
年齢と共に要支援・要介護の認定を受ける人の割合は増えていきます。60代のうちは3%未満にとどまりますが、70代に入ってからどんどん上昇していき、85歳以上では60%まで達してしまいます。また、認知症患者の数も2015年時点では517万人でしたが、2020年では602万人、2025年には675万人に達し、2050年には1,000万人に届く可能性もあります。2040年には高齢者の46.3%、つまり2人に1人が認知症を発症する可能性があるといわれています※5。
要支援・要介護者の増加は介護職員の不足も深刻化させます。厚生労働省は介護職員の数が、2025年度に約32万人、2040年度に約69万人不足すると発表しています※6。
介護職員が不足するということは、皆さんの家族が要介護状態になっても質の良い介護支援を受けることが難しくなるということです。必然的に介護に関して、家族が負担する比重が高くなるということを考慮しておいてください。
以上、私たちの置かれている現状をご理解いただけたでしょうか? 今はまだ実感がない方も多いかもしれませんが、今のうちに準備をしておかないと、介護で苦悩し、体調を崩し、仕事を辞めなければならない事態になるかもしれません。
最悪の事態を避けるために、次回は、家族の介護の現状と介護離職を避ける方法についてお伝えしたいと思います。
※1 総務省 統計トピックスNo.132「統計からみた我が国の高齢者」
※2 内閣府「令和4年版高齢社会白書 全体版」
※3 内閣府「令和4年版高齢社会白書 全体版」
※4 厚生労働省「令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
※5 ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート2023-07-25「令和 5 年全国将来推計人口値を用いた全国認知症推計(全国版)」
※6 厚生労働省 社会・援護局「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
【筆者プロフィール】
矢野 憲彦(やの・のりひこ)
株式会社 QOLアシスト 代表取締役
一般社団法人 QOLアカデミー協会 代表理事
関西学院大学卒業。東京の健康医学の研究所にて自然治癒力の研究と教育に専念。
東京大学大学院医学系研究科の研究生として通い、健康講座を全国で1,400回以上開催、健康人生相談は5,000件以上実施。
2010年独立後、介護の学校を立ち上げ1,800名以上の介護職員を養成。シニアとその家族の人生の質(QOL)を高めることを使命に活動中。
現在、高齢の親が家族に迷惑をかけず、悔いのない人生を送るために、認知症予防や自己肯定感向上をサポートし、見守りと親孝行ができる「わた史書・回想サービス」を展開中。
上級心理カウンセラー、介護離職防止対策アドバイザー、心療回想士、ヘッドリンパセラピスト、メンタル心理カウンセラー、1級フードアナリスト
などの資格取得。
◎ 星和ビジネスリンクは、現役世代が定年後の人生を豊かに過ごすための調査研究を行う機関として、「一般社団法人 定年後研究所」を設立しました。
定年後研究所のWebサイトはこちら
◎ 一般社団法人 定年後研究所 お問い合わせフォーム
- 2023/12/01
- お知らせ 活躍の場を提供する「産業雇用安定センター」 (3)
「人材育成型出向等支援」と「ビジネス人材雇用型副業情報提供事業」の活用
公益財団法人産業雇用安定センターの事業を紹介する連載の3回目(最終回)となる今回は、人材育成などを目的とする出向支援と、本年(2023年)10月から開始された雇用型の副業情報提供事業について、同センター業務部長の金田弘幸(かなだ・ひろゆき)氏からご紹介いただきます。
◆人材育成型出向等支援
従来、産業雇用安定センターが取り扱う出向支援は、企業において一時的に雇用過剰となった人材の雇用調整を目的とした在籍型出向を対象としていました。今回の連載1回目(10月25日配信)で紹介した新型コロナ禍での在籍型出向がその典型的な例です。
一方、出向という我が国特有の人事・労務管理の形態には、雇用調整を目的とするものとは別に、ポジティブな可能性を持つものがあることがセンターによる出向支援の成立事例から見受けられるようになりました。例えば、従業員の能力開発やキャリアアップなどを目的とする出向へのニーズです。センターではこのような事例を「人材育成型出向等支援」として取り組んでいます。
この「人材育成型出向等支援」は次の2つに大別されます。
◆1.人材育成型出向等支援(1)(人材育成・交流型出向)
従業員の能力開発や人材育成、特に高度人材の育成により企業力の強化を図る場合や、人材交流を目的とした取り組みにより、企業間の連携強化、新分野への展開のための基盤整備、組織の活性化等を図ることを目的とする出向をいいます。出向後は、元の企業に復帰します。
◆2.人材育成型出向等支援(2)(キャリア・ステップアップ型出向)
従業員自らのキャリア・ステップアップへの主体的な挑戦、自身のキャリアパスやライフプランに合わせた職域拡大、UIJターン等を企業が後押しする出向をいいます。出向後は、元の企業に復帰または出向先に移籍します。
◆ビジネス人材雇用型副業情報提供事業
グローバル化の加速や少子高齢化の進展などにより、近年、日本の終身雇用を前提とした年功序列や職能型の雇用慣行は、大きく様変わりしました。それに伴い、従業員個人の自律的な複線型のキャリア選択や、ライフステージに応じた多様な働き方へのニーズが高まっています。企業も従業員の「副業・兼業」を後押しすることで、従業員の新たなスキルの獲得を核とした新分野展開や企業へのエンゲージメント向上などを期待する傾向もみられるようになってきました。
センターでは、本年6月から7月にかけて約7,600社に対して「副業・兼業」に関するアンケートを実施しました。回答企業1,054社のうち、従業員の「副業・兼業」を認める企業は、予定も含めて約5割であることが明らかとなりました。
アンケート結果の概要はセンターHPに掲載しています。
このアンケート結果を受けて、センターでは「ビジネス人材雇用型副業情報提供事業」を本年10月から東京、大阪、愛知でスタートしました。
「副業・兼業」には、他社から業務を受託して行う形態と、他社に雇用される形態の副業があります。センターが出向・移籍など雇用面での業務に長く取り組んできた特性を活かすことにより、雇用型による副業を希望する人材の情報を、副業を受け入れたい企業に対して提供します。
具体的には、企業在職者で他の企業に雇用される形態の副業を希望する方(ビジネス人材)にセンターのHPを通じて登録していただきます。そのうえで、人材の受け入れを希望する企業の情報を登録者に提供し、両者での労働時間や賃金などを話し合う面談の場を設定します。両者が納得し合意した場合、労働契約を締結していただき雇用型副業が始まるという流れになります。
従業員が他社に雇用される形態の副業を在職中の企業が後押しする場合、適切な労働時間や健康管理という点に不安を抱くこともあるかもしれません。このようなことについては、企業が従業員との間で、あらかじめ自社での労働時間と副業先企業での労働時間を明確に決めておくことで不安の解消に繋がります。また、柔軟な雇用は、人材の定着や多様な人材に選ばれる企業となる可能性が高まるなどのメリットもあります。この機会に従業員に対してセンターの「ビジネス人材雇用型副業情報提供事業」をご紹介いただければ幸いです。
「ビジネス人材雇用型副業情報提供事業」のWebサイト
◆おわりに
これまで3回にわたって産業雇用安定センターの事業、(1)雇用調整の「出向・移籍支援」、(2)60歳以上の求職者のための「キャリア人材バンク」、(3)「人材育成型出向等支援」と(4)「ビジネス人材雇用型副業情報提供事業」について紹介してきました。これらの事業は企業が負担する雇用保険料を原資として厚生労働省から補助金の交付を受けることにより、無料でサービスを提供していることはこれまでお伝えしてきたとおりです。
企業の皆様には、センターの事業にご関心やニーズがある場合には、センターHPをご覧になっていただくとともに、全国47のセンター地方事務所にご連絡いただければ、センターのサービスについてご案内に上がります。
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- 2023/11/16
- お知らせ 活躍の場を提供する「産業雇用安定センター」 (2)
シニアのキャリアチェンジを支援する「キャリア人材バンク」
前回は、「産業雇用安定センター」が企業に提供する出向・移籍支援についてご紹介いただきました。今回は、高齢者の再就職をサポートする「キャリア人材バンク」についてお話しいただきます。
産業雇用安定センターでは、60歳以上の方が自らの職業経験や資格などを活かして、「生涯現役」としてご活躍いただくための「キャリア人材バンク」を全国47のセンター地方事務所で展開しており、無料でご利用いただけます。
近年、多くの企業が人手不足に直面しています。厚生労働省が今年7月に発表した来春の高校卒業予定者に関する求人・求職状況では、求人が前年同期に比べて10.7%増となっている一方で、就職を希望する高校生は5.5%減となっています。企業がフレッシュな人材を採用し、中長期的に人材育成をすることで成長・発展していくことは重要です。しかし、今後も日本全体で労働力人口が減少する中、限られた年齢層に期待することは難しい環境にあります。そして、この傾向は今後一層強まることは明らかです。
このため、我が国が持続的に成長するには、DXなどによる生産性向上を進めるとともに、高齢者や障がい者をはじめとする多様な人材にも社会で活躍してもらえるよう環境整備を進めることが重要です。
産業雇用安定センターのキャリア人材バンクでは、60歳以上で再就職を希望する方と、人材確保に苦慮している企業との間でのマッチングを行っています。そして、近年その再就職の実績が大きく増加しています。(図1)
キャリア人材バンクへの登録は、企業に在職する60歳以上の方、または60歳以上で企業を退職後1年以内の方が対象です。
例えば、
〇 定年年齢に達する従業員が、再雇用制度を利用せずに退職する場合
〇 再雇用期間が65歳で満了となる従業員が退職する場合
〇 再雇用されている高齢の従業員が退職する場合
などが該当します。
このように、就労を希望される60歳以上の方が企業を退職される場合には、人事ご担当者様からキャリア人材バンクへの登録を勧めてください。退職する方がキャリア人材バンクに関心がある場合には、人事ご担当者様または、退職される方から直接センター地方事務所にご一報いただければ、具体的な説明と登録のご案内をいたします。
また、既に企業を退職した方でも、退職後1年以内であれば、キャリア人材バンクをご利用いただけます。
高齢者の場合、若い頃に就職活動をして以来、キャリアシートの作成や採用面接などの経験は少なく、それを負担と感じて再就職に向けた一歩を踏み出すことを躊躇してしまう傾向があります。
センターでは登録した方の経験や希望をうかがいながら、求人企業のニーズを踏まえて、キャリアシートの作成や面接のシミュレーションなどのサポートを行います。
しかしながら、就業希望の方がいても、求人企業の中に希望する業種、職種がないこともあります。仮に求人があって、応募の条件が年齢不問となっていても、実際には若い方の採用を意図している企業も少なくありません。
このような場合には、センターのコンサルタントが焦点を絞って新たな求人企業を開拓します。同時に、求人企業に対して登録者の方の経験、能力や資格だけでなく人柄なども粘り強く説明することで、「そんなに言うのなら一度会うだけ会ってみようか」という言葉が得られることも少なくありません。そうなると、採用の確率はぐんと上がります。
センターのコンサルタントは、企業において人事・労務や営業の管理職、技術部門の責任者としての豊富な経験を有するシニア世代が多く、再就職に向けた相談はもちろん、家族のこと、老親の介護、実家のことなど同世代としての悩みにも共感しつつ、マンツーマンで丁寧なサポートにあたっています。
このようなきめ細かいサポートの結果、2022年度においては約3,000人の方の再就職が実現しています。そのうち登録後3か月以内に再就職した方は約4割、6か月以内に再就職した方は全体の約6割に上っています。
長年にわたって企業に貢献してこられた方には、退職後も健康でそれまで培った経験を活かして社会の中で長く活き活きと活躍していただきたいものです。一度、「マンガでわかる キャリア人材バンク」(図2)をお読みいただき、企業の人事ご担当者様や退職する方にキャリア人材バンクをご利用いただきたいと思います。
PDF「マンガでわかるキャリア人材バンク」はこちら
※二次元バーコードからアクセスしていただくと、動画版(YouTube)「マンガでわかるキャリア人材バンク」をご覧いただけます。
連載3回目となる次回は、従業員の人材育成や企業間の交流のための出向のほか、この10月からスタートした雇用型の副業情報提供事業についてご紹介いたします。
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- 2023/11/02
- お知らせ 活躍の場を提供する「産業雇用安定センター」 (1)
産業雇用安定センターをご存知ですか
星和HRインフォメーションでは、本号から3回にわたり「失業なき労働移動」を支援する専門機関として設立され、35年以上の歴史を持つ「公益財団法人産業雇用安定センター」について、同センターの業務部長である金田弘幸(かなだ・ひろゆき)氏よりお話をいただきます。
◆はじめに
このメールマガジンをお読みの皆様は、「産業雇用安定センター」をご存じでしょうか?
産業雇用安定センターは、1987年に当時の労働省、日経連のほか、様々な産業団体のご協力により公益財団法人として設立されました。以来、多くの企業の出向・移籍の支援を行い、これまでに約25万人の出向・移籍のあっせんを成立させてきました。
センターは、企業が雇用調整を行う際の在籍型出向支援や移籍支援のほか、高齢者の再就職支援のためのキャリア人材バンクや、企業間で人材育成・交流等を行う場合の出向・副業に関する支援にも取り組んでいます。
これらの事業は、企業が負担する雇用保険料の一部を財源として厚生労働省から補助金の交付を受けて無料で実施しています。ですから、企業の皆様が支援を必要とする場合には、是非当センターの事業をご活用いただきたいと考えています。
このメールマガジンでは、センターが行う事業が企業にどのように役立つのか、その具体的な支援の対象者や支援のプロセスについてご紹介いたします。
◆産業雇用安定センターの出向支援
我が国における在籍型出向は、主に大企業の人事慣行のひとつとしてグループ内企業や取引先企業に出向させる形で定着していました。しかし、経済環境の変化によって一時的に高水準の雇用過剰の状態となった時には、グループ内企業で吸収することは困難になります。従業員の雇用を維持するためには、グループ内企業や取引先企業にとどまらず、グループ外の企業への出向も必要となります。センターが設立された当時は、急激な円高が進行し、重厚長大系の輸出産業を中心に高水準の雇用過剰の状態にあったことから、雇用を維持するための在籍型出向支援を行う専門機関として当センターが設立されました。
その後、バブル経済の崩壊を経て製造業を中心とする多くの大企業では、人員過剰となった従業員の雇用を維持せず、早期退職募集を行う傾向が顕著になりました。結果、センターが取り扱う出向事案は減少する一方、退職を余儀なくされる従業員の再就職=移籍の支援にセンター事業の軸足が移ることとなります。
2010年代の後半になると、アベノミクスによる経済効果などにより多くの企業の生産活動は活発となり、一時的な雇用調整のための出向は更に減少しましたが、2020年以降、新型コロナウィルス感染症の影響が拡大するにつれて、航空業・鉄道業や旅行業、宿泊業、娯楽業、外食チェーンなどの多岐にわたる業種で経済活動が停滞することとなりました。 一方で外出抑制に伴い小売業や食料品製造業などが活況となり、自動車部品や機械器具などの一部の製造業の生産活動も高い水準で推移していました。このような背景から、雇用過剰となった企業から雇用が不足する異業種の企業への在籍型出向のニーズが高まり、センターが支援する出向のあっせん実績は大きく伸びることとなったのです。
また、コロナ禍では大きな影響を受けた中小企業が、雇用を維持するために一時的に従業員を出向させるケースも増加しました。多くの中小企業は、コロナ禍前でも必要な人員が確保できず苦慮していたことから、従業員を一度解雇してしまうと、新たに従業員を雇用するのが難しいことは明らかであり、今の従業員の雇用を何とかして守りたいという意図が大きく作用したものと考えられます。
センターとしては、企業規模や業種にかかわりなく、出向として送り出す企業に対して出向を受け入れていただく企業をあっせんすることにより、双方の企業の人材ニーズに応えています。
◆産業雇用安定センターの移籍支援
離職を余儀なくされる従業員の再就職支援については、企業からセンターにご依頼いただくと、センターは在職中から支援に着手し、離職後も1年にわたって再就職支援を行います。よくハローワークとセンターの再就職支援の違いについて質問を受けますが、ハローワークは、失業された方や求職活動を行う方などが広く利用できます。一方、センターの場合は、まず企業からの支援依頼が前提で、その後個々の従業員に対して在職中から再就職支援を行うという点が異なります。
離職を余儀なくされる従業員の方は、家族のことや将来の生活設計に大きな不安を抱えることとなります。在職中の早い段階から再就職活動を行うことにより、新たな職場が決まることで、従業員の不安も大きく軽減することとなります。
ところで、企業が成長発展を続けるためには、構造改革は避けて通れないことは言うまでもありません。企業が自らの新陳代謝を進める上で、経営資源の重点化や、それに伴う人員構成を是正するために、主に40歳代以上の従業員に対して早期退職募集を行う場合が少なくありません。近年、経営状態に問題がない企業であっても、将来を見越して従業員の年齢構成の是正のための所謂「黒字リストラ」を行う企業も増えてきました。
企業が早期退職募集を行う場合、割増退職金を特別損失として計上するとともに再就職支援会社に従業員のセカンドキャリア支援を依頼するための費用も負担するのが一般的です。また、有料の再就職会社の利用と並行して、センターにも再就職支援の依頼のご連絡をいただければ、センターは無料で在職中からの再就職支援を行うとともに、場合によっては再就職支援会社とも協力しながら支援を進めます。
これまで長く企業に貢献してこられた大切な従業員の方々に次のステップに進んでいただくためのツールのひとつとして、全国47都道府県にあるセンターを活用していただければと考えています。
次回は、高齢者のための「キャリア人材バンク」についてご紹介いたします。
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- 2023/10/26
- お知らせ 定年後研究所 News Letter #4
今期4回目の配信となる、定年後研究所News Letterは、定年前後期のキャリアチェンジに失敗するひとの特徴を池口所長に考察していただきました。
大企業の中高年社員で「キャリアチェンジ」に失敗するひととは
最近、企業の人事担当者から、立て続けに類似のご相談をいただいた。
いわく、
「50代を対象に希望者制のキャリア研修を企画したが、手をあげる社員が少ない」
「再雇用以降のキャリア開発を促しても、自分の将来キャリアと向き合おうとしない」
「自身のキャリアと向き合うためにロールモデルを示したい」
「多様なキャリアを歩み、50~60代以降もイキイキと活躍を続ける社外のロールモデルに講演をお願いしたい」
「キャリアチェンジの成功例だけでなく失敗例も転ばぬ先の杖として示したい」
おおよそ、このような具合である。
成功例のロールモデルについては、これまでにも定年後研究所で数多くの取材を実施し、当ニュースレター(2023.5.10号)や、拙書『定年NEXT』(廣済堂出版刊2022.4.27)でも紹介してきた。一概には言えないが、役職定年や再雇用への移行、早期退職勧奨などのキャリア上の転機や心の内面の葛藤を乗り越えてきたひとが、働く意味合いを見つめ直し、自分が提供できる付加価値や強みを言語化していく紆余曲折のプロセスを踏むことで、ようやく、新しい環境や異なったフィールドで必要とされる喜びを感じられるようになる。結果65歳以降もやりがいを持って仕事を続けている。というのが最大公約数的なシナリオと言える。
一方、失敗例のロールモデルについては、取材対象を見つける困難性や、仮に見つけたとしても本心を語ってもらえない現実があり、小生も課題意識はあるもののインタビューはできていない。そこで、過去の先行研究を紐解いていくと、格好の書籍に出会うことができた。
『~成功・失敗100事例の要因研究から学ぶ~中高年再就職事例研究』(中馬宏之監修・キャプラン研究会編:東洋経済新報社 2003)。本書は、大手企業の中高年社員を対象に中小・新興企業への転職を促進するとの文脈の中で、当時のキャプラン研究会メンバー企業が、中高年社員のセカンドキャリアの成功を願って、各社で発生した成功例・失敗例を持ち寄り、その要因分析と普遍化にチャレンジした貴重な財産と言える。
成功要因は紙面の関係で割愛するが、失敗要因も紹介している。本書では失敗要因を「キャリア要因」「人物要因」「意識改革要因」「受入会社要因」「(元)所属会社要因」に分類している。
キャリア要因では、「自分の役割や職責の理解が不十分」「仕事の進め方の違いに馴染めない」「問題指摘が先行し、不評を買う」など、新しい職場に馴染むための本人の努力不足がうかがえる。
人物要因では、「プライドばかり高く、謙虚さに欠ける」「心を開かない(逆に、心を開きすぎる)」「協調性・柔軟性に欠ける」など、そもそもの社会人としての基本姿勢に疑問符を付けざるを得ないものが挙げられている。
意識改革要因では、「中小企業の現実が理解できない」「古巣との比較ばかりする」「プロパー社員との人間関係作りが不十分」など、意識の切替えができていない様子が見えてくる。
また、本人の要因だけでなく、「求人姿勢がお手並み拝見的」「過剰な期待がある」「経営トップの個性が強い」などの受入会社に起因することや、「キャリアの棚卸が不十分」「事前教育不足(中小企業の特質など)」「人材の無理なはめ込み」などの(元)所属会社による要因も挙げられている。
この本を読み進める中で感じたことは、これらの要因は、同じ会社内での人事異動での失敗要因と内容が酷似しているということ。例えば、本社の中枢組織から現場への異動に際して、「エリート意識が満々」「腰掛け意識が見え見え」の着任挨拶でいきなりひんしゅくを買うケースは、多くの読者にとっても既視感のある光景ではないだろうか。
人事異動とキャリアチェンジが異なるのは、前者は同じ会社の中での失敗であれば、上司や人事部によるサポートや配属替えで修復も可能であること。しかし、中高年社員が人生をかけたキャリアチェンジで同じ失敗をすると取り返しがつかないことに発展するケースもあるだろう。
冒頭で紹介したように、最近、セカンドキャリア形成も視野に入れた中高年のキャリア研修や面談に本腰を入れる企業が増えてきていると感じている。それ自体は、定年後研究所も賛成であるし応援したい。
長年の功労者でもある中高年社員活躍とキャリア人生の充実を願われるのであれば、「研修や面談で得て欲しい気づき」を改めて整理し、自己理解作業や老後マネーのシミュレーションだけでなく、ロールモデルの設定や、自分を試し打ちする越境機会なども準備しておくと、本人が自身のキャリアビジョンを描きやすくなることを申し添えておきたいと思う。
【筆者略歴】
池口 武志(いけぐち・たけし)
一般社団法人定年後研究所 理事 所長
1986年 日本生命保険相互会社入社
本部リテール販売部門、人事、営業企画、契約管理、販売最前線等で長く管理職(部長、支社長など)を経験し、多様な職種の人材育成にかかわる。その間、オックスフォード大学 Diplomatic Studies修了。
2016年 研修事業も行う株式会社星和ビジネスリンクに出向
キャリア羅針盤の開発を統括。現在、同社取締役常務執行役員も務める。
2023年3月 桜美林大学大学院老年学修士課程修了
キャリアコンサルタント、消費生活アドバイザー、AFP、日本心理的資本協会理事、シニア社会学会会員
著書に『定年NEXT』(廣済堂新書 2022年4月)、『人生の頂点は定年後』(青春新書インテリジェンス 2022年10月)
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- 2023/10/19
- セミナー情報法政大学大学院 石山恒貴教授集中連載(4)
越境学習をうまく取り入れた企業の実例
前回のメールマガジンでは企業で越境学習を進める場合、社員の心理的ハードルを下げることがポイントになるというお話をしていただきました。今回はその方法を実例とともに紹介していただきます。
越境学習を企業として推進する場合、私がおすすめしているのは、エンファクトリーのような進め方をすることです。エンファクトリーは2011年に設立された会社ですが、この会社がユニークなのは「専業禁止」を明確に打ち出していることです。専業とは所属する会社の本業だけをしている状態で、「専業禁止」とは「副業禁止」の逆。つまり、「みんな副業をしましょう」と会社が呼びかけたわけです。それでも最初は応じる社員は少なかったようですが、会社を挙げてこれを呼びかけた結果、みんな副業をするようになっていきました。
「何かをすることができる」という意識は「自己効力感」と呼ばれています。自己効力感を高めるためには、モデリングが有効とされています。モデリングとは、周りの人がやっているのを見て「あの人ができるなら、自分にもできるかも」と思うことです。エンファクトリーではこれを利用して、「やってみようか」という人を増やしていったようです。
エンファクトリーでは社員やアルムナイ(エンファクトリーを退職した卒業生に当たる存在)、フリーランスの人などが集まる機会を設けました。そこは、すでに副業を通じて「越境」を経験した人がその体験を語り、聞いていた人たちの質問も受けるような会です。
これをやっているうちに、聞いている人たちが「私にもできるかも」と興味を持ち、「よしやってみよう」という人がどんどん出てきたわけです。そうした取り組みの蓄積を生かし、エンファクトリーでは越境学習を支援する事業も行っています。
こうした副業体験、越境体験を語り合うイベントを積極的に行っている企業は増えてきています。自己効力感を高め「私もやってみよう」という気になって越境学習にチャレンジするのと、会社が言っているから「しょうがない、行ってみるか」では、当然ですが得るものが違ってきます。
海外留学制度を使って社外での越境学習をうまくやっている会社もあります。海外留学制度のある会社はたくさんありますが、多くは、海外で会社の業務に必要なことを学びます。ところが、「留学先は自分で選んでいい」「留学先で学ぶことは社業と全く関係なくてもいい」というユニークな海外留学制度を採用している企業もあります。
ただし、自由に留学先を選べる代わりに、部屋探しから銀行口座の開設といった普通なら会社が面倒をみるようなことでも「すべてのことを自分でやってください」ということになっています。
旅行で言えばツアーではなく個人旅行。チケットの手配から現地での宿探し、スケジューリングまですべて自分でやらなければなりません。つまり、すべてがアウェイ体験です。学びの連続で、まさに越境学習の本質を捉えた取り組みではないかと思います。
ここまで、4回にわたって「越境学習」についてお話をしてきましたが、いかがでしたか。10月19日の公開セミナーでは、更に詳しいお話ができると思います。ふるってご参加ください。
皆様にお会いできることを楽しみにしております。
【筆者プロフィール】
石山恒貴(いしやま・のぶたか)
法政大学大学院政策創造研究科 教授
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院修士課程修了、法政大学大学院博士後期課程修了、博士(政策学)。
NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。人材育成学会常任理事、日本女性学習財団理事、産業・組織心理学会理事、人事実践科学会議共同代表、フリーランス協会アドバイザリーボード等。
主な著書 :『定年前と定年後の働き方』光文社、『カゴメの人事改革』(共著)中央経済社、
『越境学習入門』(共著)日本能率協会マネジメントセンター、『日本企業のタレントマネジメント』中央経済社等。
主な受賞: 日本の人事部“HRアワード2022”書籍部門最優秀賞~『越境学習入門』、経営行動科学学会優秀研究賞“JAASアワード2020”『日本企業のタレントマネジメント』、人材育成学会 論文賞(2018)等。
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- 2023/10/11
- セミナー情報法政大学大学院 石山恒貴教授集中連載(3)
企業主導型の越境学習はどうあるべきか
前回は、「越境学習」がミドルシニアにもたらす効果についてお話していただきましたが、
本号では、企業が主導する越境学習の注意点についてご解説をいただきます。
今、企業の人事部などが主導して、越境学習に取り組もうという会社がどんどん増えています。そのときに、少しだけ考えていただきたいと思っていることがあります。それは、企業主導で越境学習の募集をし、応募してきた人を受け入れ先に派遣する、その形だけが越境学習ではない、ということです。
実は、個人で越境学習をしている人たちは意外に多いのです。どういうことかと言えば、私の定義する越境学習は「ホームとアウェイを行き来すること」で、その場合のホームは自分の所属する会社だけを意味しませんし、アウェイとは別の企業だけを指すのではない、ということです。
たとえば、PTAの活動の場とか地域活動のコミュニティに参加している人なら、そういう場は、普段出会えない多様な人々と交流できる場ですから、まさにアウェイの場です。そこで会話をしたり試行錯誤したりすることで新しい価値を発見するという意味で、間違いなく越境学習なのです。
企業主導で越境学習を推進しようとするとき、よく言われる積極的で意欲もある人たちは放っておいても越境学習をするが、多くの人たちはきっかけを与えないと越境学習への意欲も薄い。だからこの人たちは強く背中を押さないと越境学習をしない、と考えがちだと思います。
しかし、さまざまな企業の社員に越境学習について語り合ってもらうと、意外に多くの皆さんが個人的に越境学習に参加していることがわかります。家庭でも職場でもない「サードプレイス」への参加、これも越境学習の一つだと私は思っていますが、そもそも個別の地域活動が越境学習の場だと考えている企業は少ないですし、そうした個々の活動まで把握しているはずもありません。
しかし、先述のように、実は個人主導であっても企業主導であっても、ホームとアウェイを行き来するという越境学習であることに変わりはありません。ですから、企業は越境学習を少し広い意味で捉え、社員がさまざまなコミュニティに参加することを奨励するような企業風土、企業文化を、まず先頭の方たちが率先してつくっていただきたい。私は、越境学習の募集をすることの前に、これを実践してもらえたらと思っています。
たとえば、ある中小企業の社長は、自らコミュニティに出かけて行って、刺激を受けた体験を社員にどんどん話すようにしています。すると、興味を持った社員が出てきます。そこから「私もやってみたいな」「今度連れていってください」といった流れになり、会社全体にそうした空気が広がっていく。こうなれば、人事部が越境学習の募集をすることになったときの反応も違うはずです。
よく、会社で副業解禁をしても、それならと名乗りを上げる人はとても少ないと聞きますが、それは当然のことだと思います。なぜなら、特に大企業のミドルシニアの場合、長年「副業は禁止、本業に集中しなさい」と言われ続けてきたからです。それが染みついていますから「今さら、そう言われても……」と躊躇してしまうのです。
つまり、ミドルシニアの越境学習を推進しようと思うなら、そうした心理的ハードルを下げる環境づくりをしてからでないと、なかなか難しい面があります。かと言って、人事部などが半ば強制的に越境させると、萎縮した気持ちのまま越境学習に臨むことになってしまう危険性があります。
もう一つは、越境学習の受け入れ先をどこにするか、という問題もあります。ホームでのビジネスに役立つ新しいスキルや情報を獲得してくることを優先すれば、自ずと受け入れ先の候補は絞られてきます。しかし、それよりも社員が自分の働き方や定年後の将来を見つめ、自主的に振る舞う人材になることを優先するなら、必ずしも受け入れ先は、自社と似た業種に携わる企業などでなくてもいいはずです。
むしろ、全く関係ない企業、あるいはプロボノ(自分の知識・スキルを活かしたボランティア活動)など、社会貢献を目的とする団体などに行って、大企業で培った組織運営や管理のノウハウなどを用いてサポートするといったことから始めるのも、一つの方法ではないかと思っています。
次回のメールマガジンでは企業の取り組みについて触れてみたいと思います。
【筆者プロフィール】
石山恒貴(いしやま・のぶたか)
法政大学大学院政策創造研究科 教授
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院修士課程修了、法政大学大学院博士後期課程修了、博士(政策学)。NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。人材育成学会常任理事、日本女性学習財団理事、産業・組織心理学会理事、人事実践科学会議共同代表、フリーランス協会アドバイザリーボード等。
主な著書 :『定年前と定年後の働き方』光文社、『カゴメの人事改革』(共著)中央経済社、『越境学習入門』(共著)日本能率協会マネジメントセンター、『日本企業のタレントマネジメント』中央経済社等。
主な受賞: 日本の人事部“HRアワード2022”書籍部門最優秀賞~『越境学習入門』、“経営行動科学学会優秀研究賞”(JAASアワード2020)『日本企業のタレントマネジメント』、人材育成学会論文賞(2018)等
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- 2023/10/04
- セミナー情報法政大学大学院 石山恒貴教授集中連載(2)
越境学習がミドルシニアにもたらす効果
前回は、ホームとアウェイを行き来する「越境学習」の概念についてお話をいただきました。第2回は、越境学習がミドルシニアにもたらす効果についてお話をしていただきます。
ホームからアウェイに移って起こることを考えてみましょう。
「知らない人ばかりなので人脈を使うことができない(すべて自分でやらなければならない)」「それまで身につけたノウハウやマニュアルが通用しない」「それまでできると思っていたことが意外にできなかったことに気づく」「自分の経歴やスキルが評価されない」……。
さらに言えばアウェイでは、「何のために(目的)、何をやるべきか(ミッション)」から自分で考えなければならない、というケースが少なくありません。上司の指示、部下のサポートといったものがありませんから、失敗も多くなります。しかし、この試行錯誤、失敗の経験こそが貴重な学びにつながります。
ミドルシニアの皆さんの多くは、ホームでは上司の地位にあることでしょう。そこでは自分を成長させ、会社を発展させるための学びが求められるはずですが、会社が大きくなるほどイノベーションを起こすことへの抵抗は大きくなる可能性があり、そのため自分の役割を大過なく果たすことに目を向けがちになります。
ところが、アウェイに出ていくとそうはいきません。まず自分がどういう形でそこの集団に溶け込み、何をすれば集団に貢献できるかを考え、行動しなければ始まりません。それがアウェイでは自然と必要になりますし、それをしなければ楽しくもありません。つまり、アウェイは何をどうするかを主体的に考え、行動する人になることが求められる場です。
誰でも最初は戸惑いがあると思いますが、自分で考え、自分から行動しているうちに、アウェイは否応なく新しい自分、新しい価値観の発見の場となります。その過程で失敗や試行錯誤があるわけですが、ホームに比べてアウェイはそれが許される場であることが多いはずです。
年齢や性別にこだわらず、多様な人たちとフラットに会話をしながら、好奇心にしたがってトライ&エラーを体験できる。こういう体験は、顔見知りが多いホームではなかなか難しいことです。そこに越境学習の意味があるわけですが、越境学習はホームとアウェイを行き来することですから、アウェイでの刺激が新しい価値観をもたらし、より創造的な発想ができると思います。
アウェイからホームに戻ってきたとき、それがホームでのビジネスや働き方に大きな影響を与えてくれることでしょう。越境学習は自分の中の多様性を育み、さまざまな価値観があることに気づかせてくれますから、そのことが、ミドルシニアのキャリア形成にとって最も大きなことだと私は思っています。
ホームだと、地位やプライドが妨げになってなかなか年齢にこだわらないフラットなコミュニケーションを苦手に思うミドルシニアの方もいるのではないかと思います。部下に事務手続きを任せてしまうこともホームだと起こりがちだと思いますが、アウェイに行くと上下関係はありませんから、相手の年齢に関係なく声をかけてわからないことを聞くことも当然必要ですし、何をやるにも自分から主体的に動かなければなりません。
ここで自分が役立つために何をすべきか――。そこから自分で考え、自分でするべきことを生み出していくこと。こうした体験をすれば、ホームに戻ったときに、仕事の仕方、働き方にも変化が生まれるはずです。
ミドルシニアの人たちは、そう遠くはない未来に定年を迎えます。再雇用される人も多いでしょうが、定年後はフリーランスの身になって働きたいという人も少なからずいるはずです。大企業から中小企業へ転身する人もいるでしょう。越境学習の「すべて自分で一から構築していく」ような経験は、今の定年前のビジネスにもちろん活かせるはずですが、それ以上に、定年後にも役立つはずです。
大企業の人が中小企業で働くようになったとき、「ウチの会社ではこうやっていた」「このシステムは遅れている」的な「上から目線」は敬遠されます。その会社の人たちと同じ目線に立ち、その会社の人たちと一緒になって手足を動かそうという気で働かなければうまくいきません。そういう気持ちをもって働くことができたとき、初めて大企業で培った経験やスキルを生かせるようになり、自然に頼りにされる人間になるはずです。それを教えてくれる場が、越境学習なのです。
次号では、企業が背中を押して越境学習の機会を創るとき、どんなことに注意を払うべきかを考えてみようと思います。
【筆者プロフィール】
石山恒貴(いしやま・のぶたか)
法政大学大学院政策創造研究科 教授
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院修士課程修了、法政大学大学院博士後期課程修了、博士(政策学)。NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。人材育成学会常任理事、日本女性学習財団理事、産業・組織心理学会理事、人事実践科学会議共同代表、フリーランス協会アドバイザリーボード等。
主な著書 :『定年前と定年後の働き方』光文社、『カゴメの人事改革』(共著)中央経済社、『越境学習入門』(共著)日本能率協会マネジメントセンター、『日本企業のタレントマネジメント』中央経済社等。
主な受賞: 日本の人事部“HRアワード2022”書籍部門最優秀賞~『越境学習入門』、“経営行動科学学会優秀研究賞”(JAASアワード2020)『日本企業のタレントマネジメント』、人材育成学会論文賞(2018)等
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- 2023/09/27
- セミナー情報法政大学大学院 石山恒貴教授集中連載(1)
ホームとアウェイを行き来するのが「越境学習」
本号より、4回にわたって、パラレルキャリア研究の第一人者で、法政大学大学院政策創造研究科石山恒貴(いしやま・のぶたか)教授より中高年社員の「越境学習」についてお話をいただきます。
◆越境学習」とは?
「越境学習」という言葉は、立教大学経営学部の中原淳教授が著書『経営学習論』のなかで10年ほど前に示され、知られるようになりました。越境学習は平たく言えば、企業の中に留まらないで、どんどん外へ学びに行きましょう、企業や職場の境界を越えて学びましょう、ということを意味していました。
そこから私は定義を広く考え、越境学習の「越境」を、自分の会社から別の企業や組織に行って学ぶという意味だけでなく、もう少し心理的な意味で捉えるようになりました。今、私が考える越境学習は、自分がホームだと思える場所からアウェイだと思える場所に行くこと。つまり、ホームとアウェイの境目を越えて行き来することを「越境」と捉えているわけです。
では、自分がホームと思う場所とは何かということですが、よく知っている人たちで構成され、同じ価値観や考え方を当たり前だと思っている場所。その場が共有する社内用語みたいなものもあって自然に行動できてしまうけれども「刺激があるか?」と問われれば、それは少ないという場所になります。
アウェイはその逆です。価値観も考え方も違う知らない人ばかりがいる場所で、言葉がなかなか通じない。やっていることも自分の会社と全然違うので勝手がわからない。だから、心理的に不安になって居心地は良くないけれど、そういう場で知らない人と会話しながら一から何かをしようとすれば、ホームでは味わえない刺激を受けることができる。そういう場所がアウェイです。
そして、私が考える越境学習は、こうしたホームとアウェイの境界を行ったり来たりすること。その状態を繰り返すことです。そうすると、いくつかの異なる価値観が自分の中に入ってくるので心理的に不安定な状態にもなりますが、「自分が本当にやりたいことは何だったのか」とか「自分はこれからどう在るべきか」というところにたどり着くはずです。越境することで自分がどういう人間で、これからどうやって生きていくべきかを、自然に考えるようになっていく。これが越境学習の意義ではないかと考えています。
ホームではそこで通用している言葉や考え方、仕事の処理の仕方に至るまで、その場の常識、固定観念にしたがっていればうまくいくので、すべてわかった気になりがちです。対して、アウェイではそれが通用しませんから、「誰に聞けばいいんだろう」「何をすればいいんだろう」から始まって、「なるほど、こういうやり方でよかったのか」「こういう方法もあったんだ」といった新しい発見がたくさんあります。それが新しい価値観を生むことになるわけで、越境学習で一番大事なのは、アウェイで何か新しいスキルを身につけることではなく、私は新しい価値観に新鮮な刺激を受けることだと思っています。それが、常識や自分を考え直すきっかけになるからです。
それまでは決まった顔ぶれ、決まった役職や序列の中で仕事をしていた人が、知らない人たちと手探りで距離を縮めていく中で、ホームの世界でまとわりついていた常識の世界が破られ、「ああ、そうだったのか!」という体験が得られる。アウェイはそういうことが起こりやすい場ですからもちろん楽しいし、その後のビジネスだけでなく、人生全般に良い影響が生まれるはずです。
ただし、アウェイに行くと言っても、行きっぱなしでは越境学習とは言えません。「慣れ親しんだ職場から人事異動や出向で別の場所に行くことも越境学習ですよね?」とよく聞かれますが、その場合、新しい職場は最初はアウェイかもしれませんが、ずっとアウェイにいれば、そこはやがてホームになります。ホームからアウェイではなく、ホームからホームに移行したことになるので、一方通行ではないことが重要です。
次号では、越境学習がミドルシニアにもたらす効果についてお話を進めていこうと思います。
【筆者プロフィール】
石山恒貴(いしやま・のぶたか)
法政大学大学院政策創造研究科 教授
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院修士課程修了、法政大学大学院博士後期課程修了、博士(政策学)。NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。人材育成学会常任理事、日本女性学習財団理事、産業・組織心理学会理事、人事実践科学会議共同代表、フリーランス協会アドバイザリーボード等。
主な著書:『定年前と定年後の働き方』光文社、『カゴメの人事改革』(共著)中央経済社、『越境学習入門』(共著)日本能率協会マネジメントセンター、『日本企業のタレントマネジメント』中央経済社等。
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- 2023/09/20
- セミナー情報企業と中高年社員の未来を拓く「越境学習」
星和Career Next 2023#4 第4回公開セミナー
企業と中高年社員の未来を拓く「越境学習」来たる10月19日(木)、本年度4回目となる「星和Career Next」(公開セミナー)を開催します。今回のセミナーでは、パラレルキャリア研究の第一人者で、法政大学大学院政策創造研究科石山恒貴(いしやま・のぶたか)教授をお迎えして、いま、多くの企業から注目されている「越境学習」についてお話をいただきます。
<開催概要>
■主 催:株式会社星和ビジネスリンク
■開催日時:2023年10月19日(木) 13:30~15:20頃
■開催形式:オンライン(Zoom)
■定 員:先着300名
セミナーの詳細・お申込みはこちらから
※お申し込みをいただいた方には、後日視聴のための事前登録のURLをご案内いたします。
※競合他社・同業者からのお申し込みは、視聴をお断りさせていただくことがあります。
【第一部】
[テーマ]
ミドルシニアの越境学習~はじめの一歩の歩みかた~
講師:法政大学大学院政策創造研究科 教授 石山恒貴(いしやま・のぶたか)氏
[講演内容]
近年、「越境学習」に注目が集まっています。これは、日頃自分が身を置いているホームから、非日常のアウェイに身を移して新たな刺激を受け、そこで得た気づきをホームに還元することを目的としています。
今回のセミナーでは、越境学習の本質と効果の他、個人が行う越境学習と企業が実施している好例をお話しいただきます。
講演の視聴申し込みは、弊社Webサイト(申し込み画面)からお願いします。
セミナーの詳細・お申込みはこちらから
10月19日(木)の石山教授ご登壇に合わせて、「星和HRインフォメーション(メールマガジン)」では9月20日(水)から4週にわたって石山教授のコラムをお届けします。
[講師Profile]
石山恒貴(いしやま・のぶたか)
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院修士課程修了、法政大学大学院博士後期課程修了、博士(政策学)。NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。人材育成学会常任理事、日本女性学習財団理事、産業・組織心理学会理事、人事実践科学会議共同代表、フリーランス協会アドバイザリーボード等。
主な著書:『定年前と定年後の働き方』光文社、『カゴメの人事改革』(共著)中央経済社、『越境学習入門』(共著)日本能率協会マネジメントセンター、『日本企業のタレントマネジメント』中央経済社等
主な受賞:日本の人事部「HRアワード2022」書籍部門最優秀賞(『越境学習入門』)、経営行動科学学会優秀研究賞(JAASアワード)(2020)『日本企業のタレントマネジメント』、人材育成学会論文賞(2018)等
【第二部】
[テーマ]
民間企業から社会福祉領域への越境プロジェクト
講師:定年後研究所 所長 池口武志(いけぐち・たけし)氏
[講演内容]
会社員として自らの4回の越境体験で得た教訓や、キャリアチェンジの成功体験者の事例をご紹介させていただきます。そのうえで現在、定年後研究所が支援中の「民間シニア人材の社会福祉法人への越境体験」の取組について、その最前線での試行錯誤を紹介させていただきます。
[講師Profile]
池口武志(いけぐち・たけし)
1986年 日本生命保険相互会社入社
本部リテール販売部門、人事、営業企画、契約管理、販売最前線等で長く管理職(部長、支社長など)を経験し、多様な職種の人材育成にかかわる。その間、オックスフォード大学 Diplomatic Studies修了。
2016年 研修事業も行う星和ビジネスリンクに出向、キャリア羅針盤の開発を統括。現在、同社取締役常務執行役員も務める。
2023年3月 桜美林大学大学院老年学修士課程修了。キャリアコンサルタント、消費生活アドバイザー、AFP、日本心理的資本協会理事、シニア社会学会会員
著書に『定年NEXT』( 廣済堂新書 2022年4月)、『人生の頂点は定年後』(青春新書インテリジェンス 2022年10月)がある。
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- 2023/09/13
- お知らせ 業務委託(個人事業主)制度導入のステップ
業務委託(個人事業主)制度導入のステップ
「“半”個人事業主」というシニアの新しい働き方について、リスタートサポート木村勝事務所 代表 木村勝氏からコラムをお寄せいただいています。最終回は、“半”個人事業主を実際に導入する際の手順と注意点についてです。
業務委託(個人事業主)制度導入のステップについては以下の通りです。
(1)業務委託に関する企業側・シニア側双方の理解
(2)委託業務の内容決定
(3)報酬額の決定
(4)業務委託契約書の作成・締結
(5)業務委託によるサービスの提供開始
特に重要なのは(1)のプロセスになりますので、ここでは (1)を中心に解説したいと思います。
◆〈業務委託に関する企業側・シニア側双方の理解がポイント〉
雇用という働き方が世の中のメインという状況の中で、個人事業主という新たな働き方を実現させていくためには、「個人事業主と労働者の違いは何か」、「雇用契約と業務委託契約の違いは何か」についてまずは企業・シニア双方がしっかり理解していなければなりません。
◆ 〈最大の違いは指揮命令の有無〉
図は、労働契約における会社との関係を表した図です。
この 「指揮命令」 の有無が労働者と個人事業主を分ける最大のポイントです。
個人事業主は、会社と対等の関係で業務委託契約(あるいは請負契約など)を締結して自らのサービスを提供します。会社からの指揮命令は受けません。逆に会社から指揮命令を受けて働くのであれば、それは個人事業主ではなく労働者です。たとえご自身が個人事業主と名乗り業務委託契約を締結していたとしても実態として指揮命令を受けているのであれば、それは労働者になります。
〈今まで当たり前だった勤務管理も対象外〉
労働基準法などの労働法は労働者に適用される法律です。個人事業主は、労働者ではありませんので、労働基準法などの労働法規の適用はされません。
そのため今まで労働者として働いていたときには当たり前だった勤務管理も対象外になります。したがって、時間外(残業)とか休日出勤(休出)という概念は個人事業主にはありませんので、残業手当も休日出勤手当も当然支払われません。個人事業主として働く際には、このあたりの意識転換もしなければなりません。
また、ここでの解説は紙面の関係上省きますが、労働者の場合には意識せずに当然のように加入している社会保険や労働保険についても業務委託では取扱いが変わってきます。
〈委託業務の内容と報酬額の決定〉
続いて、(2)委託業務の内容決定と(3)報酬額の決定についてです。
“半” 個人事業主は、業務委託契約(あるいは請負契約)を会社と締結して仕事をしていくことになりますので、まずは業務委託契約書を作成する必要があります。
業務委託契約書の中で最も重要なポイントは「委託業務の内容」と「報酬額」の設定です。
【委託業務の内容】
“半”個人事業主として仕事をしていくうえで一番重要なことは、「何をするか」 です。業務内容に関しては、想定しうる業務はできる限り洗い出して「見える化」し記載したほうがお互いトラブルになりません。会社としても社員に任せる仕事と個人事業主に任せる仕事が明確になることで洩れダブりもなくなり、効率的な業務運営ができるようになります。
【報酬額の設定】
個人事業主の報酬は、自分の提供するサービスが市場でどれくらいの価値で評価されるか、いわゆる市場原理で決まります。労働者とは異なり、働いた時間に比例して報酬が決まるのではありません。「かけた時間」ではなく「出した成果」を評価して決められるのが個人事業主の報酬の基本です。
しかしながら、“半”個人事業主として最初に契約する報酬水準に関しては、クライアント企業の要求する業務内容・水準や “半”個人事業主側の実力なども異なりますので、市場相場で決めることは難しいのが実状です。
それでは、“半”個人事業主が初めて今まで労働者として勤務していた会社と業務委託契約を結ぶ際の報酬はどのように考えたらよいでしょうか?
“半”個人事業主の報酬額設定の際にベースとなるのが雇用で働いていた(働いた)と想定した場合の“実質”給与です。このベースとなる給与は、給与明細に示されている額面の額だけではありません。会社は、労働者を雇用することによって表面上の給与以外に様々な費用を負担しています。そのような隠れた会社負担分を織り込んだうえで「もしそのまま雇用契約で働いていたら会社としていくら負担するか」をベースにしてそのうえで個別条件を加味して決めていくと双方納得性が高く、合意に至りやすいです。
〈終わりに〉
第1回コラムにてシニア活躍のための多様な選択肢を準備することを提言させていただきました。制度導入にあたっては、こうした新たな働き方が会社・シニア双方にとってメリットがあることをお互いがきちんと理解したうえで行っていくことが成功のポイントになります。
パーソル総合研究所の「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」(2021年5月公表)によるとシニア層の働きぶりが若年社員の転職意向に影響を与えているという結果が出ています。業務委託により個人事業主として働く選択肢は、兼業・副業が当たり前となりつつある若手社員にとっても魅力ある働き方に映ります。
4回にわたるコラムをお読みいただきありがとうございました。今回コラムでご紹介させていただいた “半” 個人事業主というシニアの働き方については、11月下旬に出版予定の拙著にて詳しく解説をしておりますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
【筆者プロフィール】
木村勝(きむら・まさる)
人事インディペンデント・ コントラクター(独立人事業務請負人)、中高年専門ライフデザイン・アドバイザー、電気通信大学特任講師。
1961年 東京板橋区生まれ、一橋大学社会学部卒。
1984年 日産自動車に新卒で入社後人事畑を歩み続ける。
2006年 社命により日産自動車を退職し、全員が人事のプロ集団という関連会社に転籍。中高年のセカンドキャリアをサポートする部門の部長としてセカンドキャリア支援業務(出向・転籍・転職等)に従事。
2011年 所属する会社がM&Aにより外資系企業に買収され、それを契機に真剣に自分のセカンドキャリアを考え始める。
2014年 一度の転職経験のない状態から独立し、「リスタートサポート木村勝事務所」を開設。
特定人材紹介会社に所属することなく、ニュートラルな立場でキャリア相談に精力的に取り組み、自分の会社の人事部には相談できないビジネスパーソンのキャリアの悩みに対して個人面談やセミナーなどを通じて支援している。
また、約30年間で培った知見をもとに独立後も企業内人事部に籍を置き、面接、研修などの人事業務サポートや日々発生する人事課題に対応する現役の専門家の顔を持つ。
著書に
『働けるうちは働きたい人のためにキャリアの教科書』(朝日新聞出版)
『知らないと後悔する定年後の働き方』(フォレスト出版)
『ミドルシニアのための日本版ライフシフト戦略』(WAVE出版、共著)
がある。
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- 2023/09/07
- セミナー情報企業からみた業務委託(“半”個人事業主)という働き方導入のメリット
企業からみた業務委託(“半”個人事業主)という働き方導入のメリット
木村氏によるコラム3回目は、どんな人がどんな形で「“半”個人事業主」として働くことができるのかを解説していただきます。
◆“半” 個人事業主の類型 スペシャリスト型とリリーフ型
個人事業主的な働き方に対して企業・シニア社員双方で受け入れる土壌ができつつあることは前回のコラムで解説させていただいた通りです。
「受け入れる条件整備が進みつつあることは理解できたが、“半”個人事業主として働くことができる人は、特別なスキルや資格を持つ人だけで営業や経理などごく普通のビジネスパーソンにはそもそも関係のない話ではないか?」
そう思われる企業人事の方やシニアの方もいらっしゃるかと思います。
確かに今までは、専門職的な職種(法務部員や研修講師)や特別な資格やスキルを持つビジネスパーソン(ITの専門家、公認会計士など)が個人事業主的な働き手の中心でした。こうしたタイプの個人事業主を「スペシャリスト型“半”個人事業主」とここでは名付けます。
●「スペシャリスト型“半”個人事業主」の特徴
□特別なスキルや資格をベースに仕事を行う
□外部の専門家に依頼することで代替できる場合もあるが、立ち上がりまで時間がかかり、報酬も高額になりがち
□どんな職種にも必ずしも当てはまるわけではなく、職種が限定される傾向がある
ところが最近では、スペシャリスト型とは性格の異なる「リリーフ型“半”個人事業主」に対するニーズも増えつつあります。
●「リリーフ型“半”個人事業主」の特徴
□その会社独自の業務プロセスや用語を熟知し、人間関係も有する。今まで築いてきた実務能力、人柄など信頼感をベースに仕事を請負う
□その会社の実務面での即戦力としてその実力をよく知る人からの依頼で仕事を行う
□誰かが対応しなければならないその企業でのエッセンシャルワークも対象になる
図は、“半”個人事業主を「スペシャリスト型とリリーフ型」を横軸に取り、「契約期間の長短」を縦軸にとったマトリックスです。皆さまが一般的にイメージされる“半”個人事業主は、マトリックス表の左上の「スペシャリスト型×短期契約型」に近く、特別なスキルが必要とされる業務に必要なときに必要なだけスポット的に専門家として登板するタイプです。これに対して「リリーフ型」は、職種に限定はありません。どんな職種でも登板の可能性があります。
◆「リリーフ型 “半”個人事業主」ニーズが高まるこれだけの理由
コロナ禍を経て日本企業の人手不足は深刻な状態に陥っています。「人手不足に対する企業の動向調査(2022年10月)」
また、若手層・中堅層を中心に転職者が増え(大転職時代の到来)、その補充ができずに業務遂行に支障をきたしている企業も多いです。
今までは雇用の調整弁的な役割を果たしてきた非正規社員もその活用が難しくなっています。2013年に行われた労働契約法の改正により、5年間契約更新を繰り返した契約社員に対して無期転換権が発生するようになりました。無期転換権とは、条件を満たした契約社員側から有期から無期への労働契約変更の申し出があった場合には、企業はそれを認めなければならないとするものです。また、派遣社員に関しても2015年の派遣法改正で同じ職場で3年以上勤務することが基本的にはできなくなりました。
その一方で企業は、シニア社員の処遇で頭を悩ませています。環境変化の大きい中、雇用という流動性の低い形でシニア社員を社内に囲い続けることをリスクと考えているのです。「働かないおじさん」問題はその典型的な事例です。
こうした両者間のギャップを埋める担い手となりうるのが、シニア“半”個人事業主です。今まで培ってきた経験・スキル・知識を活かして即戦力としての活躍が期待できます。シニア側もフルタイムではなく稼働日限定の勤務により自由な時間が生まれます。指揮命令を受けることもありませんので、年下上司との微妙な関係も解消されます。
また、育児・介護休業法の改正等も、「リリーフ型 “半”個人事業主」のニーズを高めています。育児・介護休業法とは、育児・介護を理由に労働者が離職することなく、両立しながら働けるように支援する目的で創設された法律ですが、2022年には男性育児参加を支援すべく大きな法改正が行われました。
従来の育児休業制度に加えて新設された出生時育児休業は、男性の育児休業取得促進策のひとつで、子どもの誕生から8週間以内に最大4週間の育児休業を分割して2回まで男性が取得できる制度です。
こうした環境整備により、これからは男性も育児休業を積極的に取得していくようになりますが、企業にとって頭が痛いのは休業取得期間中の工数穴埋めです。休業終了後に確実に復職してきますので、新たに人を採用して穴埋めするわけにはいきません。取得期間も人によって長期短期バラバラです。
こうした育児休業で空いた一時的な業務補填役がまさに「リリーフ型“半”個人事業主」です。社内の事情は熟知していますので、新規採用のように改めて社内制度、ルールを一から説明する必要はありません。また、何十年間の経験がありますので社内人脈も豊富です。特に具体的な指示を受けなくても超即戦力として育児休業者の穴埋め対応をすることができるのが、シニア“半”個人事業主です。
次図は必要なスキル等の専門性と業務密度を軸としたマトリックスです。従来、非正規社員が担ってきた左上の領域の担い手がいなくなってきていますので、まずはこの領域を誰かがサポートする必要があります。右下の領域も外部から専門家が採用できない昨今、スペシャリスト型の“半”個人事業主の活躍場所です。
次回(最終回)は、業務委託(個人事業主)制度導入のステップについて解説していきたいと思います。
【筆者プロフィール】
木村勝(きむら・まさる)
人事インディペンデント・ コントラクター(独立人事業務請負人)、中高年専門ライフデザイン・アドバイザー、電気通信大学特任講師。
1961年 東京板橋区生まれ、一橋大学社会学部卒。
1984年 日産自動車に新卒で入社後人事畑を歩み続ける。
2006年 社命により日産自動車を退職し、全員が人事のプロ集団という関連会社に転籍。中高年のセカンドキャリアをサポートする部門の部長としてセカンドキャリア支援業務(出向・転籍・転職等)に従事。
2011年 所属する会社がM&Aにより外資系企業に買収され、それを契機に真剣に自分のセカンドキャリアを考え始める。
2014年 一度の転職経験のない状態から独立し、「リスタートサポート木村勝事務所」を開設。
特定人材紹介会社に所属することなく、ニュートラルな立場でキャリア相談に精力的に取り組み、自分の会社の人事部には相談できないビジネスパーソンのキャリアの悩みに対して個人面談やセミナーなどを通じて支援している。
また、約30年間で培った知見をもとに独立後も企業内人事部に籍を置き、面接、研修などの人事業務サポートや日々発生する人事課題に対応する現役の専門家の顔を持つ。
著書に
『働けるうちは働きたい人のためにキャリアの教科書』(朝日新聞出版)
『知らないと後悔する定年後の働き方』(フォレスト出版)
『ミドルシニアのための日本版ライフシフト戦略』(WAVE出版、共著)
がある。
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- 2023/08/31
- セミナー情報再雇用に代わるシニアの新たな働き方
~業務委託契約とは~
再雇用に代わるシニアの新たな働き方 ~業務委託契約とは~
前号に引き続き、シニアの新しい働き方、業務委託契約について、リスタートサポート木村勝事務所代表の木村勝氏のコラムをおとどけします。
今回は個人事業主としての働き方をめぐる環境の変化について解説していただきます。
◆業務委託契約(個人事業主化)という働き方の可能性
今回のコラムでは、「今いる会社」 と 「仕事はそのまま」 で 「(雇用ではなく)業務委託契約」 を締結する “半”個人事業主としての働き方を考えていきたいと思います。
総務省の労働力調査(2022年)によると、日本の雇用者は6041万人で就業者に占める雇用者の割合は89.9%です。9割弱の人が企業に雇われて働いています。
日本で一番ニーズがある仕事は、講師や国家資格者のようなスペシャリストの仕事ではなく、営業や人事、経理など会社の中にあるごく普通の仕事です。今は雇用されているビジネスパーソンがその役割をほぼすべて担っていますが、その仕事を雇用ではなく業務委託で担っていくのが “半”個人事業主です。
2017年に出版した拙著 「働けるうちは働きたい人のためのキャリアの教科書」(朝日新聞出版)でもこうした“半”個人事業主の働き方を提唱させていただきましたが、その当時は副業・兼業解禁の機運も低く、業務委託を締結して働くことはまだまだイレギュラーな感覚でした。
今は違います。企業が副業・兼業を解禁するに伴って業務委託で仕事をすることに対する抵抗感が少なくなっています。
経団連が2022年10月にまとめた 「副業・兼業に関するアンケート調査結果」を見てみましょう。この調査は、経団連会員企業における副業・兼業に関する取り組み状況やその効果などを把握するため実施したもので、会員企業の副業・兼業解禁状況だけでなく、社外からの副業・兼業人材の受け入れについても調査をしています。
その結果は、社外からの副業・兼業人材の受け入れについては、回答企業の30.2%が「認めている」または「認める予定」と答えています。社外から副業・兼業人材を受け入れることの効果については、「人材の確保」(53.3%)、「社内での新規事業創出やイノベーション促進」(42.2%)、「社外からの客観的な視点の確保」(35.6%)が上位を占めており、企業における必要な人材の確保策として、副業・兼業者の受け入れを図っていることが明らかになっています。
この調査からもわかるように、自社社員に対する副業・兼業の解禁に伴い、雇用以外の働き方(=業務委託)に関しても抵抗感が無くなりつつあります。電通や健康機器のタニタが積極的に自社社員の個人事業主化を図っていることは有名ですが、多くの企業で雇用に限らず多様な働き方を柔軟に受け入れるようになってきているのです。
◆業務の個人事業主化が進む理由
(1)企業における副業・兼業の拡大→業務委託経験値の蓄積→抵抗感が薄れる
企業は副業・兼業を認めるようになっていますが、認めている副業は、実は図の【雇用+雇用】パターンではなく、下の【雇用+業務委託】パターンです。【雇用+雇用】パターンは、労働時間を2社間で通算して残業分を算出する必要があるなど、労務管理が複雑になり、多くの企業で認めていません。
企業は、【雇用+業務委託】パターンで自社の社員に対して業務委託による副業・兼業を認めていますので、逆の受け入れである「個人事業主に業務委託で仕事を依頼する」ことに対しても経験値を積んでいます。
筆者は、2014年に個人事業主として仕事を始めましたが、その当時は業務委託契約という働き方に関して企業側も経験値が少なく、「やったことがない」「雇用以外の働き方は想定していない」という企業が多かったのですが、最近は雇用ではなく業務委託契約の締結を求める企業も増えてきています。
(2)65歳超の働き方として法律で想定されていること(改正高年齢者雇用安定法)
改正高年齢者雇用安定法では、65歳を超え70歳までの就業機会の提供を努力義務化しています。65歳までは「雇用が義務化」されていますが、65歳を超え70歳までの期間は、「雇用に拘らず業務委託契約を締結する」ことも措置の一つとして認められています。
業務委託での就業機会提供について、国がお墨付きを与えているようなものですので、企業も今後65歳以降の就業機会提供に関しては、雇用だけでなく業務委託契約を締結することが増えることが予想されます。
(3)コロナ禍でのテレワーク経験
今回のコロナ禍は、多くのビジネスパーソンにとってこれからの自分自身の働き方をあらためて考える大きなきっかけになりました。
各種アンケート調査でも「コロナ禍を経験し、転職への関心が高まった」と答える割合が高まっています。テレワークの経験により、一日中フル稼働していたと思い込んでいた自分の仕事時間の中にかなりの隙間時間があることや、朝夕の通勤時間の無意味さに気づいたのです。
こうした気づきは働く側だけでなく企業側も同様です。社員として雇って、会社に来て仕事をしてもらわなければ回らないと思っていた業務がテレワークで完結できることに気づきました。今回のコロナ禍で経験したテレワークでの業務遂行は、実質的に業務委託で仕事をやってもらうのと何ら変わらないケースも多いです。
コロナ禍は、ある意味働き方に関する“パンドラの箱”を開けました。こうした経験は、雇用だけではなく業務委託という仕事の提供方法があることを企業に知らしめ、業務委託で個人事業主と契約することの抵抗感をますます薄れさせています。
次回は、業務委託契約(個人事業主化)という働き方を導入する企業側のメリットをもう少し掘り下げて考えてみたいと思います。
【筆者プロフィール】
木村勝(きむら・まさる)
人事インディペンデント・ コントラクター(独立人事業務請負人)、中高年専門ライフデザイン・アドバイザー、電気通信大学特任講師。
1961年 東京板橋区生まれ、一橋大学社会学部卒。
1984年 日産自動車に新卒で入社後人事畑を歩み続ける。
2006年 社命により日産自動車を退職し、全員が人事のプロ集団という関連会社に転籍。
中高年のセカンドキャリアをサポートする部門の部長としてセカンドキャリア支援業務(出向・転籍・転職等)に従事。
2011年 所属する会社がM&Aにより外資系企業に買収され、それを契機に真剣に自分のセカンドキャリアを考え始める。
2014年 一度の転職経験のない状態から独立し、「リスタートサポート木村勝事務所」を開設。
特定人材紹介会社に所属することなく、ニュートラルな立場でキャリア相談に精力的に取り組み、自分の会社の人事部には相談できないビジネスパーソンのキャリアの悩みに対して個人面談やセミナーなどを通じて支援している。
また、約30年間で培った知見をもとに独立後も企業内人事部に籍を置き、面接、研修などの
人事業務サポートや日々発生する人事課題に対応する現役の専門家の顔を持つ。
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- 2023/08/21
- セミナー情報「人生100年・現役80歳」 時代の到来
~対応が求められるシニア社員の活性化~
「人生100年・現役80歳」 時代の到来
~対応が求められるシニア社員の活性化~本号より4回にわたって、リスタートサポート木村勝事務所代表の木村勝氏よりシニアの新しい働き方、「業務委託契約」について教えていただきます。
木村氏は、ミドル・シニアのキャリアの専門家としてご活躍で、現在「業務委託契約者」として働いておられます。
◆はじめに
生産年齢人口(15~64歳の人口)減少の大きな流れの中で今後ボリュームゾーン化するシニア世代の活性化は、企業経営においても大きな鍵となっています。その一方で役職定年、定年再雇用によるシニア社員のモチベーションダウンが大きな課題になっていることも事実です。
今回のコラムでは、改正高年齢者雇用安定法で65歳以降の働き方の選択肢の一つとしても想定されている個人事業主という働き方(業務委託契約)に焦点をあてていきます。
個人事業主という働き方は、長年培ったシニアの経験・知識・スキルを有効活用することができる、雇用に代わるシニアの新しい働き方になると筆者は考えています。今回から4回の連載コラムを通じて、企業・シニア社員双方からみた再雇用と業務委託のメリット・デメリットや業務委託(個人事業主)制度導入のステップなどについても解説していきたいと思います。
初回の今回は、個人事業主という働き方を考える際の前提となる 「人生100年・現役80歳時代のシニアを巡る働き方の現状・課題」 について考えていきたいと思います。
◆シニア社員がモチベーションを下げる理由
筆者は、今年62歳(昭和36年生まれ)。まさに定年退職を既に迎えたシニア世代ですが、我々世代を含め団塊Jr世代(2023年時点で49歳~52歳)は、新卒一括採用で入社し全員横並びで会社の出世コースに参加し、「収入」 と 「役職」 を働くモチベーションとして頑張ってきたサラリーマンが多いです。
この入社以来働くモチベーションとなっていた 「収入」 と 「役職」 という目標が無くなるのが、50代以降特有のキャリアイベントである「役職定年」(管理職)と 「定年」 という2回のタイミングです。
正社員の賃金カーブを見ても給与のピークは50代前半で、55歳を過ぎると下がり始めます。また、役職定年制により、55歳で課長職から、58歳で部長職から降りるケースが多くなってきます。人生100年・現役80歳時代、役職定年の55歳から25年、定年の60歳から20年間、これから先が長いのですが、この2回(「役職定年」「定年」)のタイミングをシニア社員は会社人生におけるキャリアのゴールと考えてしまい、モチベーションを下げてしまうのです。
2018年11月に発表された一般社団法人 定年後研究所とニッセイ基礎研究所の試算によると、55歳以降の世代が役職定年でやる気を失うために生じる経済的な損失は年に約1兆5000億円にのぼるという報告がなされています。一企業だけの問題にとどまらず日本経済にとっても大きな課題です。
◆実は定年後が長い
図をご覧ください。縦軸に年齢、横軸に1日の24時間を取り、0歳から80歳までの人生総時間を可視化した図になります。
20歳から60歳まで「長い、長い」 と思っていた会社(組織)で仕事をしてきた時間(図の労働時間)よりも20歳から60歳までの自由時間(図の在職中の自由時間)の方が長いことをまず皆さんは意外に思われるのではないでしょうか。
また、かつては 「余生」 と考えられていた60歳定年から80歳までの時間が、20歳から60歳まで会社(組織)で勤務していた時間よりも長いという事実に気づきます。
「人生100年・現役80歳時代」 には、定年退職以降の期間が長いのです。
◆キャリアに関する健全な危機意識を持ったシニアは実は多い
「人生100年・現役80歳」時代の到来と言われるようになって久しいですが、40歳が就労年齢80歳の折り返しであるならば、50歳は人生100年の折り返し地点と言うことができます。定年というキャリアの一つのゴールが現実的に目の前に見え始める時期でもあります。このちょうど人生の折り返しにあたる50代で真剣にセカンドキャリアを考え始める人は多いです。
筆者は、2020年から2022年まで3年連続で東京都主催の「東京セカンドキャリア塾」という講座にて講師をつとめました。55歳~64歳を対象としたプレシニアコース(65歳以上を対象としたアクティブシニアコースもあります)を担当しましたが、この講座には多くの在職中の50代シニアサラリーマンが参加します。
会社が終わった平日の夜(19時から21時)や休日の土曜日昼間に講座は開催されますので、生半可な気持ちでは2か月間のコースを修了することはできません。40代までは、会社の中核として馬車馬のように仕事一途に働いてきた方が多いですが、50代になり 「このままではいけない」 とキャリアに関する健全な危機意識を持ち意欲的に参加されています。
◆シニア活躍のための多様な選択肢を準備する
こうした健全な危機意識を持つ意欲あるシニアの受け皿として現状は「雇用」しか準備していない企業が多いと思います。親の介護などもあり、週3日間勤務、繁忙期のみの勤務、在宅勤務など個別事情に応じて柔軟な勤務を望むシニアが実は多いのですが、「シニア社員就業規則」を定め、全員一律的な取り扱い(週5日フルタイム勤務を原則としている企業が多い)を適用している企業がほとんどです。
年齢が上がるほど個人の意欲・体力に差が出てきますし家庭環境など個別事情も異なってきます。また、やる気あるシニアにとっては、こうした全員一律的な取り扱いがモチベーションを下げている面もあります。
従来通り 「雇用」 という枠組みの中でフルタイム勤務もあれば週3日間などパートタイム勤務もある、あるいは雇用以外の選択肢として業務委託も選ぶことができる。シニアの活用・活性化のためには、こうした多様な働き方の選択肢を準備しておくことがポイントです。
次回は、今回のコラムのテーマである 「個人事業主(業務委託契約)」 という働き方に関して解説していきたいと思います。特に 「今いる会社」 と 「仕事はそのまま」 で 「(雇用ではなく)業務委託契約」 を締結する働き方を 「“半”個人事業主」 と定義して解説を進めていきたいと思います
【筆者略歴】
木村勝(きむら・まさる)
人事インディペンデント・ コントラクター(独立人事業務請負人)、中高年専門ライフデザイン・アドバイザー、電気通信大学特任講師、
1961年 東京板橋区生まれ、一橋大学社会学部卒
1984年 日産自動車に新卒で入社、人事畑を25年間歩み続ける。
2006年 社命により日産自動車を退職し、全員が人事のプロ集団という関連会社に転籍。中高年のセカンドキャリアをサポートする部門の部長としてセカンドキャリア支援業務(出向・転籍・転職等)に従事。
2011年 所属する会社がM&Aにより外資系企業に買収され、それを契機に真剣に自分のセカンドキャリアを考え始める
2014年 一度の転職経験のない状態から独立し、「リスタートサポート木村勝事務所」を開設。
特定人材紹介会社に所属することなく、ニュートラルな立場でキャリア相談に精力的に取り組み、自分の会社の人事部には相談できないサラリーマンのキャリアの悩みに対して個人面談やセミナーなどを通じて支援している。
また、30年間で培った知見をもとに独立後も企業内人事部に籍を置き、面接、研修などの人事業務サポートや日々発生する人事課題に対応する現役の人事マン(独立業務請負人)の顔を持つ。
著書に
『働けるうちは働きたい人のためにキャリアの教科書』(朝日新聞出版)
『知らないと後悔する定年後の働き方』(フォレスト出版)
『ミドルシニアのための日本版ライフシフト戦略』(WAVE出版、共著)
がある。
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- 2023/08/18
- セミナー情報星和Career Next 2023#3
第3回公開セミナー 「70歳法を見据えた、シニアからの新たな働き方の選択肢」
星和Career Next 2023#3 第3回公開セミナー
「70歳法を見据えた、シニアからの新たな働き方の選択肢」昨年度の公開セミナー「星和Career Next」にもご登壇をいただき、視聴者の皆様から大変な好評をいただいたリスタートサポート木村勝事務所所長の木村勝氏に今期もご登壇いただきます。
昨年度は、『働かないシニアにならないためのミドル社員の教科書』というテーマでお話をいただきましたが、今回のテーマは、「“半” 個人事業主(業務委託契約)という働き方」。木村先生のご経験も絡めたお話をいただきます。
<開催概要>
■主 催:株式会社星和ビジネスリンク
■開催日時:2023年9月7日(木) 13:30~15:30頃
■開催形式:オンライン(Zoom)
■定 員:先着300名
セミナーの詳細・お申込みはこちらから
※お申し込みをいただいた方には、後日視聴のための事前登録のURLをご案内いたします。
※競合他社・同業者からのお申し込みは、視聴をお断りさせていただくことがあります。
【第一部】
[テーマ]
「“半” 個人事業主(業務委託契約)という働き方」
講師:木村 勝(きむら・まさる)氏
[講演内容]
改正高年齢者雇用安定法(70歳法)が2021年4月1日に施行され、大手企業を中心にシニア層社員の継続雇用への取組が進んでいます。
今回のセミナーでは、中高年層のキャリアの専門家、木村勝氏からシニアの新しい働き方とそのメリットをご自身の経験を絡めてお話をいただきます。
人事ご担当者必見です。
講演の視聴申し込みは、弊社Webサイト(申し込み画面)からお願いします。
セミナーの詳細・お申込みはこちらから
9月7日(木)の木村氏ご登壇に合わせて、「星和HRインフォメーション(メールマガジン)」では8月23日(水)から4週にわたって木村氏のコラムをお届けする予定です。
[講師Profile]
木村 勝(きむら・まさる)
人事インディペンデント・ コントラクター(独立人事業務請負人)、中高年専門ライフデザイン・アドバイザー、電気通信大学特任講師
1961年 東京板橋区生まれ、一橋大学社会学部卒
1984年 日産自動車に新卒で入社、人事畑を25年間歩み続ける。
2006年 社命により日産自動車を退職、全員が人事のプロ集団という関連会社に転籍。中高年のセカンドキャリアをサポートする部門の部長としてセカンドキャリア支援業務(出向・転籍・転職等)に従事。
2011年 所属する会社がM&Aにより外資系企業に買収され、それを契機に真剣に自分のセカンドキャリアを考え始める。
2014年 一度の転職経験のない状態から独立し、「リスタートサポート木村勝事務所」を開設。
特定人材紹介会社に所属することなく、ニュートラルな立場でキャリア相談に精力的に取り組み、自分の会社の人事部には相談できないビジネスパーソンのキャリアの悩みに対して個人面談やセミナーなどを通じて支援している。
また、30年間で培った知見をもとに独立後も企業内人事部に籍を置き、面接、研修などの人事業務サポートや日々発生する人事課題に対応する現役の人事マン(独立業務請負人)の顔を持つ。
著書に 『働けるうちは働きたい人のためにキャリアの教科書』(朝日新聞出版/2017年)、『知らないと後悔する定年後の働き方』(フォレスト出版/2019年)、『ミドルシニアのための日本版ライフシフト戦略』(WAVE出版/2021年、共著)がある。
【第二部】
[テーマ]
定年前後期で、大企業から「個人事業主」にキャリアチェンジした人の価値観とは
講師:池口武志(いけぐち・たけし)
[講演内容]
第2部では、大企業の中高年社員が「個人事業主」に転進することが、本人にとってプラスに受けとめてもらえるのか? 実際に定年前後期で個人事業主へ転進した人へのインタビューから見えてきた「就業価値観」をご紹介します。
[講師Profile]
池口武志(いけぐち・たけし)
1986年 日本生命保険相互会社入社
本部リテール販売部門、人事、営業企画、契約管理、販売最前線等で長く管理職(部長、支社長など)を経験し、多様な職種の人材育成にかかわる。その間、オックスフォード大学 Diplomatic Studies修了。
2016年 研修事業も行う星和ビジネスリンクに出向キャリア羅針盤の開発を統括。現在、同社取締役常務執行役員も務める。
2023年3月 桜美林大学大学院老年学修士課程修了。キャリアコンサルタント、消費生活アドバイザー、AFP、日本心理的資本協会理事、シニア社会学会会員
著書に『定年NEXT』( 廣済堂新書 2022年4月)、『人生の頂点は定年後』( 青春新書インテリジェンス 2022年10月)がある。
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- 2023/08/09
- お知らせ 定年後研究所 News Letter
星和HRインフォメーションでは、「定年後研究所」が発信する情報もお届けしています。
本号は、「定年後研究所 News Letter#3」として、企業研修において、いまニーズが急増している「越境体験」を実践した定年後研究所の池口武志所長によるレポートをお届けします。
定年後研究所所長による「越境体験」レポート
◆新しい研修スタイル「越境体験」が増加中
昨今、企業研修に「越境体験」を採り入れる事例が増えてきている。
新規事業の種探し、キャリア自律の促進、セカンドキャリアのイメージ作りなど理由は様々であるが、従業員をアウェイ環境におき、自社では体験できない仕事環境で新たな気付きを促す意図は共通のようだ。
中高年会社員のキャリア開発に携わる仕事柄、企業人事の方から、越境体験の効果、具体的な事例、更には企業向け越境サービスに関するご相談を頂くケースも増えてきた。中でも、徹底的なアウェイ環境を追求される企業からは、民間企業ではなく、地方自治体やNPO、社会福祉法人での越境体験を探索されるご要望を受けるケースが出始めている。
当然ながら、地域には民間企業ばかりでなく、社会福祉施設やNPO等が数多く存在し、中高年会社員のセカンドキャリアの多様化を考える上では、社会福祉領域を覗いてみることは有益であるし、ましてや福祉の担い手不足が叫ばれる環境下では社会全体にとっても意味の大きいことと考える。
実際に、社会との接点を持てるかどうかの老後不安を感じている人がボランティアなどの社会活動に取り組みたいとの意向をもっているとの大規模調査結果もある※。
ただ、利潤追求を目的とした民間企業で長年働いてきた中高年会社員が、社会福祉法人という全く異なる環境下で仕事をすることがそもそも成り立つのであろうか?
基本的な価値観の違いやスキル不足からかえって足手まといになり、受け入れ施設に迷惑をかけることにならないか?
このような懸念点を、知的障害者支援の福祉施設を運営しながら、教壇にも立たれている植草学園大学副学長(発達教育学部教授)である野澤和弘先生にぶつけてみると「社会福祉の専門家でなくても、感謝される役割は山ほどあります。民間企業で積み上げられてきた経験が、障害者の就労支援や生活支援の場面できっと活かしていただけるはずです」と思わぬ答えが返ってきた。
◆社会福祉の現場で越境体験
そこで、筆者も評論ばかりしていずに、5月の連休に自ら社会福祉法人に越境体験することを計画し、ご縁を頂いた知的障害者の支援施設を訪問した。
ちなみに、筆者は長く生命保険会社に勤務し、現在は、定年前後期の中高年会社員の活躍を調査研究する仕事に従事しており、社会福祉については、完全な素人である。また両親も高齢ながらいたって健康で、老人介護やその施設についても知識として多少かじった程度の完全な素人である。
5月初旬の気候の良い2日間、知的障害者支援施設で初めてのボランティア活動を経験した。 初日は、4年ぶりに開催された施設利用者向けのバーベキューパーティーの手伝いであった。 パーティーは障害の程度に応じて、午前と午後の部に分けて開催された。
鉄板の前で肉や野菜を焼いているとあちらこちらから「おかわり!」の声がかかる。
調子にのって盛り付けをしていると、スタッフの方から「食べ過ぎになるので、池口さんはそこでずっと焼いていてください」と早速に指導を受ける。
子どもからお歳を召された方まで、数十人の利用者様の溢れんばかりの笑顔と「美味しいなあ~」との大きな歓声に励まされ、用意した食材も平らげていただき、4時間はあっという間に過ぎた。
翌日は、グループホームに入居されている高齢男性の、「月一回」のお買い物の付き添いの役目をいただいた。この方は、知的障害があり、最近は認知症の症状も出現している。 果たして自分に務まるのかと一抹の不安を感じながら、グループホームを訪ねた。夏物下着の買い足しと、フードコートでのお昼ごはん、そして男性が鉄道好きとのことで、大型ショッピングモールへの道のりは、少しだけ遠回りして鉄道の旅の指示を受けた。
慣れていないため、どうしても受け答えがちぐはぐになり、最初は戸惑いも感じたが、ショッピングモールの中で目をキラキラさせて「たくさん商品があるなあ、全部売るのも大変だろうな~♪」ととても喜んでくれていたように思う。
フードコートでは讃岐うどんを一緒に食べながら、「自分は〇〇県の●●町の生まれで、特別支援学校でお世話になったA先生やB先生とは最近再会したんですよ」と夢中になって話をしてくれた。大好きな電車の中では、停車駅ごとに降りようとするのを制止されながらも、小さな電車の旅を満喫されている様子が印象的だった。
グループホームに帰り着くと施設長が出迎えてくれた。ねぎらいの言葉をいただき、小さいながらもこれまで感じたことのない種類の達成感で満たされている自分に気付いた。
わずか2日間の「越境体験」であったが、大切なことを学べたように思う。
今回のような社会福祉法人での「越境体験」は、たとえ福祉の素人であっても、長く民間企業で働いてきた中高年会社員が小さな役に立つことができる可能性を実感すると共に、マインドセットや行動変容に大きなインパクトを与え得ることを体験することができた。一人でも多くの中高年会社員が、社会福祉のような別環境の現場を体験し、自ら出来ることを考えていただくと同時に、ご自身のライフキャリアの充実にも繋げていただくことを願うようになった。
先の大規模調査結果でも、NPO等の紹介、ボランティア休暇付与、副業規定の緩和、就業時間内活動などの会社からの支援策を望む従業員の大きなニーズがあるそうです※。
この越境体験にご関心をお持ちいただき、詳しい話をご希望の方がいらっしゃれば、定年後研究所Webサイトの“お問合せ”からご照会ください。社会福祉法人をご紹介させていただくことを楽しみにしています。
※参考文献
労働政策研究報告書No. 225
企業で働く人のボランティアと社会貢献活動―パラレルキャリアの可能性―
(独立行政法人労働政策研究・研修機構 2023)
【筆者略歴】
池口 武志(いけぐち・たけし)
一般社団法人定年後研究所 理事 所長
1986年 日本生命保険相互会社入社
本部リテール販売部門、人事、営業企画、契約管理、販売最前線等で長く管理職(部長、支社長など)を経験し、多様な職種の人材育成にかかわる。その間、オックスフォード大学 Diplomatic Studies修了。
2016年 研修事業も行う星和ビジネスリンクに出向
キャリア羅針盤の開発を統括。現在、同社取締役常務執行役員も務める。
2023年3月 桜美林大学大学院老年学修士課程修了
キャリアコンサルタント、消費生活アドバイザー、AFP、日本心理的資本協会理事、シニア社会学会会員
著書に『定年NEXT』(廣済堂新書 2022年4月)、『人生の頂点は定年後』(青春新書インテリジェンス 2022年10月)
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- 2023/08/02
- お知らせ 慶應SFC研究所 高橋俊介氏集中連載(3)(最終回)
学びの意味を考える
本号では、慶應義塾大学SFC研究所の上席所員の高橋俊介氏によるコラムの最終回をお届けします。主体的な学びの進め方とその先にある専門性の大切さについてお話しをいただきます。
◆主体的ジョブデザイン行動
「ジョブ型」の意味を誤解している企業が多いと感じています。伝統的「ジョブ型」人事制度では、各自の「ジョブ(職務)」について職務記述書に詳細を記載することになっていますが、これでは「ジョブ(職務)」の固定になってしまいます。ジョブ型に関するこのような考え方は昔のもので、仕事をダイナミックに変化させていこうとしている業界では、仕事は自分で作るもの。必要に応じて膨らませていくべきものなのです。私はこれを「主体的ジョブデザイン行動」と呼んでいますが、人によってはこれを「ジョブストレッチ」とか「ジョブクラフティング」という人もいます。
顧客との関係性においても、リニューアルや、アップデートすることが必要になります。例えば、お客さんに言われたことを「何でもやります!」と、背景を理解せずただ一生懸命する。こういうレベルの仕事では双方ともに満足のいく結果が得られなくなりつつあります。社会も環境もどんどん変化しています。接待を中心に仕事を取ってきていた人は、新型コロナの出現以降どうなったでしょうか?
環境が変化する中では、顧客との関係性をどうリニューアル、アップデートしていくか? これを常日頃から自問自答していなければなりません。
例えば、顧客から「あなたの意見を聞きたい」と頼られる存在になりたいと考えている人が、「御社の問題は何ですか?」と尋ねたとき、「あなたに言っても…」と思われているようでは、どうにもならないですよね…
ある会社が、営業職の約80人に普段なかなか会えないワンランク上の人に会ってお客さんの問題点を聞いてくるよう指示を出したそうです。多くの人は会うこと自体はできましたが、一度会えても二度目に会うことができなかった人が大半だったそうです。そんな中で、幾人かはアポイントの前に勉強をして、「御社の問題って○○ではないですか?」と仮説を持っていく。そして、そのことに対するソリューションのヒントを提案したらしいのです。あくまで仮説の提案ですが、それに対する他社の動きや、他業界での事例などを説明することで、お客さんの興味を引き出すことができたのです。
そうなってくると、次の約束も取れる。約束が取れたら相手の反応を基に更に勉強をして自論を展開することができるようにする。
これは、「主体的ジョブデザイン行動」のいい例です。つまり、営業という仕事をどう定義するかということです。
顧客のリクエストに応え続けるだけではなく、顧客自身に気づきをもたらして、方向性を示すパートナーとなることを目指すことを営業の仕事と定義する。これは、まさに仕事のリフレーミングです。
例えば、サッカーにおいても、リーダーが戦術を伝授し、試合中、選手をその通りに動かすのではなく、選手の一人ひとりが戦術を組み立てられるようにコーチングしていくことが仕事だと気づけば、そこで、リーダーのマネジメントにリフレーミングが発生しているわけです。
このようなことへの気づきが、「主体的ジョブデザイン行動」のキッカケになるのです。先ずは、仕事をストレッチすることが学びに対するWhyとなり、次に何を(What)学ぶべきかを考える。そして如何に(How)学ぶかを考える。これらを連鎖させていくことが学びのスピードを加速させるのです。
◆大きく成長するための専門性を磨く
同じ仕事を続けていても、今のレベルに満足してしまったら、そこで成長は止まってしまいます。
さきほどの顧客との関係性だけでなく、自身の提供価値を高めたいと思えば、それは何故なのか、どんなスキルを身につければその価値を高めることができるのか、何をどうやって学べばいいのかを考え実践していくことで、一段階高いところからの景色が見えるようになります。そして、違う景色のところに立てば、次の課題が見えてくる。これが主体的ジョブデザイン行動における主体的な学びのスパイラルアップの形です。
今の仕事の延長線上でも、その仕事をリフレーミング、アップグレードすることができれば、違う景色が見えるはずです。
ただ、ジェネラリストが中心の日本型の縦社会には専門性が欠けています。優秀な人たちが、異動の度にあらたな仕事を身に付けても、所詮は付け焼刃での対応。そのような形では遅かれ早かれ組織も限界に達してしまいます。
これらを克服するためには、与えられた仕事とは関係がない部分で10年20年かけて自分が選んで1つの分野を体系的に学び続けることが必要なのです。
変化の時代に、専門職として同じ仕事だけをやり続けていると、その仕事が無くなったり内容が変わったりしたときに全く対応ができなくなってしまう。ならば、このような時代はジェネラリストが強みを発揮するのかといえば、残念ながらジェネラリストは専門性に欠けるため力を発揮しにくいのが現実です。
ということは、同じ仕事をしないで専門性を深めていくということが大切になってくるということです。そして、その専門性は深めるだけでなく発展させていかなければならない。発展した先での専門性も同時に深めていく努力が必要です。
そして、深く学ぶために、自問自答の習慣を持って、あなたなりの正解を持つように心掛けてください。
自問自答を続けることで、意外なところから人生への気づきが得られるかもしれません。
【筆者略歴】
高橋俊介(たかはし・しゅんすけ)
慶應義塾大学SFC研究所 上席所員
1978年東京大学工学部航空工学科を卒業し日本国有鉄道に入社。
1984年米国プリンストン大学工学部修士課程を修了し、マッキンゼーアンドカンパニ-東京事務所に入社。
1989年世界有数の人事組織コンサルティング会社である米国のワイアットカンパニーの日本法人ワイアット株式会社(現ウイリスタワーズワトソン)に入社。
1993年に同社代表取締役社長に就任。
1997年7月社長を退任。個人事務所ピープル ファクター コンサルティングを通じて、コンサルティング活動や講演活動、人材育成支援などを行う。
2000年5月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授に就任。個人事務所による活動に加えて、藤沢キャンパスのキャリアリソースラボラトリーを拠点とした個人主導のキャリア開発や組織の人材育成についての研究に従事。
2011年11月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。
2022年4月より現職。[主な著書]
『ホワイト企業 サービス業化する日本の人材育成戦略』PHP研究所(2021年12月)
『キャリアをつくる独学力 プロフェッショナル人材として生き抜くための50のヒント』 東洋経済新報社(2022年8月)
ほか多数
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- 2023/07/19
- お知らせ 慶應SFC研究所 高橋俊介氏集中連載(2)
自律的学びのすゝめ
本号では、前回に引き続き7月の星和Career Nextへのご登壇が決まった慶應義塾大学SFC研究所上席所員の高橋俊介氏から、どうして日本では社会人の学びが受け身なのか、主体的な学びを実践するためには何を変えていけばいいのかについてお話しいただきます。
◆学び直しはリスク!?
変化の激しい時代では、これまでと同じ仕事であっても求められるスキルが大きく変わります。これに対応するためには自身の価値を高める自律的な学びが必要となりますが、日本では、この自律的に学ぶという考えが遅れています。事実、学校を卒業して、働きだした後に大学や大学院に戻って学び直す人は、欧米や他のアジア諸国と比べても比較にならないほど少ないのです。
欧米では、40歳・50歳になっても自己投資をし、学位を取ればその道の専門家としてそれまでのキャリアを上書きすることができます。例えば、ある会社でアシスタントとして働いていた人が一念発起してハーバード・ビジネス・スクールで学位を取ったとしましょう。
すると欧米では、その人は知識とそれを裏付ける学位を持ったビジネスのプロフェッショナルとして活躍する機会が与えられるのです。
しかし、日本では、最初に就職した時点での経歴(学歴)が重要視される傾向があります。
日本には、自己投資の成果を社会的に認める風潮があまりない。だから積極的に自己投資をする人が少なくなるわけです。
自己投資は、キャリアを見つめ直す意味でも、これからを考える意味でも大切なことだと思います。アメリカでは、一流のスポーツ選手が引退後に再び勉強して医者や弁護士として活躍する例も数多くあります。老若男女問わず、どんどん専門家が創出されているのです。
日本では、社会に出たときにある程度固定されてしまう。新しいチャレンジをして、学び直すということを社会的に認めて支援していかないと、現在のような変化の激しい時代では、個人だけでなく組織も生き残りが難しくなるかもしれません。だからと言って、今すぐに会社を辞めて大学に行けと言っているわけではありません。今は、いろんな学び方があって、働きながら学ぶことも昔ほど難しくありません。ですから、いろんな機会を活用して学びを進めるべきだと考えるのです。
◆現場教育の限界
これまで多くの企業において、体系的、そして理論的な教育が軽視され、実務経験に偏重した指導が行われてきたように感じています。しかし、実務経験だけを積み上げていても、変化に柔軟な対応ができる能力を身に付けることはできません。長い期間ひとつの仕事だけをやってきて、世の中が変わったとき、仕事のスタイルが変化してしまったら、何の役にも立たないということになりかねません。その仕事の背景にある理論的・体系的・専門的な知見は、実務経験や上司先輩からの伝承だけでは決して学び取ることができないのです。
会社の指示通りの職務経験をして、異動時には取り急ぎ実務書を読み、本でカバーできない部分は、上司先輩からの伝承に頼る。もうその程度の専門性では、複雑でどんどん変化していく世界で互角に渡り合える時代ではないのです。
◆3つの無限定性
変化の時代には、正解がない事柄に素早く対応していかなければなりません。こういう時代には、各々が知見を持ち寄って、自論を展開できる環境をつくり上げる必要があります。
自論には正解はありません。正解のないものを評価するとき日本では常に、客観的な評価をどう担保するのかということが問題視されます。しかし、正解のない自論形成能力は客観的に測ることができません。例えば、TOEICで高い得点を取っても現場では役に立たないことがある。コミュニケーションツールであるはずの英語の能力を客観的に裏付けるため、試験にスピーキングがないからです。
何故日本ではこんなに客観的な評価が求められるのかといえば、自由度がないからです。
日本の組織モデルは「3つの無限定性」で形づくられています。
(1)何時まででも働きます。
(2)何処にでも転勤します。
(3)どんな仕事でもします。
会社が「時間」と「場所」と「仕事の内容」に関する裁量を限定なしで発揮できる日本の働き方は、世界でも本当に珍しい形です。このことを労働者側から見れば、自分のキャリアはすべて会社に任せて生きてきたということに他なりません。会社からの指示通りに、築き上げたキャリアだから、「ちゃんと評価してください」ということになりますね。
例えば儲かっている部門と赤字部門では、ボーナスに大きな差が出る仕組みを入れたとします。そうすると、「好きでここにいるわけじゃない! 部門・部署でボーナスに差が出るなんて不公平だ!」ということになります。
しかし、社内公募でどんどん異動ができるような自由度をあたえると、話は変わってきます。
日本では、この「3つの無限定性」を手放すと、経営ができなくなると考える経営者が多いのでしょう。しかし、世界の経営者はそれをやってきているのです。
「3つの無限定性」を堅持するためのコスト、例えば受け身社員の「雇用保障」であったり、「公平性の担保」であったり……、有形無形のコストはすごく大きいです。
ですから、経営者は「皆さんの人生は、皆さん自身のものですよ」と言い切らないと、組織は変化の時代に対応しきれません。支配に対する責任が負いきれないのに支配を続けることはフェアではありません。
こういう時代に求められるのは個人個人が自論を持つことです。その自論で周囲と議論し合うことで、自身のヌケやモレに気づき、自身の現在位置を感じることで学びが進んでいくのです。会社は、社員が自論をぶつけ合うことができる環境をつくっていくべきでしょう。
◆学びの意味と楽しさを知る
日本人は丸暗記の勉強をしてきました。これが原因で、勉強が面白くなくなったり、苦しく辛いものになっている人が多いのです。そのような記憶があるから、社会人になって再び学び直そうという気にもならない。
例えば、数学の話をすると、日本の学力はOECD加盟国の中で、いまだにトップクラスです。しかし、「数学が好きですか?」「数学の勉強にどんな意味があるのか理解していますか?」という質問に対するスコアは、諸外国と比べとても低い。
日本人の勉強は、意味も分からないし、面白いとも思わないものをひたすら頑張ることなのです。こんな悲しい勉強の仕方はないですよ。もう一度勉強しろと言われても、「勘弁してくれ」という気持ちになる。だから、学びに対する主体性も生まれません。勉強の意味や面白さを知ることが大切なのです。
仕事でも同じですよね。その仕事の背景や、意味を考えながらすすめることで、面白みが出てくる。面白味が出てくれば仕事を通じての学びも、その先にある、理論的・体系的で専門的な学習にもいい影響をもたらすことになります。
ご自身のお仕事が、職場や顧客にどんなメリットをもたらすのか、そのメリットを提供し続け・最大化するためには何が足りないのか、足りないものを補うために何をどう学ぶのかを考えてみてください。
【筆者略歴】
高橋俊介(たかはし・しゅんすけ)
慶應義塾大学SFC研究所 上席所員
1978年東京大学工学部航空工学科を卒業し日本国有鉄道に入社。
1984年米国プリンストン大学工学部修士課程を修了し、マッキンゼーアンドカンパニ-東京事務所に入社。
1989年世界有数の人事組織コンサルティング会社である米国のワイアットカンパニーの日本法人ワイアット株式会社(現ウイリスタワーズワトソン)に入社。
1993年に同社代表取締役社長に就任。
1997年7月社長を退任。個人事務所ピープル ファクター コンサルティングを通じて、コンサルティング活動や講演活動、人材育成支援などを行う。
2000年5月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授に就任。個人事務所による活動に加えて、藤沢キャンパスのキャリアリソースラボラトリーを拠点とした個人主導のキャリア開発や組織の人材育成についての研究に従事。
2011年11月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。
2022年4月より現職。[主な著書]
『ホワイト企業 サービス業化する日本の人材育成戦略』PHP研究所(2021年12月)
『キャリアをつくる独学力 プロフェッショナル人材として生き抜くための50のヒント』 東洋経済新報社(2022年8月)
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- 2023/07/12
- お知らせ 慶應SFC研究所 高橋俊介氏集中連載(1)
変化の本質
今期も星和Career Nextへのご登壇が決まった慶應義塾大学SFC研究所上席所員の高橋俊介氏のコラムを本号から3週にわたりお届けします。
コラムでは、皆さんが渦中にある急激な変化の本質とその変化に柔軟に対応するための学びとその問題点についてお届けします。
◆未来は予測できない
AIがどのような仕事が得意で、どのような仕事が苦手かということは、最近話題になっているChat GPTなどを試してみるとなんとなくわかるかもしれません。このようなAIの進化によって無くなる仕事もありますが、実はそのこと以上にビジネスモデルが変わることによって無くなる仕事や、同じ仕事であってもその業務の内容が変わっていくものが多いのです。
このことは、テクノロジーの進歩や地政学的な要素も含んだグローバルな出来事や変化がビジネスモデルにも大きく影響しているのですが、これらが今後いつ、どのように変化するかを予測することは困難です。1~2年先であればなんとなくわかるかもしれませんが、10年先の予測はできませんね。AIがビジネスに与える影響も昔から言われてきましたが、第一次、第二次、第三次のAIブームでも予測されていた通りにはなりませんでした。さらに言えば、新型コロナによってこれほどまでに働き方が変わることも予測していなかったですよね。
そもそも先のことなんてわからないわけですが、これからは、益々そういう時代になっていくわけです。
仕事をしていれば、2年・3年先のことも考えなければならない。でも、皆さんの人生はまだ、10年・20年・30年と先が長いわけです。そんな中で、先が分からないことを極端に恐れ、何処かの誰かが予想した未来にすがることはやめた方がいいと思うのです。これから先は何が起こるか分からないという前提で考えるようにしていただきたいですね。
◆変化の本質
私はよく自動車の話をしますが、EV化が進み内燃機関が無くなれば、内燃機関に関わるエンジニアの仕事も無くなる。このこと自体はわかり易い話ですね。ただ、その本質は、仕事が「組み合わせ型」になるということです。これまでの「すり合わせ型」のビジネスモデルが、「組み合わせ型」のモデルに移行していくことを理解しなければなりません。
これまでの自動車業界のように、昔からお付き合いがある部品のサプライヤーと、打ち合わせを重ねながら良好な関係の中でビジネスを組み立てていく「すり合わせ型」のビジネスモデルは、生み出すものが内燃機関だったからこそ上手く機能していたわけです。EV車には、交流モーターとVVVFインバーター、リチウムイオン電池が必要ですが、これらは、それぞれが完成されたコモディティーであって、EV車の製造はこれらを組み合わせてつくるという「組み合わせ型」モデルのビジネスです。このように自動車をつくるというビジネスであっても、ビジネスのモデル自体が大きく変わっています。
では、このような「組み合わせ型」モデルで、どのように付加価値を求めるのか。それは、車両と周辺部品のコネクティビティーであったり、ソフトウエアであったりするわけで、そういう部分は長いお付き合いの中から付加価値を築き上げる「すり合わせ型」モデルでは迅速に対応することができないのです。つまり、外向きにアンテナを高く張っている人が従来のすり合わせ型の組織で急に必要になったわけです。
「すり合わせ型」のモデルは内向きの組織モデル、一方で「組み合わせ型」のモデルは外向きの組織モデルと言ってもいいでしょう。ただ、誤解が無いようにしていただきたいのですが、私はここで「すり合わせ型」と「組み合わせ型」のビジネスモデルについて優劣を語っているわけではありません。
◆同じ仕事でも求められる能力が変わる
これからは、社員も経営者も外向きに高いアンテナを立てて、環境の変化に即対応できる体制でなければ、時代に取り残されてしまいます。
「すり合わせ型」の組織モデルの中でキャリアを積んできた人は、ビジネスモデルが「組み合わせ型」に変化していく過程で、一人ひとりが組織の外で刺激を受ける必要があります。トヨタ自動車は優秀な技術者をわざわざ「プロボノ」という社会貢献ボランティアで社外に派遣しています。
地域の中小企業などにプロボノ派遣されたトヨタの技術者は、業態も環境も異なる中で自身がどれだけ役に立てるのかを体験するのです。
プロボノを受け入れた会社からは「さすがトヨタの社員だ、すぐれた技術を持っている」 と感謝の声が多いらしいのですが、派遣された技術者は、社内とは異なる環境の中で、いかに個人では無力で、自身に何が足りていなかったのかを気づくきっかけを得るのです。
トヨタのように成功を収めてきた会社でさえ、このように従業員に外からの刺激を受けるための準備期間を持たせているのです。それは、トヨタのビジネスモデルが大きく変わるからです。それにより組織のモデルも変わりますし、今後はリーダーに求められるマネジメントやコミュニケーションのスタイルも大きく変わるでしょう。リーダーの皆さんがこれまでに培ってきた経験値では役に立てない部分が出てくるのです。
こういった変化は、いま例に挙げた自動車業界だけではなく、他の製造業や金融業にも広く深く波及していくでしょう。
このコラムをお読みの皆さんの周りでも何か変化が起こっているのではないでしょうか。
次回以降では、変化に対応するために必要な学びの方法と、ミドルシニアが抱えている問題点をお届けします。
【筆者略歴】
高橋俊介(たかはし・しゅんすけ)
慶應義塾大学SFC研究所 上席所員
1978年東京大学工学部航空工学科を卒業し日本国有鉄道に入社。
1984年米国プリンストン大学工学部修士課程を修了し、マッキンゼーアンドカンパニ-東京事務所に入社。
1989年世界有数の人事組織コンサルティング会社である米国のワイアットカンパニーの日本法人ワイアット株式会社(現ウイリスタワーズワトソン)に入社。
1993年に同社代表取締役社長に就任。
1997年7月社長を退任。個人事務所ピープル ファクター コンサルティングを通じて、コンサルティング活動や講演活動、人材育成支援などを行う。
2000年5月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授に就任。個人事務所による活動に加えて、藤沢キャンパスのキャリアリソースラボラトリーを拠点とした個人主導のキャリア開発や組織の人材育成についての研究に従事。
2011年11月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。
2022年4月より現職。[主な著書]
『ホワイト企業 サービス業化する日本の人材育成戦略』PHP研究所(2021年12月)
『キャリアをつくる独学力 プロフェッショナル人材として生き抜くための50のヒント』 東洋経済新報社(2022年8月)
ほか多数
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