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2024/03/19
お知らせ 定年後研究所 News Letter #6

社会福祉の現場で、人材育成の原点をみた

 日頃は、「星和HRインフォメーション」をご覧いただきありがとうございます。本年度の最終配信となる本号は、「定年後研究所 News Letter #6」として、池口所長の越境体験記をお届けいたします。

社会福祉の現場で、人材育成の原点をみた
 昨年還暦を迎え、定年後研究所長としての業務の傍ら、セカンドキャリアやサードエイジを徐々に自分事として考える機会が増えてきました。

 小職は、これまで定年後に活躍する数多くのロールモデルにインタビューをし、その取材成果を書籍や論文で紹介してきました。その中でロールモデルとなる方の多くは、長年勤めた会社とは異なるフィールドで、自身の存在価値を新たに見出し、周囲から頼りにされることで「やりがい」や「生きがい」を獲得されているように感じています。

 日頃、キャリア研修や中高年向けの住民セミナーで、将来に向けた「試行錯誤の第一歩」をお勧めしている手前、小職も去る1月末に二日間にわたって自宅に近い知的障がい者の就労支援施設でボランティア活動を行ってきました。

 この施設は、「就労継続支援B型」と言われる中軽度の知的障がい者を対象に、通い方式での就労機会を提供し、生産高に応じた工賃を支払う区立の施設です。40名の利用者が、近隣の複数の町工場から受託した「比較的簡易な軽作業」を幾つかの工場ごとのラインに分かれて、朝の9時から16時まで従事されていました。

 「長年の仕事人生で培ったマネジメント力を、福祉の現場で活かしたい」と意気込んでいた小職でしたが、初日・二日目ともに、利用者のみなさんと同じライン作業に専念することになりました。

 周囲を見渡すと、片腕で器用に黙々と作業をこなされている方もいれば、ずっと賑やかに話し続けながら作業に従事する人もいました。中には午後になると、こくりこくりとされる人もおられ、当日納期の作業に間に合わせるため、施設の職員さんが慌ててラインに入られたり、小職も別ラインの応援に駆り出されたり、慌ただしい中で一日を終えました。

 15時30分からのミーティングでは、「納期」に間に合ったことの共有が図られ、作業場に大きな拍手が起きました。その後は、チームに分かれ、班長である職員と、5名前後の利用者一人一人との懇談が始まりました。

 そこでは、
「今日は、いつもよりも仕事のスピードが遅かったけど、原因は何かな?」
「先週出来なかった作業が、ついに出来るようになったね!」  
「もうひと頑張りを期待しているよ」
「朝から大声を張り上げて部屋に入ってくるのは止めたほうが良いのではないですか?」
など、フェースto フェースで16時まで行われました。

 小職は、30代前半で、保険会社の小さな営業所の所長として勤務し、30名程度の営業社員を管理・指導する立場にありましたが、個々の営業社員の働く環境の違いや、経験・スキル格差を踏まえた個別指導が十分出来ずに、上辺だけのマネジメントに留まっていたことが突然脳裏に蘇ってきました。

 コロナ禍以降、テレワークが急速に普及し、メールだけでなく、チャットやメタバース空間での執務環境も整備されつつありますが、
「大切なことをメール一本で済ましてはいないだろうか?」
「もっと踏み込んで社員一人一人と向き合うことが重要ではないか?」など、
日常の周囲への関わり不足を反省しきりで、施設を後にしました。

 弊所では、シニア社員の活躍に向けた企業人事担当者の研究会を定期開催しています。2024年1月開催の研究会では、「60歳以降社員の一層の活躍に向けて~社会貢献も視野に~」をテーマに、厚生労働省高齢者雇用対策課の宿里課長から改正高年齢者雇用安定法への対応状況の共有と企業への期待を、また公益財団法人さわやか福祉財団の清水理事長からは社会貢献活動を通じた人材育成についてご講演を頂戴しました。

 そこで、多くの人事担当者から聞こえてきたのは「シニア社員の活躍場所の一つとして社会福祉領域もあることに気づいた」「社会の課題に触れる越境体験が、視野拡大に繋がることが理解出来た」「改正高年齢者雇用安定法が定めた社会貢献活動への従事の可能性を検討したい」との声でした。

 まさに、自らも越境体験することで、多くの気づきを得ることが出来ましたので、自信を持って、企業人事のご担当者にも社会福祉領域やNPOへの越境をお勧めしたいと思っております。

 社会福祉法人やNPOへの具体的な越境体験、副業・出向も視野に入れたセミナーも開催していますので、ご関心ある方は弊所または星和ビジネスリンクの担当者にお声がけいただければ嬉しく思います。

【筆者略歴】
池口 武志(いけぐち・たけし) 一般社団法人定年後研究所 理事 所長
1986年 日本生命保険相互会社入社。
本部リテール販売部門、人事、営業企画、契約管理、販売最前線等で長く管理職(部長、支社長など)を経験し、多様な職種の人材育成にかかわる。その間、オックスフォード大学 Diplomatic Studies修了。
2016年 研修事業も行う株式会社星和ビジネスリンクに出向。
「キャリア羅針盤®」の開発を統括。現在、同社取締役常務執行役員も務める。
2023年3月 桜美林大学大学院老年学修士課程修了。キャリアコンサルタント、消費生活アドバイザー、AFP、日本心理的資本協会理事、シニア社会学会会員
著書に『定年NEXT』(廣済堂新書 2022年4月)、『人生の頂点は定年後』(青春新書インテリジェンス 2022年10月)

【定年後研究所とは】
一般社団法人定年後研究所は、定年後の人生を豊かにするための調査研究を行う機関として2018年に発足致しました。人生100年時代の中で、特に、50代以上の企業人のセカンドキャリア支援・準備に向けた研究活動を行っています。
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2024/03/13
お知らせ 中高年社員にこそキャリア研修が必要だ(3)

ジョブ・クラフティングの機会としてのキャリア研修
 ~仕事の意味の捉え直し~

 中高年層に向けたキャリア研修の必要性について語る木暮淳子氏の連載3回目。最終回となる今回は、「ジョブ・クラフティングの機会としてのキャリア研修~仕事の意味の捉え直し~」をテーマにお話しいただきます。

ワーク・エンゲージメントの向上にジョブ・クラフティングが役立つ
 従業員のワーク・エンゲージメント向上に、ジョブ・クラフティング(Job Crafting)が役立つという研究が2020年頃から始まっています。しかも、高齢雇用者の活性化に有効であるとの指摘もあります。ジョブ・クラフティングとは、従業員一人ひとりが仕事に対する認知や行動を自ら主体的に修正していく取り組みのことです。例えば、退屈な作業や“やらされ感”のある仕事を“やりがいのあるもの”へと捉え直すこともジョブ・クラフティングの一つと言われています。

 こうした仕事の意味の捉え直しは、何かきっかけがなければ個々人が容易にできるものではありません。しかし、自己を内省する機会をつくることによってそれらを導き出すことができます。キャリア研修はその機会としてとても適しているのです。

ジョブ・クラフティングは、心の中に存在する考えを認知することから始まる
 私たちが実施している中高年向けキャリア研修では、同じ年代の人が集まり、「今、気がかりになっていること」を出し合うことから始めます。日頃心のどこかでなんとなく気にはなっていても、「まあ、いいか」と見ないように、あるいは考えないようにしてきたことを、この機会に立ち止まって考えるのです。そこでは、子どものことや、家族関係のこと、自身の老後のこと、健康のことなど、実に様々な項目があがってきます。このように考えることも内省の一つなのです。自身の考えを改めて認識し、同世代の人たちと相対化することができるのもキャリア研修の大事な側面です。

 また、今の自身を形成しているものや、強み・弱みのほか、仕事上の役割の変化に伴い、これからすべきこと、やりたいことについても考えます。そうすることで、日頃は考える機会がないようなことの中から、これからの人生に大切なことを一つひとつ明らかにしていくことができるのです。

 いまの中高年層は、これまで全速力で走ることをよしとされてきたわけですが、私は、もっと立ち止まる時間が必要だと考えています。ジョブ・クラフティングにおいても、まずは立ち止まり、自身の今の心の奥底にある気持ちや考えを明らかにしてみることから始めます。

図1 中高年社員の気がかりを表層化する(例)
□子どもの教育のことが心配だ
□子どもが思春期になっていろいろと難しい
□子育てが一段落して専業主婦だった妻が働き始めるなど、家族の中で何らかの変化が起きている
□親の介護のことが心配だ
□以前に比べて、健康に対する関心が増してきた
□自分自身の疲労回復が遅くなったと感じる
□これから自分ができる仕事のことや出世のことなどについて考えるようになった
□老後に漠然とした不安を感じる
          出所:星和ビジネスリンク キャリア羅針盤「ライフキャリアプラン 第1章より」

「仕事の意味」「人生の意味」の捉え直しを促進するキャリア研修
 人は50歳にもなると、仕事の仕方や考え方が固定化してしまう人も多く見受けられます。それだけに、研修で変われるものなのか?との疑問も芽生えます。このような中高年社員が「仕事は単調なことの連続である」「昨日も未来もさほどそんなに変わらない」という仕事観をもっていたとしても、それは否定すべきものではありません。大切なポイントは、「なぜ、そのように自分は考えるのか」「本当にそうなのか」を立ち止まり振り返ること。「自分の活動の原動力は何か」であったり、これからの「仕事のあり方」「人生のありよう」をじっくり考えることで、仕事や人生の意味をより柔軟に捉えていく可能性が広がります。

 仕事を含めて人生は、偶然が支配することが多いものです。これまで運が良かったこともあれば、悪かったこともあるでしょう。これらのことを、今一度振り返ることによって、あのときの出来事は起こるべくして起きたのだと、偶然を必然に変えていく見方も身についていきます。邂逅(かいこう)というコトバは、偶然にその人に会う、偶然ある出来事に遭遇する、といった意味で使われますが、邂逅によって、大きく人生が変わることもあります。

 これまで自分に起きた様々な出来事を振り返り、今の自分を形成しているもの(自己理解)を深めていくのもキャリア研修です。

ジョブ・クラフティングからポジティブ思考を養う
 仕事の境界に関する認知等を変えていくジョブ・クラフティングは、止まる、振り返る、ことによって、「切替える力」を養ってくれる機会です。自身がネガティブな考えに覆われていたなら、ほんの少しの勇気を出してプラスの方向への解釈を試してみたり、自身の中で固定化した考え方と向き合ってみてください。そのことが、思い込みの連鎖を断ち切り、視座を拡げてくれます。

 誰もが、仕事を通じて発展したいと心の底で思っているのではないでしょうか。良い仕事をしたい、貢献したいと考えているはずです。しかし、思っていたようにはいかないことも多々あります。哲学者であった九鬼周造氏は、「たとえ、自分には価値がないと思っていても、偶然の現在を受け止め、未来に自己を投企すると、思ってもいないような価値を生み出す可能性がある」と述べています。

 年齢や性別を問わず、未来という時間軸に向かって価値を生み出し、個々人の力を発揮してもらうために、ジョブ・クラフティングの機会を提供することは有効な手立てとなりえます。特に中高年社員にとっては、ポジティブなワーク・アイデンティティーへの転換につなげることができます。岸田泰則氏(法政大学大学院講師)は、「高齢雇用者のジョブ・クラフティング行動は、組織に対しては現役世代の育成につながり、個人に対しては仕事の満足度の向上や職場の人間関係の安定化に役立つ」と主張しています。学びは知識を詰め込むことではありません。正解探しではなく、考えることを促すことが必要です。これが、ジョブ・クラフティングの真の意味であると考えています。

(参考文献)
・岸田泰則(2019)「高齢雇用者のジョブ・クラフティングの規定要因とその影響 ―修正版グラウンデッド・セオリ-・アプローチからの探索的検討―」『日本労働研究雑誌』703,65-75


【筆者プロフィール】
一般社団法人ソシエトス 代表理事 木暮淳子
外資系食品メーカーのマーケティング、法人営業を担当し、英国勤務を経て2001年退職。
その後も外資系企業の新規事業開拓責任者、企業再生等の仕事に従事する。
2008年よりコンサルティング会社にて人材開発・組織開発を担当し、2016年に一般社団
法人ソシエトス設立。理事にわが国のキャリア形成支援第一人者で数多くの著書を持つ
筑波大学名誉教授・渡辺三枝子先生を迎え、個に寄り添ったミドルシニアのキャリア形成
を支援している。
現在、ライフ・キャリア開発研修を軸に、都市圏ミドルシニアの活躍の場として地方創生とマッチングする活動や、1on1キャリアコンサルティングで活躍中。


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2024/03/06
お知らせ 中高年社員にこそキャリア研修が必要だ(2)

中高年社員のワーク・モチベーションを高めるために必要なこと


会社の成長には中高年社員のエンゲージメント向上が不可欠

 中高年層に向けたキャリア研修の必要性について語る木暮淳子氏の連載2回目。今回は、「会社の成長には中高年社員のエンゲージメント向上が不可欠」をテーマにお話しいただきます。

 従業員の意欲や満足度、仕事への参画意識を重視する従業員エンゲージメントという概念が注目されています。これは会社の目指す方向を従業員がきちんと理解・共感し、その組織に誇りや愛着を持って能力を発揮できる状態を作るための経営手法のひとつであり、単に従業員満足度を高めて社員を組織につなぎとめることではありません。

 元々、組織心理学や経営学の研究、企業実践の中から派生してきたもので、近年同様に注目されている「パーパス」を中心に据えた企業経営とシンクロさせながら日本企業でも広がりを見せています。

 高い従業員エンゲージメントがある組織は、(1)業績向上 (2)モチベーション向上 (3)よい雰囲気の職場づくり (4)顧客満足度向上 (5)離職率低下 がみられると言われているのは、ご承知のとおりです。

 しかし、従業員エンゲージメントを高めて自律的で活力のある組織をつくろうという活動を推進していくうえでは、ワーク・モチベーションが低下した中高年社員がチームにいることはマイナスの影響をもたらしかねません。

中高年社員も巻き込みながら高エンゲージメント・チームを作る必要性
 筆者がキャリアコンサルティングを実施しているある中堅イベント会社では、新社長(48歳)が、バブル前入社の高年齢社員が70%を占める組織において、若手社員の離職が続く現状に危機感を募らせていました。知識も経験も豊富な中高年社員が仕事の要諦を押さえてくれるのはありがたいが、「定年まであと○年」と唱える高年齢社員のワーク・モチベーションの低下が、若手によくない影響を与えているというのです。

 よく聞く事例ですが、人手不足の中、貴重な若手社員が「辞めてしまう」、あるいは「やる気を失ってしまう」状況というのは大きな損失です。中堅企業にとっては、配置転換や新規採用で打つ手は限られています。また、大企業であっても80年代に揶揄されたような「窓際族」を維持していく余裕はもはやないでしょう。あらゆるチームのリーダーは、中高年社員も巻き込みながら高エンゲージメント・チームを作り上げ、目標達成に向けてマネジメントを推進していかなければならない、そんな時代となっているのです。

エンゲージメント調査の質問文から透けて見える理想のチームの姿
 2019年に米国のコンサルティングファームであるADPリサーチ・インスティチュートが、世界1万9千人の勤労者に対して8つの質問文(表1)を使って、従業員エンゲージメントの大規模調査を実施しました。これらの質問の答えに肯定的な評価をした回答者が多ければ、その組織は従業員エンゲージメントが高い組織と言うことができます。

ADPリサーチ・インスティチュートの8つの質問文

 この8つの質問文から、従業員エンゲージメントが高い職場では、従業員がその会社で働くことを心から喜び、メンバー同士がお互いの価値観を認めて信頼し合っていて、それぞれの強みを活かしながら仕事を遂行している様子や、困ったときにはサッとサポートを申し出てくれる仲間が隣にいる安心を感じることができる。そんな職場風景が透けて見えてきます。

 同調査の分析では、高エンゲージメントの組織をつくるためには、年齢に関わらず「孤独な仕事」ではなく、いかに一緒に仕事をする同僚との関係を作るか、そして、その同僚と質の高いやり取りができるかといった「チームづくり」の重要性を主張しています。大小を問わず会社組織は、意思決定の連続体でもあります。不確実性が高い経営環境では、謙虚に叡智を結集する必要があります。そのため、リーダーはチームを信頼し、働ける環境を整えていく必要があるのです。

 45歳以上64歳以下の雇用者数が雇用者全体の約43%(表2 総務省統計局「労働力調査」2022)に達している現状を踏まえると、中高年社員にもその能力を最大限発揮してもらうことが求められています。エンゲージメントの向上を図るため、チームの一員として中高年社員をオープンマインドで迎え入れ、個を尊重する雰囲気づくりが必要となっています。その際に、とりわけ重要になるのが、個に寄り添ってくれるリーダーの存在です。社員が直面している課題を理解し、社員のウェルビーイングに気を配ってくれるような伴走型のリーダーシップが求められています。

2022年 年齢階級別雇用者数

組織全体で中高年社員の役割を捉え直す
 「インポスター症候群(Impostor Syndrome)」をご存じでしょうか。これは「自分の成功や地位、あるいは自分の本当の実力を、外的な理由から周囲が過大評価している」と考えてしまう傾向のことです。そして、多くのリーダーが孤独になる要因のひとつに、「インポスター症候群」があると考えられています。筆者もこのようなリーダーに多く接します。

 仮に、リーダーがインポスター症候群に苦しんでいると仮定すると、これを支えていく人材が必要になります。この役割は、勿論、リーダーの上長に求められますが、中高年の方々にも、リーダーを支える役割としての期待が大きいのです。

 事例にあげたイベント会社の社長は、中高年社員の活躍の場として、若手から中堅、およびリーダーのサポート役としての役割を担ってもらうことにしたそうです。豊富な経験を振り返り、「自分もそうだった」と気づくことで、リーダーを支えることができるのです。業務遂行のみならず、チームメンバーの一人ひとりをケアしながらマネジメントを実施する現場リーダーには、大きな負担がかかってきます。一人のリーダーが孤高にそびえるのではなく、チームでマネジメントを推進できてこそ、組織の力が向上します。

中高年社員のワーク・エンゲージメントを引き出すキャリア研修の意義
 中高年社員のワーク・エンゲージメントを向上させるためのキャリア研修では、これからの職業人生を生きていくうえで、自身の感情に気づき、それをコントロールすることを学ぶこともひとつの目標です。「もう自分は終わりに近づいている」のではなく、「まだまだできることがある」と捉え直しをすることが必要なのです。もしかしたら、負の感情が自分の内面から湧いて来るかもしれません。例えば、同期が高い地位にいたり、社会で華々しく活躍していれば、「なぜ自分だけこのような境遇にあるのか」と考えてしまうこともあるかもしれません。しかし、「なぜ自分がそんな感情に振り回されるのか」
「なぜ他人と比較してしまうのか」「自分とは何者か」等について冷静に捉え直し、認知のあり方を前進する方向に変えることができれば、その感情に振り回されなくなります。キャリア研修で、「自分はどのような未来を恐れているのか」といった本質の議論に向き合い、自分を外からみつめる機会をもつことで、様々な不安、恐れといった感情は急速に影響力を失います。その機会としてキャリア研修を活用し、自分のこれからの人生について前向きに考えていただければ、それは非常に意義深いものとなり、単なる仕事やキャリアの探索に留まらず、生きるうえでの自信にもなっていきます。

(参考文献)
・『ダイヤモンド ハーバード・ビジネスレビュー』 2019年11月号:「チームの力が従業員エンゲージメントを高める」M.バッキンガム、A.グッドール著
・「労働力調査」(2022) 総務省統計局 年齢階級別雇用者数(5歳階級)


【筆者プロフィール】
一般社団法人ソシエトス 代表理事 木暮淳子
外資系食品メーカーのマーケティング、法人営業を担当し、英国勤務を経て2001年退職。
その後も外資系企業の新規事業開拓責任者、企業再生等の仕事に従事する。
2008年よりコンサルティング会社にて人材開発・組織開発を担当し、2016年に一般社団
法人ソシエトス設立。理事にわが国のキャリア形成支援第一人者で数多くの著書を持つ
筑波大学名誉教授・渡辺三枝子先生を迎え、個に寄り添ったミドルシニアのキャリア形成
を支援している。
現在、ライフ・キャリア開発研修を軸に、都市圏ミドルシニアの活躍の場として地方創生とマッチングする活動や、1on1キャリアコンサルティングで活躍中。



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2024/02/29
お知らせ 中高年社員にこそキャリア研修が必要だ(1)

中高年社員のワーク・モチベーションを高めるために必要なこと

 本号から3回にわたり、一般社団法人ソシエトスの代表理事であり、キャリアコンサルタント・研修講師としても活躍されている木暮淳子氏から、中高年層に向けたキャリア研修の必要性についてお話しいただきます。
 1回目となる今回のテーマは「中高年社員のワーク・モチベーションを高めるために必要なこと」です。

 人手不足が叫ばれる昨今、在籍する社員それぞれが年齢や性別等にかかわらず個人の能力を最大限に発揮し、戦力として活躍できる職場をつくることは、企業経営にとって大きなテーマのひとつであるといえるでしょう。

 しかし、現実はワーク・モチベーションを下げてしまった社員も多く散見され、企業の経営者や人事の方からは、「一度下がってしまった中高年社員のワーク・モチベーションを上げることができるのか」「そのためには何をすべきか」と質問を受けることもしばしばあります。

「やる気」の低下は40代の早い時期から起きている
 中高年社員が活力を失う状況があります。例えば、「仕事上の責任が与えられない」「期待されていない」といった、“挑戦への領域”が失われた場合や、「現在の職位以上の昇進可能性が非常に低い」といったキャリア上の行き詰まりを感じる状態などです。

 この活力の低下については、50代の役職定年者や、60歳以上の定年後再雇用者よりも、むしろ40~54歳の非管理職の方が仕事への意欲に課題があるという研究結果(石山(2021))もあり、40代の割と早い時期から「やる気」を失ってしまっている状況が存在していることがわかっています。

 これまで50代社員のライフ・キャリア研修を担当してきた筆者は、最近依頼を受ける研修の対象年齢が下がってきていることを実感しています。昇進の可能性が低いと認識したり、成長を実感できない状態が長く続く、または周りから成果を期待されない状況は、役職定年期だけに引き起こされるのではなく、組織によっては40代から生じている場合もあるのです。それだけに、これらの人が早いタイミングからキャリア研修を通して、内省する必要性を強く感じています。

重要なことは「裁量度」と「人間関係の良し悪し」
 ワーク・エンゲージメントとは、ご承知のとおり、“仕事上のやる気”に非常に関係がある概念で、近年「エンゲージメント経営」を採り入れる企業も増えてきています。

 ・仕事から活力を得て、生き生きしている。  「活力」がある。
 ・仕事に誇りとやりがいを感じている。    「熱意」を持つ。
 ・仕事に熱心に取り組んでいる。       「没頭」する時間がある。

 これら3つがワーク・エンゲージメントと定義されています。職務満足感や、離転職意思の低下、役割外の自発的な行動などに肯定的な影響を与えることも知られています。

 (独)労働政策研究・研修機構が実施した「人手不足等をめぐる現状と働き方等に関する調査(2019)」をもとに厚生労働省が作成した「令和元年版 労働経済の分析」によると、日本企業の正社員のワーク・エンゲージメントは、「年齢が高いほど」「職位・職責が高くなるほど」そのスコアは高いという調査結果がでています(図1)。わが国では、年齢が高いほど職位や職責が高い傾向にあり、職位が高まれば、自分で仕事をコントロールできる範囲が広がることや挑戦することが多いため、やりがいや成長実感が得られやすいからではないかと分析しています。


働きがいの概況(正社員)


 また、調査対象者に1年前との比較でワーク・エンゲージメントのスコアの違いを聞いたところ、特に、仕事における「裁量度」と「職場の人間関係の良し悪し」の変化がスコアに大きな影響を与えているということも同調査によって示唆されています。ある程度自分で仕事をコントロールできる立場であることと、良い人間関係の中で仕事ができることが「仕事上のやる気」を引き出していると考えられます。

 この結果を見ると、中高年社員にいつかは訪れる「役職定年」などのポストオフは、ワーク・エンゲージメントの重要な要素のひとつであった「裁量度」が減少することを意味し、それがモチベーションの低下を生み出していることが容易に理解できます。「ポストオフ前後の気持ちの変化」について、リクルートマネジメントソリューションズ(2021)が実施したアンケート調査(n=766)によると、一度やる気が下がったとする人は6割近くにのぼり、その後も下がったままという人が4割前後(再浮上した人は2割前後)いるという結果が出ています。このことは、ポストオフを経験した、実に4分の1の人がやる気を失ったままという状況を示しており、結果として労働意欲の低い中高年社員層ができあがっているわけです。

自分を客観的に見るきっかけとなるキャリア研修
 中高年社員のワーク・モチベーションの低下を食い止め、できるかぎり向上・維持させるためには何が必要なのか、近年盛んに研究が進められています。環境変化に合わせて常に能力を磨くリスキリングの努力が中高年社員に求められていると同時に、会社側も制度や風土に関する対応策を構築することが欠かせないでしょう。

 筆者は中高年社員のワーク・モチベーションをいかに向上させるかという観点からの活動に取り組んできました。その中で、「キャリア研修」で、全てを解決することはできないが、効果的であるとの見解に至っています。その理由のひとつは、研修という場で、日常からいったん離れ、これからの人生について他者と共に考える時間を持つことが、自分を客観的に見つめる視野を得ることになり、そのことが深い内省の時間をもたらし、人生の位置づけや仕事の意味を深く認識することに繋がるからです。また、そうすることで、自分を落ち着かせることもできるようになります。仮に同期が高い地位に就いていても、もう比較することもなくなります。また、他者も同じ感覚であることを知れば、安心することもでき、前に向かって歩き出そうという意欲もわいてきます。これが内省する強みです。

 ふたつめの理由は、こうした内省が自らのこれからの役割について、考えを深めることに繋がるということです。ある方は組織運営における知識力向上に役立とうと考えたり、若い人たちに技術を伝承していこうと考えたり、その会社で弱いとされている部分に積極的に関与して役に立とうと行動計画を立てるなど、期待役割を別の観点から見いだせるようになりました。中高年を対象としたキャリア研修では、現在のご自身の位置から、ある程度の方向性を見いだしていくことができるのです。

 このように、中高年社員のワーク・モチベーションは、ご自身の内面をしっかりと認識することで向上可能だと捉えています。キャリア研修を受講した中高年社員がこれまでの経験を大切にしながら、他者と共に考え、年齢の枠も乗り越え、これからも組織で活躍し続けられる人材となることを期待しています。

(参考文献)
 ・石山(2021):「中高齢労働者によるジョブ・クラフティングの規定要因の解明」石山恒貴
 ・(独)労働政策研究・研修機構(2019):「人手不足等をめぐる現状と働き方等に関する調査」
 ・厚生労働省(2019):「令和元年版 労働経済の分析」
 ・リクルートマネジメントソリューションズ(2021):「ポストオフ・トランジションの促進要因-50~64歳のポストオフ経験者766名への実態調査」



【筆者プロフィール】
一般社団法人ソシエトス 代表理事 木暮淳子
外資系食品メーカーのマーケティング、法人営業を担当し、英国勤務を経て2001年退職。
その後も外資系企業の新規事業開拓責任者、企業再生等の仕事に従事する。
2008年よりコンサルティング会社にて人材開発・組織開発を担当し、2016年に一般社団
法人ソシエトス設立。理事にわが国のキャリア形成支援第一人者で数多くの著書を持つ
筑波大学名誉教授・渡辺三枝子先生を迎え、個に寄り添ったミドルシニアのキャリア形成
を支援している。
現在、ライフ・キャリア開発研修を軸に、都市圏ミドルシニアの活躍の場として地方創生とマッチングする活動や、1on1キャリアコンサルティングで活躍中。



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2024/02/20
セミナー情報【公開セミナー】一般職女性の高い管理職志向が明らかに!

  2024年 星和Career Next 特別セミナー
定年後研究所・ニッセイ基礎研究所 共同調査研究
「中高年女性社員の活躍に向けた現状と課題」

 65歳までの雇用確保義務の経過措置終了まで、あと1年とわずかになりました。 弊社では、今年も星和Career Next(公開セミナー)を通して、企業に勤務する中高年社員のキャリア支援に関する情報を発信してまいります。
 今回のセミナーでは、一般社団法人定年後研究所と株式会社ニッセイ基礎研究所が昨年実施した最新の共同調査研究の結果をもとに2人の講師からお話をいただきます。

≪本調査の目的≫
 大企業が取り組む中高年社員を対象とした「キャリア支援(活性化への取組)」では、男性の総合職を前提としていることが多く、「女性活躍推進への取組」においても、若手や中堅層が対象となることが多いと感じられます。このことから、本調査では中高年女性の一般職層に焦点をあて、就労意識や働く環境認識を明らかにすることで当該層の活性化に向けた企業の環境整備を考えていただくことを目的としています。

<開催概要>
■主   催:株式会社星和ビジネスリンク
■開催日時:2024年3月14日(木) 13:30~15:00
■開催形式:オンライン(Zoom)
■定   員:先着300名

お申し込みはこちらから


※お申し込みをいただいた方には、後日視聴のための事前登録のURLをご案内いたします。
※競合他社・同業者からのお申し込みは、視聴をお断りさせていただくことがあります。

【第一部】
「中高年女性正社員のキャリアや管理職に関する意識調査 結果報告」

 株式会社ニッセイ基礎研究所
 生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室 兼任
 坊 美生子(ぼう・みおこ)氏


*セミナーでは、大企業に勤務する45歳以上の正社員の女性1,326名に実施したアンケートをもとにお話しいただきます。

坊 美生子氏




[講師Profile]
神戸大学大学院修士課程修了後、2002年読売新聞大阪本社に入社し、大阪本社社会部や東京本社社会部に在籍。厚生労働省などを担当し、労働問題を中心に取材する。2017年ニッセイ基礎研究所入社。生活者の視点から、中高年女性の暮らしや雇用、消費等について研究を行っている。老後の女性の生活水準向上と、日本のジェンダーギャップ解消を目的として、女性活躍推進の調査研究にも力を入れている。

【委員活動】
 2023年度  「次世代自動車産業研究会」幹事
 2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員


【第二部】
「ダイバーシティ・中高年社員活躍に関する大企業取組インタビュー調査 結果報告」

 一般社団法人定年後研究所 理事所長
 池口 武志(いけぐち・たけし)氏


*セミナーでは、11社の大企業に勤務する人事担当者へのインタビューを もとにお話しいただきます。

池口武志氏


[講師Profile]
1986年 日本生命保険相互会社入社
本部リテール販売部門、人事、営業企画、契約管理、販売最前線等で長く管理職(部長、支社長など)を経験し、多様な職種の人材育成にかかわる。その間、オックスフォード大学 Diplomatic Studies修了。
2016年 研修事業も行う星和ビジネスリンクに出向。キャリア羅針盤の開発を統括。現在、同社取締役常務執行役員も務める。
2023年3月 桜美林大学大学院老年学修士課程修了。キャリアコンサルタント、消費生活アドバイザー、AFP、日本心理的資本協会理事、シニア社会学会会員

 著書に『定年NEXT』( 廣済堂新書 2022年4月)、『人生の頂点は定年後』(青春新書インテリジェンス 2022年10月)がある。


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2024/02/14
お知らせ 人生100年時代の理想の働き方とマネープラン(3)

人生100年時代のマネープラン~“勘違い”していませんか?~

 得丸氏による連載の最終回、今回は長くなった老後を活力的に過ごすために「マネープランとライフプランは車の両輪である」という考え方についてお話しいただきます。

「人生100年」の時代
 2016年に『LIFE SHIFT~100年時代の人生戦略』の日本語訳版(リンダ・グラットン / アンドリュー・スコット著 池村千秋訳:東洋経済新報社)が出版されて以来、「人生100年時代の到来」が当たり前のように語られるようになりました。

 『人生が長くなるとやりたいことができる時間が増える半面、長い老後をどう暮らすのかという不安が生じる。「人生100年」という言葉は、国民にその現実を突きつけた』。日本経済新聞のコラム(大機小機:2019年)にこのような記述がありました。

50歳代世帯の8割以上が「老後不安」を抱えている
 日本銀行の金融広報中央委員会が行った調査によると「老後生活に対する不安」について、このような結果がでています。

 世帯主が20歳以上80歳未満の単身世帯(2,500世帯)および二人以上世帯(5,000世帯)に、「あなたは、老後の暮らしについて、経済面でどのようになるとお考えですか」と聞いたところ、単身世帯で79%、二人以上世帯で78%が「心配である」と回答しています。

 世帯主が50歳代の世帯においては、単身世帯で85%、二人以上世帯で83%が「心配である」と思っていることが分かりました。特に単身世帯では約6割が「非常に心配」と回答しています。
(図表1参照)

50歳代世帯の老後不安


 この調査結果を見る限りでは「老後不安はあって当たり前」であることが分かりますし、「十分な金融資産がない」、「年金や保険が十分でない」というのが“不安の要因”であるようです。

 昔からライフプラン(とりわけリタイアメントプラン)の役割は「老後不安の払拭」と言われてきました。しかしながら、人生100年という「誰も経験したことのない老後」を想定した時、「いかに貯蓄を増やすか」に終始していた従来型ライフプランでよいのでしょうか?

マネープラン(ファイナンシャルプランニング)の役割も変わった
 「現役時代はとにかく貯蓄に励みましょう、そしてリタイア期を迎えたら節約しながら上手に貯蓄を取り崩していきます」というのが、従来のマネープラン(ファイナンシャルプランニング)の定石でした。

 マネープランの主要ツールである「ライフイベント表」や「キャッシュフロー表」を使って、家計の将来収支を想定し、結果としての金融資産残高の推移を見通すというプランニングのプロセスは変わっていませんので、前述の“定石”そのものは間違いではありません。

 ポイントは、マネープランの目的である「フィナンシャルゴール」の捉え方(認識)にあるのだと思います。「ライフイベント表」や「キャッシュフロー表」を使ったプランニングのプロセスのゴールが「老後に向け1円でも多く貯める」という老後不安の払拭にあった従来の考え方に対して、これからは、家計の将来不安・課題を想定して解決し「理想の生き方を実現する」をゴールと捉えることです。(図表2参照)

マネープランの意義やあり方も変わってきた


 筆者のファイナンシャルプランニング相談の経験からすると、「60歳定年、人生80年」と言われていた時代では、現役時代にがんばって1円でも多く貯蓄し、「定年後20年間くらいは……」という水準の老後資金のプランニングは比較的現実的であったように思います。ところが、「人生100年、定年後35~40年間」と言われても、「これだけあれば大丈夫」という水準は提示できないのです。なぜなら、老後生活が「金融資産を取り崩して生活する局面」に入ってしまうと、いくら十分な蓄えがあっても「残高が減ることによる不安」は必ず出てくるからです。

 人生100年時代においては、“拭いきれない不安” にいつまでも囚われ続けるよりも、いかに“理想の生き方”を追求するかということに関心を置き注力するかが大切なのではないでしょうか。場合によっては「苦労するかな?」ということになるかもしれませんが、ゴールが「理想の生き方の実現」であれば少々の苦労もいとわないで前向きになれるでしょう。

これからの「ライフプラン研修」には「マネープラン」が必須
 フィナンシャルゴールを「理想の生き方の実現」とした場合に大切になってくるのが、定年前後の「働き方」だと思います。第1回目で紹介した「生計就労から生きがい就労へいかにソフトランディングするか」ということです。

 従業員のための「マネープラン研修(セミナー)」を、とりわけ50代以降のシニア社員向けに実施する場合は、「生計就労」としての家計収支、「生きがい就労」としての家計収支を意識した研修であることが望まれるのだと思います。

 「個人のプライバシー領域である“家計”に過度に立ち入るべきではない」、「定年後の家計は会社の責任外である」などの考え方から、シニア向けマネープラン研修が「単なるマネー関連情報提供の場」であったり、「定年前後の諸手続きのガイダンス」で終わってしまうのはいかがなものでしょうか。

 『キャリア羅針盤®』(eラーニングプログラム)では、「ライフキャリア」と「マネープラン」の二つの講座をメインプログラムとして構成しています。最近では、『キャリアプランとマネープランは車の両輪』という考え方を持つ人事部門も増えてきました。

 キャリアプランにもとづき「理想の生き方の実現」を追求するためのマネープラン研修を実施することで、結果として「キャリア自律」を促すことになったという事例も出てきています。(終)
*『キャリア羅針盤®』は株式会社星和ビジネスリンクの登録商標です。

【筆者プロフィール】
得丸英司(とくまる・えいじ)
一般社団法人定年後研究所 特任研究員、CFP®資格認定者
1957年生まれ。
日本生命保険相互会社の営業教育部門で25年間FP業務に従事。日本FP協会常務理事・特別顧問、慶應義塾大学大学院講師、定年後研究所初代所長などを歴任。
著書:『「定年後」のつくり方』(廣済堂新書)


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2024/02/09
お知らせ 人生100年時代の理想の働き方とマネープラン (2)

20年以上前から「生きがい就労」を実践する集団があった
~「ディレクトフォース」の存在~

 得丸英司氏による連続コラム、前回は生計のための就労から、生きがいを得るための就労へとシフトするときに必要な「マネーの基礎知識」についてお話をいただきました。
 2回目となる今回は、得丸氏自身もメンバーとして活動している「一般社団法人ディレクトフォース」を通じた「生きがい就労」についてお話しいただきます。

●社会貢献とやりがいの両立を目指したシニア集団
 私が所属する「一般社団法人ディレクトフォース(DF)」は、“世界のシニアの先駆者集団”を目指して活動中で、昨年創立23年目を迎えました。

 DIRECTFORCE(DF)は、DirectorとForceを合体させた名前で、現在会員数が約600名、会員は企業や団体をリタイアした方ばかりで、平均年齢は73歳のシニア集団です。

 メンバーは「社会貢献を通じ、価値ある生き方を求める」「自己研鑽に励み、充実した生活を求める」「健康に留意し、交友の輪を広げ、人生を楽しむ」ことを活動理念としています。

 現在、DFには教育支援や企業支援を実践する7つのグループ、10の部会・研究会、33の同好会があり、まさに「生きがい就労」のデパートのようです。メンバーはいずれかに所属して、各々の生きがいを見つけています。

●子どもたちの「驚き、喜び」に魅せられて
 DFでは学校などで理科実験の出張授業を行っています。現役時代に製造業などで技術系の仕事に従事してきた経験豊富な80人ほどのメンバーが、「子どもたちに理科好きになってほしい」という想いで年間200回を超える授業を展開しています。

 出張授業はすべてメンバーが手を動かして準備をします。実験の材料も「100円ショップ」などで調達した材料をつかって自らつくり出すという手間の掛けようです。

 様々な業界の経験者がアイデアを出し合って、「墨流しで絵葉書をつくろう」「エタノールで船を走らせよう」「光の花を咲かせよう」等々、全部で25もの実験テーマをラインアップしています。

 それだけに、「すごーい!」「えっ!どうして?」「なるほど!」といった、子どもたちの驚きや喜びに接したときの満足感が金銭にも勝る“最高の報酬”になるといいます。

 DFの中でも理科実験グループの活動は、経済的事情よりも「やりがい」に軸足を置いた「生きがい就労」の典型事例と言えます。

出張授業の様子


●ビジネスの世界での貢献活動で報酬を得る
 理科実験グループの活動は、DFの「教育支援活動」の代表例ですが、DFでは会員の経験や知見を企業の経営や企業活動に活かすための「企業支援活動」も展開しています。

 例えば、優れた技術力を持っているものの、営業体制が脆弱なため、販路開拓に苦戦している企業からのヘルプ要請に対しては、DF会員の豊富な人脈・企業脈が活かされます。また、「自社ブランドを立ち上げたい」という若手経営者等の場合は、現役時代に流通・小売業でマーケティング・ブランディングに従事していたDF会員の腕の見せ所となります。

 ある大企業の工場に出入りしている中小企業経営者には、大企業の工場長経験者であるDF会員が寄り添って「伴走支援」を行います。なかには、毎月DFの事務所を訪れて、DF会員と雑談的に様々な話をして帰る経営者もいます。

 このようにDFの企業支援活動は、DF会員の経験、知識、スキル、人脈等を無駄に眠らせることなく、現在の企業経営に活かすことによって社会に貢献しようとするものですが、支援対象が営利企業の場合は、ビジネスとしての対価を求めています。その報酬形態は、コンサルティング料であったり、紹介料や成約報酬であったり様々です。

 この企業支援活動からの収入は、社団全体の収入のかなりのウエイトを占めていて、社団運営のための物件費、人件費捻出に大きな役割を担っています。また、社団が得る報酬は、企業支援活動に従事するDF会員にも還元されています。

企業支援活動

●「生きがい就労」実現のために
 DFを立ち上げた頃には、会社人生の後に「自走人生」がやって来る「人生ふた山論」といった、私が定年後研究所の所長として提唱していた考え方も無ければ、「プロボノ」「越境学習」等といったコトバも無かったでしょう。

 「会社を卒業してもまだまだ元気なのだから、何かをやらなくては……。どうせなら、世のためになることをしよう」というように“自然発生的”にDFは出来たのではないでしょうか。

 理科実験グループが生まれたのも、あるイベントで「理科実験をやってくれないか」と頼まれたのがきっかけで、最初は「子ども相手の理科実験を手伝うのか?」という疑問の声も多かったようですが、実際にやってみると、喜んでくれた子どもたちの反応に強く背中を押されて、レギュラーの貢献活動として続けていくことになったそうです。

 「生きがい就労」のネタは身近にたくさんあると言われていますが、個人の努力や企業単独で準備するには、まだハードルが高いようにも思います。“自然発生的に”生まれたDFですが、世の中に「生きがい就労」の道を提供できる団体としての期待は大きいのではないでしょうか。DFとしても「生きがい就労」を模索する“現役会社員”に門戸を開放するなどの展開は検討の余地がありそうです。

 私は今後、70歳までの雇用を考えるとき、このような社会貢献活動も一つの選択肢となるのではと考えています。

【筆者プロフィール】
得丸英司(とくまる・えいじ)
一般社団法人定年後研究所 特任研究員、CFP®資格認定者
1957年生まれ。
日本生命保険相互会社の営業教育部門で25年間FP業務に従事。日本FP協会常務理事・特別顧問、慶應義塾大学大学院講師、定年後研究所初代所長などを歴任。
著書:『「定年後」のつくり方』(廣済堂新書)


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2024/01/31
お知らせ 人生100年時代の理想の働き方とマネープラン (1)

「生きがい就労」との付き合い方~
65歳までの雇用確保いよいよ完全義務化へ

 本号から3回にわたって、一般社団法人定年後研究所 特任研究員で元日本FP協会常務理事[CFP®]の得丸英司氏より、「人生100年時代の理想の働き方とマネープラン」についてお話しいただきます。
 1回目となる今回は、生計のための就労から、生きがいを得るための就労へとシフトするときに必要なマネーの基礎知識についてです。

●「生計」から「生きがい」へ
 人生100年時代に相応しい働き方をイメージすると、次のようなパターンが一つの理想ではないかと思います。それは、「65歳までは生計のための就労(=生計就労)に勤め、その後は85歳くらいまで生きがいのための就労(=生きがい就労)に従事する」というものです。(図表1参照)

 このように語るのはニッセイ基礎研究所ジェロントロジー推進室の前田展弘(まえだ・のぶひろ)上席研究員です。前田氏と筆者のかかわりは、2006年の東京大学ジェロントロジー(高齢社会総合研究)寄付研究部門創設の前後からですので、かれこれ20年近くになります。2018年の定年後研究所設立の際にも、高齢者就労に関する専門家の立場からご指導をいただきました。

人生100年時代の理想の働き方・活躍の仕方イメージ

 「生きがい就労」について、前田氏はさらに次のように述べています。
「65歳からの生きがい就労は、現役当初と同じような働き方ではなく、週2~3日、1日2~3時間くらいの軽度な仕事です。<中略>それくらいの負荷で自分のペースで高齢期も働けることはむしろ恵まれた環境と言えるのではないでしょうか」

●「生きがい就労」を視野に入れたマネープランを
 図表2は「60歳からの収入の構図」について概観したものです。筆者が、『キャリア羅針盤®~マネープラン』(eラーニングプログラム)で履修ガイダンス研修を行う際に使用しているものです。年金等の各制度の概要を全体的に俯瞰できるようにまとめたものなので、全ての個人の事例に必ずしも一致しているとは限りませんが、『キャリア羅針盤®~マネープラン』において「ライフプランシミュレーション(キャッシュフロー表)」を作成する際には不可欠の基礎資料となるものです。

 今回は、前田氏の提唱する「65歳までの生計就労と、その後の生きがい就労」を前提とした“概観図”に修正を加えてみました。

60歳からの収入の構図

 「構図」では、60歳以降の収入を、
(1)勤労収入(自ら稼ぐ収入)
(2)国からの収入(公的年金)
(3)企業からの収入(退職金、企業年金等)
の3つに分類しています。

 このうち「勤労収入」に該当するのが、前田氏のいう「生計就労や生きがい就労による収入」です。
 従業員個人としては、勤務先の60歳以降の雇用・勤務形態や賃金水準等の処遇がどのようになっているのかをきちんと把握しておく必要がありますし、公的制度の改正等の情報についても注意しておかなければなりません。ですので、企業の立場としては、従業員への適切な情報提供に努める必要があります。

 公的制度の改正等については、以下の通り2025年度に転機を迎える制度改正があります。
(1)雇用保険法にもとづく高年齢雇用継続給付の縮小(2025年4月施行)
⇒同給付は、60歳から65歳未満の賃金の低下を補償するものですが、給付率が10%に引き下げられる(現行15%)とともに段階的に廃止されることになっています。なお、10%適用になるのは、2025年4月1日以降に新たに60歳になる労働者からです。

(2)高年齢者雇用安定法における65歳までの雇用確保義務の経過措置の終了(2025年3月末)
⇒企業が導入する継続雇用制度の適用を、年齢により制限できる経過措置が終了となりますので、65歳まで継続雇用を希望する従業員について「希望者全員雇用」の義務が発生するようになります。

●必ずしも“雇用”を前提としない「生きがい就労」
 前田氏の提唱する「生きがい就労」では、継続雇用(再雇用)や再就職等のように雇用されるケースばかりを想定しているわけではありません。「起業・独立」やNPO等の「地域貢献活動」、あるいは「協同労働」「ボランティア活動」等様々な選択肢を想定しています。(図表1参照)
 「65歳からもこうした様々な働き方、活躍の仕方がある、自分のキャリア・人生を拡げられる可能性があるということを認識いただいたうえで、高齢期の働き方・活躍の仕方について一度考えてみてください」(前田氏談)

 マネープランのうえでの「収入構造」としてとらえると、まず「雇用形態か否か?」という点がポイントになるでしょう。
〇雇用による勤労収入が「給与所得」であれば、65歳になって取得する「老齢年金受給 権」との兼ね合いを考慮しなければなりません。老齢厚生年金が「在職老齢年金」に該当すると、本来の年金額の削減を受けることになるからです。
⇒ポイントは、給与を受けながら働く際に「厚生年金の被保険者」であるかどうかの確認が必要です。

〇「起業・独立」しての稼ぎが、「事業所得や雑所得」である場合で、厚生年金の被保険者ではないケースは、在職老齢年金の適用外ですので、本来の年金額の削減は心配ありません。

〇65歳以降何らかの収入が得られる場合は、老齢年金の受給開始時期を任意に遅らせる申請ができます(繰下げ受給)。その場合、1か月繰り下げるごとに本来の年金額が0.7%ずつ増加します。計画的に年金額を増やすことができるのです。なお、繰下げ受給は、老齢厚生年金、老齢基礎年金ごとに繰り下げることができますので、配偶者とともにダブルインカムの世帯であれば、それぞれが「老齢厚生年金、老齢基礎年金の両方を繰下げる」「両方ともに繰り下げない」「どちらか一方だけを繰下げる」という選択肢を持っていますので、全部で16通りの受給パターンがあることになります。

〇退職金収入については、勤務先によって制度が異なりますが、「一時金受取」か「分割受取(企業年金)」かによって“収入時期”が異なってきますし、企業年金の場合であっても「一時金受取、確定年金受取、終身年金受取」などの選択余地がある等、他の収入との兼ね合いを考慮しなければなりません。

 このように、「どのような生きがい就労にするのか」によって、収入の構図が変わってくるのです。このことが「キャリアプランとマネープランは車の両輪」といわれる所以です。
 昔から多くの企業で実施されている「マネー研修(セミナー)」ですが、マネー知識の詰め込みだけでは役に立ちません。『キャリア羅針盤®』をベースにしたマネープラン講座では、この「収入の構図」をイメージするところから始めます。

 筆者も昔やっていた「我が国の公的年金制度は、このようになっていまして……」といったマネー研修はすっかり影を潜めています。

次回は「生きがい就労の実例」についてお伝えいたします。

【筆者プロフィール】
得丸英司(とくまる・えいじ)
一般社団法人定年後研究所 特任研究員、CFP®資格認定者

1957年生まれ。
日本生命保険相互会社の営業教育部門で25年間FP業務に従事。日本FP協会常務理事・特別顧問、慶應義塾大学大学院講師、定年後研究所初代所長などを歴任。
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2024/01/24
お知らせ 中高年女性社員「一般職層」の高い管理職志向が明らかに 定年後研究所 News Letter

定年後研究所・ニッセイ基礎研究所 共同調査研究
「中高年女性社員の活躍に向けた現状と課題」の一部を初公開

 一般社団法人定年後研究所と株式会社ニッセイ基礎研究所は、一般職の女性社員のキャリアに関する詳細な意識調査等を実施しました。本号では、これらの調査から見えてきたことを定年後研究所の池口所長から紹介していただきます。

●一般職の女性社員を対象にしたアンケート調査・企業インタビューを実施
 定年後研究所は、ニッセイ基礎研究所と共同で中高年女性社員、とりわけ一般職層に焦点を当てて、当該層のキャリアに関する意識調査(Webモニターアンケート調査)を行いました。並行して企業の人事部門(ダイバーシティ担当部署やシニア社員活躍担当部署)に対してキャリア形成支援に関する取り組みについてインタビュー調査を実施しました。

 調査の全貌をまとめたレポートは2月に公開予定ですが、メールマガジン読者の皆様には、ほんのさわりだけですが、その概要をお届けします。

● 調査の背景
 役職定年や定年後再雇用を受けての中高年社員をめぐる処遇面での厳しい現実が、時折マスメディアやビジネス雑誌にセンセーショナルに取り上げられています。私たち定年後研究所も、これまで中高年社員の活性化に焦点を当てた企業人事部門の取り組み内容のヒアリングや、中高年社員当事者のキャリア価値観を探るインタビュー取材などに力を入れてきました。ただ、これらの調査と発信は、対象を暗黙裡に「総合職男性管理職」にしていたケースが多かったのではないかと思います。

 一方、ダイバーシティ経営に目を移すと、その本丸とも言える「女性活躍推進」は多くの企業で既に長期間にわたって取り組まれ、広く、深く展開されていることは衆目の一致するところです。「女性管理職占率〇〇%」などの経営目標が掲げられ、若手中堅の女性社員を対象にして管理職候補の裾野拡大に力が注がれ、これらの努力が着実に実を結びつつある企業が多いことを実感しています。ただ、これらの取り組みも暗黙裡にその対象を「総合職女性」や「総合職転換に応じた若手中堅女性社員」としているケースが多いのではないでしょうか。

●共同調査の概要
 Webモニターアンケート調査は、大企業勤務の45歳以降の女性正社員(総合職・一般職・定年後再雇用に区分)1,300人強を対象に「就業価値観(働く動機、管理職志向、仕事への姿勢等)」「これまでの経験(転勤、研修、産休・育休、介護、学び直し等)」「今後希望する働き方(いつまで働きたいか、会社への支援要望等)」「プライベート情報(家族状況、収入水準、健康状態等)」「属性情報(学歴、業種等)」の幅広い視点で行われました。

●調査から見えてきたもの
 特徴的だったのは、「50代後半の一般職層」で約2割が管理職への登用希望を持っており、同じ年代の総合職層との違いがさほど大きくないとの結果であります。50代の一般職層は、これまでの社内研修受講経験が少なく、管理職登用研修の受講率はわずか5%程度でありました。ただ約2割の登用希望層は、経験はなくても管理職登用研修や、転勤を伴う異動、チームリーダー職務への希望が極めて高く、機会の付与次第では女性管理職登用の有望な候補層と見なせることが明らかになりました。併せて当該層は「高度な仕事へのチャレンジ意欲」や「業績への貢献意欲」も旺盛であることから、彼女らを活かす職場でのマネジメントや人事制度運用が重要と言えるでしょう。

 企業人事部門に対してのインタビュー調査は、様々な業種の日本を代表する大企業11社からお話を伺うことができました。
 大半の企業では、ダイバーシティ担当者とシニア活躍担当者にご同席をいただき、「社名は一切非公表」を前提に、「中高年社員(50~60代)の活性化」「女性活躍、ダイバーシティ推進」「中高年女性社員への期待」の3つの視点で、半構造化インタビュー方式で比較的自由にお話を伺いました。

 結果として、
・ポストオフ後のシニア社員の活躍に関しては、経験を活かせるプレーヤー型のポスト開発の検討が進みつつある。
・女性活躍に向けては、意識改革の機会提供や、働きやすさに配意した環境整備等メニューは出そろった感があり、今後は制度の円滑な運用や、人物本位の登用に焦点が当たってきている。
・中高年女性の中には、初めて全国転勤を希望する層が出てきたことや、高い実務力とコミュニケーション能力を活かす方向での活用対策・期待感に言及する企業も数多く見られる。
このような点が特徴として見えてきました。

 2月の完成版レポートには、11社の具体的な取り組み内容も記載しておりますので、ご期待いただければと存じます。

 当レポートにご関心をお持ちの方は、定年後研究所Webサイトの「お問い合わせ」より、「中高年女性社員の活躍に関するレポート希望」の旨のご連絡をお願い申し上げます。


【筆者略歴】
池口 武志(いけぐち・たけし) 一般社団法人定年後研究所 理事所長
1986年 日本生命保険相互会社入社。
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2024/01/16
お知らせ 2024年をミドル・シニアの行動変容元年に

定年後研究所2024年年頭所感

 明けましておめでとうございます。今年も、星和ビジネスリンクのメールマガジン「星和HRインフォメーション」をよろしくお願い致します。2024年最初のお届けは、一般社団法人定年後研究所の池口所長の年頭所感です。

 新年おめでとうございます。定年後研究所の池口です。定年後研究所では、昨年から4つの新たな取り組みを進めています。

●早稲田大学と共同で進める講座「キャリア・リカレント・カレッジ」
 1つ目は早稲田大学と産学協働で創設した「キャリア・リカレント・カレッジ(CRC)」です。
 主に50代半ばから後半にかけた、異業種からの多彩な受講生に、昨年の9月末から今年3月末までの半年間にわたる「キャリア探索と知識と実践」の融合プログラムに自費で参加いただいています。平日夜間と土曜日中心の講座やワークショップでは、多様なキャリアや価値観が交錯しあう中で、新しい自分の発見や自らの可能性の広がりが展開されています。受講生の皆さんは、決して転職ありきではなく、自社で働く意味合いを再構築したい、後進世代を支えつつ自らも成長を続けたい、そして定年後も社会に貢献し続ける自分でありたいとの旺盛な自己実現欲求を発露されており、早稲田大学日本橋キャンパスで新しいミドル・シニアのロールモデルが生まれつつあります。

●ミドル・シニアの新しい社会貢献「社会福祉領域への越境プロジェクト」
 2つ目は大企業に勤める中高年社員の社会福祉領域への越境プロジェクト構想です。
 要介護者や知的障がい者を支える福祉施設での人員・人材不足が深刻化する中で、セカンドキャリアを探索する中高年社員に、福祉施設をボランティアなどで越境体験していただき、その担い手としての可能性を広げていく実験的取り組みを進めています。弊所主催の企業人事担当者の情報交換会「シニア活躍推進研究会」でも、福祉法人の経営者に直接ご講演いただき、日常垣間見えない世界で、会社員としての経験や無形のスキルの蓄積を活かせる新しい場所としての可能性を感じていただきました。中には、福祉施設を直接訪問し、未知の世界を自ら体感し、社員に語りかける人事担当者もおられ、かけがえのない社員の活躍場所創出への熱い思いに共感させていただいています。

●ニッセイ基礎研究所との共同研究プロジェクト
 3つ目は、ダイバーシティ経営の中で、中高年社員、とりわけ中高年女性社員の活躍にスポットを当てる研究プロジェクトです。
 これまで主に女性活躍の視点で、大半の企業でダイバーシティ&インクルージョンの取り組みが展開されていますが、シニア社員をその対象に組み込むことで、より多様な人材や価値観の交互作用を経営に活かすマネジメントが胎動しています。弊所では、昨年秋以降、ニッセイ基礎研究所と共同で「大企業の中高年女性社員に対するキャリア開発」に関する意識と実態調査、および企業インタビュー調査を実施しています。現在分析中でありますが、一般職として採用された方(一般職層)を中心に、これまで社内では十分なキャリア開発機会を受けていないこと、一方で社外での学びの経験は総合職よりも多いこと、さらには50代後半の一般職層もおおむね2割の方が上位職志向を持っていることなどが分かりつつあります。企業インタビューでも年齢や性別によらない「人物本位」の人材登用を人事の方々に熱弁いただく場面が多く、人的資本開発に厚みが出てくる動きに期待しています。

●ミドル・シニアの羅針盤となるキャリア研修プログラムの開発
 最後の4つ目は、ロールモデルに着眼したキャリア研修プログラムの開発です。
 ロールモデルの有無によってワーク・エンゲージメントの高低に影響がでることが明らかにされています※1。また、中高年社員向けのキャリア研修に退職した先輩から経験談を語ってもらうコマを設ける企業もあります。ただし、社内には目標となるロールモデルが見当たらないとの声も数多く聞かれます。そこで弊所では多様なキャリアを歩まれ、定年後も多彩な活躍を続けられるロールモデルへの丹念な取材を通じたリアリティーあふれる研修プログラムを開発し、今春にはリリースの予定です。

●2024年を「ミドル・シニアの行動変容元年」に
 これら4つの取り組みを進めて感じることは、
 (1)大半の中高年社員は自らを成長させたいとの強い内発的動機を元来持っている。このことは、加齢とともにワーク・エンゲージメントが上昇するとの先行研究※1からも意を強くしています。

 (2)この成長欲求に応えようとする人事担当者の思いや情熱も同様に強いものがあり、定年制度の見直しにとどまらず、活躍ポストの開発、ライフに配意した両立支援制度の整備、キャリア探索機会の提供など、人事施策のブラッシュアップに意欲的に取り組まれています。

 (3)ただし、中高年社員の意識や行動が1日で変容することはなく、時間をかけた支援行動が必要です。この点、冒頭紹介の早稲田大学CRCでは弊所監修の「キャリア羅針盤(R)」を活用し、eラーニングでの事前履修を経た後に設定するワークショップでの高い研修効果により、半年間にわたる意識変容を上書きしていけることが分かってきました。中高年社員への支援行動には、機能面での何らかの工夫も必要ではないでしょうか。

 辰年の人はスケールの大きい夢を見る特性を持つそうです。阪神タイガース・岡田監督の「アレ」には到底及びませんが、弊所も4つの取り組みを進化させていく中で、今年を「ミドル・シニアの行動変容元年」にしていきたいと意気込んでいます。企業人事担当者の皆様と、「シニア活躍推進研究会」やセミナーなどで意見交換させていただくことを楽しみにしています。これらを通して昨年還暦を迎えた小生も成長を続けたいと思います。

 読者の皆様の今年1年のご健勝を祈念しております。
※1厚生労働省 令和元年版 労働経済の分析 ―人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について―

【筆者プロフィール】
池口武志(いけぐち・たけし) 一般社団法人定年後研究所 理事所長

1986年 日本生命保険相互会社入社。
本部リテール販売部門、人事、営業企画、契約管理、販売最前線等で長く管理職(部長、支社長など)を経験し、多様な職種の人材育成にかかわる。その間、オックスフォード大学 Diplomatic Studies修了。
2016年 研修事業も行う株式会社星和ビジネスリンクに出向、「キャリア羅針盤®」の開発を統括。現在、同社取締役常務執行役員も務める。
2023年3月 桜美林大学大学院老年学修士課程修了。キャリアコンサルタント、消費生活アドバイザー、AFP、日本心理的資本協会理事、シニア社会学会会員
著書に『定年NEXT』( 廣済堂新書 2022年4月)、『人生の頂点は定年後』(青春新書インテリジェンス 2022年10月)がある。


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2023/12/21
お知らせ 公開セミナーの録画映像をご視聴いただけます!

2023年開催の公開セミナーを振り返る

 早いもので今年も師走を迎えました。読者の皆様におかれましては益々ご多忙な毎日をお過ごしのことと存じます。
 星和ビジネスリンクでは、これまでにもメールマガジンや公開セミナーを通じて、働く中高年社員のキャリア支援に関する情報をお届けしてまいりました。年内最後となる今回のメールマガジンでは、今年開催した4回の公開セミナーを振り返りながら、新年度以降にお届けする情報をより有益なものとするために皆様からのご意見をいただきたいと考えております。
 本文の最後に簡単なアンケートを用意しましたのでご協力をお願いします。また、アンケートの中では、今年開催した公開セミナーの録画映像の再視聴をご案内しています。視聴をご希望される方は、アンケートよりその旨お知らせください。後日、弊社担当者より連絡申し上げます。

●第1回公開セミナー(2023年6月20日)
  「近未来 未曽有の労働力不足にどのように備えるか?」
  明治大学大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授 野田 稔 氏

 野田教授からは、雇用期間が延長されているにも拘わらず、2040年には生産年齢人口が現在に比べ、1,100万人も不足するというお話がありました。その予測を背景に、ミドルシニアの活躍が社会的ニーズであること、そして彼らが引き続き活躍するためには、キャリアについて考える機会を持つことが不可欠であるというお話をいただきました。
 また、シニア世代が組織のなかで今後も活躍し続けるためには、40代でその後の人生について考える必要があり、それが人生後半の充実と組織の発展に大きく影響すると強調されました。
 セミナーのなかでは、シニア世代になっても生きがいを持って働くためのセルフブランディングや、フラットな人間関係の重要性など興味深いお話がありました。
 講演はオンラインセミナーの特長を活かし、対話方式で進行しました。視聴中の皆様に、ミドルシニア社員の職域開発支援や50代で後進に道を譲るための管理職研修、キャリア支援の有無をお聞きしその結果に対するコメントを野田教授よりいただいています。

●第2回公開セミナー(2023年7月19日)
 「中高年 自律的学びのすゝめ」
  慶應義塾大学 SFC研究所 上席所員 高橋 俊介 氏

 2022年に引き続きご登壇いただいた高橋氏からは、社会環境・ビジネス環境が大きく・急激に変化をするなか、組織はそれに対応し得る人材を育成し、組織のなかで働く人は新たな能力・スキルを習得しなければならないというお話をうかがいました。
 AI技術の急速な進歩に代表される近年のイノベーションの本質や、厳しい社会環境のなかにあっても成長のスパイラルを作り出し、自らを高め続けられる人とそれを促す組織の取組みについてもお話しいただきました。
 視聴者との質疑応答ではご視聴の皆様から、キャリア自律のために取得した資格をどう生かすべきか? キャリア自律の必要性をミドル社員にどう伝えるべきか? などの質問があり、それらに対して高橋氏から回答をいただきました。

●第3回公開セミナー(2023年9月7日)
 「70歳法※を見据えた、シニアからの新たな働き方の選択肢」
 リスタートサポート木村勝事務所 代表 木村 勝 氏

 70歳までの現役就業に向けた提言として、新たに起業するということではなく、もと居た会社で慣れ親しんだ仕事を業務委託として請け負う「“半”個人事業主」という働き方についてお話をいただきました。個人にとっては慣れ親しんだ職場で実力を発揮できる、組織にとっては業務知識に精通した労働力が確保できる、労使双方にメリットが大きい働き方であること、また、子育てや介護などで仕事を休む社員のリリーフとしても会社に貢献できるシニアの新しい働きかたであることを、導入の方法を注意点と共に示していただきました。
 質疑応答では、シニアとの業務委託契約の人事上のメリットは? 管理職経験のない社員との業務委託契約は会社にどんなメリットをもたらすのか? などの質問がなされ、木村氏、定年後研究所の池口所長からそれぞれのご見識を交えたご回答をいただきました。
※令和3年4月1日施行の「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の略称として使用しています。

● 第4回公開セミナー(2023年10月19日)
 「ミドルシニアの越境学習~はじめの一歩の歩みかた~」
  法政大学大学院 政策創造研究科 教授 石山 恒貴 氏

 石山教授からは、「越境学習」は会社が主導するものと、社員一人ひとりが自発的に行うものがあり、社員一人ひとりが行う越境学習の機会は日常に多くあることや企業が主導して越境学習を実施する場合の注意点と好例についてご解説をいただきました。
 セミナーのなかでは、投票機能を使って越境学習に対する意識調査も行われました。質疑応答では、越境学習を終えて職場に復帰した社員に対する上司の行動や副業に消極的な組織に対するアドバイスは? などの質問が多く寄せられ、それらに対してのアドバイスをいただきました。

 今期、弊社が開催したセミナーは、皆様の会社のキャリア支援のお役に立つことができたでしょうか。今般紹介させていただいた公開セミナーの様子をご視聴希望の方は以下のアンケートからお申し込みください。

アンケート

2023年の星和HRインフォメーションは本号で最後となります。2024年は1月10日から配信の予定です。
新年も、皆様からのご支援ご厚情を賜りますようよろしくお願い申しあげます。


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2023/12/19
お知らせ 多くの中高年会社員が避けては通れない介護問題を考える(4)

「幸せな介護」実現のために

 介護職員の育成と介護問題の解決に取り組む矢野憲彦氏のコラム。最終回は、家族の介護にあたって最低限知っておくべきことと心構えについてお話しいただきます。

●「幸せな介護」実現のために
 前回のメールマガジンでは介護離職を防ぐために活用すべき支援制度などについてお話ししました。
 支援制度をうまく活用することで、家族の介護と仕事が両立できれば、精神的、肉体的、経済的な苦しみは軽減すると思います。
 しかし、それだけでは介護する前の状態に近づいただけです。私は、家族の介護という、貴重な経験をただ苦悩や負担を軽減するだけのもので終わらせては「もったいない」と考えます。
 介護を通じて「家族との絆」を深め、「人生観や死生観」を育み、あなたと家族の人生の質(QOL)の向上を目指して欲しいと思っています。
 介護を経験したからこそ実感できる充足感、それが「幸せな介護」なのです。
 幸せな介護については、星和ビジネスリンクのeラーニングプログラム『キャリア羅針盤 ~幸せな介護』で詳しく学ぶことができますが、ここでは最低限知っておくべきことについてお話しします。

●老化と認知症の理解
 家事や仕事をテキパキとこなしていた親がだんだん衰えて、人の手を借りないと生活できなくなってしまう……。そんな親の姿を見るのは、とても辛く、悲しいことです。しかし、これは老化現象であり、できないことが増えていくのは自然なことです。
 心身に生じる様々な変化をあらかじめ知っておくことで、親の衰えに対する否定的な考えや感情を和らげることもできるのではないでしょうか。年齢を重ねていくことで、生じる変化の代表的なものを以下にまとめてみました。

 肉体的には、
・老眼による視力低下、視野狭窄、色覚低下、ドライアイが発生しやすくなる。
・認知機能の低下が起こりやすくなる。
・嗅覚や味覚が鈍感になる。摂食嚥下がしにくくなり、むせたり、誤嚥性の肺炎を起こしやすくなる。
・高音域の聴力が著しく低下し、老人性難聴が生じやすくなる。
・消化管運動が低下し、便秘や便通異常、逆流性食道炎などが起こりやすくなる。
・血管が硬くなり、心筋梗塞や心肥大、高血圧、動悸が起こりやすくなる。
・皮膚感覚が低下して、寒暖や痛みに対して鈍感になる。
・膀胱が硬くなり、頻尿の症状が出やすくなる。時には失禁してしまうこともある。
・骨量が減り骨折しやすくなり、また関節炎も起こりやすくなる。
・バランス能力が低下して、転倒しやすくなる。
・筋力、持久力、敏捷性が低下して、歩行は前傾、すり足、歩幅縮小、歩行の速度が低下する。

 また、心理的側面を見てみると、
・頑固になり、保守的傾向が強くなることがある。
・人に対して厳しくなり、疑いの感情を抱きやすくなることがある。
・死に対する不安から、自身の健康状態への関心が異常に高まることがある。
・認知症を発症すると、記憶障害、見当識障害、理解判断力や実行機能障害などの中核症状といわれるものに加え、周辺症状である抑うつ、妄想・幻覚、暴言・暴力、徘徊、不潔行為、食行動異常など様々な症状が出ることがある。
一般社団法人QOLアカデミー協会調べ

 認知症患者は今後急速に増加すると予測されており、ご家族が発症する可能性も少なくありません。認知症については前回でもお伝えしたとおり、症状が多岐にわたり、ここで全てを説明することはできません。ご自身で確認しておきましょう。

●介護とお金について
 あなたは、介護にどれくらいのお金がかかるか知っていますか? 介護にかかる費用は、在宅介護か施設介護か、また介護度や介護を受ける本人の所得によって大きく異なります。
 在宅介護の場合、自己負担の費用は平均すると月約4~5万円ですが、本人の所得によってはこの2~3倍になることもあります。
 一方、施設介護は、介護にあたる家族の肉体的・精神的負担を軽くすることができます。しかし、経済的負担は大きくなり、月に10~35万円と高額の介護費用を覚悟しなければなりません。また、施設介護は施設の種類によって負担額が大きく変わります。ケアマネージャーとよく相談し、ケアプランを決めてください。
 例えば、要介護2の場合、在宅介護でも、年間50~60万円、要介護5となると、年間90万円は必要です。また、施設介護では、「特別養護老人ホーム」の場合、年間約120~150万円、有料老人ホームの場合、年間約200~400万円は必要となります*1
 介護期間は平均で約5年ほどですが、7人に1人は10年以上ともいわれています*2。あなたのご両親や配偶者が10年以上施設で介護を受けることになったら経済的に可能なのかなど、一度シミュレーションしてみることをおすすめします。
 このように、家族の介護にかかる費用はケースバイケースで大きく異なりますが、介護費用は介護を受ける本人が負担するのが原則です。
 可能な範囲で本人に、預貯金・有価証券・不動産、公的年金・個人年金などの有無や、銀行口座や通帳・カード、印鑑の保管場所などを確認しておくことも大切です。また、債務がある親はそれを隠そうとする傾向があります。注意深く確認してください。

●最幸のエンディングに向けて
 多くの人が介護は、苦しく辛いと考えています。
 家族の介護は誰もが経験する可能性がある一方で、日本では介護に関する知識や技術、心構えについて学ぶ機会がないことが要因です。
 介護を開始した時に何の予備知識もないと、闇雲に頑張り続け、その結果疲弊してしまい、「不幸せな介護」に陥ってしまうことがあります。
 私が代表を務めるQOLアカデミー協会は、介護の時間を人生の幸せな一コマに昇華させることを目指し活動しています。私たちの目的は、「介護を悲劇ではなく、親が命を懸けて体験させてくれたギフトだった」と感じられるようになっていただくことです。介護がポジティブな体験となり、その時間が家族や介護者にとって意味深いものとなるよう、知識や心構えを提供し、サポートしています。
・介護が始まる前に知っておくべきこと
・準備しておくべきこと
・親に聞いておくべきこと
・介護が始まった時の対処法
・心の持ち方や本当の親孝行
 これらを学び、介護の準備や実際のケアにおいて有益な情報やスキルを身につけ、実践することで、人生全体の質を向上させることができると考えています。
 我々は、介護に携わった人が後悔のない最幸のエンディングライフを迎えるために、必要なサポートを提供し、その実現を願っています。

 これまで4回にわたり、幸せな介護についてお伝えしてきました。皆様のキャリアや大切な人生にお役立ていただければ幸いです。

*1介護費用に関しては、一般社団法人QOLアカデミー協会調べ
*2 生命保険文化センターの調べによると介護期間は平均5年1か月


【筆者プロフィール】
矢野 憲彦(やの・のりひこ)

株式会社 QOLアシスト 代表取締役
一般社団法人 QOLアカデミー協会 代表理事
 関西学院大学卒業。東京の健康医学の研究所にて自然治癒力の研究と教育に専念。
 東京大学大学院医学系研究科に研究生として通い、健康講座を全国で1,400回以上開催、健康人生相談は5,000件以上実施。
 2010年独立後、介護の学校を立ち上げ1,800名以上の介護職員を養成。シニアとその家族の人生の質(QOL)を高めることを使命に活動中。
 現在、高齢の親が家族に迷惑をかけず、悔いのない人生を送るために、認知症予防や自己肯定感向上をサポートし、見守りと親孝行ができる「わた史書・回想サービス」を展開中。

 上級心理カウンセラー、介護離職防止対策アドバイザー®、心療回想士、ヘッドリンパセラピスト、JADP認定メンタル心理カウンセラー®、1級フードアナリスト®などの資格取得。
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2023/12/15
お知らせ 多くの中高年会社員が避けては通れない介護問題を考える(3)

介護離職を防ぐ職場の支援

 介護職員の育成と介護問題の解決に取り組む、矢野憲彦氏のコラム。
3回目の今回は、介護離職のデメリットと介護離職を防ぐための仕組みや取り組みについてお話をいただきます。

●介護離職のデメリット
 前回のメールマガジンでは家族介護の現実についてお話ししました。
 介護の知識や準備、制度を理解していないと、介護は精神的にも肉体的にも苦しくつらいものになってしまいます。毎年約10万人が介護離職をしています。また、介護と仕事の両立がつらく、仕事を辞めたら楽になるだろうという考えは大きな誤りです。安易に離職してしまうと、個人的には以下のような問題が生じます。

・収入が減少し、生活水準が低下する。
・キャリアやスキルが停滞し、再就職が困難になる。
・仕事と介護のバランスが崩れることで、心身の健康が損なわれる。
・介護をする人、介護を受ける人双方の生活の質(QOL)が低下し、家族との関係が悪くなる。

また、企業や組織においても、労働力や生産性が減少し、競争力やイノベーション力が低下してしまうかもしれません。

 これらの問題は、今後ますます深刻化する可能性がありますし、コロナ禍で在宅勤務やテレワークが普及したことで、仕事と介護の境界線が曖昧になり、家族介護を担う方の負担が増加している例は少なくありません。 

 安易な介護離職のデメリットについてはおわかりいただけたでしょうか。ここからは、介護離職を防ぐための対策についてお話しいたします。

●介護離職を防ぐために
◆介護保険制度の理解と活用
 40歳以上の方は、毎月給与から介護保険料が引去りされています。介護保険制度とは、高齢者や障がい者が自立した生活を送るために必要な介護サービスを受けられるようにする制度です。

 介護保険制度を利用するには、まず介護認定を受ける必要があります。介護認定とは、介護保険の給付対象となるか否か、介護の必要度を判定することです。

 認定調査員が自宅や施設などで面接や身体機能の測定を行い、その結果をもとに専門家の会議で介護の必要性と要介護度が判定されます。

 介護認定の結果は、要支援1・2や要介護1~5の7段階に分類され、段階に応じて介護者(家族など)とケアマネージャーが相談しながらケアプランを作成します。

 サービスには在宅サービスや施設で生活する入所サービスなどがあるので、これらを上手に活用しながら仕事との両立を目指しましょう。

◆介護と仕事の両立支援制度
1.介護休業制度
 社員が要介護状態にある対象家族を介護するための休業で、 休業期間中に、仕事と介護を両立できる体制を整えることが大切です。

・対象家族:配偶者(事実婚を含む)、父母、子※1、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫。

・対象労働者※2:対象家族を介護する男女の労働者(日々雇用を除く)。

・休業期間:対象家族1人につき3回まで、通算93日まで休業できます。

・休業給付金:雇用保険の被保険者で、一定の要件を満たす方は、介護休業期間中に休業開始時賃金月額の67%の介護休業給付金が支給されます。

2.短時間勤務制度※3
 社員が要介護状態にある対象家族を介護するための所定労働時間の短縮等の措置のことです。

・対象家族:配偶者 (事実婚を含む) 、父母、子※1、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫。

・対象労働者:対象家族を介護する男女の労働者(日々雇用を除く)。

・勤務時間:通常の勤務時間よりも短い時間で働くことができます
 (週30時間の勤務などが一般的です)。

・給与:勤務時間に応じた給与が支給されます
 (週30時間勤務なら、週40時間勤務と比べて給与は7割程度になります)。

・制度の活用方法:社員と会社が相談し、適切な短時間勤務のスケジュールを決定します。

3.介護休暇制度※4
 社員が要介護状態にある対象家族を介護するための休暇で、年次有給休暇とは別に取得できます。

・対象家族:配偶者(事実婚を含む)、父母、子※1、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫。

・対象労働者※5:対象家族を介護する男女の労働者(日々雇用を除く)。

・休暇期間:対象家族1人につき年5日(対象家族が2人以上の場合は年10日)まで、1日単位、時間単位での取得ができ、対象家族の病院の付き添いや施設への送迎などに利用することができます。

 休暇給付金:介護休業給付金とは異なり、介護休暇には給付金の制度はありません。
 これらの介護制度やサービスを活用し、決して一人で介護を抱え込まないようにしましょう。

※1介護関係の「子」の範囲は、法律上の親子関係がある子(養子含む)のみ。
※2労使協定を締結している場合に対象外となる労働者もいます(入社1年未満の労働者、申し出の日から93日以内に雇用期間が終了する労働者、1週間の所定労働日数が2日以下の労働者)。
※3短時間勤務等の措置は、会社によって利用できる制度が異なります。
※4有給か無給かは、会社の規定によります。
※5労使協定を締結している場合に対象外となる労働者もいます(入社6か月未満の労働者、1週間の所定労働日数が2日以下の労働者)。

◆職場で支える家族の介護
1.介護について相談しやすい職場づくり
 介護に直面したときに同僚、上司、人事担当者などに相談しやすい環境づくりのためには、誰もが介護に直面する可能性があることを知り、日頃から情報の共有と介護に関する基本知識を持っていることが大切です。

2.介護に直面しても活躍し続けられる職場づくり
 介護に直面すると残業ができなかったり、急な休暇をとるなどの可能性があります。チームワークと柔軟で多様な働き方で成果を出し続けられる職場づくりが重要です。日本の超高齢社会では、家族介護は大きな課題です。家族の介護と仕事が両立できるようになれば、社会全体がより豊かで活力あるものになり、家族のQOLも向上することになります。

 以上、介護離職を防ぐための考え方や制度の活用について少しだけお話ししました。

 次回の最終回では、介護を苦しみではなく、介護を経験することによって人生をより充実したものにする「幸せな介護」の進め方についてお話しします。

【筆者プロフィール】
矢野 憲彦(やの・のりひこ)

株式会社 QOLアシスト 代表取締役
一般社団法人 QOLアカデミー協会 代表理事
 関西学院大学卒業。東京の健康医学の研究所にて自然治癒力の研究と教育に専念。
 東京大学大学院医学系研究科に研究生として通い、健康講座を全国で1,400回以上開催、健康人生相談は5,000件以上実施。
 2010年独立後、介護の学校を立ち上げ1,800名以上の介護職員を養成。シニアとその家族の人生の質(QOL)を高めることを使命に活動中。
 現在、高齢の親が家族に迷惑をかけず、悔いのない人生を送るために、認知症予防や自己肯定感向上をサポートし、見守りと親孝行ができる「わた史書・回想サービス」を展開中。

 上級心理カウンセラー、介護離職防止対策アドバイザー®、心療回想士、ヘッドリンパセラピスト、JADP認定メンタル心理カウンセラー®、1級フードアナリスト®などの資格取得。
◎ 株式会社 星和ビジネスリンク お問い合わせフォーム

◎ 星和ビジネスリンクは、現役世代が定年後の人生を豊かに過ごすための調査研究を行う機関として、「一般社団法人 定年後研究所」を設立しました。
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2023/12/12
お知らせ 多くの中高年会社員が避けては通れない介護問題を考える (2)

家族の介護は突然やってくる!

 介護問題に取り組む、「一般社団法人QOLアカデミー協会」「株式会社QOLアシスト」の代表 矢野憲彦氏からビジネスパーソンが理解すべき介護問題についてお話をいただきます。今回は、突然はじまる介護の時、介護者に何が起こるのかをご説明いただきます。

◆家族介護の現状と苦悩
 前回のメールマガジンでもお伝えしたとおり、我が国の高齢化は急速に進んでいます。それに伴い、今後は介護を必要とする方が急速に増えることが予想されます。
もし明日、ご家族が突然倒れ、あなたが介護を担うことになったとしたら、あなたの人生、仕事、家庭、収入、健康、未来はどうなるのか、考えたことはありますか?

 家族介護とは、身近な家族を自宅で介護することをいいます。日本では、高齢者の約8割が自宅で暮らしており、そのうちの約6割は家族介護を受けています。

 家族介護は、大切な家族を見守るという意味で素晴らしいことですが、同時に肉体的、精神的、経済的に受ける負担から、ストレスを感じて感情的になってしまう介護者の方もいます。また、仕事と介護を両立させることが難しく、介護者の多くが仕事を辞めるか、減らすことを余儀なくされています。

 介護でストレスを感じてしまう主な原因には以下のことがあげられます。

◆一人で抱え込む
相談できる家族や、手伝ってくれる人がいないと、全ての介護を一人で抱え込んでしまい、身体的にも精神的にも過度のストレスを感じます。

◆自分の時間が制限される
家庭環境や要介護者の状態によっては、1日中離れられない状態となり、毎日の生活を要介護者のペースに合わせるために、自由に自分の時間が取れなくなります。

◆疲労や睡眠不足に陥る
身体が不自由な方を介護する場合、車いすやベッドへの移乗や移動により介護者の身体的な負担は大きくなります。また、夜のトイレ介助や徘徊、たんの吸引などで介護者の疲労は慢性的なものとなり、睡眠不足に陥ることも珍しくありません。

◆経済的に不安定になる
自宅での介護には、住居の改修に加え、介護用ベッドや車椅子など、多くの介護用品が必要となることから、支出がかさみます。また、介護者の中には、仕事を時短にするだけでは対応できず、仕事を辞めざるを得ない状況となる場合もあり、介護がはじまると、支出の増加に加え、減収となることも多くあります。

◆「介護うつ」になる
介護者がストレスを溜めすぎると、うつ状態に陥ることもあります。介護うつとは、介護者が身体的、精神的にストレスを溜め込むことが原因となり発症するうつ病。本人や周囲の人も気づきにくく、知らず知らずのうちに症状が進行し、気づいた時には深刻な状態になっていることも多々あります。
この、うつ状態が悪化し、自殺や虐待、介護殺人に発展するケースも毎年のように起こっています。

 ここで、本人も周囲も気づきにくい介護うつの症状について少しだけ触れておきます。以下のような症状が2週間以上続くと、介護うつの可能性があります。定期的に確認を行い、変化を感じた場合には医師に相談しましょう。
症状 特徴
食欲不振 食欲がわかず、体重の減少や体力の低下につながる
睡眠障がい 疲れているのに眠れない、何度も目が覚めるといった症状が現れる
慢性的な疲労感 疲労が取れず、肩こりや腰痛、頭痛といった不調が続く
無気力、無関心 気分が落ち込み、何事にもやる気や関心が起きなくなる
焦燥感 原因がわからない不安や焦りを感じ、神経質になることがある
自殺願望 介護うつによる思考障がいから、自殺願望が生まれることがある
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター発表のデータを基に筆者作成    

◆人生を介護の犠牲にしないために
 介護に直面すると、「何をしたらよいのだろう?」「お金はどうしよう?」「いつまで続くのだろう?」といった不安がわいてきます。これまでに介護の経験がない方ならなおさらです。

 あなたの人生を介護の犠牲にしないために、そして、幸せな介護を実現するためには、知っておくべき事や、取り組むべき事があります。これらをしっかり理解し、実践することで、介護による不安や苦労、ストレスは、かなり和らぐと思います。

 突然の介護に立ち向かうための主なポイントは以下のとおりです。

◆介護の知識と計画
介護は突然やってくることが多いため、事前の準備は不可欠です。
まずは、お住まい地域の「地域包括支援センター」の場所や連絡先を調べましょう。また、介護保険や支援制度などの内容を理解し、有事の際に上手く活用することが大切です。

◆家族や友人のサポートを受ける
単独で介護を行うことはとても困難で、支えが不可欠です。家族や友人と協力し、介護の負担を分散しましょう。近所の方の助けを借りることもできるかも知れません。

◆自分の身体のケアをしっかりと
ご自身の健康と幸福は、介護を成功させるためにも不可欠です。適切な休息を取り、燃え尽き症候群(バーンアウト)を防ぐためにも自身の時間を確保しましょう。介護者の健康こそが、家族の介護を行う時に最も重要となります。

◆介護離職を避ける
家族介護を経験した人なら、その苦労と疲れから「仕事を辞めて介護に専念した方が楽になるのでは」と考えたことがあるかもしれません。しかし、仕事を辞めると経済的にはもちろんのこと、かえって精神的、肉体的な負担を増大させることになります。

 家族の介護は突然やってきますが、準備と対策を行うことで乗り越え、幸せな介護を実現することができます。一方、それらを怠っていると、あなたの健康や人生の大きな負担になりかねません。

 次回以降のメールマガジンでは、介護による離職を避け、人生をより豊かにするヒントについてお話しいたします。

【筆者プロフィール】
矢野 憲彦(やの・のりひこ)

株式会社 QOLアシスト 代表取締役
一般社団法人 QOLアカデミー協会 代表理事
関西学院大学卒業。東京の健康医学の研究所にて自然治癒力の研究と教育に専念。
東京大学大学院医学系研究科に研究生として通い、健康講座を全国で1,400回以上開催、健康人生相談は5,000件以上実施。
2010年独立後、介護の学校を立ち上げ1,800名以上の介護職員を養成。シニアとその家族の人生の質(QOL)を高めることを使命に活動中。
 現在、高齢の親が家族に迷惑をかけず、悔いのない人生を送るために、認知症予防や自己肯定感向上をサポートし、見守りと親孝行ができる「わた史書・回想サービス」を展開中。
 上級心理カウンセラー、介護離職防止対策アドバイザー®、心療回想士、ヘッドリンパセラピスト、JADP認定メンタル心理カウンセラー®、1級フードアナリスト®などの資格取得。
◎ 株式会社 星和ビジネスリンク お問い合わせフォーム

◎ 星和ビジネスリンクは、現役世代が定年後の人生を豊かに過ごすための調査研究を行う機関として、「一般社団法人 定年後研究所」を設立しました。
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2023/12/08
お知らせ 多くの中高年会社員が避けては通れない介護問題を考える(1)

働きながら「幸せな介護」を目指す

 これから4回にわたり、介護問題に取組む、「一般社団法人QOLアカデミー協会」「株式会社QOLアシスト」の代表 矢野憲彦氏からビジネスパーソンが理解すべき介護問題についてお話をいただきます。

◆人生の質を高めるために
 このメールマガジンをお読みになっている皆様の中には、そろそろ家族の介護や将来のことが心配になっている方や、すでに介護の悩みや不安を抱えている方もいるのではないでしょうか。

 今は介護の不安はないという方も「辛く、苦しく、悲しい」と考えられがちな介護を恐れて見ないふりをしていらっしゃるのかもしれませんね。

 しかし、高齢の親や家族を持つ方であれば、明日にでも介護問題に直面する可能性があります。

 この「介護」という人生における大きなイベントが、自分の人生や仕事を犠牲にするものではなく、家族に喜ばれ、満足いくものにできたら素晴らしいと思いませんか?

 私が代表を務める一般社団法人QOLアカデミー協会、株式会社QOLアシストでは、シニアとその家族の人生の質(QOL=クオリティーオブライフ)を高めるための活動を行っていますが、このQOLを高めるためには、「介護」という課題を避けて通ることはできません。

 このメールマガジンでは、これから4回にわたり介護に関する情報を発信してまいりますが、働く世代の方々に後悔のない人生とQOL向上を実現し、「幸せな介護」を実感いただくヒントとなれば幸いです。

◆日本の超高齢社会の現状と課題について
 今、日本が超高齢社会に突入しているということは皆様もご存知のところだと思います。WHOの定義では65歳以上を「高齢者」と定義しています。そして、ある国の65歳以上の人の割合を「高齢化率」として発表しています。

 高齢化率が7%を超える社会を「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」としています。

 日本ではそれとは別に65歳以上75歳未満の人を前期高齢者、75歳以上の人を後期高齢者と呼んでいます。

 日本では1950(昭和25)年頃の高齢者は総人口の5%程度でした。その後1970(昭和45)年は7%、1994(平成6)年は14%を超えています。
そして現在、65歳以上人口は3,627万人で総人口の29.1%を占めています※1

 この高齢化率は、WHOが定義する「超高齢社会」の21%以上の基準を大きく上回っており、他の国と比べても突出して高い水準です。
ちなみに世界の国の高齢化率(2020年)でみてみると、アメリカ16.6%、中国12.0%、フランス20.8%、インド6.6%です※2

 日本の高齢化は今後も進行すると見込まれており、2065(令和47)年には65歳以上人口は総人口(8,808万人)の38.4%で約2.6人に1人、3.9人に1人が75歳以上となる社会が到来すると推計されています※3

◆少子高齢化の現状と課題
 高齢化と共に問題となっているのは「少子化」です。1人の女性が一生涯に平均して出産する子どもの数を示す合計特殊出生率が2.1以上であれば、人口は増加するとされています。

 日本では1960年代から1970年代初頭にかけては、おおむね2.0以上という高い水準を維持していました。しかし、1970年代中頃以降、急速に低下し、1.5以下にまで落ち込み、2020年代に入ると約1.3前後で推移しています。2022年には、新型コロナによる影響で、過去最低だった2021年の1.30を0.04ポイント下回り過去最低の1.26を記録し、出生数も前年を4万875人下回る77万747人となり、初めて80万人台を割り込みました※4

 1947年から1949年は第一次ベビーブームで、出生数は急増しました。この3年間に約964万人が生まれ、「団塊の世代」と呼ばれています。2025年にはこの世代が75歳以上の後期高齢者になり、医療や介護などの社会保障費の増大が懸念され、「2025年問題」ともいわれています。

 年齢と共に要支援・要介護の認定を受ける人の割合は増えていきます。60代のうちは3%未満にとどまりますが、70代に入ってからどんどん上昇していき、85歳以上では60%まで達してしまいます。また、認知症患者の数も2015年時点では517万人でしたが、2020年では602万人、2025年には675万人に達し、2050年には1,000万人に届く可能性もあります。2040年には高齢者の46.3%、つまり2人に1人が認知症を発症する可能性があるといわれています※5

 要支援・要介護者の増加は介護職員の不足も深刻化させます。厚生労働省は介護職員の数が、2025年度に約32万人、2040年度に約69万人不足すると発表しています※6

 介護職員が不足するということは、皆さんの家族が要介護状態になっても質の良い介護支援を受けることが難しくなるということです。必然的に介護に関して、家族が負担する比重が高くなるということを考慮しておいてください。

 以上、私たちの置かれている現状をご理解いただけたでしょうか? 今はまだ実感がない方も多いかもしれませんが、今のうちに準備をしておかないと、介護で苦悩し、体調を崩し、仕事を辞めなければならない事態になるかもしれません。

 最悪の事態を避けるために、次回は、家族の介護の現状と介護離職を避ける方法についてお伝えしたいと思います。

※1 総務省 統計トピックスNo.132「統計からみた我が国の高齢者」
※2 内閣府「令和4年版高齢社会白書 全体版」
※3 内閣府「令和4年版高齢社会白書 全体版」
※4 厚生労働省「令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
※5 ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート2023-07-25「令和 5 年全国将来推計人口値を用いた全国認知症推計(全国版)」
※6 厚生労働省 社会・援護局「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」


【筆者プロフィール】
矢野 憲彦(やの・のりひこ)

株式会社 QOLアシスト 代表取締役
一般社団法人 QOLアカデミー協会 代表理事
関西学院大学卒業。東京の健康医学の研究所にて自然治癒力の研究と教育に専念。
東京大学大学院医学系研究科の研究生として通い、健康講座を全国で1,400回以上開催、健康人生相談は5,000件以上実施。
2010年独立後、介護の学校を立ち上げ1,800名以上の介護職員を養成。シニアとその家族の人生の質(QOL)を高めることを使命に活動中。
現在、高齢の親が家族に迷惑をかけず、悔いのない人生を送るために、認知症予防や自己肯定感向上をサポートし、見守りと親孝行ができる「わた史書・回想サービス」を展開中。
上級心理カウンセラー、介護離職防止対策アドバイザー、心療回想士、ヘッドリンパセラピスト、メンタル心理カウンセラー、1級フードアナリスト
などの資格取得。
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2023/12/01
お知らせ 活躍の場を提供する「産業雇用安定センター」 (3)

「人材育成型出向等支援」と「ビジネス人材雇用型副業情報提供事業」の活用

 公益財団法人産業雇用安定センターの事業を紹介する連載の3回目(最終回)となる今回は、人材育成などを目的とする出向支援と、本年(2023年)10月から開始された雇用型の副業情報提供事業について、同センター業務部長の金田弘幸(かなだ・ひろゆき)氏からご紹介いただきます。

◆人材育成型出向等支援
 従来、産業雇用安定センターが取り扱う出向支援は、企業において一時的に雇用過剰となった人材の雇用調整を目的とした在籍型出向を対象としていました。今回の連載1回目(10月25日配信)で紹介した新型コロナ禍での在籍型出向がその典型的な例です。

 一方、出向という我が国特有の人事・労務管理の形態には、雇用調整を目的とするものとは別に、ポジティブな可能性を持つものがあることがセンターによる出向支援の成立事例から見受けられるようになりました。例えば、従業員の能力開発やキャリアアップなどを目的とする出向へのニーズです。センターではこのような事例を「人材育成型出向等支援」として取り組んでいます。

 この「人材育成型出向等支援」は次の2つに大別されます。

◆1.人材育成型出向等支援(1)(人材育成・交流型出向)
 従業員の能力開発や人材育成、特に高度人材の育成により企業力の強化を図る場合や、人材交流を目的とした取り組みにより、企業間の連携強化、新分野への展開のための基盤整備、組織の活性化等を図ることを目的とする出向をいいます。出向後は、元の企業に復帰します。

具体例1

◆2.人材育成型出向等支援(2)(キャリア・ステップアップ型出向)
 従業員自らのキャリア・ステップアップへの主体的な挑戦、自身のキャリアパスやライフプランに合わせた職域拡大、UIJターン等を企業が後押しする出向をいいます。出向後は、元の企業に復帰または出向先に移籍します。
具体例2

◆ビジネス人材雇用型副業情報提供事業
 グローバル化の加速や少子高齢化の進展などにより、近年、日本の終身雇用を前提とした年功序列や職能型の雇用慣行は、大きく様変わりしました。それに伴い、従業員個人の自律的な複線型のキャリア選択や、ライフステージに応じた多様な働き方へのニーズが高まっています。企業も従業員の「副業・兼業」を後押しすることで、従業員の新たなスキルの獲得を核とした新分野展開や企業へのエンゲージメント向上などを期待する傾向もみられるようになってきました。

 センターでは、本年6月から7月にかけて約7,600社に対して「副業・兼業」に関するアンケートを実施しました。回答企業1,054社のうち、従業員の「副業・兼業」を認める企業は、予定も含めて約5割であることが明らかとなりました。
 アンケート結果の概要はセンターHPに掲載しています

 このアンケート結果を受けて、センターでは「ビジネス人材雇用型副業情報提供事業」を本年10月から東京、大阪、愛知でスタートしました。

 「副業・兼業」には、他社から業務を受託して行う形態と、他社に雇用される形態の副業があります。センターが出向・移籍など雇用面での業務に長く取り組んできた特性を活かすことにより、雇用型による副業を希望する人材の情報を、副業を受け入れたい企業に対して提供します。

 具体的には、企業在職者で他の企業に雇用される形態の副業を希望する方(ビジネス人材)にセンターのHPを通じて登録していただきます。そのうえで、人材の受け入れを希望する企業の情報を登録者に提供し、両者での労働時間や賃金などを話し合う面談の場を設定します。両者が納得し合意した場合、労働契約を締結していただき雇用型副業が始まるという流れになります。

 従業員が他社に雇用される形態の副業を在職中の企業が後押しする場合、適切な労働時間や健康管理という点に不安を抱くこともあるかもしれません。このようなことについては、企業が従業員との間で、あらかじめ自社での労働時間と副業先企業での労働時間を明確に決めておくことで不安の解消に繋がります。また、柔軟な雇用は、人材の定着や多様な人材に選ばれる企業となる可能性が高まるなどのメリットもあります。この機会に従業員に対してセンターの「ビジネス人材雇用型副業情報提供事業」をご紹介いただければ幸いです。
「ビジネス人材雇用型副業情報提供事業」のWebサイト

◆おわりに
 これまで3回にわたって産業雇用安定センターの事業、(1)雇用調整の「出向・移籍支援」、(2)60歳以上の求職者のための「キャリア人材バンク」、(3)「人材育成型出向等支援」と(4)「ビジネス人材雇用型副業情報提供事業」について紹介してきました。これらの事業は企業が負担する雇用保険料を原資として厚生労働省から補助金の交付を受けることにより、無料でサービスを提供していることはこれまでお伝えしてきたとおりです。

 企業の皆様には、センターの事業にご関心やニーズがある場合には、センターHPをご覧になっていただくとともに、全国47のセンター地方事務所にご連絡いただければ、センターのサービスについてご案内に上がります。

公益財団法人 産業雇用安定センター



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2023/11/16
お知らせ 活躍の場を提供する「産業雇用安定センター」 (2)

シニアのキャリアチェンジを支援する「キャリア人材バンク」

 前回は、「産業雇用安定センター」が企業に提供する出向・移籍支援についてご紹介いただきました。今回は、高齢者の再就職をサポートする「キャリア人材バンク」についてお話しいただきます。

 産業雇用安定センターでは、60歳以上の方が自らの職業経験や資格などを活かして、「生涯現役」としてご活躍いただくための「キャリア人材バンク」を全国47のセンター地方事務所で展開しており、無料でご利用いただけます。

 近年、多くの企業が人手不足に直面しています。厚生労働省が今年7月に発表した来春の高校卒業予定者に関する求人・求職状況では、求人が前年同期に比べて10.7%増となっている一方で、就職を希望する高校生は5.5%減となっています。企業がフレッシュな人材を採用し、中長期的に人材育成をすることで成長・発展していくことは重要です。しかし、今後も日本全体で労働力人口が減少する中、限られた年齢層に期待することは難しい環境にあります。そして、この傾向は今後一層強まることは明らかです。

 このため、我が国が持続的に成長するには、DXなどによる生産性向上を進めるとともに、高齢者や障がい者をはじめとする多様な人材にも社会で活躍してもらえるよう環境整備を進めることが重要です。

 産業雇用安定センターのキャリア人材バンクでは、60歳以上で再就職を希望する方と、人材確保に苦慮している企業との間でのマッチングを行っています。そして、近年その再就職の実績が大きく増加しています。(図1)

キャリア人材バンクによる再就職数の推移

 キャリア人材バンクへの登録は、企業に在職する60歳以上の方、または60歳以上で企業を退職後1年以内の方が対象です。
例えば、
〇 定年年齢に達する従業員が、再雇用制度を利用せずに退職する場合
〇 再雇用期間が65歳で満了となる従業員が退職する場合
〇 再雇用されている高齢の従業員が退職する場合
などが該当します。

 このように、就労を希望される60歳以上の方が企業を退職される場合には、人事ご担当者様からキャリア人材バンクへの登録を勧めてください。退職する方がキャリア人材バンクに関心がある場合には、人事ご担当者様または、退職される方から直接センター地方事務所にご一報いただければ、具体的な説明と登録のご案内をいたします。
 また、既に企業を退職した方でも、退職後1年以内であれば、キャリア人材バンクをご利用いただけます。

 高齢者の場合、若い頃に就職活動をして以来、キャリアシートの作成や採用面接などの経験は少なく、それを負担と感じて再就職に向けた一歩を踏み出すことを躊躇してしまう傾向があります。
 センターでは登録した方の経験や希望をうかがいながら、求人企業のニーズを踏まえて、キャリアシートの作成や面接のシミュレーションなどのサポートを行います。

 しかしながら、就業希望の方がいても、求人企業の中に希望する業種、職種がないこともあります。仮に求人があって、応募の条件が年齢不問となっていても、実際には若い方の採用を意図している企業も少なくありません。

 このような場合には、センターのコンサルタントが焦点を絞って新たな求人企業を開拓します。同時に、求人企業に対して登録者の方の経験、能力や資格だけでなく人柄なども粘り強く説明することで、「そんなに言うのなら一度会うだけ会ってみようか」という言葉が得られることも少なくありません。そうなると、採用の確率はぐんと上がります。

 センターのコンサルタントは、企業において人事・労務や営業の管理職、技術部門の責任者としての豊富な経験を有するシニア世代が多く、再就職に向けた相談はもちろん、家族のこと、老親の介護、実家のことなど同世代としての悩みにも共感しつつ、マンツーマンで丁寧なサポートにあたっています。

 このようなきめ細かいサポートの結果、2022年度においては約3,000人の方の再就職が実現しています。そのうち登録後3か月以内に再就職した方は約4割、6か月以内に再就職した方は全体の約6割に上っています。

 長年にわたって企業に貢献してこられた方には、退職後も健康でそれまで培った経験を活かして社会の中で長く活き活きと活躍していただきたいものです。一度、「マンガでわかる キャリア人材バンク」(図2)をお読みいただき、企業の人事ご担当者様や退職する方にキャリア人材バンクをご利用いただきたいと思います。

マンガでわかるキャリア人材バンク

PDF「マンガでわかるキャリア人材バンク」はこちら

※二次元バーコードからアクセスしていただくと、動画版(YouTube)「マンガでわかるキャリア人材バンク」をご覧いただけます。

マンガでわかるキャリア人材バンク動画二次元バーコード


 連載3回目となる次回は、従業員の人材育成や企業間の交流のための出向のほか、この10月からスタートした雇用型の副業情報提供事業についてご紹介いたします。


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2023/11/02
お知らせ 活躍の場を提供する「産業雇用安定センター」 (1)

産業雇用安定センターをご存知ですか

 星和HRインフォメーションでは、本号から3回にわたり「失業なき労働移動」を支援する専門機関として設立され、35年以上の歴史を持つ「公益財団法人産業雇用安定センター」について、同センターの業務部長である金田弘幸(かなだ・ひろゆき)氏よりお話をいただきます。

◆はじめに
 このメールマガジンをお読みの皆様は、「産業雇用安定センター」をご存じでしょうか?
 産業雇用安定センターは、1987年に当時の労働省、日経連のほか、様々な産業団体のご協力により公益財団法人として設立されました。以来、多くの企業の出向・移籍の支援を行い、これまでに約25万人の出向・移籍のあっせんを成立させてきました。

 センターは、企業が雇用調整を行う際の在籍型出向支援や移籍支援のほか、高齢者の再就職支援のためのキャリア人材バンクや、企業間で人材育成・交流等を行う場合の出向・副業に関する支援にも取り組んでいます。

 これらの事業は、企業が負担する雇用保険料の一部を財源として厚生労働省から補助金の交付を受けて無料で実施しています。ですから、企業の皆様が支援を必要とする場合には、是非当センターの事業をご活用いただきたいと考えています。

 このメールマガジンでは、センターが行う事業が企業にどのように役立つのか、その具体的な支援の対象者や支援のプロセスについてご紹介いたします。

◆産業雇用安定センターの出向支援
 我が国における在籍型出向は、主に大企業の人事慣行のひとつとしてグループ内企業や取引先企業に出向させる形で定着していました。しかし、経済環境の変化によって一時的に高水準の雇用過剰の状態となった時には、グループ内企業で吸収することは困難になります。従業員の雇用を維持するためには、グループ内企業や取引先企業にとどまらず、グループ外の企業への出向も必要となります。センターが設立された当時は、急激な円高が進行し、重厚長大系の輸出産業を中心に高水準の雇用過剰の状態にあったことから、雇用を維持するための在籍型出向支援を行う専門機関として当センターが設立されました。

 その後、バブル経済の崩壊を経て製造業を中心とする多くの大企業では、人員過剰となった従業員の雇用を維持せず、早期退職募集を行う傾向が顕著になりました。結果、センターが取り扱う出向事案は減少する一方、退職を余儀なくされる従業員の再就職=移籍の支援にセンター事業の軸足が移ることとなります。

 2010年代の後半になると、アベノミクスによる経済効果などにより多くの企業の生産活動は活発となり、一時的な雇用調整のための出向は更に減少しましたが、2020年以降、新型コロナウィルス感染症の影響が拡大するにつれて、航空業・鉄道業や旅行業、宿泊業、娯楽業、外食チェーンなどの多岐にわたる業種で経済活動が停滞することとなりました。 一方で外出抑制に伴い小売業や食料品製造業などが活況となり、自動車部品や機械器具などの一部の製造業の生産活動も高い水準で推移していました。このような背景から、雇用過剰となった企業から雇用が不足する異業種の企業への在籍型出向のニーズが高まり、センターが支援する出向のあっせん実績は大きく伸びることとなったのです。

 また、コロナ禍では大きな影響を受けた中小企業が、雇用を維持するために一時的に従業員を出向させるケースも増加しました。多くの中小企業は、コロナ禍前でも必要な人員が確保できず苦慮していたことから、従業員を一度解雇してしまうと、新たに従業員を雇用するのが難しいことは明らかであり、今の従業員の雇用を何とかして守りたいという意図が大きく作用したものと考えられます。

 センターとしては、企業規模や業種にかかわりなく、出向として送り出す企業に対して出向を受け入れていただく企業をあっせんすることにより、双方の企業の人材ニーズに応えています。

◆産業雇用安定センターの移籍支援
 離職を余儀なくされる従業員の再就職支援については、企業からセンターにご依頼いただくと、センターは在職中から支援に着手し、離職後も1年にわたって再就職支援を行います。よくハローワークとセンターの再就職支援の違いについて質問を受けますが、ハローワークは、失業された方や求職活動を行う方などが広く利用できます。一方、センターの場合は、まず企業からの支援依頼が前提で、その後個々の従業員に対して在職中から再就職支援を行うという点が異なります。

 離職を余儀なくされる従業員の方は、家族のことや将来の生活設計に大きな不安を抱えることとなります。在職中の早い段階から再就職活動を行うことにより、新たな職場が決まることで、従業員の不安も大きく軽減することとなります。

 ところで、企業が成長発展を続けるためには、構造改革は避けて通れないことは言うまでもありません。企業が自らの新陳代謝を進める上で、経営資源の重点化や、それに伴う人員構成を是正するために、主に40歳代以上の従業員に対して早期退職募集を行う場合が少なくありません。近年、経営状態に問題がない企業であっても、将来を見越して従業員の年齢構成の是正のための所謂「黒字リストラ」を行う企業も増えてきました。

 企業が早期退職募集を行う場合、割増退職金を特別損失として計上するとともに再就職支援会社に従業員のセカンドキャリア支援を依頼するための費用も負担するのが一般的です。また、有料の再就職会社の利用と並行して、センターにも再就職支援の依頼のご連絡をいただければ、センターは無料で在職中からの再就職支援を行うとともに、場合によっては再就職支援会社とも協力しながら支援を進めます。

 これまで長く企業に貢献してこられた大切な従業員の方々に次のステップに進んでいただくためのツールのひとつとして、全国47都道府県にあるセンターを活用していただければと考えています。

次回は、高齢者のための「キャリア人材バンク」についてご紹介いたします。



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2023/10/26
お知らせ 定年後研究所 News Letter #4

 今期4回目の配信となる、定年後研究所News Letterは、定年前後期のキャリアチェンジに失敗するひとの特徴を池口所長に考察していただきました。

大企業の中高年社員で「キャリアチェンジ」に失敗するひととは


 最近、企業の人事担当者から、立て続けに類似のご相談をいただいた。
 いわく、
「50代を対象に希望者制のキャリア研修を企画したが、手をあげる社員が少ない」
「再雇用以降のキャリア開発を促しても、自分の将来キャリアと向き合おうとしない」
「自身のキャリアと向き合うためにロールモデルを示したい」
「多様なキャリアを歩み、50~60代以降もイキイキと活躍を続ける社外のロールモデルに講演をお願いしたい」
「キャリアチェンジの成功例だけでなく失敗例も転ばぬ先の杖として示したい」
おおよそ、このような具合である。

 成功例のロールモデルについては、これまでにも定年後研究所で数多くの取材を実施し、当ニュースレター(2023.5.10号)や、拙書『定年NEXT』(廣済堂出版刊2022.4.27)でも紹介してきた。一概には言えないが、役職定年や再雇用への移行、早期退職勧奨などのキャリア上の転機や心の内面の葛藤を乗り越えてきたひとが、働く意味合いを見つめ直し、自分が提供できる付加価値や強みを言語化していく紆余曲折のプロセスを踏むことで、ようやく、新しい環境や異なったフィールドで必要とされる喜びを感じられるようになる。結果65歳以降もやりがいを持って仕事を続けている。というのが最大公約数的なシナリオと言える。

 一方、失敗例のロールモデルについては、取材対象を見つける困難性や、仮に見つけたとしても本心を語ってもらえない現実があり、小生も課題意識はあるもののインタビューはできていない。そこで、過去の先行研究を紐解いていくと、格好の書籍に出会うことができた。
『~成功・失敗100事例の要因研究から学ぶ~中高年再就職事例研究』(中馬宏之監修・キャプラン研究会編:東洋経済新報社 2003)。本書は、大手企業の中高年社員を対象に中小・新興企業への転職を促進するとの文脈の中で、当時のキャプラン研究会メンバー企業が、中高年社員のセカンドキャリアの成功を願って、各社で発生した成功例・失敗例を持ち寄り、その要因分析と普遍化にチャレンジした貴重な財産と言える。

 成功要因は紙面の関係で割愛するが、失敗要因も紹介している。本書では失敗要因を「キャリア要因」「人物要因」「意識改革要因」「受入会社要因」「(元)所属会社要因」に分類している。

 キャリア要因では、「自分の役割や職責の理解が不十分」「仕事の進め方の違いに馴染めない」「問題指摘が先行し、不評を買う」など、新しい職場に馴染むための本人の努力不足がうかがえる。

 人物要因では、「プライドばかり高く、謙虚さに欠ける」「心を開かない(逆に、心を開きすぎる)」「協調性・柔軟性に欠ける」など、そもそもの社会人としての基本姿勢に疑問符を付けざるを得ないものが挙げられている。

 意識改革要因では、「中小企業の現実が理解できない」「古巣との比較ばかりする」「プロパー社員との人間関係作りが不十分」など、意識の切替えができていない様子が見えてくる。

 また、本人の要因だけでなく、「求人姿勢がお手並み拝見的」「過剰な期待がある」「経営トップの個性が強い」などの受入会社に起因することや、「キャリアの棚卸が不十分」「事前教育不足(中小企業の特質など)」「人材の無理なはめ込み」などの(元)所属会社による要因も挙げられている。

 この本を読み進める中で感じたことは、これらの要因は、同じ会社内での人事異動での失敗要因と内容が酷似しているということ。例えば、本社の中枢組織から現場への異動に際して、「エリート意識が満々」「腰掛け意識が見え見え」の着任挨拶でいきなりひんしゅくを買うケースは、多くの読者にとっても既視感のある光景ではないだろうか。

 人事異動とキャリアチェンジが異なるのは、前者は同じ会社の中での失敗であれば、上司や人事部によるサポートや配属替えで修復も可能であること。しかし、中高年社員が人生をかけたキャリアチェンジで同じ失敗をすると取り返しがつかないことに発展するケースもあるだろう。

 冒頭で紹介したように、最近、セカンドキャリア形成も視野に入れた中高年のキャリア研修や面談に本腰を入れる企業が増えてきていると感じている。それ自体は、定年後研究所も賛成であるし応援したい。

 長年の功労者でもある中高年社員活躍とキャリア人生の充実を願われるのであれば、「研修や面談で得て欲しい気づき」を改めて整理し、自己理解作業や老後マネーのシミュレーションだけでなく、ロールモデルの設定や、自分を試し打ちする越境機会なども準備しておくと、本人が自身のキャリアビジョンを描きやすくなることを申し添えておきたいと思う。

【筆者略歴】
池口 武志(いけぐち・たけし)
一般社団法人定年後研究所 理事 所長
1986年 日本生命保険相互会社入社
本部リテール販売部門、人事、営業企画、契約管理、販売最前線等で長く管理職(部長、支社長など)を経験し、多様な職種の人材育成にかかわる。その間、オックスフォード大学 Diplomatic Studies修了。
2016年 研修事業も行う株式会社星和ビジネスリンクに出向
キャリア羅針盤の開発を統括。現在、同社取締役常務執行役員も務める。
2023年3月 桜美林大学大学院老年学修士課程修了
キャリアコンサルタント、消費生活アドバイザー、AFP、日本心理的資本協会理事、シニア社会学会会員
著書に『定年NEXT』(廣済堂新書 2022年4月)、『人生の頂点は定年後』(青春新書インテリジェンス 2022年10月)


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2023/10/19
セミナー情報法政大学大学院 石山恒貴教授集中連載(4)

越境学習をうまく取り入れた企業の実例

 前回のメールマガジンでは企業で越境学習を進める場合、社員の心理的ハードルを下げることがポイントになるというお話をしていただきました。今回はその方法を実例とともに紹介していただきます。

 越境学習を企業として推進する場合、私がおすすめしているのは、エンファクトリーのような進め方をすることです。エンファクトリーは2011年に設立された会社ですが、この会社がユニークなのは「専業禁止」を明確に打ち出していることです。専業とは所属する会社の本業だけをしている状態で、「専業禁止」とは「副業禁止」の逆。つまり、「みんな副業をしましょう」と会社が呼びかけたわけです。それでも最初は応じる社員は少なかったようですが、会社を挙げてこれを呼びかけた結果、みんな副業をするようになっていきました。

 「何かをすることができる」という意識は「自己効力感」と呼ばれています。自己効力感を高めるためには、モデリングが有効とされています。モデリングとは、周りの人がやっているのを見て「あの人ができるなら、自分にもできるかも」と思うことです。エンファクトリーではこれを利用して、「やってみようか」という人を増やしていったようです。

 エンファクトリーでは社員やアルムナイ(エンファクトリーを退職した卒業生に当たる存在)、フリーランスの人などが集まる機会を設けました。そこは、すでに副業を通じて「越境」を経験した人がその体験を語り、聞いていた人たちの質問も受けるような会です。

 これをやっているうちに、聞いている人たちが「私にもできるかも」と興味を持ち、「よしやってみよう」という人がどんどん出てきたわけです。そうした取り組みの蓄積を生かし、エンファクトリーでは越境学習を支援する事業も行っています。

 こうした副業体験、越境体験を語り合うイベントを積極的に行っている企業は増えてきています。自己効力感を高め「私もやってみよう」という気になって越境学習にチャレンジするのと、会社が言っているから「しょうがない、行ってみるか」では、当然ですが得るものが違ってきます。

 海外留学制度を使って社外での越境学習をうまくやっている会社もあります。海外留学制度のある会社はたくさんありますが、多くは、海外で会社の業務に必要なことを学びます。ところが、「留学先は自分で選んでいい」「留学先で学ぶことは社業と全く関係なくてもいい」というユニークな海外留学制度を採用している企業もあります。

 ただし、自由に留学先を選べる代わりに、部屋探しから銀行口座の開設といった普通なら会社が面倒をみるようなことでも「すべてのことを自分でやってください」ということになっています。

 旅行で言えばツアーではなく個人旅行。チケットの手配から現地での宿探し、スケジューリングまですべて自分でやらなければなりません。つまり、すべてがアウェイ体験です。学びの連続で、まさに越境学習の本質を捉えた取り組みではないかと思います。

 ここまで、4回にわたって「越境学習」についてお話をしてきましたが、いかがでしたか。10月19日の公開セミナーでは、更に詳しいお話ができると思います。ふるってご参加ください。
 皆様にお会いできることを楽しみにしております。

【筆者プロフィール】
石山恒貴(いしやま・のぶたか)

法政大学大学院政策創造研究科 教授
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院修士課程修了、法政大学大学院博士後期課程修了、博士(政策学)。
NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。人材育成学会常任理事、日本女性学習財団理事、産業・組織心理学会理事、人事実践科学会議共同代表、フリーランス協会アドバイザリーボード等。

主な著書 :『定年前と定年後の働き方』光文社、『カゴメの人事改革』(共著)中央経済社、
『越境学習入門』(共著)日本能率協会マネジメントセンター、『日本企業のタレントマネジメント』中央経済社等。

主な受賞: 日本の人事部“HRアワード2022”書籍部門最優秀賞~『越境学習入門』、経営行動科学学会優秀研究賞“JAASアワード2020”『日本企業のタレントマネジメント』、人材育成学会 論文賞(2018)等。

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2023/10/11
セミナー情報法政大学大学院 石山恒貴教授集中連載(3)

企業主導型の越境学習はどうあるべきか

前回は、「越境学習」がミドルシニアにもたらす効果についてお話していただきましたが、
本号では、企業が主導する越境学習の注意点についてご解説をいただきます。

 今、企業の人事部などが主導して、越境学習に取り組もうという会社がどんどん増えています。そのときに、少しだけ考えていただきたいと思っていることがあります。それは、企業主導で越境学習の募集をし、応募してきた人を受け入れ先に派遣する、その形だけが越境学習ではない、ということです。

 実は、個人で越境学習をしている人たちは意外に多いのです。どういうことかと言えば、私の定義する越境学習は「ホームとアウェイを行き来すること」で、その場合のホームは自分の所属する会社だけを意味しませんし、アウェイとは別の企業だけを指すのではない、ということです。

 たとえば、PTAの活動の場とか地域活動のコミュニティに参加している人なら、そういう場は、普段出会えない多様な人々と交流できる場ですから、まさにアウェイの場です。そこで会話をしたり試行錯誤したりすることで新しい価値を発見するという意味で、間違いなく越境学習なのです。

 企業主導で越境学習を推進しようとするとき、よく言われる積極的で意欲もある人たちは放っておいても越境学習をするが、多くの人たちはきっかけを与えないと越境学習への意欲も薄い。だからこの人たちは強く背中を押さないと越境学習をしない、と考えがちだと思います。

 しかし、さまざまな企業の社員に越境学習について語り合ってもらうと、意外に多くの皆さんが個人的に越境学習に参加していることがわかります。家庭でも職場でもない「サードプレイス」への参加、これも越境学習の一つだと私は思っていますが、そもそも個別の地域活動が越境学習の場だと考えている企業は少ないですし、そうした個々の活動まで把握しているはずもありません。

 しかし、先述のように、実は個人主導であっても企業主導であっても、ホームとアウェイを行き来するという越境学習であることに変わりはありません。ですから、企業は越境学習を少し広い意味で捉え、社員がさまざまなコミュニティに参加することを奨励するような企業風土、企業文化を、まず先頭の方たちが率先してつくっていただきたい。私は、越境学習の募集をすることの前に、これを実践してもらえたらと思っています。

 たとえば、ある中小企業の社長は、自らコミュニティに出かけて行って、刺激を受けた体験を社員にどんどん話すようにしています。すると、興味を持った社員が出てきます。そこから「私もやってみたいな」「今度連れていってください」といった流れになり、会社全体にそうした空気が広がっていく。こうなれば、人事部が越境学習の募集をすることになったときの反応も違うはずです。

 よく、会社で副業解禁をしても、それならと名乗りを上げる人はとても少ないと聞きますが、それは当然のことだと思います。なぜなら、特に大企業のミドルシニアの場合、長年「副業は禁止、本業に集中しなさい」と言われ続けてきたからです。それが染みついていますから「今さら、そう言われても……」と躊躇してしまうのです。

 つまり、ミドルシニアの越境学習を推進しようと思うなら、そうした心理的ハードルを下げる環境づくりをしてからでないと、なかなか難しい面があります。かと言って、人事部などが半ば強制的に越境させると、萎縮した気持ちのまま越境学習に臨むことになってしまう危険性があります。

 もう一つは、越境学習の受け入れ先をどこにするか、という問題もあります。ホームでのビジネスに役立つ新しいスキルや情報を獲得してくることを優先すれば、自ずと受け入れ先の候補は絞られてきます。しかし、それよりも社員が自分の働き方や定年後の将来を見つめ、自主的に振る舞う人材になることを優先するなら、必ずしも受け入れ先は、自社と似た業種に携わる企業などでなくてもいいはずです。

 むしろ、全く関係ない企業、あるいはプロボノ(自分の知識・スキルを活かしたボランティア活動)など、社会貢献を目的とする団体などに行って、大企業で培った組織運営や管理のノウハウなどを用いてサポートするといったことから始めるのも、一つの方法ではないかと思っています。

 次回のメールマガジンでは企業の取り組みについて触れてみたいと思います。

【筆者プロフィール】
石山恒貴(いしやま・のぶたか)

法政大学大学院政策創造研究科 教授
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院修士課程修了、法政大学大学院博士後期課程修了、博士(政策学)。NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。人材育成学会常任理事、日本女性学習財団理事、産業・組織心理学会理事、人事実践科学会議共同代表、フリーランス協会アドバイザリーボード等。

主な著書 :『定年前と定年後の働き方』光文社、『カゴメの人事改革』(共著)中央経済社、『越境学習入門』(共著)日本能率協会マネジメントセンター、『日本企業のタレントマネジメント』中央経済社等。

主な受賞: 日本の人事部“HRアワード2022”書籍部門最優秀賞~『越境学習入門』、“経営行動科学学会優秀研究賞”(JAASアワード2020)『日本企業のタレントマネジメント』、人材育成学会論文賞(2018)等

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2023/10/04
セミナー情報法政大学大学院 石山恒貴教授集中連載(2)

越境学習がミドルシニアにもたらす効果

前回は、ホームとアウェイを行き来する「越境学習」の概念についてお話をいただきました。第2回は、越境学習がミドルシニアにもたらす効果についてお話をしていただきます。

 ホームからアウェイに移って起こることを考えてみましょう。
「知らない人ばかりなので人脈を使うことができない(すべて自分でやらなければならない)」「それまで身につけたノウハウやマニュアルが通用しない」「それまでできると思っていたことが意外にできなかったことに気づく」「自分の経歴やスキルが評価されない」……。

 さらに言えばアウェイでは、「何のために(目的)、何をやるべきか(ミッション)」から自分で考えなければならない、というケースが少なくありません。上司の指示、部下のサポートといったものがありませんから、失敗も多くなります。しかし、この試行錯誤、失敗の経験こそが貴重な学びにつながります。

 ミドルシニアの皆さんの多くは、ホームでは上司の地位にあることでしょう。そこでは自分を成長させ、会社を発展させるための学びが求められるはずですが、会社が大きくなるほどイノベーションを起こすことへの抵抗は大きくなる可能性があり、そのため自分の役割を大過なく果たすことに目を向けがちになります。

 ところが、アウェイに出ていくとそうはいきません。まず自分がどういう形でそこの集団に溶け込み、何をすれば集団に貢献できるかを考え、行動しなければ始まりません。それがアウェイでは自然と必要になりますし、それをしなければ楽しくもありません。つまり、アウェイは何をどうするかを主体的に考え、行動する人になることが求められる場です。

 誰でも最初は戸惑いがあると思いますが、自分で考え、自分から行動しているうちに、アウェイは否応なく新しい自分、新しい価値観の発見の場となります。その過程で失敗や試行錯誤があるわけですが、ホームに比べてアウェイはそれが許される場であることが多いはずです。
年齢や性別にこだわらず、多様な人たちとフラットに会話をしながら、好奇心にしたがってトライ&エラーを体験できる。こういう体験は、顔見知りが多いホームではなかなか難しいことです。そこに越境学習の意味があるわけですが、越境学習はホームとアウェイを行き来することですから、アウェイでの刺激が新しい価値観をもたらし、より創造的な発想ができると思います。

 アウェイからホームに戻ってきたとき、それがホームでのビジネスや働き方に大きな影響を与えてくれることでしょう。越境学習は自分の中の多様性を育み、さまざまな価値観があることに気づかせてくれますから、そのことが、ミドルシニアのキャリア形成にとって最も大きなことだと私は思っています。

 ホームだと、地位やプライドが妨げになってなかなか年齢にこだわらないフラットなコミュニケーションを苦手に思うミドルシニアの方もいるのではないかと思います。部下に事務手続きを任せてしまうこともホームだと起こりがちだと思いますが、アウェイに行くと上下関係はありませんから、相手の年齢に関係なく声をかけてわからないことを聞くことも当然必要ですし、何をやるにも自分から主体的に動かなければなりません。

 ここで自分が役立つために何をすべきか――。そこから自分で考え、自分でするべきことを生み出していくこと。こうした体験をすれば、ホームに戻ったときに、仕事の仕方、働き方にも変化が生まれるはずです。

 ミドルシニアの人たちは、そう遠くはない未来に定年を迎えます。再雇用される人も多いでしょうが、定年後はフリーランスの身になって働きたいという人も少なからずいるはずです。大企業から中小企業へ転身する人もいるでしょう。越境学習の「すべて自分で一から構築していく」ような経験は、今の定年前のビジネスにもちろん活かせるはずですが、それ以上に、定年後にも役立つはずです。

 大企業の人が中小企業で働くようになったとき、「ウチの会社ではこうやっていた」「このシステムは遅れている」的な「上から目線」は敬遠されます。その会社の人たちと同じ目線に立ち、その会社の人たちと一緒になって手足を動かそうという気で働かなければうまくいきません。そういう気持ちをもって働くことができたとき、初めて大企業で培った経験やスキルを生かせるようになり、自然に頼りにされる人間になるはずです。それを教えてくれる場が、越境学習なのです。

 次号では、企業が背中を押して越境学習の機会を創るとき、どんなことに注意を払うべきかを考えてみようと思います。

【筆者プロフィール】
石山恒貴(いしやま・のぶたか)

法政大学大学院政策創造研究科 教授
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院修士課程修了、法政大学大学院博士後期課程修了、博士(政策学)。NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。人材育成学会常任理事、日本女性学習財団理事、産業・組織心理学会理事、人事実践科学会議共同代表、フリーランス協会アドバイザリーボード等。

主な著書 :『定年前と定年後の働き方』光文社、『カゴメの人事改革』(共著)中央経済社、『越境学習入門』(共著)日本能率協会マネジメントセンター、『日本企業のタレントマネジメント』中央経済社等。

主な受賞: 日本の人事部“HRアワード2022”書籍部門最優秀賞~『越境学習入門』、“経営行動科学学会優秀研究賞”(JAASアワード2020)『日本企業のタレントマネジメント』、人材育成学会論文賞(2018)等

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2023/09/27
セミナー情報法政大学大学院 石山恒貴教授集中連載(1)

ホームとアウェイを行き来するのが「越境学習」

本号より、4回にわたって、パラレルキャリア研究の第一人者で、法政大学大学院政策創造研究科石山恒貴(いしやま・のぶたか)教授より中高年社員の「越境学習」についてお話をいただきます。

◆越境学習」とは?
 「越境学習」という言葉は、立教大学経営学部の中原淳教授が著書『経営学習論』のなかで10年ほど前に示され、知られるようになりました。越境学習は平たく言えば、企業の中に留まらないで、どんどん外へ学びに行きましょう、企業や職場の境界を越えて学びましょう、ということを意味していました。

 そこから私は定義を広く考え、越境学習の「越境」を、自分の会社から別の企業や組織に行って学ぶという意味だけでなく、もう少し心理的な意味で捉えるようになりました。今、私が考える越境学習は、自分がホームだと思える場所からアウェイだと思える場所に行くこと。つまり、ホームとアウェイの境目を越えて行き来することを「越境」と捉えているわけです。

 では、自分がホームと思う場所とは何かということですが、よく知っている人たちで構成され、同じ価値観や考え方を当たり前だと思っている場所。その場が共有する社内用語みたいなものもあって自然に行動できてしまうけれども「刺激があるか?」と問われれば、それは少ないという場所になります。

 アウェイはその逆です。価値観も考え方も違う知らない人ばかりがいる場所で、言葉がなかなか通じない。やっていることも自分の会社と全然違うので勝手がわからない。だから、心理的に不安になって居心地は良くないけれど、そういう場で知らない人と会話しながら一から何かをしようとすれば、ホームでは味わえない刺激を受けることができる。そういう場所がアウェイです。

 そして、私が考える越境学習は、こうしたホームとアウェイの境界を行ったり来たりすること。その状態を繰り返すことです。そうすると、いくつかの異なる価値観が自分の中に入ってくるので心理的に不安定な状態にもなりますが、「自分が本当にやりたいことは何だったのか」とか「自分はこれからどう在るべきか」というところにたどり着くはずです。越境することで自分がどういう人間で、これからどうやって生きていくべきかを、自然に考えるようになっていく。これが越境学習の意義ではないかと考えています。

 ホームではそこで通用している言葉や考え方、仕事の処理の仕方に至るまで、その場の常識、固定観念にしたがっていればうまくいくので、すべてわかった気になりがちです。対して、アウェイではそれが通用しませんから、「誰に聞けばいいんだろう」「何をすればいいんだろう」から始まって、「なるほど、こういうやり方でよかったのか」「こういう方法もあったんだ」といった新しい発見がたくさんあります。それが新しい価値観を生むことになるわけで、越境学習で一番大事なのは、アウェイで何か新しいスキルを身につけることではなく、私は新しい価値観に新鮮な刺激を受けることだと思っています。それが、常識や自分を考え直すきっかけになるからです。

 それまでは決まった顔ぶれ、決まった役職や序列の中で仕事をしていた人が、知らない人たちと手探りで距離を縮めていく中で、ホームの世界でまとわりついていた常識の世界が破られ、「ああ、そうだったのか!」という体験が得られる。アウェイはそういうことが起こりやすい場ですからもちろん楽しいし、その後のビジネスだけでなく、人生全般に良い影響が生まれるはずです。

 ただし、アウェイに行くと言っても、行きっぱなしでは越境学習とは言えません。「慣れ親しんだ職場から人事異動や出向で別の場所に行くことも越境学習ですよね?」とよく聞かれますが、その場合、新しい職場は最初はアウェイかもしれませんが、ずっとアウェイにいれば、そこはやがてホームになります。ホームからアウェイではなく、ホームからホームに移行したことになるので、一方通行ではないことが重要です。

 次号では、越境学習がミドルシニアにもたらす効果についてお話を進めていこうと思います。

【筆者プロフィール】
石山恒貴(いしやま・のぶたか)

法政大学大学院政策創造研究科 教授
一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院修士課程修了、法政大学大学院博士後期課程修了、博士(政策学)。NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。人材育成学会常任理事、日本女性学習財団理事、産業・組織心理学会理事、人事実践科学会議共同代表、フリーランス協会アドバイザリーボード等。

主な著書:『定年前と定年後の働き方』光文社、『カゴメの人事改革』(共著)中央経済社、『越境学習入門』(共著)日本能率協会マネジメントセンター、『日本企業のタレントマネジメント』中央経済社等。

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2023/09/20
セミナー情報企業と中高年社員の未来を拓く「越境学習」

 星和Career Next 2023#4 第4回公開セミナー
企業と中高年社員の未来を拓く「越境学習」

 来たる10月19日(木)、本年度4回目となる「星和Career Next」(公開セミナー)を開催します。今回のセミナーでは、パラレルキャリア研究の第一人者で、法政大学大学院政策創造研究科石山恒貴(いしやま・のぶたか)教授をお迎えして、いま、多くの企業から注目されている「越境学習」についてお話をいただきます。

<開催概要>
■主   催:株式会社星和ビジネスリンク
■開催日時:2023年10月19日(木) 13:30~15:20頃
■開催形式:オンライン(Zoom)
■定   員:先着300名

セミナーの詳細・お申込みはこちらから

※お申し込みをいただいた方には、後日視聴のための事前登録のURLをご案内いたします。
※競合他社・同業者からのお申し込みは、視聴をお断りさせていただくことがあります。

【第一部】
[テーマ]
ミドルシニアの越境学習~はじめの一歩の歩みかた~
講師:法政大学大学院政策創造研究科 教授 石山恒貴(いしやま・のぶたか)氏

[講演内容]
 近年、「越境学習」に注目が集まっています。これは、日頃自分が身を置いているホームから、非日常のアウェイに身を移して新たな刺激を受け、そこで得た気づきをホームに還元することを目的としています。

 今回のセミナーでは、越境学習の本質と効果の他、個人が行う越境学習と企業が実施している好例をお話しいただきます。

 講演の視聴申し込みは、弊社Webサイト(申し込み画面)からお願いします。


セミナーの詳細・お申込みはこちらから


 10月19日(木)の石山教授ご登壇に合わせて、「星和HRインフォメーション(メールマガジン)」では9月20日(水)から4週にわたって石山教授のコラムをお届けします。

石山恒貴氏


[講師Profile]
石山恒貴(いしやま・のぶたか)
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【第二部】
[テーマ]
民間企業から社会福祉領域への越境プロジェクト
講師:定年後研究所 所長 池口武志(いけぐち・たけし)氏

[講演内容]
 会社員として自らの4回の越境体験で得た教訓や、キャリアチェンジの成功体験者の事例をご紹介させていただきます。そのうえで現在、定年後研究所が支援中の「民間シニア人材の社会福祉法人への越境体験」の取組について、その最前線での試行錯誤を紹介させていただきます。

池口武志氏


[講師Profile]
池口武志(いけぐち・たけし)
1986年 日本生命保険相互会社入社
本部リテール販売部門、人事、営業企画、契約管理、販売最前線等で長く管理職(部長、支社長など)を経験し、多様な職種の人材育成にかかわる。その間、オックスフォード大学 Diplomatic Studies修了。
2016年 研修事業も行う星和ビジネスリンクに出向、キャリア羅針盤の開発を統括。現在、同社取締役常務執行役員も務める。
2023年3月 桜美林大学大学院老年学修士課程修了。キャリアコンサルタント、消費生活アドバイザー、AFP、日本心理的資本協会理事、シニア社会学会会員

 著書に『定年NEXT』( 廣済堂新書 2022年4月)、『人生の頂点は定年後』(青春新書インテリジェンス 2022年10月)がある。

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2023/09/13
お知らせ 業務委託(個人事業主)制度導入のステップ

業務委託(個人事業主)制度導入のステップ

「“半”個人事業主」というシニアの新しい働き方について、リスタートサポート木村勝事務所 代表 木村勝氏からコラムをお寄せいただいています。最終回は、“半”個人事業主を実際に導入する際の手順と注意点についてです。

 業務委託(個人事業主)制度導入のステップについては以下の通りです。
(1)業務委託に関する企業側・シニア側双方の理解
(2)委託業務の内容決定
(3)報酬額の決定
(4)業務委託契約書の作成・締結
(5)業務委託によるサービスの提供開始
特に重要なのは(1)のプロセスになりますので、ここでは (1)を中心に解説したいと思います。

◆〈業務委託に関する企業側・シニア側双方の理解がポイント〉
 雇用という働き方が世の中のメインという状況の中で、個人事業主という新たな働き方を実現させていくためには、「個人事業主と労働者の違いは何か」、「雇用契約と業務委託契約の違いは何か」についてまずは企業・シニア双方がしっかり理解していなければなりません。

◆ 〈最大の違いは指揮命令の有無〉
 図は、労働契約における会社との関係を表した図です。
労働契約における会社との関係
 労働契約の締結により、会社と労働者の間には、「使用従属関係」が生じます。この「使用従属関係」により、労働者は職場秩序に従って使用者の指揮命令を受け労務に服することになります。 

 この 「指揮命令」 の有無が労働者と個人事業主を分ける最大のポイントです。
 個人事業主は、会社と対等の関係で業務委託契約(あるいは請負契約など)を締結して自らのサービスを提供します。会社からの指揮命令は受けません。逆に会社から指揮命令を受けて働くのであれば、それは個人事業主ではなく労働者です。たとえご自身が個人事業主と名乗り業務委託契約を締結していたとしても実態として指揮命令を受けているのであれば、それは労働者になります。

〈今まで当たり前だった勤務管理も対象外〉
 労働基準法などの労働法は労働者に適用される法律です。個人事業主は、労働者ではありませんので、労働基準法などの労働法規の適用はされません。

 そのため今まで労働者として働いていたときには当たり前だった勤務管理も対象外になります。したがって、時間外(残業)とか休日出勤(休出)という概念は個人事業主にはありませんので、残業手当も休日出勤手当も当然支払われません。個人事業主として働く際には、このあたりの意識転換もしなければなりません。

 また、ここでの解説は紙面の関係上省きますが、労働者の場合には意識せずに当然のように加入している社会保険や労働保険についても業務委託では取扱いが変わってきます。

〈委託業務の内容と報酬額の決定〉
 続いて、(2)委託業務の内容決定(3)報酬額の決定についてです。
“半” 個人事業主は、業務委託契約(あるいは請負契約)を会社と締結して仕事をしていくことになりますので、まずは業務委託契約書を作成する必要があります。

 業務委託契約書の中で最も重要なポイントは「委託業務の内容」と「報酬額」の設定です。

【委託業務の内容】
 “半”個人事業主として仕事をしていくうえで一番重要なことは、「何をするか」 です。業務内容に関しては、想定しうる業務はできる限り洗い出して「見える化」し記載したほうがお互いトラブルになりません。会社としても社員に任せる仕事と個人事業主に任せる仕事が明確になることで洩れダブりもなくなり、効率的な業務運営ができるようになります。

【報酬額の設定】
 個人事業主の報酬は、自分の提供するサービスが市場でどれくらいの価値で評価されるか、いわゆる市場原理で決まります。労働者とは異なり、働いた時間に比例して報酬が決まるのではありません。「かけた時間」ではなく「出した成果」を評価して決められるのが個人事業主の報酬の基本です。

 しかしながら、“半”個人事業主として最初に契約する報酬水準に関しては、クライアント企業の要求する業務内容・水準や “半”個人事業主側の実力なども異なりますので、市場相場で決めることは難しいのが実状です。

 それでは、“半”個人事業主が初めて今まで労働者として勤務していた会社と業務委託契約を結ぶ際の報酬はどのように考えたらよいでしょうか?

 “半”個人事業主の報酬額設定の際にベースとなるのが雇用で働いていた(働いた)と想定した場合の“実質”給与です。このベースとなる給与は、給与明細に示されている額面の額だけではありません。会社は、労働者を雇用することによって表面上の給与以外に様々な費用を負担しています。そのような隠れた会社負担分を織り込んだうえで「もしそのまま雇用契約で働いていたら会社としていくら負担するか」をベースにしてそのうえで個別条件を加味して決めていくと双方納得性が高く、合意に至りやすいです。

〈終わりに〉
  第1回コラムにてシニア活躍のための多様な選択肢を準備することを提言させていただきました。制度導入にあたっては、こうした新たな働き方が会社・シニア双方にとってメリットがあることをお互いがきちんと理解したうえで行っていくことが成功のポイントになります。

 パーソル総合研究所の「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」(2021年5月公表)によるとシニア層の働きぶりが若年社員の転職意向に影響を与えているという結果が出ています。業務委託により個人事業主として働く選択肢は、兼業・副業が当たり前となりつつある若手社員にとっても魅力ある働き方に映ります。

 4回にわたるコラムをお読みいただきありがとうございました。今回コラムでご紹介させていただいた “半” 個人事業主というシニアの働き方については、11月下旬に出版予定の拙著にて詳しく解説をしておりますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

【筆者プロフィール】
木村勝(きむら・まさる)

人事インディペンデント・ コントラクター(独立人事業務請負人)、中高年専門ライフデザイン・アドバイザー、電気通信大学特任講師。
1961年 東京板橋区生まれ、一橋大学社会学部卒。
1984年 日産自動車に新卒で入社後人事畑を歩み続ける。
2006年 社命により日産自動車を退職し、全員が人事のプロ集団という関連会社に転籍。中高年のセカンドキャリアをサポートする部門の部長としてセカンドキャリア支援業務(出向・転籍・転職等)に従事。
2011年 所属する会社がM&Aにより外資系企業に買収され、それを契機に真剣に自分のセカンドキャリアを考え始める。
2014年 一度の転職経験のない状態から独立し、「リスタートサポート木村勝事務所」を開設。
特定人材紹介会社に所属することなく、ニュートラルな立場でキャリア相談に精力的に取り組み、自分の会社の人事部には相談できないビジネスパーソンのキャリアの悩みに対して個人面談やセミナーなどを通じて支援している。
また、約30年間で培った知見をもとに独立後も企業内人事部に籍を置き、面接、研修などの人事業務サポートや日々発生する人事課題に対応する現役の専門家の顔を持つ。

著書に
『働けるうちは働きたい人のためにキャリアの教科書』(朝日新聞出版)
『知らないと後悔する定年後の働き方』(フォレスト出版)
『ミドルシニアのための日本版ライフシフト戦略』(WAVE出版、共著)
がある。



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2023/09/07
セミナー情報企業からみた業務委託(“半”個人事業主)という働き方導入のメリット

企業からみた業務委託(“半”個人事業主)という働き方導入のメリット

 木村氏によるコラム3回目は、どんな人がどんな形で「“半”個人事業主」として働くことができるのかを解説していただきます。

◆“半” 個人事業主の類型 スペシャリスト型とリリーフ型
 個人事業主的な働き方に対して企業・シニア社員双方で受け入れる土壌ができつつあることは前回のコラムで解説させていただいた通りです。

 「受け入れる条件整備が進みつつあることは理解できたが、“半”個人事業主として働くことができる人は、特別なスキルや資格を持つ人だけで営業や経理などごく普通のビジネスパーソンにはそもそも関係のない話ではないか?」

 そう思われる企業人事の方やシニアの方もいらっしゃるかと思います。
確かに今までは、専門職的な職種(法務部員や研修講師)や特別な資格やスキルを持つビジネスパーソン(ITの専門家、公認会計士など)が個人事業主的な働き手の中心でした。こうしたタイプの個人事業主を「スペシャリスト型“半”個人事業主」とここでは名付けます。

●「スペシャリスト型“半”個人事業主」の特徴
□特別なスキルや資格をベースに仕事を行う
□外部の専門家に依頼することで代替できる場合もあるが、立ち上がりまで時間がかかり、報酬も高額になりがち
□どんな職種にも必ずしも当てはまるわけではなく、職種が限定される傾向がある
 ところが最近では、スペシャリスト型とは性格の異なる「リリーフ型“半”個人事業主」に対するニーズも増えつつあります。

●「リリーフ型“半”個人事業主」の特徴
□その会社独自の業務プロセスや用語を熟知し、人間関係も有する。今まで築いてきた実務能力、人柄など信頼感をベースに仕事を請負う
□その会社の実務面での即戦力としてその実力をよく知る人からの依頼で仕事を行う
□誰かが対応しなければならないその企業でのエッセンシャルワークも対象になる

図は、“半”個人事業主を「スペシャリスト型とリリーフ型」を横軸に取り、「契約期間の長短」を縦軸にとったマトリックスです。皆さまが一般的にイメージされる“半”個人事業主は、マトリックス表の左上の「スペシャリスト型×短期契約型」に近く、特別なスキルが必要とされる業務に必要なときに必要なだけスポット的に専門家として登板するタイプです。これに対して「リリーフ型」は、職種に限定はありません。どんな職種でも登板の可能性があります。
“半”個人事業主の類型

◆「リリーフ型 “半”個人事業主」ニーズが高まるこれだけの理由
コロナ禍を経て日本企業の人手不足は深刻な状態に陥っています。「人手不足に対する企業の動向調査(2022年10月)」
「人手不足に対する企業の動向調査(2022年10月)」

 また、若手層・中堅層を中心に転職者が増え(大転職時代の到来)、その補充ができずに業務遂行に支障をきたしている企業も多いです。

 今までは雇用の調整弁的な役割を果たしてきた非正規社員もその活用が難しくなっています。2013年に行われた労働契約法の改正により、5年間契約更新を繰り返した契約社員に対して無期転換権が発生するようになりました。無期転換権とは、条件を満たした契約社員側から有期から無期への労働契約変更の申し出があった場合には、企業はそれを認めなければならないとするものです。また、派遣社員に関しても2015年の派遣法改正で同じ職場で3年以上勤務することが基本的にはできなくなりました。

 その一方で企業は、シニア社員の処遇で頭を悩ませています。環境変化の大きい中、雇用という流動性の低い形でシニア社員を社内に囲い続けることをリスクと考えているのです。「働かないおじさん」問題はその典型的な事例です。

 こうした両者間のギャップを埋める担い手となりうるのが、シニア“半”個人事業主です。今まで培ってきた経験・スキル・知識を活かして即戦力としての活躍が期待できます。シニア側もフルタイムではなく稼働日限定の勤務により自由な時間が生まれます。指揮命令を受けることもありませんので、年下上司との微妙な関係も解消されます。

 また、育児・介護休業法の改正等も、「リリーフ型 “半”個人事業主」のニーズを高めています。育児・介護休業法とは、育児・介護を理由に労働者が離職することなく、両立しながら働けるように支援する目的で創設された法律ですが、2022年には男性育児参加を支援すべく大きな法改正が行われました。

 従来の育児休業制度に加えて新設された出生時育児休業は、男性の育児休業取得促進策のひとつで、子どもの誕生から8週間以内に最大4週間の育児休業を分割して2回まで男性が取得できる制度です。

 こうした環境整備により、これからは男性も育児休業を積極的に取得していくようになりますが、企業にとって頭が痛いのは休業取得期間中の工数穴埋めです。休業終了後に確実に復職してきますので、新たに人を採用して穴埋めするわけにはいきません。取得期間も人によって長期短期バラバラです。

 こうした育児休業で空いた一時的な業務補填役がまさに「リリーフ型“半”個人事業主」です。社内の事情は熟知していますので、新規採用のように改めて社内制度、ルールを一から説明する必要はありません。また、何十年間の経験がありますので社内人脈も豊富です。特に具体的な指示を受けなくても超即戦力として育児休業者の穴埋め対応をすることができるのが、シニア“半”個人事業主です。

 次図は必要なスキル等の専門性と業務密度を軸としたマトリックスです。従来、非正規社員が担ってきた左上の領域の担い手がいなくなってきていますので、まずはこの領域を誰かがサポートする必要があります。右下の領域も外部から専門家が採用できない昨今、スペシャリスト型の“半”個人事業主の活躍場所です。
これからの役割分担

 次回(最終回)は、業務委託(個人事業主)制度導入のステップについて解説していきたいと思います。

【筆者プロフィール】
木村勝(きむら・まさる)

人事インディペンデント・ コントラクター(独立人事業務請負人)、中高年専門ライフデザイン・アドバイザー、電気通信大学特任講師。
1961年 東京板橋区生まれ、一橋大学社会学部卒。
1984年 日産自動車に新卒で入社後人事畑を歩み続ける。
2006年 社命により日産自動車を退職し、全員が人事のプロ集団という関連会社に転籍。中高年のセカンドキャリアをサポートする部門の部長としてセカンドキャリア支援業務(出向・転籍・転職等)に従事。
2011年 所属する会社がM&Aにより外資系企業に買収され、それを契機に真剣に自分のセカンドキャリアを考え始める。
2014年 一度の転職経験のない状態から独立し、「リスタートサポート木村勝事務所」を開設。
特定人材紹介会社に所属することなく、ニュートラルな立場でキャリア相談に精力的に取り組み、自分の会社の人事部には相談できないビジネスパーソンのキャリアの悩みに対して個人面談やセミナーなどを通じて支援している。
また、約30年間で培った知見をもとに独立後も企業内人事部に籍を置き、面接、研修などの人事業務サポートや日々発生する人事課題に対応する現役の専門家の顔を持つ。

著書に
『働けるうちは働きたい人のためにキャリアの教科書』(朝日新聞出版)
『知らないと後悔する定年後の働き方』(フォレスト出版)
『ミドルシニアのための日本版ライフシフト戦略』(WAVE出版、共著)
がある。


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2023/08/31
セミナー情報再雇用に代わるシニアの新たな働き方
~業務委託契約とは~

再雇用に代わるシニアの新たな働き方 ~業務委託契約とは~

 前号に引き続き、シニアの新しい働き方、業務委託契約について、リスタートサポート木村勝事務所代表の木村勝氏のコラムをおとどけします。
 今回は個人事業主としての働き方をめぐる環境の変化について解説していただきます。

◆業務委託契約(個人事業主化)という働き方の可能性
 今回のコラムでは、「今いる会社」 と 「仕事はそのまま」 で 「(雇用ではなく)業務委託契約」 を締結する “半”個人事業主としての働き方を考えていきたいと思います。

 総務省の労働力調査(2022年)によると、日本の雇用者は6041万人で就業者に占める雇用者の割合は89.9%です。9割弱の人が企業に雇われて働いています。

 日本で一番ニーズがある仕事は、講師や国家資格者のようなスペシャリストの仕事ではなく、営業や人事、経理など会社の中にあるごく普通の仕事です。今は雇用されているビジネスパーソンがその役割をほぼすべて担っていますが、その仕事を雇用ではなく業務委託で担っていくのが “半”個人事業主です。

 2017年に出版した拙著 「働けるうちは働きたい人のためのキャリアの教科書」(朝日新聞出版)でもこうした“半”個人事業主の働き方を提唱させていただきましたが、その当時は副業・兼業解禁の機運も低く、業務委託を締結して働くことはまだまだイレギュラーな感覚でした。

 今は違います。企業が副業・兼業を解禁するに伴って業務委託で仕事をすることに対する抵抗感が少なくなっています。

 経団連が2022年10月にまとめた 「副業・兼業に関するアンケート調査結果」を見てみましょう。この調査は、経団連会員企業における副業・兼業に関する取り組み状況やその効果などを把握するため実施したもので、会員企業の副業・兼業解禁状況だけでなく、社外からの副業・兼業人材の受け入れについても調査をしています。

 その結果は、社外からの副業・兼業人材の受け入れについては、回答企業の30.2%が「認めている」または「認める予定」と答えています。社外から副業・兼業人材を受け入れることの効果については、「人材の確保」(53.3%)、「社内での新規事業創出やイノベーション促進」(42.2%)、「社外からの客観的な視点の確保」(35.6%)が上位を占めており、企業における必要な人材の確保策として、副業・兼業者の受け入れを図っていることが明らかになっています。

 この調査からもわかるように、自社社員に対する副業・兼業の解禁に伴い、雇用以外の働き方(=業務委託)に関しても抵抗感が無くなりつつあります。電通や健康機器のタニタが積極的に自社社員の個人事業主化を図っていることは有名ですが、多くの企業で雇用に限らず多様な働き方を柔軟に受け入れるようになってきているのです。

◆業務の個人事業主化が進む理由
(1)企業における副業・兼業の拡大→業務委託経験値の蓄積→抵抗感が薄れる
 企業は副業・兼業を認めるようになっていますが、認めている副業は、実は図の【雇用+雇用】パターンではなく、下の【雇用+業務委託】パターンです。【雇用+雇用】パターンは、労働時間を2社間で通算して残業分を算出する必要があるなど、労務管理が複雑になり、多くの企業で認めていません。

 企業は、【雇用+業務委託】パターンで自社の社員に対して業務委託による副業・兼業を認めていますので、逆の受け入れである「個人事業主に業務委託で仕事を依頼する」ことに対しても経験値を積んでいます。

 筆者は、2014年に個人事業主として仕事を始めましたが、その当時は業務委託契約という働き方に関して企業側も経験値が少なく、「やったことがない」「雇用以外の働き方は想定していない」という企業が多かったのですが、最近は雇用ではなく業務委託契約の締結を求める企業も増えてきています。
兼業・副業の形態

(2)65歳超の働き方として法律で想定されていること(改正高年齢者雇用安定法)
 改正高年齢者雇用安定法では、65歳を超え70歳までの就業機会の提供を努力義務化しています。65歳までは「雇用が義務化」されていますが、65歳を超え70歳までの期間は、「雇用に拘らず業務委託契約を締結する」ことも措置の一つとして認められています。

 業務委託での就業機会提供について、国がお墨付きを与えているようなものですので、企業も今後65歳以降の就業機会提供に関しては、雇用だけでなく業務委託契約を締結することが増えることが予想されます。

(3)コロナ禍でのテレワーク経験
 今回のコロナ禍は、多くのビジネスパーソンにとってこれからの自分自身の働き方をあらためて考える大きなきっかけになりました。

 各種アンケート調査でも「コロナ禍を経験し、転職への関心が高まった」と答える割合が高まっています。テレワークの経験により、一日中フル稼働していたと思い込んでいた自分の仕事時間の中にかなりの隙間時間があることや、朝夕の通勤時間の無意味さに気づいたのです。

 こうした気づきは働く側だけでなく企業側も同様です。社員として雇って、会社に来て仕事をしてもらわなければ回らないと思っていた業務がテレワークで完結できることに気づきました。今回のコロナ禍で経験したテレワークでの業務遂行は、実質的に業務委託で仕事をやってもらうのと何ら変わらないケースも多いです。

 コロナ禍は、ある意味働き方に関する“パンドラの箱”を開けました。こうした経験は、雇用だけではなく業務委託という仕事の提供方法があることを企業に知らしめ、業務委託で個人事業主と契約することの抵抗感をますます薄れさせています。

 次回は、業務委託契約(個人事業主化)という働き方を導入する企業側のメリットをもう少し掘り下げて考えてみたいと思います。

【筆者プロフィール】
木村勝(きむら・まさる)

人事インディペンデント・ コントラクター(独立人事業務請負人)、中高年専門ライフデザイン・アドバイザー、電気通信大学特任講師。
1961年 東京板橋区生まれ、一橋大学社会学部卒。
1984年 日産自動車に新卒で入社後人事畑を歩み続ける。
2006年 社命により日産自動車を退職し、全員が人事のプロ集団という関連会社に転籍。
中高年のセカンドキャリアをサポートする部門の部長としてセカンドキャリア支援業務(出向・転籍・転職等)に従事。
2011年 所属する会社がM&Aにより外資系企業に買収され、それを契機に真剣に自分のセカンドキャリアを考え始める。
2014年 一度の転職経験のない状態から独立し、「リスタートサポート木村勝事務所」を開設。
特定人材紹介会社に所属することなく、ニュートラルな立場でキャリア相談に精力的に取り組み、自分の会社の人事部には相談できないビジネスパーソンのキャリアの悩みに対して個人面談やセミナーなどを通じて支援している。
また、約30年間で培った知見をもとに独立後も企業内人事部に籍を置き、面接、研修などの
人事業務サポートや日々発生する人事課題に対応する現役の専門家の顔を持つ。

著書に
『働けるうちは働きたい人のためにキャリアの教科書』(朝日新聞出版)
『知らないと後悔する定年後の働き方』(フォレスト出版)
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2023/08/21
セミナー情報「人生100年・現役80歳」 時代の到来
~対応が求められるシニア社員の活性化~

「人生100年・現役80歳」 時代の到来
~対応が求められるシニア社員の活性化~

本号より4回にわたって、リスタートサポート木村勝事務所代表の木村勝氏よりシニアの新しい働き方、「業務委託契約」について教えていただきます。
木村氏は、ミドル・シニアのキャリアの専門家としてご活躍で、現在「業務委託契約者」として働いておられます。

◆はじめに
 生産年齢人口(15~64歳の人口)減少の大きな流れの中で今後ボリュームゾーン化するシニア世代の活性化は、企業経営においても大きな鍵となっています。その一方で役職定年、定年再雇用によるシニア社員のモチベーションダウンが大きな課題になっていることも事実です。

 今回のコラムでは、改正高年齢者雇用安定法で65歳以降の働き方の選択肢の一つとしても想定されている個人事業主という働き方(業務委託契約)に焦点をあてていきます。

 個人事業主という働き方は、長年培ったシニアの経験・知識・スキルを有効活用することができる、雇用に代わるシニアの新しい働き方になると筆者は考えています。今回から4回の連載コラムを通じて、企業・シニア社員双方からみた再雇用と業務委託のメリット・デメリットや業務委託(個人事業主)制度導入のステップなどについても解説していきたいと思います。

 初回の今回は、個人事業主という働き方を考える際の前提となる 「人生100年・現役80歳時代のシニアを巡る働き方の現状・課題」 について考えていきたいと思います。

◆シニア社員がモチベーションを下げる理由
 筆者は、今年62歳(昭和36年生まれ)。まさに定年退職を既に迎えたシニア世代ですが、我々世代を含め団塊Jr世代(2023年時点で49歳~52歳)は、新卒一括採用で入社し全員横並びで会社の出世コースに参加し、「収入」 と 「役職」 を働くモチベーションとして頑張ってきたサラリーマンが多いです。

 この入社以来働くモチベーションとなっていた 「収入」 と 「役職」 という目標が無くなるのが、50代以降特有のキャリアイベントである「役職定年」(管理職)と 「定年」 という2回のタイミングです。

 正社員の賃金カーブを見ても給与のピークは50代前半で、55歳を過ぎると下がり始めます。また、役職定年制により、55歳で課長職から、58歳で部長職から降りるケースが多くなってきます。人生100年・現役80歳時代、役職定年の55歳から25年、定年の60歳から20年間、これから先が長いのですが、この2回(「役職定年」「定年」)のタイミングをシニア社員は会社人生におけるキャリアのゴールと考えてしまい、モチベーションを下げてしまうのです。

 2018年11月に発表された一般社団法人 定年後研究所とニッセイ基礎研究所の試算によると、55歳以降の世代が役職定年でやる気を失うために生じる経済的な損失は年に約1兆5000億円にのぼるという報告がなされています。一企業だけの問題にとどまらず日本経済にとっても大きな課題です。

◆実は定年後が長い
 図をご覧ください。縦軸に年齢、横軸に1日の24時間を取り、0歳から80歳までの人生総時間を可視化した図になります。

人生総時間

 20歳から60歳まで「長い、長い」 と思っていた会社(組織)で仕事をしてきた時間(図の労働時間)よりも20歳から60歳までの自由時間(図の在職中の自由時間)の方が長いことをまず皆さんは意外に思われるのではないでしょうか。
また、かつては 「余生」 と考えられていた60歳定年から80歳までの時間が、20歳から60歳まで会社(組織)で勤務していた時間よりも長いという事実に気づきます。
「人生100年・現役80歳時代」 には、定年退職以降の期間が長いのです。


◆キャリアに関する健全な危機意識を持ったシニアは実は多い
 「人生100年・現役80歳」時代の到来と言われるようになって久しいですが、40歳が就労年齢80歳の折り返しであるならば、50歳は人生100年の折り返し地点と言うことができます。定年というキャリアの一つのゴールが現実的に目の前に見え始める時期でもあります。このちょうど人生の折り返しにあたる50代で真剣にセカンドキャリアを考え始める人は多いです。

 筆者は、2020年から2022年まで3年連続で東京都主催の「東京セカンドキャリア塾」という講座にて講師をつとめました。55歳~64歳を対象としたプレシニアコース(65歳以上を対象としたアクティブシニアコースもあります)を担当しましたが、この講座には多くの在職中の50代シニアサラリーマンが参加します。

 会社が終わった平日の夜(19時から21時)や休日の土曜日昼間に講座は開催されますので、生半可な気持ちでは2か月間のコースを修了することはできません。40代までは、会社の中核として馬車馬のように仕事一途に働いてきた方が多いですが、50代になり 「このままではいけない」 とキャリアに関する健全な危機意識を持ち意欲的に参加されています。


◆シニア活躍のための多様な選択肢を準備する
 こうした健全な危機意識を持つ意欲あるシニアの受け皿として現状は「雇用」しか準備していない企業が多いと思います。親の介護などもあり、週3日間勤務、繁忙期のみの勤務、在宅勤務など個別事情に応じて柔軟な勤務を望むシニアが実は多いのですが、「シニア社員就業規則」を定め、全員一律的な取り扱い(週5日フルタイム勤務を原則としている企業が多い)を適用している企業がほとんどです。

 年齢が上がるほど個人の意欲・体力に差が出てきますし家庭環境など個別事情も異なってきます。また、やる気あるシニアにとっては、こうした全員一律的な取り扱いがモチベーションを下げている面もあります。
従来通り 「雇用」 という枠組みの中でフルタイム勤務もあれば週3日間などパートタイム勤務もある、あるいは雇用以外の選択肢として業務委託も選ぶことができる。シニアの活用・活性化のためには、こうした多様な働き方の選択肢を準備しておくことがポイントです。

 次回は、今回のコラムのテーマである 「個人事業主(業務委託契約)」 という働き方に関して解説していきたいと思います。特に 「今いる会社」 と 「仕事はそのまま」 で 「(雇用ではなく)業務委託契約」 を締結する働き方を 「“半”個人事業主」 と定義して解説を進めていきたいと思います

【筆者略歴】
木村勝(きむら・まさる)

人事インディペンデント・ コントラクター(独立人事業務請負人)、中高年専門ライフデザイン・アドバイザー、電気通信大学特任講師、
1961年 東京板橋区生まれ、一橋大学社会学部卒
1984年 日産自動車に新卒で入社、人事畑を25年間歩み続ける。
2006年 社命により日産自動車を退職し、全員が人事のプロ集団という関連会社に転籍。中高年のセカンドキャリアをサポートする部門の部長としてセカンドキャリア支援業務(出向・転籍・転職等)に従事。
2011年 所属する会社がM&Aにより外資系企業に買収され、それを契機に真剣に自分のセカンドキャリアを考え始める
2014年 一度の転職経験のない状態から独立し、「リスタートサポート木村勝事務所」を開設。
特定人材紹介会社に所属することなく、ニュートラルな立場でキャリア相談に精力的に取り組み、自分の会社の人事部には相談できないサラリーマンのキャリアの悩みに対して個人面談やセミナーなどを通じて支援している。
また、30年間で培った知見をもとに独立後も企業内人事部に籍を置き、面接、研修などの人事業務サポートや日々発生する人事課題に対応する現役の人事マン(独立業務請負人)の顔を持つ。

著書に
『働けるうちは働きたい人のためにキャリアの教科書』(朝日新聞出版)
『知らないと後悔する定年後の働き方』(フォレスト出版)
『ミドルシニアのための日本版ライフシフト戦略』(WAVE出版、共著)
がある。

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2023/08/18
セミナー情報星和Career Next 2023#3
第3回公開セミナー 「70歳法を見据えた、シニアからの新たな働き方の選択肢」

 星和Career Next 2023#3 第3回公開セミナー
「70歳法を見据えた、シニアからの新たな働き方の選択肢」

 昨年度の公開セミナー「星和Career Next」にもご登壇をいただき、視聴者の皆様から大変な好評をいただいたリスタートサポート木村勝事務所所長の木村勝氏に今期もご登壇いただきます。
昨年度は、『働かないシニアにならないためのミドル社員の教科書』というテーマでお話をいただきましたが、今回のテーマは、「“半” 個人事業主(業務委託契約)という働き方」。木村先生のご経験も絡めたお話をいただきます。

<開催概要>
■主   催:株式会社星和ビジネスリンク
■開催日時:2023年9月7日(木) 13:30~15:30頃
■開催形式:オンライン(Zoom)
■定   員:先着300名

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※お申し込みをいただいた方には、後日視聴のための事前登録のURLをご案内いたします。
※競合他社・同業者からのお申し込みは、視聴をお断りさせていただくことがあります。

【第一部】
[テーマ]
「“半” 個人事業主(業務委託契約)という働き方」
講師:木村 勝(きむら・まさる)氏

[講演内容]
 改正高年齢者雇用安定法(70歳法)が2021年4月1日に施行され、大手企業を中心にシニア層社員の継続雇用への取組が進んでいます。
 今回のセミナーでは、中高年層のキャリアの専門家、木村勝氏からシニアの新しい働き方とそのメリットをご自身の経験を絡めてお話をいただきます。
 人事ご担当者必見です。

 講演の視聴申し込みは、弊社Webサイト(申し込み画面)からお願いします。


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 9月7日(木)の木村氏ご登壇に合わせて、「星和HRインフォメーション(メールマガジン)」では8月23日(水)から4週にわたって木村氏のコラムをお届けする予定です。

木村勝氏


[講師Profile]
木村 勝(きむら・まさる)
人事インディペンデント・ コントラクター(独立人事業務請負人)、中高年専門ライフデザイン・アドバイザー、電気通信大学特任講師
1961年 東京板橋区生まれ、一橋大学社会学部卒
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また、30年間で培った知見をもとに独立後も企業内人事部に籍を置き、面接、研修などの人事業務サポートや日々発生する人事課題に対応する現役の人事マン(独立業務請負人)の顔を持つ。
著書に 『働けるうちは働きたい人のためにキャリアの教科書』(朝日新聞出版/2017年)、『知らないと後悔する定年後の働き方』(フォレスト出版/2019年)、『ミドルシニアのための日本版ライフシフト戦略』(WAVE出版/2021年、共著)がある。

【第二部】
[テーマ]
定年前後期で、大企業から「個人事業主」にキャリアチェンジした人の価値観とは
講師:池口武志(いけぐち・たけし)

[講演内容]
第2部では、大企業の中高年社員が「個人事業主」に転進することが、本人にとってプラスに受けとめてもらえるのか? 実際に定年前後期で個人事業主へ転進した人へのインタビューから見えてきた「就業価値観」をご紹介します。

池口武志氏


[講師Profile]
池口武志(いけぐち・たけし)
1986年 日本生命保険相互会社入社
本部リテール販売部門、人事、営業企画、契約管理、販売最前線等で長く管理職(部長、支社長など)を経験し、多様な職種の人材育成にかかわる。その間、オックスフォード大学 Diplomatic Studies修了。
2016年 研修事業も行う星和ビジネスリンクに出向キャリア羅針盤の開発を統括。現在、同社取締役常務執行役員も務める。
2023年3月 桜美林大学大学院老年学修士課程修了。キャリアコンサルタント、消費生活アドバイザー、AFP、日本心理的資本協会理事、シニア社会学会会員
 著書に『定年NEXT』( 廣済堂新書 2022年4月)、『人生の頂点は定年後』( 青春新書インテリジェンス 2022年10月)がある。


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2023/08/09
お知らせ 定年後研究所 News Letter

 星和HRインフォメーションでは、「定年後研究所」が発信する情報もお届けしています。
本号は、「定年後研究所 News Letter#3」として、企業研修において、いまニーズが急増している「越境体験」を実践した定年後研究所の池口武志所長によるレポートをお届けします。

定年後研究所所長による「越境体験」レポート


◆新しい研修スタイル「越境体験」が増加中
 昨今、企業研修に「越境体験」を採り入れる事例が増えてきている。
新規事業の種探し、キャリア自律の促進、セカンドキャリアのイメージ作りなど理由は様々であるが、従業員をアウェイ環境におき、自社では体験できない仕事環境で新たな気付きを促す意図は共通のようだ。

 中高年会社員のキャリア開発に携わる仕事柄、企業人事の方から、越境体験の効果、具体的な事例、更には企業向け越境サービスに関するご相談を頂くケースも増えてきた。中でも、徹底的なアウェイ環境を追求される企業からは、民間企業ではなく、地方自治体やNPO、社会福祉法人での越境体験を探索されるご要望を受けるケースが出始めている。

 当然ながら、地域には民間企業ばかりでなく、社会福祉施設やNPO等が数多く存在し、中高年会社員のセカンドキャリアの多様化を考える上では、社会福祉領域を覗いてみることは有益であるし、ましてや福祉の担い手不足が叫ばれる環境下では社会全体にとっても意味の大きいことと考える。

 実際に、社会との接点を持てるかどうかの老後不安を感じている人がボランティアなどの社会活動に取り組みたいとの意向をもっているとの大規模調査結果もある※。

 ただ、利潤追求を目的とした民間企業で長年働いてきた中高年会社員が、社会福祉法人という全く異なる環境下で仕事をすることがそもそも成り立つのであろうか?
基本的な価値観の違いやスキル不足からかえって足手まといになり、受け入れ施設に迷惑をかけることにならないか?

 このような懸念点を、知的障害者支援の福祉施設を運営しながら、教壇にも立たれている植草学園大学副学長(発達教育学部教授)である野澤和弘先生にぶつけてみると「社会福祉の専門家でなくても、感謝される役割は山ほどあります。民間企業で積み上げられてきた経験が、障害者の就労支援や生活支援の場面できっと活かしていただけるはずです」と思わぬ答えが返ってきた。

◆社会福祉の現場で越境体験
 そこで、筆者も評論ばかりしていずに、5月の連休に自ら社会福祉法人に越境体験することを計画し、ご縁を頂いた知的障害者の支援施設を訪問した。

 ちなみに、筆者は長く生命保険会社に勤務し、現在は、定年前後期の中高年会社員の活躍を調査研究する仕事に従事しており、社会福祉については、完全な素人である。また両親も高齢ながらいたって健康で、老人介護やその施設についても知識として多少かじった程度の完全な素人である。

 5月初旬の気候の良い2日間、知的障害者支援施設で初めてのボランティア活動を経験した。 初日は、4年ぶりに開催された施設利用者向けのバーベキューパーティーの手伝いであった。 パーティーは障害の程度に応じて、午前と午後の部に分けて開催された。
鉄板の前で肉や野菜を焼いているとあちらこちらから「おかわり!」の声がかかる。
調子にのって盛り付けをしていると、スタッフの方から「食べ過ぎになるので、池口さんはそこでずっと焼いていてください」と早速に指導を受ける。
子どもからお歳を召された方まで、数十人の利用者様の溢れんばかりの笑顔と「美味しいなあ~」との大きな歓声に励まされ、用意した食材も平らげていただき、4時間はあっという間に過ぎた。

 翌日は、グループホームに入居されている高齢男性の、「月一回」のお買い物の付き添いの役目をいただいた。この方は、知的障害があり、最近は認知症の症状も出現している。 果たして自分に務まるのかと一抹の不安を感じながら、グループホームを訪ねた。夏物下着の買い足しと、フードコートでのお昼ごはん、そして男性が鉄道好きとのことで、大型ショッピングモールへの道のりは、少しだけ遠回りして鉄道の旅の指示を受けた。

 慣れていないため、どうしても受け答えがちぐはぐになり、最初は戸惑いも感じたが、ショッピングモールの中で目をキラキラさせて「たくさん商品があるなあ、全部売るのも大変だろうな~♪」ととても喜んでくれていたように思う。
フードコートでは讃岐うどんを一緒に食べながら、「自分は〇〇県の●●町の生まれで、特別支援学校でお世話になったA先生やB先生とは最近再会したんですよ」と夢中になって話をしてくれた。大好きな電車の中では、停車駅ごとに降りようとするのを制止されながらも、小さな電車の旅を満喫されている様子が印象的だった。 

 グループホームに帰り着くと施設長が出迎えてくれた。ねぎらいの言葉をいただき、小さいながらもこれまで感じたことのない種類の達成感で満たされている自分に気付いた。

 わずか2日間の「越境体験」であったが、大切なことを学べたように思う。
今回のような社会福祉法人での「越境体験」は、たとえ福祉の素人であっても、長く民間企業で働いてきた中高年会社員が小さな役に立つことができる可能性を実感すると共に、マインドセットや行動変容に大きなインパクトを与え得ることを体験することができた。一人でも多くの中高年会社員が、社会福祉のような別環境の現場を体験し、自ら出来ることを考えていただくと同時に、ご自身のライフキャリアの充実にも繋げていただくことを願うようになった。

 先の大規模調査結果でも、NPO等の紹介、ボランティア休暇付与、副業規定の緩和、就業時間内活動などの会社からの支援策を望む従業員の大きなニーズがあるそうです※。

 この越境体験にご関心をお持ちいただき、詳しい話をご希望の方がいらっしゃれば、定年後研究所Webサイトの“お問合せ”からご照会ください。社会福祉法人をご紹介させていただくことを楽しみにしています。


※参考文献
 労働政策研究報告書No. 225
 企業で働く人のボランティアと社会貢献活動―パラレルキャリアの可能性―
 (独立行政法人労働政策研究・研修機構 2023)



【筆者略歴】
池口 武志(いけぐち・たけし)
一般社団法人定年後研究所 理事 所長
1986年 日本生命保険相互会社入社
本部リテール販売部門、人事、営業企画、契約管理、販売最前線等で長く管理職(部長、支社長など)を経験し、多様な職種の人材育成にかかわる。その間、オックスフォード大学 Diplomatic Studies修了。
2016年 研修事業も行う星和ビジネスリンクに出向
キャリア羅針盤の開発を統括。現在、同社取締役常務執行役員も務める。
2023年3月 桜美林大学大学院老年学修士課程修了
キャリアコンサルタント、消費生活アドバイザー、AFP、日本心理的資本協会理事、シニア社会学会会員
著書に『定年NEXT』(廣済堂新書 2022年4月)、『人生の頂点は定年後』(青春新書インテリジェンス 2022年10月)



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2023/08/02
お知らせ 慶應SFC研究所 高橋俊介氏集中連載(3)(最終回)

学びの意味を考える

 本号では、慶應義塾大学SFC研究所の上席所員の高橋俊介氏によるコラムの最終回をお届けします。主体的な学びの進め方とその先にある専門性の大切さについてお話しをいただきます。

◆主体的ジョブデザイン行動
 「ジョブ型」の意味を誤解している企業が多いと感じています。伝統的「ジョブ型」人事制度では、各自の「ジョブ(職務)」について職務記述書に詳細を記載することになっていますが、これでは「ジョブ(職務)」の固定になってしまいます。ジョブ型に関するこのような考え方は昔のもので、仕事をダイナミックに変化させていこうとしている業界では、仕事は自分で作るもの。必要に応じて膨らませていくべきものなのです。私はこれを「主体的ジョブデザイン行動」と呼んでいますが、人によってはこれを「ジョブストレッチ」とか「ジョブクラフティング」という人もいます。

 顧客との関係性においても、リニューアルや、アップデートすることが必要になります。例えば、お客さんに言われたことを「何でもやります!」と、背景を理解せずただ一生懸命する。こういうレベルの仕事では双方ともに満足のいく結果が得られなくなりつつあります。社会も環境もどんどん変化しています。接待を中心に仕事を取ってきていた人は、新型コロナの出現以降どうなったでしょうか?

 環境が変化する中では、顧客との関係性をどうリニューアル、アップデートしていくか? これを常日頃から自問自答していなければなりません。

 例えば、顧客から「あなたの意見を聞きたい」と頼られる存在になりたいと考えている人が、「御社の問題は何ですか?」と尋ねたとき、「あなたに言っても…」と思われているようでは、どうにもならないですよね…

 ある会社が、営業職の約80人に普段なかなか会えないワンランク上の人に会ってお客さんの問題点を聞いてくるよう指示を出したそうです。多くの人は会うこと自体はできましたが、一度会えても二度目に会うことができなかった人が大半だったそうです。そんな中で、幾人かはアポイントの前に勉強をして、「御社の問題って○○ではないですか?」と仮説を持っていく。そして、そのことに対するソリューションのヒントを提案したらしいのです。あくまで仮説の提案ですが、それに対する他社の動きや、他業界での事例などを説明することで、お客さんの興味を引き出すことができたのです。

 そうなってくると、次の約束も取れる。約束が取れたら相手の反応を基に更に勉強をして自論を展開することができるようにする。

 これは、「主体的ジョブデザイン行動」のいい例です。つまり、営業という仕事をどう定義するかということです。
 顧客のリクエストに応え続けるだけではなく、顧客自身に気づきをもたらして、方向性を示すパートナーとなることを目指すことを営業の仕事と定義する。これは、まさに仕事のリフレーミングです。

 例えば、サッカーにおいても、リーダーが戦術を伝授し、試合中、選手をその通りに動かすのではなく、選手の一人ひとりが戦術を組み立てられるようにコーチングしていくことが仕事だと気づけば、そこで、リーダーのマネジメントにリフレーミングが発生しているわけです。

 このようなことへの気づきが、「主体的ジョブデザイン行動」のキッカケになるのです。先ずは、仕事をストレッチすることが学びに対するWhyとなり、次に何を(What)学ぶべきかを考える。そして如何に(How)学ぶかを考える。これらを連鎖させていくことが学びのスピードを加速させるのです。

◆大きく成長するための専門性を磨く
 同じ仕事を続けていても、今のレベルに満足してしまったら、そこで成長は止まってしまいます。

 さきほどの顧客との関係性だけでなく、自身の提供価値を高めたいと思えば、それは何故なのか、どんなスキルを身につければその価値を高めることができるのか、何をどうやって学べばいいのかを考え実践していくことで、一段階高いところからの景色が見えるようになります。そして、違う景色のところに立てば、次の課題が見えてくる。これが主体的ジョブデザイン行動における主体的な学びのスパイラルアップの形です。

 今の仕事の延長線上でも、その仕事をリフレーミング、アップグレードすることができれば、違う景色が見えるはずです。

 ただ、ジェネラリストが中心の日本型の縦社会には専門性が欠けています。優秀な人たちが、異動の度にあらたな仕事を身に付けても、所詮は付け焼刃での対応。そのような形では遅かれ早かれ組織も限界に達してしまいます。

 これらを克服するためには、与えられた仕事とは関係がない部分で10年20年かけて自分が選んで1つの分野を体系的に学び続けることが必要なのです。

 変化の時代に、専門職として同じ仕事だけをやり続けていると、その仕事が無くなったり内容が変わったりしたときに全く対応ができなくなってしまう。ならば、このような時代はジェネラリストが強みを発揮するのかといえば、残念ながらジェネラリストは専門性に欠けるため力を発揮しにくいのが現実です。

 ということは、同じ仕事をしないで専門性を深めていくということが大切になってくるということです。そして、その専門性は深めるだけでなく発展させていかなければならない。発展した先での専門性も同時に深めていく努力が必要です。

 そして、深く学ぶために、自問自答の習慣を持って、あなたなりの正解を持つように心掛けてください。
自問自答を続けることで、意外なところから人生への気づきが得られるかもしれません。

【筆者略歴】
高橋俊介(たかはし・しゅんすけ)

慶應義塾大学SFC研究所 上席所員
1978年東京大学工学部航空工学科を卒業し日本国有鉄道に入社。
1984年米国プリンストン大学工学部修士課程を修了し、マッキンゼーアンドカンパニ-東京事務所に入社。
1989年世界有数の人事組織コンサルティング会社である米国のワイアットカンパニーの日本法人ワイアット株式会社(現ウイリスタワーズワトソン)に入社。
1993年に同社代表取締役社長に就任。
1997年7月社長を退任。個人事務所ピープル ファクター コンサルティングを通じて、コンサルティング活動や講演活動、人材育成支援などを行う。
2000年5月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授に就任。個人事務所による活動に加えて、藤沢キャンパスのキャリアリソースラボラトリーを拠点とした個人主導のキャリア開発や組織の人材育成についての研究に従事。
2011年11月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。
2022年4月より現職。

[主な著書]
『ホワイト企業 サービス業化する日本の人材育成戦略』PHP研究所(2021年12月)
『キャリアをつくる独学力 プロフェッショナル人材として生き抜くための50のヒント』 東洋経済新報社(2022年8月)
ほか多数



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2023/07/19
お知らせ 慶應SFC研究所 高橋俊介氏集中連載(2)

自律的学びのすゝめ

本号では、前回に引き続き7月の星和Career Nextへのご登壇が決まった慶應義塾大学SFC研究所上席所員の高橋俊介氏から、どうして日本では社会人の学びが受け身なのか、主体的な学びを実践するためには何を変えていけばいいのかについてお話しいただきます。

◆学び直しはリスク!?
 変化の激しい時代では、これまでと同じ仕事であっても求められるスキルが大きく変わります。これに対応するためには自身の価値を高める自律的な学びが必要となりますが、日本では、この自律的に学ぶという考えが遅れています。事実、学校を卒業して、働きだした後に大学や大学院に戻って学び直す人は、欧米や他のアジア諸国と比べても比較にならないほど少ないのです。

 欧米では、40歳・50歳になっても自己投資をし、学位を取ればその道の専門家としてそれまでのキャリアを上書きすることができます。例えば、ある会社でアシスタントとして働いていた人が一念発起してハーバード・ビジネス・スクールで学位を取ったとしましょう。 

 すると欧米では、その人は知識とそれを裏付ける学位を持ったビジネスのプロフェッショナルとして活躍する機会が与えられるのです。 

 しかし、日本では、最初に就職した時点での経歴(学歴)が重要視される傾向があります。

 日本には、自己投資の成果を社会的に認める風潮があまりない。だから積極的に自己投資をする人が少なくなるわけです。

 自己投資は、キャリアを見つめ直す意味でも、これからを考える意味でも大切なことだと思います。アメリカでは、一流のスポーツ選手が引退後に再び勉強して医者や弁護士として活躍する例も数多くあります。老若男女問わず、どんどん専門家が創出されているのです。

 日本では、社会に出たときにある程度固定されてしまう。新しいチャレンジをして、学び直すということを社会的に認めて支援していかないと、現在のような変化の激しい時代では、個人だけでなく組織も生き残りが難しくなるかもしれません。だからと言って、今すぐに会社を辞めて大学に行けと言っているわけではありません。今は、いろんな学び方があって、働きながら学ぶことも昔ほど難しくありません。ですから、いろんな機会を活用して学びを進めるべきだと考えるのです。

◆現場教育の限界
 これまで多くの企業において、体系的、そして理論的な教育が軽視され、実務経験に偏重した指導が行われてきたように感じています。しかし、実務経験だけを積み上げていても、変化に柔軟な対応ができる能力を身に付けることはできません。長い期間ひとつの仕事だけをやってきて、世の中が変わったとき、仕事のスタイルが変化してしまったら、何の役にも立たないということになりかねません。その仕事の背景にある理論的・体系的・専門的な知見は、実務経験や上司先輩からの伝承だけでは決して学び取ることができないのです。

 会社の指示通りの職務経験をして、異動時には取り急ぎ実務書を読み、本でカバーできない部分は、上司先輩からの伝承に頼る。もうその程度の専門性では、複雑でどんどん変化していく世界で互角に渡り合える時代ではないのです。

◆3つの無限定性
 変化の時代には、正解がない事柄に素早く対応していかなければなりません。こういう時代には、各々が知見を持ち寄って、自論を展開できる環境をつくり上げる必要があります。

 自論には正解はありません。正解のないものを評価するとき日本では常に、客観的な評価をどう担保するのかということが問題視されます。しかし、正解のない自論形成能力は客観的に測ることができません。例えば、TOEICで高い得点を取っても現場では役に立たないことがある。コミュニケーションツールであるはずの英語の能力を客観的に裏付けるため、試験にスピーキングがないからです。

 何故日本ではこんなに客観的な評価が求められるのかといえば、自由度がないからです。
日本の組織モデルは「3つの無限定性」で形づくられています。
(1)何時まででも働きます。
(2)何処にでも転勤します。
(3)どんな仕事でもします。

 会社が「時間」と「場所」と「仕事の内容」に関する裁量を限定なしで発揮できる日本の働き方は、世界でも本当に珍しい形です。このことを労働者側から見れば、自分のキャリアはすべて会社に任せて生きてきたということに他なりません。会社からの指示通りに、築き上げたキャリアだから、「ちゃんと評価してください」ということになりますね。

 例えば儲かっている部門と赤字部門では、ボーナスに大きな差が出る仕組みを入れたとします。そうすると、「好きでここにいるわけじゃない! 部門・部署でボーナスに差が出るなんて不公平だ!」ということになります。

 しかし、社内公募でどんどん異動ができるような自由度をあたえると、話は変わってきます。

 日本では、この「3つの無限定性」を手放すと、経営ができなくなると考える経営者が多いのでしょう。しかし、世界の経営者はそれをやってきているのです。
「3つの無限定性」を堅持するためのコスト、例えば受け身社員の「雇用保障」であったり、「公平性の担保」であったり……、有形無形のコストはすごく大きいです。

 ですから、経営者は「皆さんの人生は、皆さん自身のものですよ」と言い切らないと、組織は変化の時代に対応しきれません。支配に対する責任が負いきれないのに支配を続けることはフェアではありません。

 こういう時代に求められるのは個人個人が自論を持つことです。その自論で周囲と議論し合うことで、自身のヌケやモレに気づき、自身の現在位置を感じることで学びが進んでいくのです。会社は、社員が自論をぶつけ合うことができる環境をつくっていくべきでしょう。

◆学びの意味と楽しさを知る
 日本人は丸暗記の勉強をしてきました。これが原因で、勉強が面白くなくなったり、苦しく辛いものになっている人が多いのです。そのような記憶があるから、社会人になって再び学び直そうという気にもならない。

 例えば、数学の話をすると、日本の学力はOECD加盟国の中で、いまだにトップクラスです。しかし、「数学が好きですか?」「数学の勉強にどんな意味があるのか理解していますか?」という質問に対するスコアは、諸外国と比べとても低い。

 日本人の勉強は、意味も分からないし、面白いとも思わないものをひたすら頑張ることなのです。こんな悲しい勉強の仕方はないですよ。もう一度勉強しろと言われても、「勘弁してくれ」という気持ちになる。だから、学びに対する主体性も生まれません。勉強の意味や面白さを知ることが大切なのです。

 仕事でも同じですよね。その仕事の背景や、意味を考えながらすすめることで、面白みが出てくる。面白味が出てくれば仕事を通じての学びも、その先にある、理論的・体系的で専門的な学習にもいい影響をもたらすことになります。

 ご自身のお仕事が、職場や顧客にどんなメリットをもたらすのか、そのメリットを提供し続け・最大化するためには何が足りないのか、足りないものを補うために何をどう学ぶのかを考えてみてください。

【筆者略歴】
高橋俊介(たかはし・しゅんすけ)

慶應義塾大学SFC研究所 上席所員
1978年東京大学工学部航空工学科を卒業し日本国有鉄道に入社。
1984年米国プリンストン大学工学部修士課程を修了し、マッキンゼーアンドカンパニ-東京事務所に入社。
1989年世界有数の人事組織コンサルティング会社である米国のワイアットカンパニーの日本法人ワイアット株式会社(現ウイリスタワーズワトソン)に入社。
1993年に同社代表取締役社長に就任。
1997年7月社長を退任。個人事務所ピープル ファクター コンサルティングを通じて、コンサルティング活動や講演活動、人材育成支援などを行う。
2000年5月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授に就任。個人事務所による活動に加えて、藤沢キャンパスのキャリアリソースラボラトリーを拠点とした個人主導のキャリア開発や組織の人材育成についての研究に従事。
2011年11月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。
2022年4月より現職。

[主な著書]
『ホワイト企業 サービス業化する日本の人材育成戦略』PHP研究所(2021年12月)
『キャリアをつくる独学力 プロフェッショナル人材として生き抜くための50のヒント』 東洋経済新報社(2022年8月)
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2023/07/12
お知らせ 慶應SFC研究所 高橋俊介氏集中連載(1)

変化の本質

 今期も星和Career Nextへのご登壇が決まった慶應義塾大学SFC研究所上席所員の高橋俊介氏のコラムを本号から3週にわたりお届けします。

 コラムでは、皆さんが渦中にある急激な変化の本質とその変化に柔軟に対応するための学びとその問題点についてお届けします。

◆未来は予測できない
 AIがどのような仕事が得意で、どのような仕事が苦手かということは、最近話題になっているChat GPTなどを試してみるとなんとなくわかるかもしれません。このようなAIの進化によって無くなる仕事もありますが、実はそのこと以上にビジネスモデルが変わることによって無くなる仕事や、同じ仕事であってもその業務の内容が変わっていくものが多いのです。

 このことは、テクノロジーの進歩や地政学的な要素も含んだグローバルな出来事や変化がビジネスモデルにも大きく影響しているのですが、これらが今後いつ、どのように変化するかを予測することは困難です。1~2年先であればなんとなくわかるかもしれませんが、10年先の予測はできませんね。AIがビジネスに与える影響も昔から言われてきましたが、第一次、第二次、第三次のAIブームでも予測されていた通りにはなりませんでした。さらに言えば、新型コロナによってこれほどまでに働き方が変わることも予測していなかったですよね。

 そもそも先のことなんてわからないわけですが、これからは、益々そういう時代になっていくわけです。

 仕事をしていれば、2年・3年先のことも考えなければならない。でも、皆さんの人生はまだ、10年・20年・30年と先が長いわけです。そんな中で、先が分からないことを極端に恐れ、何処かの誰かが予想した未来にすがることはやめた方がいいと思うのです。これから先は何が起こるか分からないという前提で考えるようにしていただきたいですね。

◆変化の本質
 私はよく自動車の話をしますが、EV化が進み内燃機関が無くなれば、内燃機関に関わるエンジニアの仕事も無くなる。このこと自体はわかり易い話ですね。ただ、その本質は、仕事が「組み合わせ型」になるということです。これまでの「すり合わせ型」のビジネスモデルが、「組み合わせ型」のモデルに移行していくことを理解しなければなりません。

 これまでの自動車業界のように、昔からお付き合いがある部品のサプライヤーと、打ち合わせを重ねながら良好な関係の中でビジネスを組み立てていく「すり合わせ型」のビジネスモデルは、生み出すものが内燃機関だったからこそ上手く機能していたわけです。EV車には、交流モーターとVVVFインバーター、リチウムイオン電池が必要ですが、これらは、それぞれが完成されたコモディティーであって、EV車の製造はこれらを組み合わせてつくるという「組み合わせ型」モデルのビジネスです。このように自動車をつくるというビジネスであっても、ビジネスのモデル自体が大きく変わっています。

 では、このような「組み合わせ型」モデルで、どのように付加価値を求めるのか。それは、車両と周辺部品のコネクティビティーであったり、ソフトウエアであったりするわけで、そういう部分は長いお付き合いの中から付加価値を築き上げる「すり合わせ型」モデルでは迅速に対応することができないのです。つまり、外向きにアンテナを高く張っている人が従来のすり合わせ型の組織で急に必要になったわけです。

 「すり合わせ型」のモデルは内向きの組織モデル、一方で「組み合わせ型」のモデルは外向きの組織モデルと言ってもいいでしょう。ただ、誤解が無いようにしていただきたいのですが、私はここで「すり合わせ型」と「組み合わせ型」のビジネスモデルについて優劣を語っているわけではありません。

◆同じ仕事でも求められる能力が変わる
 これからは、社員も経営者も外向きに高いアンテナを立てて、環境の変化に即対応できる体制でなければ、時代に取り残されてしまいます。
 「すり合わせ型」の組織モデルの中でキャリアを積んできた人は、ビジネスモデルが「組み合わせ型」に変化していく過程で、一人ひとりが組織の外で刺激を受ける必要があります。トヨタ自動車は優秀な技術者をわざわざ「プロボノ」という社会貢献ボランティアで社外に派遣しています。

 地域の中小企業などにプロボノ派遣されたトヨタの技術者は、業態も環境も異なる中で自身がどれだけ役に立てるのかを体験するのです。
プロボノを受け入れた会社からは「さすがトヨタの社員だ、すぐれた技術を持っている」 と感謝の声が多いらしいのですが、派遣された技術者は、社内とは異なる環境の中で、いかに個人では無力で、自身に何が足りていなかったのかを気づくきっかけを得るのです。

 トヨタのように成功を収めてきた会社でさえ、このように従業員に外からの刺激を受けるための準備期間を持たせているのです。それは、トヨタのビジネスモデルが大きく変わるからです。それにより組織のモデルも変わりますし、今後はリーダーに求められるマネジメントやコミュニケーションのスタイルも大きく変わるでしょう。リーダーの皆さんがこれまでに培ってきた経験値では役に立てない部分が出てくるのです。

 こういった変化は、いま例に挙げた自動車業界だけではなく、他の製造業や金融業にも広く深く波及していくでしょう。

 このコラムをお読みの皆さんの周りでも何か変化が起こっているのではないでしょうか。
 次回以降では、変化に対応するために必要な学びの方法と、ミドルシニアが抱えている問題点をお届けします。

【筆者略歴】
高橋俊介(たかはし・しゅんすけ)

慶應義塾大学SFC研究所 上席所員
1978年東京大学工学部航空工学科を卒業し日本国有鉄道に入社。
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2011年11月慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。
2022年4月より現職。

[主な著書]
『ホワイト企業 サービス業化する日本の人材育成戦略』PHP研究所(2021年12月)
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2023/07/06
お知らせ 大企業シニア活用の現在地 ~定年後研究所&パソナマスターズ共同調査結果報告書より~

星和ビジネスリンクでは、「定年後研究所」が発信する情報も併せてお届けしています。
定年後研究所 News Letter#2では、定年後研究所とパソナマスターズの共同調査報告の内容を一部紹介します。

大企業シニア活用の現在地
~定年後研究所&パソナマスターズ共同調査結果報告書より~

 改正高年齢者雇用安定法(以下「70歳法」)が施行されて2年が経過し、大企業の対応はどうなっているのか? この、素朴な疑問をもとに、当研究所は、今年2~3月にパソナマスターズと共同で企業アンケート調査を実施した。その結果を『大企業シニア社員活用の現在地 ~70歳法への対応状況』として報告書にまとめたので、当コラムにて共有させて頂く。

 調査は、比較的従業員数が多い52社を対象に行った。「これが全て」とはいえないものの、そこから見えてくる「課題」や「傾向」を共有することには、大きな意味があると感じている。

 まず、“シニア社員活用の「ポジティブ要因」”としては、「技術継承」「後進指導」をあげた回答が多く見られた。次いで「人材不足・人員不足」への対応が続き、時代環境を裏付ける結果となった。特筆すべきは、「特になし」の回答がゼロであったことで、従来聞かれた「働かないオジサン問題」から脱皮し、戦力としての期待が高まりつつあるといえる。

 逆に“シニア社員活用の「ネガティブ要因」”としては、「モチベーションの低下」を大半の企業があげている。それに付随して「学習意欲の低下」「スキル陳腐化」が続くが、「新陳代謝」「健康状況」「人件費」「ポスト不足」など課題は多岐にわたっていることが浮き彫りになった。

 ネガティブ要因との絡みで、シニア社員に関して「会社として取組むべき課題」としては、「モチベーションの維持」「リスキリング」を大半の企業があげると共に、「年下上司とのコミュニケーション」「自己理解不足」「周囲との協調性」など、職場でのコミュニケーションや姿勢に関する回答が多く見られた。

 それを受けて「シニア社員の活性化について」に対する回答は、「キャリア研修の実施」「キャリア面談の実施」への回答は共に実施済みと検討中を併せると100%に近い。

 次いで「人事考課・処遇のメリハリづけ」「給与水準の改善」も約80%が実施済みまたは検討中と回答している。

 特徴的なのが、「学び直し支援の充実」と「配置ポストの開発」が、実施済は少数派なるも、検討中企業が多くを占め、各社試行錯誤の検討段階であることを窺わせる。また、「副業の解禁」「短日短時間勤務制度の新設」「転進支援制度」「早期退職金加算」などのセカンドキャリア構築支援も、検討中企業を加えると過半を超える(図表)。

シニア社員の活性化について



 大半の企業では既に「社内講座の充実」や「社外講座費用の補助」は実施されているものの、「リスキリング」「学び直し支援」の中身や動機付けは大きな課題になっているといえよう。

 定年等の根幹である人事制度に関しては、半数の企業が「役職定年の見直し」を、3分の1の企業が「定年の見直し」「定年後再雇用の見直し」を予定している。その見直し内容は「年齢引き上げ」や「廃止」が多くを占めている。また制度対応とは別に、個別運用で65歳以降も既に「就業機会」を付与している企業が半数を超えたことも、人材・人員不足を裏付ける結果となった。

 今回の調査の焦点である「70歳法」への対応状況は、おおよそ「対応済」と「方針決定」が合わせて3分の1、「具体案検討中」が3分の1弱、「情報収集中」が3分の1となり、「検討未着手」は徐々に少数派となってきたことが明らかになった。対応済の選択肢は「70歳まで継続雇用」が大半を占めており、「定年廃止」が少数見られた。

 今回の調査結果とは別に、企業人事の担当者からは、従業員の希望も勘案して「業務委託方式」を軸に検討中であるとの声を聞くようになってきたことを補足しておきたい。

 また、「70歳法」では「対象者基準」を設定することが可能となったが、実際「対応済」の企業では、「職務に必要な能力」「資格」「考課」「健康状況」などの基準を設ける企業が多くを占める結果が得られた。ただ、「対象者基準」をクリアする割合の想定は「多数」から「少数」まで回答は分かれた。

以上をまとめると、多くの大企業では、50~60代社員がボリュームゾーンとなる中で、
・人材不足の危機感と相俟って、対象層の戦力化・活性化対策が愁眉の課題となりつつあり、評価・配置・研修や面談等の見直しが進んでいる。
・70歳法対応の検討も徐々に進みつつあるが、65歳未満の活性化対策のコピーではなく、当該層のニーズや能力スキルも見極めながら、対象者選定の最適解等を検討中である。 といえよう。

 昨今、従業員のキャリア自律が大きなテーマになっているが、今回の調査でも、モチベーションの維持や、学習意欲の低下に悩む企業が大半を占めることが明らかになった。

 定年後研究所が2022年に実施したキャリア自律に関する「大企業会社員意識調査」では、職場での期待役割の明確さや成長機会の付与が、年齢問わず、キャリア自律や学びの姿勢には決定的に重要であるとの結果が出ている。

 研修メニュー揃えも、配置ポスト開発も、人事評価のメリハリづけも、全て、取組の組織的な背景や当該層への期待感を、会社側が繰り返し丁寧に語ることが施策実効性の鍵であることを付言しておきたい。


 今回のコラムで紹介している「企業アンケート調査」や「大企業会社員意識調査」に関する詳細をご希望の方は、定年後研究所Webサイトの“お問合せ”までお問い合わせください。
後日、星和ビジネスリンクの担当者よりご案内申し上げます。

【筆者略歴】
池口 武志(いけぐち・たけし)
一般社団法人定年後研究所 理事 所長
1986年 日本生命保険相互会社入社
 本部リテール販売部門、人事、営業企画、契約管理、販売最前線等で長く管理職(部長、支社長など)を経験し、多様な職種の人材育成にかかわる。その間、オックスフォード大学 Diplomatic Studies修了。
2016年 研修事業も行う星和ビジネスリンクに出向
キャリア羅針盤の開発を統括。現在、同社取締役常務執行役員も務める。
2023年3月 桜美林大学大学院老年学修士課程修了
 キャリアコンサルタント、消費生活アドバイザー、AFP、心理的資本協会理事、シニア社会学会会員
著書に『定年 NEXT』(廣済堂新書 2022年4月)、『人生の頂点は定年後』(青春新書 2022年10月)

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2023/07/03
お知らせ 定年後研究所が全面協力する早稲田大学のリカレントプログラムが公開されました
定年後研究所が全面協力する早稲田大学のリカレントプログラムが公開されました 【プレスリリース】 早稲田大学社会人教育事業室が、7月1日より案内を開始する「早稲田大学履修証明プログラム:キャリア・リカレント・カレッジ~自分らしいキャリア後半を描く6ケ月~」は、一般社団法人定年後研究所が「キャリア羅針盤」の提供を含め、プログラム開発に全面協力しております。
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2023/06/23
お知らせ 2023年春 HRカンファレンス 満足度上位講演に選ばれました
2023年春のHRカンファレンス(日本の人事部主催)で、所長の池口が登壇しました「70歳法への対応・取り組みの調査結果から紐解く、大企業のシニア社員活用の現在地とサントリーの事例」が満足度上位講演に選ばれました。 詳しい資料をご希望される場合は、定年後研究所ホームページの「お問合せ」よりご請求願います。

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2023/06/22
お知らせ 野田稔教授 集中連載(4)ミドルシニアのキャリア自律

趣味の効用

明治大学大学院 野田稔教授の連載コラム、第4回(最終回)はミドルシニアのキャリア自律に欠かすことのできない「趣味の効用」についてお話をしていただきます。

◆趣味の達人になる
 私は、趣味はミドルシニアのキャリア自律にとってすごく大切だと考えています。
趣味を極めることができれば、重要な人生の構成要素となります。

 当然ながら、趣味に熱中している時は充実した時間を過ごしているわけですし、同好の士がいればコミュニティが発生する。うまくいけば、認知と称賛を得ることもできるし、趣味がビジネスに発展することだってあります。

 私の知人を紹介しようと思います。
 この人は幾つか趣味をもっているのですが、趣味の達人といってもいい人です。
 彼の一番の趣味は、ビールの缶を集めることです。
 40年以上もビールの缶を集めていると、メーカーですら所蔵していないような珍しいビール缶が彼のコレクションの中にあるのです。すると、ビール会社がイベントなどで展示するために、彼のコレクションを借りに来るようになって、小さいながらもビジネスとして成立しています。ここでもやはり、セルフブランディングが効いてきます。ビールの缶を集めるのが趣味であることを周りに知ってもらっていれば、珍しいビール缶があれば友人が缶ビールをお土産に買ってきてくれる。ビールメーカーからのオファーもセルフブランディングがあってこそです。

 彼は、ビール缶の本を出版していて、もうすぐ2冊目も出版されるそうです。趣味も極めていくとそこにマーケットが眠っていることもあるのです。

 彼はほかにも幾つかの趣味を持っていて、そのひとつが「選挙」です。これもだいぶ変わった趣味ですが、国政・地方問わず候補者のことを調べ上げて、当落の予想をするんです。国政選挙の投票日ともなれば、自宅に飲み物や食べ物を用意して、選挙仲間?を自宅に招いて、政党の選挙事務所よろしく、候補者の名を書いた書割を張り出して、当選者の名前の上に赤い花をつけて楽しんでいるんです。

 この、第二の趣味が第一の趣味とリンクして、もうひとつの趣味が生まれました。地方で選挙がある時には、その地方まで出かけて行って、候補者のことを調べる傍らその土地のビールを買って帰ってくるんです。

 地方の選挙に出かけているうちに、旅行が好きになって、温泉も楽しんだりしています。
 彼は、会社では目を見張るような出世をした訳ではないんですが、広がりのある趣味を楽しんで、同好の仲間に囲まれて、すごく楽しい人生を送れているように思います。

◆自由なつながりを持つにはマイナーな趣味を持つのがいい?
 私は、趣味の達人になるということは、ミドルシニアが自律的なキャリア形成をしていくうえですごく大きな要素であると考えています。
 そして、趣味を持つならちょっとマイナーな趣味がいいと考えています。

 私は「マンボウの遭遇」と言っているのですが、大海をさまよっているマンボウは生まれてから命が尽きるまで、ゆっくりゆっくり海の中を泳ぎ続けます。広い海で仲間に遭遇することは殆ど無いのでしょうが、まれに仲間に遭遇できたマンボウはさぞうれしいでしょうね。

 これと同じで、マイナーな趣味であるがゆえに仲間に会うとすごく嬉しいし、その仲間はすごく大切ですね。マイナーな趣味の同好者なので、当然ながらそこにヒエラルキーはなく、とてもフラットで自由な関係を築くことができるのです。

 趣味を持つに際して、空間的広がりと時間的な広がりの両方を楽しむことができるのも重要ですし、四季の変化を楽しむためにも、複数の趣味を持つこともお勧めします。

 ここでも、学びの要素が必要で、すぐに極められてしまうような趣味は長続きしません。努力を重ねて向上していく趣味こそが面白いんです。このコラムをお読みいただいている皆さんはビジネスパーソンですから、PDCAサイクルを回したり、KPIを設定したりするのが得意な方が多いのではないでしょうか。これを趣味に活かすとすごく楽しいですよ。

 もうひとつ、何かを鑑賞して楽しむ趣味も持っているといいと思います。こういう趣味があると、体調を崩しても楽しみを持ち続けることができます。

◆原点のCan?
 試しに、若いころ熱中していたことを再開してみてください。
これが意外にハマるかもしれません。
 私の友人にも、ちょっと会社でつまずきかけたのをきっかけに、20年ぶりに趣味のジャズピアノを再開した人がいます。それが、病膏肓(やまいこうこう)に入ってしまって、いまではベトナムに演奏旅行をするまでの腕前になってしまっている人もいます。

 これも、第1回でお話した「原点のCan」なのかもしれませんが、昔やっていた趣味を再開すると、ものすごく上達することもあるのです。

 私も昔やっていたことを再開しています。昔ボーイスカウトとして活動していたので、キャンプはよくやっていました。今みたいな便利な道具を持っていたわけではないので、竹材や縄などで「立かまど」を作ったりしていたんです。いまなら野外でも使える便利なコンロが売っていて、昔とは比べ物にならないほど便利になったのですが、無いものは自分で工夫しながら不便を補っていたので、技術はいまのキャンパーとは比較にならない、「キャンプの天才」ですよ(笑)。

◆夢の周りをまわり続ける
 夢を見続けることはすごく大切なことなのですが、夢をかなえるのはあきらめた方がいいです。身もふたもない言い方に聞こえるかもしれませんが、夢の周りをまわり続ける人生を考えてみてください。

 例えば、むかし飛行機のパイロットになりたかった人、いますよね、でもパイロットになれた人ってまれですよね。じゃあ、パイロットを夢見てパイロットをあきらめた人生は無駄なのか? そんなことないですよね。パイロットになれなかった人だって、家族を養って、パイロット以外の仕事で価値を創造しているわけです。であれば、飛行機を趣味にすればいいと思いませんか?

 夢の周りをまわり続けているってとても大切なことだと思いますよ。ミドルシニアといわれる歳になったらこういう考えは必須です。
 残念ながら私自身、達人の域に達するような趣味は持っていないので、これから学んでいかなくてはなりません。

 趣味は、いろんな意味でキャリアを充実させる重要な要素のひとつです。
 いろいろお忙しいと思いますが、できない理由を探すよりも、セカンドライフを充実させる動きを始めてみてください。

【筆者略歴】
野田 稔(のだ・みのる)

明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科 教授

1981年一橋大学商学部卒業 株式会社野村総合研究所入社。
1987年一橋大学大学院修士課程修了。
野村総合研究所復帰後、経営戦略コンサルティング室長、経営コンサルティング一部部長を経て2001年3月退社。多摩大学経営情報学部教授、株式会社リクルート 新規事業担当フェローを経て、2008年4月より現職。リクルートワークス研究所 特任研究顧問を兼任。

著書:『組織論再入門』(ダイヤモンド社)、『中堅崩壊』(ダイヤモンド社)、『二流を超一流に変える「心」の燃やし方』(フォレスト出版)、『野田稔のリーダーになるための教科書』(宝島社)、『あたたかい組織感情』(ソフトバンククリエイティブ)など多数。

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2023/06/14
お知らせ 野田稔教授 集中連載(3)ミドルシニアのキャリア自律

シニア起業というキャリアデザイン


◆シニア起業とは
 最初に誤解を招かないようにお伝えしておきます。今回の話はミドルシニアの皆さんに起業しなければいけないと言っているわけではありません。人生の選択肢を広げるために、という視点からお話ししています。

 私の考えるシニア起業とは簡単に言えば「身の丈起業」です。短期間のうちに上場を目指すというような起業ではありません。結果として上場に成功するような例もありますが、はじめからそれを目指してはいけないと思います。

 シニア起業では、お金儲けを第一目標にしない方がいいと私は考えているのです。

 私が皆さんにおすすめするシニア起業のポイントは……
 (1)得手に帆を揚げて(得意なことを武器に)
 (2)好きこそものの上手なれ(好きなこと・続けられることを)
 (3)学ぶことこそ最大の投資(資金は最小限、学ぶことを最大の投資として)
です。

 ここで、私が出会った「身の丈起業」に成功した方を二人、ご紹介します。
 ひとりは、大手の広告代理店でご活躍していた方です。
 彼はお客さんとの打ち合わせを重ねていく中で、ファシリテーションの技術を磨いて、それを武器に起業を果たしました。

 当時は、ファシリテーションが今ほど注目を浴びていませんでした。だから、少し先行するだけで第一人者として名前が知られるようになっていったのです。
 このことは、彼が籍を置く会社にも大きなメリットを生みました。あの会社には、一流のファシリテーターがいて大きな成果を上げている。彼のような人材を育てたい。彼を講師に招きたいといったオファーが、数多く彼の会社に寄せられるようになりました。
 彼は、会社の仕事で培った技能で名声・人脈を得て、その技能を武器に早期退社→起業という道を切り拓いていったのです。

 もう一人は、小さな出版社の社長だった方です。
 旅が趣味で、暇を見つけては旅をしていたのですが、気に入った土地を見つけて、そこに住み着き、焼き立てパンを提供する喫茶店をはじめました。
 おいしいパンの作り方は独学で、パン作りに必要な焼き窯は、無料の職業訓練校に通って金属溶接を学んで自分で作り上げました。そして、それを店のウリにして経営の基礎を築きました。
 私のイメージする「身の丈起業」とは、このようなイメージです。

 お二人とも、得意なこと、好きなことを活かして、学びという投資を惜しまなかったことが成功のカギなのではないかと考えています。
 起業を考える時、独りではじめるか、仲間と一緒に進めるか悩まれる方もいるかもしれませんが、可能ならば、私はお仲間と一緒に起業していただきたいと考えています。

 ここでもうひとり、シニア起業を果たした方を紹介しておきます。
 この方は、誰もが知る大手メーカーの重役だった方です。
 ある時、定年を間近に控えた同期の仲間と「40年以上培ってきた技術者としてのノウハウを世の中のために役立てたい」という話になったそうです。
 それがきっかけとなって「プロテック(Protech)」という会社を設立されました。

 この社名にはPromote the Technologies for Century 21st=「豊富な技術体験と管理体験を結集して、21世紀を担う技術開発に貢献する」という意味が込められています。
 彼らの考えた「貢献」とは、新しい技術を開発するのではなく、若い技術者を徹底的に支援していくことでした。
 具体的には研究・開発に欠くことのできない、論文の抄録制作や、実験助手や開発補助者の役割を誰もが知る大手メーカーの研究・開発をリードしてきたベテランが代行してくれるというものです。
 若者とは比較にならない経験値を持つ彼らが絶妙なタイミングでアドバイスをしてくれるのです。若い技術者の前で偉そうな態度はとりません。研究者や技術者にとってすごくありがたい存在ですね。

◆成功するシニア起業
 起業には「非連続相同」が重要です。これは、私の教え子が、成功するベンチャー事業のメンバリングの研究をした時に紡ぎ出した言葉です。

 「相同性」というのは生物学の用語で、生物の種の進化で比較的近いところで枝分かれをした種のことを「相同性」の高い種というのです。これをキャリアの世界に置き換えれば「同期入社」の仲間といえます。同期入社の仲間は、同じような年齢で、同じような環境で働いてきましたから、言語が共通なんですね。
 そして「非連続」とはなにかというと、途中で会社を辞めたり、異動があったり、それぞれが違う経験をするということを意味しています。

 こういう人たちが、年月を経て再結集すると、多様性を持った人が共通の言語を介して仕事を進めることができます。
 こんな条件が整っていれば、シニア起業は「生活の充実」と「自己効力感」を得られる良い選択肢といえるのではないでしょうか。

◆成功するセルフブランディング
 繰り返しになりますが、ミドルシニアの皆さんに起業しなければいけないと言っているわけではありません。 
 ただ、ご自身の強みを活かすために学び続けて、いざとなれば起業をしてみるという気持ちを持っていることを周囲に知っておいてもらうことは悪いことではないと思うのです。今責任をお持ちの仕事を投げ出すという話ではないわけですから。

 ご自身が学びを続けていることを広く知ってもらう努力をしていると、ある日突然オファーが飛び込んでくる……。これはまさに、アメリカの高名な社会学者マーク・グラノヴェターが提唱している「弱い紐帯の強み」=“The strength of weak ties”です。

 会社に残って強みを発揮するにしても、起業を志すにしても、ミドルシニアの時期にやっておくべきは、「弱い紐帯」をたくさん作っておくことです。「弱い紐帯」を持っている人には、たくさん情報が集まります。起業を考えていない人、まだ早いと考えている人は、ご自身がキャッチした情報を会社のために活かせばいいのです。

 会社にいる間に「弱い紐帯」をたくさん作っておくことで、退職後に続く長いセカンドライフを充実させましょう。

◆キャリアの磨き方
 キャリアについて考える時、スキルや知識の磨き上げばかり考える方が多いですが、ご自身のネットワーク磨きにも意識を向けていただきたいと思います。
 そのことが、先ほどの「弱い紐帯」を作ることにつながります。

 発信をしなければ、あなたが起業に興味があるとか、ある分野のプロであるとかは誰も知り得ません。誰も知らなければ、誰からも声はかかりません。皆さんは、ご自身のブランディングにもっと心を割くべきだと考えます。
 営業職の方ならば、ご自身のことを知ってもらう機会は多いでしょう。技術職・研究職の方なら、論文を書いて学会に参加してみましょう。総務職や人事部門の方だって、有名人はたくさんいますね。

 仕事に真剣に取り組んで、会社を良くする取り組みを続けてください。会社員として理想的な働き方をしているうちに、少しずつ名が知られるようになります。
 私は総務だから関係ないなんてことはないのです。できないこと、やらないことの言いわけを探すのはやめましょう。

【筆者略歴】
野田 稔(のだ・みのる)

明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科 教授

1981年一橋大学商学部卒業 株式会社野村総合研究所入社。
1987年一橋大学大学院修士課程修了。
野村総合研究所復帰後、経営戦略コンサルティング室長、経営コンサルティング一部部長を経て2001年3月退社。多摩大学経営情報学部教授、株式会社リクルート 新規事業担当フェローを経て、2008年4月より現職。リクルートワークス研究所 特任研究顧問を兼任。

著書:『組織論再入門』(ダイヤモンド社)、『中堅崩壊』(ダイヤモンド社)、『二流を超一流に変える「心」の燃やし方』(フォレスト出版)、『野田稔のリーダーになるための教科書』(宝島社)、『あたたかい組織感情』(ソフトバンククリエイティブ)など多数。

野田教授にご登壇いただく、第1回 星和Career Next2023 公開セミナーへのお申し込みは こちらから。


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※競合他社・同業者からのお申し込みは、視聴をお断りさせていただくことがあります。


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2023/06/08
お知らせ 野田稔教授 集中連載(2)ミドルシニアに期待されるキャリアとは

「セルフブランディングの極意~本当にできる自分を再発見」

明治大学大学院 野田稔教授によるコラムの2回目。今回のテーマは、「セルフブランディングの極意~本当にできる自分を再発見」です。
*野田教授には、6月20日開催の公開セミナー(第1回 星和 Career Next2023)にご登壇いただきます。

◆“Will・Must・Can”をもう一度考えてみる
 キャリア形成について考えるとき、よく使われる言葉に、“Will・Must・Can”があります。
みなさんも、この3つについて考えてみてくださいと言われたことがありませんか?

私は、これらの言葉を以下の順番で考えるべきだと伝えています。
 ・“Can”=自分は何ができるのか
 ・“Must”=自分は何を成すべきか
 ・“Will”=自分は何がしたいのか

 この“Can・Must・Will”の考え方には続きがあって、自分の視点だけでなく、会社から見たときにどうか?という視点も大切になってきます。
 会社が、ある社員のキャリアを考えるとき、
 ・「この人は何ができそうか」=「期待」(これは第1回でもお話した期待です。)
 ・「この人の制約条件は何か」=「限界」(この人の限界はどのあたりか。)
 ・「何がしたい人なのか」=「(本人の)希望」(会社にどれくらい伝わっているのか。)
 この3点は最低限考えるべきなのですが、ほとんどの場合、会社は個人の“Can・Must・Will”を知りませんし、そのようなことを考えてもいません。

 ですから、“Can”と「期待」、“Must”と「限界」、“Will”と「希望」、のマッチングを構成要素にして、「職場」と「仕事」と「自分」の関係性を端的に語るストーリーを作り上げることがセルフブランディングなのです。
みなさん、研修などでは“Will”についてはたくさん語りますが、これだけでは、あなたの価値は会社に伝わりません。

◆なぜ“Can”から考えるのか
 “Can・Must・Will”を考えるとき、会社から給料をもらって働く以上は、“Must”を第一に考えるべきという人もいます。あるいは自治体などが主催しているキャリアアップセミナーなどでは“Will”を先頭に考えると伝えることもあります。

 でも、多くの人は自身の“Can”を知りません。ですから、この“Can”について考えることからはじめていただきたいのです。

 そもそも、私は多くの人は、“Will”について考えていないと思っていますし、考えていても、それほど重要なことだと捉えていないのではないかと思うのです。 もし、“Will”のことを真剣に考え、それが明確になっていれば既に率先してやっているはずですからね…。

 多くの人の頭の中は、“Must”がとても大きくて、「住宅ローン」とか「子供の養育」とか、「家族の期待」とか…いろいろなプレッシャーに邪魔されて、“Will”については、ほとんど考えられていません。

 では、“Can”はどうか…、今の仕事で使っている能力くらいしか思い浮かばない方が多いかもしれませんね。

 そんな中で“Will”を探せと言われても、それは夢の中の話になってしまいます。ですから、私は先に“Can”を見つけましょうと言っているのです。

 みなさんは、この“Can”というものを、仕事をするうえで得た能力として、小さく捉えておられますが、“Can”はもっと広いところで捉える必要があります。

 私は“Can”の話をするとき、「原点の“Can”」というお話をしています。
 「行動遺伝学」という学問をご存知ですか。なんだか、身もふたもない言い方になってしまいますが、この学問によると、遺伝的要素(才能)が欠けているところでどれだけ努力をしても、成功は難しいそうです。そして、年齢を重ねるほど、環境要因よりも遺伝要因が能力に強く働くというのです。

 そもそも、遺伝的要素が全くないところでの努力は、継続ができません。しかも、遺伝的要素がある人とない人では、スタートラインが随分と違います。

 自分が遺伝的に持っているアドバンテージを見つけて、それを仕事に活かすというのがいちばん合理的な考え方です。それが「原点の“Can”」です。

 人は、10歳から15歳くらいまでの間に遺伝的要素が出現するといわれています。それが「原点の“Can”」です。大好きで没頭していたこと、得意だったこととか、そんな形で出現するそうです。

 しかし、多くの人は若いころに熱中していたことや大好きだったことを封印してしまいますね…。
 私がある人の“Can”を見つけるときには、まずその人の自分史の分析からはじめます。これは、「原点の“Can”」を徹底的に調べるための作業なのですが、その方法は、6月20日のセミナーの中でお話ししますね。

 今後日本では労働力が大幅に不足します。そのため私は、ミドルシニアが持っている可能性をできる限り広げるためのヒントとしてこの「原点の“Can”」の考え方を知っていただきたいと思います。

【筆者略歴】
野田 稔(のだ・みのる)

明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科 教授

1981年一橋大学商学部卒業 株式会社野村総合研究所入社。
1987年一橋大学大学院修士課程修了。
野村総合研究所復帰後、経営戦略コンサルティング室長、経営コンサルティング一部部長を経て2001年3月退社。多摩大学経営情報学部教授、株式会社リクルート 新規事業担当フェローを経て、2008年4月より現職。リクルートワークス研究所 特任研究顧問を兼任。

著書:『組織論再入門』(ダイヤモンド社)、『中堅崩壊』(ダイヤモンド社)、『二流を超一流に変える「心」の燃やし方』(フォレスト出版)、『野田稔のリーダーになるための教科書』(宝島社)、『あたたかい組織感情』(ソフトバンククリエイティブ)など多数。


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2023/06/02
お知らせ 野田稔教授 集中連載(1)ミドルシニアに期待されるキャリアとは

「ミドルシニアに期待されるキャリア」

 本号より、長年にわたりミドルシニアの研究を続けられている 明治大学大学院 野田稔教授のコラムをお届けします。連載1回目となる今回のテーマは、「ミドルシニアに期待されるキャリア」です。
*野田教授には、6月20日開催の公開セミナー(第1回 星和 Career Next)にご登壇いただきます。

 私はこれまで「キャリア成長論」という考え方を発信してきました。
 一般的な「キャリア」の定義では、過去を見ています。それまで働いてきた過去の軌跡です。しかし、私は、キャリアは未来志向でないと意味がないと考えているため、キャリアに「働くことを通じて、自らの志を実現する成長のプロセス」と新たな定義づけをしています。

 この定義では、「働く」ということが重要で、あえて「仕事」としていない部分が肝になります。長野県の伊那というところでは「仕事」と「働く」を明確に分けて使っている人たちがいます。

「仕事」とは、事に仕えてお金もうけをすること。
「働く」とは、人が動いて「側(はた)」を楽にしてあげること。

 「仕事」も「働く」の一部なのですが、「働く」というのは、お金儲けだけではなく、家事労働や地域との関わり、ボランティア活動などすべてを含んでいるのです。

 働くというのは、“Work”と“Life”と“Social”をまとめたものと捉えることができます。
 その「働く」を通じて、どう生きて何を達成するのかがキャリアだと私は考えています。
 ただし、そのためには、学び続け、成長し続けることが必要です。ですから、キャリアには継続的な努力が重要なのです。

 ここで、前提になるのが、「自分は成長できる」という自分の可能性を信じ続けることです。ただ、自分の可能性を信じ続けることは簡単なことではありません。信じ続けるには、周囲の期待が必要です。

 しかし、周囲の期待がないと努力や成長が続けにくいとなると、独りではキャリアは完結しないということになり、「キャリア自律」は実現できないということになってしまいます。

 そこで私は、キャリア自律に成功している人を対象にインタビューをしてみました。すると、大変面白いことがわかったのです。それは、キャリア自律に成功している人は、周囲から期待を集めるのが上手だということです。周囲の人が期待していることを少しだけ先取りしてみたり、期待に応える行動をしてみたりする。そうする間に周囲からの期待はより大きくなるのです。周囲からの期待が大きくなれば、自然に新しいポジションが与えられ、そのことへのサポートも受けやすくなる。もちろん、本人も前向きになって、それを糧にまた頑張れるような気分になるわけです。

 ですから、キャリア自律を成功させるためには、周囲からの期待を集め続けることがとても大切なのです。
 ただ、周囲の人からの期待が大きくなれば、ハードルも高くなります。
40代になると、会社の中でのプロフェッショナルという肩書きだけでは「少し物足りない」という評価を受けてしまうかもしれません。また、50歳になっても30代と同じような働き方をしていては、芳しい評価を得ることは難しくなります。

 ある程度年齢を重ねたら、自分の枠を超えて、部下や同僚、時には上司をうまくリードしながら仕事を進めていくスキルを身に着けることが必要で、40~50歳はリーダーシップを身につけ、それを発揮しながら「働く」時期です。

 「主体的に他人を巻き込んで事を成すという働き方ができているか?」あるいは「指示待ち人間になっていないか?」ということです。
 そのために、会社は40代を迎えた社員にチャンスを与えなければいけないのです。少々消極的でも、何かの仕事のリーダーに抜擢することで化ける人もたくさんいますから。

 そして、40~50歳の10年間を経た年代に期待されているのは、席を譲るということです。
 いつまでも、地位にしがみつくのはやめた方がいい、周囲の人はあなたが席を立ってその席を後進に譲ることを期待しています。

 ただ、席を譲った後、その場に座り込んでいてはいけません。
 上手にキャリアを積み上げてきた人は、自分のやるべきことを自分で決めることができるはずです。自分で決めた座席に移ること、それが席を譲るという事です。ですから、「〇〇さんが□□を始めたんだって(すごいね)!」と言われるようになるべきなのです。

 ミドルシニアの年代になったら、自分の仕事は自分でつくる!大きな仕事である必要はありません。私は、ミドルシニアの皆さんには、これまでの経験を活かし、「小さな企て屋さん」「小さな改革屋さん」になる努力をおすすめしています。

 そのためにも、会社の職域開発は今後重要なミッションとなります。ミドルシニアが彼らの能力を発揮しやすい小さなプロジェクトを数多くつくることが、会社の成長への布石となると考えています。

 40~50代は会社員としていちばん活躍が期待される年代でもあります。会社としては、よそ見をしないで、今の仕事に専心してほしいという考えがあることもわかります。ただ、それは、既存事業の前途が洋々としていて、従来の運営に没頭していても事業が拡大していく環境であったときの話です。現実は多くの会社で既存事業の賞味期限が切れかかっていたり、既に切れていたりしていませんか。

 社会人としての経験を積んで、気力も体力も持ち合わせている年代に求められることは、ルーティンワークではなく、次のビジネスが何かを考え、それを実践し、次世代を担う若い世代の席を用意することです。

 もちろん、その新しいビジネスが何かはわかりません。わかっていたら私自身が先にやっています。
 それを考えるのが、ミドルシニアの役割でキャリア自律なのだと私は思います。

【筆者略歴】
野田 稔(のだ・みのる)

明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科 教授

1981年一橋大学商学部卒業 株式会社野村総合研究所入社。
1987年一橋大学大学院修士課程修了。
野村総合研究所復帰後、経営戦略コンサルティング室長、経営コンサルティング一部部長を経て2001年3月退社。多摩大学経営情報学部教授、株式会社リクルート 新規事業担当フェローを経て、2008年4月より現職。リクルートワークス研究所 特任研究顧問を兼任。

著書:『組織論再入門』(ダイヤモンド社)、『中堅崩壊』(ダイヤモンド社)、『二流を超一流に変える「心」の燃やし方』(フォレスト出版)、『野田稔のリーダーになるための教科書』(宝島社)、『あたたかい組織感情』(ソフトバンククリエイティブ)など多数。

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2023/05/24
セミナー情報 明治大学大学院 野田稔教授 登壇!

 星和Career Next 2023#1 第1回公開セミナー
「近未来 未曽有の労働力不足にどのように備えるか?」

 2023年度最初の開催となる「星和Career Next 2023」は、ミドルシニアのキャリア研究の第一人者、明治大学大学院 野田稔教授を講師にお迎えして、「ミドルシニアのキャリア自律と活躍促進」をテーマにお話を伺います。

<開催概要>
■主   催:株式会社星和ビジネスリンク
■開催日時:2022年6月20日(水) 13:30~15:20
■開催形式:オンライン(Zoom)
■定   員:先着300名


セミナーの詳細・お申込みはこちらから



※お申し込みをいただいた方には、後日視聴のための事前登録のURLをご案内いたします。
※競合他社・同業者からのお申し込みは、視聴をお断りさせていただくことがあります。

【第一部】13:30~15:00
[テーマ]
ミドルシニアのキャリア自律と活躍促進
講師:明治大学大学院 野田稔(のだ・みのる)教授

[講演内容]
近い将来多くの日本企業は、深刻な労働力不足に陥ることが予想されています。このことへの対処として、また雇用延長時代に見直しが進められるベテラン層の働き方という視点からも、今すぐ対応すべき最も合理的な対策は経験豊富なミドルシニア層の更なる活躍であると野田教授は言います。
講演では、最新の研究から見えてきた社会状況と、いま、そのことへの対処として企業がすべきことについて解説していただきます。人事・人材開発のご担当者様必見です。

 講演の視聴申し込みは、弊社Webサイト(申し込み画面)からお願いします。
現在、野田教授へのインタビュー記事を掲載中です。

 6月20日の野田教授ご登壇に合わせて、「星和HRインフォメーション(メールマガジン)」では5月24日(水)から野田教授のコラムを4つのテーマでお届けする予定です。

野田稔氏


[講師Profile]
野田 稔(のだ・みのる)
明治大学大学院 グローバル・ビジネス研究科 教授
1981年一橋大学商学部卒業 野村総合研究所入社。1987年一橋大学大学院修士課程修了。野村総合研究所経営戦略コンサルティング室長のちに経営コンサルティング一部部長。2001年多摩大学経営情報学部教授、リクルート新規事業担当フェローを経て2008年4月より現職。リクルートワークス研究所特任研究顧問を兼任。
著書:『中堅崩壊』(ダイヤモンド社)、『あたたかい組織感情』(ソフトバンククリエイティブ)など多数。

【第二部】15:00~15:20
[テーマ]
自身のキャリア自律に主体的でない75%にどのようにアプローチするか
講師:古畑克明(ふるはた・かつあき)

[講演内容]
一般社団法人定年後研究所が昨年実施した調査では、自身のキャリアに主体的な学びの姿勢をもつ人は全体のわずか25%であることがわかりました。第2部では、組織の存続・発展に欠かせない要素になったミドルシニア層へのアプローチの仕方についてお話しします。

古畑克明氏


[講師Profile]
古畑克明(ふるはた・かつあき)
株式会社星和ビジネスリンク セカンドキャリア支援事業部門ディレクター
企業研修に関わる企画制作・講師を経て現職。研修を知る立場から自社で開発した中高年社員向けeラーニング「キャリア羅針盤」の開発に携わる。現在は、中高年社員向けのキャリア研修に関して「リアル研修+eラーニング」のブレンデッド研修の有効性を発信している。

◎星和ビジネスリンクは今後も皆様にとって有用な情報を発信し続けてまいります。

*同業他社、その他セミナーへのご参加が不適当と判断した場合、本セミナーへの参加をご遠慮いただく場合がございます。ご了承ください。

*お申し込みをいただいた方には、企業人事・人材開発担当者の皆さまのためのキャリア自律に関する様々な情報をお届けするメールマガジン「星和HRインフォメーション」を送付させていただきます。是非ご活用ください。



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2023/05/19
お知らせ 定年後研究所 News Letter 「定年前後期でのキャリアチェンジに成功する人とは?」

星和ビジネスリンクでは、「定年後研究所」が発信する情報も併せてお届けしています。
本日は、定年後研究所 池口武志所長のコラムをお届けします。

定年前後期でのキャリアチェンジに成功する人とは?

 ロンドン・ビジネス・スクール教授のアンドリュー・スコットとリンダ・グラットンは著書『LIFE SHIFT2:100年時代の行動戦略』※の中で、「現状では、成功していたキャリアの幕を下ろしつつある人達が、他の分野で有意義な活動をしたいと考えても上手くいかず、途方もない才能の浪費が生じている」と、高齢社会での人材流動化の困難さを記している。日本でも、産業構造変化への対応や人材の有効活用の面から、「雇用の流動化」は社会的課題として認識が広がっているものの、個別企業単位では、定年前後期を迎えた人材を積極採用する会社は希少と言われている。

 一方で大企業の中高年会社員側も、キャリアチェンジ志向は決して高いとは言えず、
60歳を超えても同じ会社に留まる割合が高いのが現状である。ただ、「働きたいうちはいつまでも働きたい」と考える高齢就労者は4割を超えるとの調査結果(内閣府2018年)もあり、「定年」に縛られないセカンドキャリア・サードキャリア志向を持つ層は厚いと言えよう。
以上のことから、大企業の会社員が定年前後期に、成長領域・人材不足領域にキャリアチェンジを果たし、新しい環境下で活躍を続けることは、社会全体の活力向上のみならず、個人のやりがいあるキャリア形成面でも大きな意義があると考える。

 では、「大企業で終身雇用制度に守られながら、定年前後期でキャリアチェンジを果たし、その後も活き活きと仕事を続けている人」とはいったいどんな人であろうか? また、そのような人には何らかの共通点はあるのであろうか? そのような転進はスーパー資格ホルダーだけに開かれた道ではないのか? かくいう筆者も、この2月に還暦を迎え、65歳以降の生活や居場所に不安を感じる一人の会社員であり、当事者意識も相まって、折しも飛び込んだ「大学院の老年学研究科」の修士論文として、研究に着手したのが2年前である。当コラムではそのエッセンスを紹介しながら、定年前後期からのキャリア選択を考える視点を提示したい。

 約1年の先行研究レビューを経て、論文のテーマは、「定年前後期のキャリアチェンジの移行プロセスの解明 ―大企業のホワイトカラー職種の出身者を対象にして―」とした。研究方法は、質的研究法の中から、修正版グラウンデッドセオリーアプローチ(M-GTA)を採用した。これは、インタビュー協力者の語りの中から普遍性を持つ「概念」を抽出し、期待するアウトカムに至るまでの心理的プロセスの見える化と、その後の実践活用を目的とするものである。

 人縁で得た以下の属性に合致する11名の調査協力者に、「入社以来のキャリアの変遷」「キャリアチェンジの経緯」「現在の心境」などのインタビューを行い、修士課程2年目の1年を費やして、逐語録の作成→概念候補の抽出→ストーリーラインの作成を進めた。
<調査協力者>
(1)調査時点50~60代の男女 (2)日本の大企業に新卒入社 (3)ホワイトカラー職種として勤務 (4)50~60代でキャリアチェンジを経験。ちなみに業種は様々である(メーカー、銀行、保険、広告、運輸、放送など)。

[ストーリーライン]
分析結果として、【5つのカテゴリー】、《3つのサブカテゴリー》、<25の概念>が生成された。

【5つのカテゴリー】

詳細図版はこちら

 大企業に新卒入社し、ホワイトカラー職種として勤務してきた者は、50代に入り【キャリア上の外圧的イベントを経験・予見する】ことでキャリア路線に区切りをつけることを余儀なくされていた。会社では希望ポストに就けないことから、【これまでの会社人生の継続に迷いや不安を感じる】。このような迷いや不安を感じながらも、心の内面では【キャリアチェンジの移行プロセスが促進される】。この移行を支え、キャリアチェンジ以降の仕事人生の充実をもたらしていたのが、【仕事を通じて人材として高めてきた付加価値】であった。この付加価値を認識し、活かすことを通じて【新しい仕事価値観を獲得し、キャリアチェンジ以降、より充実した仕事人生を送ることが可能になった】。

 ちなみに11名の方はいずれもスーパー資格ホルダーではなく、大企業のメンバーシップ型雇用制度の中で、キャリア前半期は会社主導のローテーションを歩まれた方である。
 50代に差し掛かり、役職定年や早期退職勧奨、定年後再雇用でこれまでのキャリア路線との区切りを余儀なくされ、社内での役割・やりがいが見えにくくなると共に、将来のキャリア展望に不安を抱くこととなる。まさに、多くの企業が指摘する「中高年社員のモチベーション問題」とも相通じる葛藤が観察された。

 ここで、彼・彼女らは、「外からの刺激」を受け、働く視界が広がったり、視座が転換したりすることになる。外からの刺激は各様であるが、不安や悩みが深い人ほど、充実感への渇望からプランドハプンスタンスセオリーが観察された。ただ、一直線でキャリアチェンジに進むのではなく、家族の反対なども含めて離職への逡巡が見られた。
 この逡巡に区切りをつけるのが、長年の仕事体験を通じて培った基本スタンスや、汎用的な能力・スキル、ネットワーキング力、主体的な仕事スタイル志向など、人材としての付加価値である。キャリアチェンジを果たした後は、新しいフィールドで必要とされる充実感や、強みを活かせる仕事から醸成される更なる学習意欲、社会や後進への強い貢献志向が観察された。

 実際は、冒頭述べた通り同じ会社に留まる人が多い中で、キャリアチェンジを果たす人との分岐点は「やりがいある役割」を社内に見出すか否かにあるように感じる。また、定年前後期の転職で失敗する人もいる中で、成功と失敗の分岐点は「大企業意識からの切り替え」や「相手目線に立てる柔軟性、ふところの深さ」「学びの意欲」にあるように感じた。この点は、追加研究テーマとして掘り下げてゆきたい。

 最後に、11名の方の「衰えない学習意欲」に接すると、昨今議論が盛んな「リスキリング」に関しても、会社のお仕着せではなく、本人の主体性に、更には自らのキャリアビジョンに基づいて支援するべきではないかと考える。また、企業は役職定年等の節目で「長いタームでのキャリアビジョン」を考える機会を提供する必要性も感じたことを申し添えておきたい。

 尚、当コラムで一端をご紹介した「研究論文」にご興味がある方、当コラムへのご意見ご助言は「定年後研究所」ホームページのお問い合わせからご連絡いただければ幸甚です。

※『LIFE SHIFT2: 100年時代の行動戦略』
 アンドリュー・スコット/リンダ・グラットン(著)/池村千秋(訳)
 東洋経済新報社(2021年10月29日)

【筆者略歴】
池口 武志(いけぐち・たけし)
一般社団法人定年後研究所 理事 所長
1986年 日本生命保険相互会社入社
本部リテール販売部門、人事、営業企画、契約管理、販売最前線等で長く管理職(部長、支社長など)を経験し、多様な職種の人材育成にかかわる。その間、オックスフォード大学 Diplomatic Studies修了。
2016年 研修事業も行う星和ビジネスリンクに出向
キャリア羅針盤の開発を統括。現在、同社取締役常務執行役員も務める。
2023年3月 桜美林大学院老年学修士
キャリアコンサルタント、消費生活アドバイザー、AFP、心理的資本協会理事、シニア社会学会会員
著書に『定年NEXT』(廣済堂新書 2022年4月)、『人生の頂点は定年後』(青春新書 2022年10月)

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2023/05/01
お知らせ 心理的安全性の実現にむけて(2)

心理的安全性を実現し、組織の生産性を上げるコミュニケーションとは

 前回の星和HRインフォメーションでは、心理的安全性を実現させるために、アサーティブ・コミュニケーションの考え方とスキルを身につけることの重要性について日本アンガーマネジメント協会理事 戸田久実氏より解説をいただきました。

 今回は、実際にアサーティブ・コミュニケーションをチームに取り入れる方法について解説していただきます。

◆伝えたいことのゴールを明確にする
 相手に何かを伝えるとき、一番重要なことは「いま自分はここで相手に何を伝えたいのか」「何を目的としたコミュニケーションなのか」というゴールを明確にするということです。研修での質疑応答や相談の場でもさまざまなケースを耳にしますが、このゴールが明確ではない、あるいは、ぶれてしまう方が多く見受けられます。

 例えば、相手からどう思われるかが気になる方や、「こんなことを言ったら嫌われるのではないか…」というネガティブな思い込みを持つ方は、「いかに自分が悪く思われないようにするか」「波風を立てないようにするか」ということに意識が向いてしまうことがあります。
「〇〇を相手にわかってほしい」「自分の考えを伝えたい」というところにゴールがなく、「機嫌を損ねないようにする」ことに意識が向くため、何かをお願いする際にも、「手が空いたらでいいのですが…」「…無理にという訳ではないのですが」「できればでいいのですが…」など、必要以上にへりくだり、まわりくどい言い方になりがちです。
また、「自分の意見や考え方が正しい」「〇〇するのが当たり前」と思い込むことや、相手が自分よりもキャリアが浅い、立場が下の場合に「こちらの言うことに従うべき」という思いを抱き、相手を打ち負かすこと、論破することがゴールになってしまうケースもあります。
相手を叱るとき、目的とすべきは相手の成長のために意識と行動を改善してもらうことですが、相手が意に添った行動をすることができないとき、「本来こうすべきなのに」と相手をやり込める、相手がいかに間違っているかを突きつけるだけになってしまう人もいます。
あるいは、「今後、どうしてほしいのか」「なぜそれが重要なのか」を相手に伝えることなく、「なぜ〜しない?」と追い詰めていくだけの人もいます。

 何を伝えたいのか、本来何を目的としてのコミュニケーションなのか、ゴールを間違えず、自身の中で整理することは良好なコミュニケーションをとる上で大切なプロセスです。

◆可視化して伝えたいことを明確にする
 伝えたいことを明確にするためにも、書き出してみることをおすすめしています。
研修では、ロールプレイング実習に取り組むことがあるのですが、そのための準備として
・ここで一番伝えたいことは何か
・どこまでのことをわかってほしいのか、そのために言うことは何か
内容によっては
・なぜ、何のために〇〇してほしいのか
これらを言語化することで伝えたいことを明確にしていきます。

 リモートワークが進み、ネガティブなフィードバックなど言いにくいこともオンラインで伝えなければならなくなったという方もいます。
対面ならば伝えた後も観察でき、場合によってはフォローもできるけれど、オンラインではそうはいきません。だからこそ、どのような言葉を選び、どこまでのことを伝えるのか、可視化し整理してから伝えるようになったという方も多くなりました。

◆「同意」でなくても「理解」はする
 正しいコミュニケーションの先にある心理的安全性は、建設的な議論ができるようになることが目的なので、相手の言うこと全てに同意してその場を丸くおさめようということではありません。

 価値観も多様化しているので、相手と意見が異なることもあるでしょう。
そのような場合に、「おっしゃることはわかりますが」「でもね」「そうは言っても」と相手の意見をすぐにはじき返すことなく、一旦受けとめて理解したことを示しましょうと研修ではお伝えしています。

 はじき返すことにより、相手もさらに「でもね!」とはじき返してきたり、「受けとめてくれない相手との話し合いはできない」と、話し合うことをやめてしまう人もいるでしょう。
そうならないために「□□さんはこう思うのですね」「〇〇してほしいということですね」と受けとめ、その後に、「なぜそのように思ったのか」という背景に耳を傾けたり、自分はどう思っているかを伝えたり、そこから対話をスタートさせてみましょう。

【筆者略歴】
戸田久実(とだ・くみ)

アドット・コミュニケーション株式会社 代表取締役
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 理事

 立教大学文学部卒業後、株式会社服部セイコー(現 セイコーホールディングス株式会社)にて営業、その後音楽業界企業にて社長秘書を経て2008年にアドット・コミュニケーション株式会社を設立。
 研修講師として銀行・製薬会社・総合商社・通信会社などの大手民間企業や官公庁の研修・講演の仕事を歴任。
 講師歴28年、登壇数は4,000回を超え、指導人数は22万人に及ぶ。 豊富な事例やアンガーマネジメント、アサーティブ・コミュニケーション、アドラー心理学をベースにしたコミュニケーションの指導には定評があり、 受講者は新入社員から管理職までと幅広い。
リピート率は92%超で、実践スタイルの研修が好評を博している。

【著書】
怒らない100の習慣
怒らない100の習慣
出版社: WAVE出版 (2023/2/21)
発売日:2023/2/21
並製・単行本/232ページ
ISBN-10: 4866214473
ISBN-13: 978-4866214474
アサーティブ・コミュニケーション
アサーティブ・コミュニケーション
出版社:日経BP日本経済新聞出版
発売日: 2022/7/20
並製・単行本/240ページ
ISBN-10: ‎ 4296114514
ISBN-13: ‎ 978-4296114511


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2023/04/20
お知らせ 心理的安全性の実現にむけて(1)

心理的安全性を実現するために重要なこと

 星和ビジネスリンクが毎週配信中のメールマガジン「星和HRインフォメーション」、2023年度も「中高年層」のキャリア自律に役立つ各界の著名識者のコラムと公開セミナー情報を人事・人材開発部門でご活躍中の皆様に向けてお届けします。
 本号と次号では、日本アンガーマネジメント協会理事 戸田久実氏に組織の生産性向上に欠かせない「心理的安全性」の実践についてお話しいただきます。

◆組織の生産性を上げる「心理的安全性」に注目が集まっています
「心理的安全性」という言葉を、よく聞くようになってきました。
そのため、研修先の組織からは
「心理的安全性を実現するには、どうしたらいいのだろう?」
というご相談やそのための研修のご依頼を受けることが多くなってきました。

 心理的安全性とは、組織のなかで自分の考えや気持ちを、誰に対しても安心して発言できる状態のことをいいます。
 Google社が、2012年から2016年にかけて大規模労働改革プロジェクトを実施しました。その研究の成果として、「心理的安全性は、組織の生産性を上げるために欠かせないものである」ということが結論づけられ、多くの組織から注目され始めたのです。
昨今では、価値観が多様化してきました。一括採用・終身雇用・年功序列という働き方から、複数の組織でキャリアを重ねる形も一般化しはじめ、いまや、多くの人が日々さまざまな価値観に囲まれて働いています。
 このような背景も重なり、心理的安全性が重要であることが急速に広まっていったのではないかと考えます。

 また、「パワハラ防止法施行から、『パワハラ』と言われないか怖くて、気になることがあっても、うまく伝えることができない。どう指導したらいいのか」「価値観に相違のある相手ともうまくコミュニケーションをとるにはどうしたらいいのだろう」
「新型コロナ禍でリモートワークが進み、コミュニケーションの手段も大きく変化しました。そのなかで、戸惑い、ストレスを感じることも多くなった。どうコミュニケーションをとったらいいのか」
という相談も多く寄せられます。

◆心理的安全性を実現するために、対等な関係性の環境をつくろう
 これらの課題から、相手も自分も大切にした自己表現である「アサーティブ・コミュニケーション」の考え方やスキルを取り入れようとする組織が増えてきました。
基本的に、アサーティブ・コミュニケーションをテーマにした研修では、
・お互いの考えや意見や価値観が違っても、相互尊重・相互信頼をもとに建設的な議論ができる
・お互いが正直に、率直に忖度せずに伝え合うことができる
・キャリアや立場に違いがあったとしても、心のなかは対等な姿勢で対話ができる
というマインドを持つことを大切にしつつ、講義や実習をすすめています。

◆まずは思い込みがないかを振り返る
 アサーティブになるために欠かせないのは、相手と対等な気持ちで向き合うことです。組織では役職、立場、キャリアの違い、スキル、知識の差など、上下関係が明確にわかっていますが、コミュニケーションをはかる際は、対等に向き合うことが大切です。ここでいう対等とは、立場の違いを乗り越えてなれなれしい言葉をつかうということではありません。心のなかで次のような思い込みがないかを振り返ってみましょう。
 自分よりも立場が上、キャリアが長い相手に対して次のように思うことはありませんか。
「疑問や異なる意見を言ってはいけない」
「NOと言ったら関係が悪くなる?評価が下がるのでは」
 また部下や後輩に対しても
「叱ったら嫌われる、関係が悪くなる」
「どうせ私はうまく伝えられない」
というネガティブな思い込みを抱くことはないでしょうか。
このような考えが頭に浮かんできたら、
「そう思ってはみたけれど、そうとは限らない」
というように、ネガティブな思い込みに影響されないことが重要です。
このような思い込みから、言葉にすることができなくなる、遠慮がちで遠回しな言い方になってしまう、波風立てず嫌われないことを目的とし、言いたいことが明確に伝わらないという結果になることがあります。
また、自分の方が相手よりも立場が上、キャリアが長い、専門知識がある場合、
「わたしの意見や判断が正しい、これが当たり前」「相手がわたしの言うことに従うのは当たり前」と思い込まないようにすることも欠かせません。
 価値観が多様化し、時代の変化が激しい昨今では、たとえ立場やキャリアに違いがあったとしても、相互尊重のもとに、伝えたいことを伝え合えるために、ネガティブな思い込みに引っ張られたり、必要以上にへりくだったり、思い通りに相手をコントロールしようとしたり、決めつけ、押し付けようとしないこと。
これらを振り返り、意識することからはじめてみませんか。

【筆者略歴】
戸田久実(とだ・くみ)

アドット・コミュニケーション株式会社 代表取締役
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 理事

 立教大学文学部卒業後、株式会社服部セイコー(現 セイコーホールディングス株式会社)にて営業、その後音楽業界企業にて社長秘書を経て2008年にアドット・コミュニケーション株式会社を設立。
 研修講師として銀行・製薬会社・総合商社・通信会社などの大手民間企業や官公庁の研修・講演の仕事を歴任。
 講師歴28年、登壇数は4,000回を超え、指導人数は22万人に及ぶ。 豊富な事例やアンガーマネジメント、アサーティブ・コミュニケーション、アドラー心理学をベースにしたコミュニケーションの指導には定評があり、 受講者は新入社員から管理職までと幅広い。
リピート率は92%超で、実践スタイルの研修が好評を博している。

【著書】
怒らない100の習慣
怒らない100の習慣
出版社: WAVE出版 (2023/2/21)
発売日:2023/2/21
並製・単行本/232ページ
ISBN-10: 4866214473
ISBN-13: 978-4866214474
アサーティブ・コミュニケーション
アサーティブ・コミュニケーション
出版社:日経BP日本経済新聞出版
発売日: 2022/7/20
並製・単行本/240ページ
ISBN-10: ‎ 4296114514
ISBN-13: ‎ 978-4296114511




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2023/04/13
お知らせ 2023年度もミドルシニアのキャリア自律につながる情報を発信いたします

2023年度もミドルシニアのキャリア自律につながる情報を発信いたします

 2023年度の星和HRインフォメーションも、「中高年層」のキャリア自律を主たるテーマに各界の著名人のコラムを中心にお届けします。また、無料公開セミナー(星和Career Next)のご案内、一般社団法人定年後研究所からの「定年後研究所News Letter」についても昨年同様に発信してまいります。

 本号では、今期開催が決定している公開セミナー、メールマガジンの紹介に加え、弊社が中高年社員のキャリア自律を目的に提供しているeラーニング「キャリア羅針盤」のバージョンアップ情報についてご案内いたします。

今期も魅力的な講師が登壇予定
 昨年度、星和Career Nextでは、キャリア支援、マネープラン、行動科学など、中高年のキャリア自律に関する情報を発信してきました。

 そこで、ご登壇をいただいた講師の方々は、各方面のオーソリティであり、お陰様で、ご視聴いただいた方々からは高い評価をいただくことが出来ました。

星和Career Next2022 視聴者満足度

 本年度も、更に充実した内容をお届けしてまいります、既に6月・7月開催分のセミナーにつきましては、ご登壇の先生が決定しましたので、ここで日程と併せてご紹介いたします。

第1回 星和Career Next(公開セミナー)
テーマ=「ミドルシニアのキャリア自律と活躍促進」
日 時=6月20日(火)13:30~
講 師=明治大学大学院 教授 野田 稔氏 
*お申し込みの受付は4月下旬より開始予定

第2回 星和Career Next(公開セミナー)
テーマ=「キャリア自律、主体的な学びの重要性」(仮)
日 時=7月19日(水)13:30~
講 師=慶應義塾大学SFC研究所 上席所員 高橋 俊介氏
*お申し込みの受付は5月中旬より開始予定

なお、第3回以降は内容が決まり次第、本メールマガジンまたは、星和ビジネスリンクのWebサイトにてお知らせいたします。

 また、昨年度開催分の「星和Career Next」を、オンデマンド配信する予定です。こちらの視聴方法につきましても、今後のメールマガジンの中でご案内いたします。

メールマガジンも充実!
 今期も各界の専門家から、中高年の「キャリア自律」に必要な情報をコラム形式でお届けします。現在、配信が確定しているのは、昨年のコラムが大変好評だった戸田久実氏(一般社団法人アンガーマネジメント協会 理事)。6月のセミナーにご登壇いただく野田稔氏(明治大学大学院 教授)、昨年の公開セミナーで申込者が一番多く、今期も7月のセミナーにご登壇いただく高橋俊介氏(慶應義塾大学SFC研究所 上席所員)のほか、昨年末に中高年社員を対象とした大規模調査の結果を発表した、一般社団法人定年後研究所(池口武志 所長)からの「定年後研究所News Letter」などをラインナップ。

進化する「キャリア羅針盤」!
 弊社が、働く中高年層のキャリア自律を目的に提供しているeラーニング「キャリア羅針盤」は、既に金融機関、IT、メーカー、鉄道、不動産等の大手企業を中心に多くの企業でご活用いただいておりますが、更に高い学習効果とユーザビリティーの向上にむけてバージョンアップを行っています。

 4月以降のご提供からは、いま健康経営の視点から注目が集まっている「まだ間に合う脳のトレーニング」と「仕事に活かすマインドフルネス」の全編にナレーションを追加いたします。これにより、スマートフォンを活用した受講がしやすくなります。

 また、6月以降、「キャリア羅針盤」のメイン教材である「ライフキャリアプラン」で、受講者意識の醸成を目的に、8つのワークの目的を事前に説明することで、これから始まる学びへの興味を高めていきます。同じく6月以降、高い関心を得ている「マネープラン」でも、年次の制度・法律改正に加えて、2024年以降導入される「新しいNISA」の解説を追加するほか、受講者の学びと理解を促すコラムなどの改訂も予定しています。

 これら、バージョンアップされた「キャリア羅針盤」は、企業の人事・人材開発ご担当様に限り、トライアル受講をいただくことも可能です。ご興味がある方は、本メールマガジンのお問い合わせフォームよりお問い合わせください。


◎ 株式会社 星和ビジネスリンク お問い合わせフォーム

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定年後研究所のWebサイトはこちら

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2023/03/22
お知らせ ハイパーチェンジ時代を生き抜く中高年社員のキャリア支援(3)

第3回 会社が中高年社員に求めるキャリア自律とは

 一般社団法人ソシエトスの代表理事 木暮淳子氏のコラム。
 第3回は、中高年社員が激変する環境に柔軟に適応して、会社や社会に貢献していくためのキャリア自律についてです。

大企業の定年退職者がセカンドキャリアでなかなか活躍できない理由
 私どもの法人では、高齢になっても働き続けたいシニアと企業をマッチングさせるお手伝いをしています。高齢となっても元気なうちは仕事を続けたい人の数が増えているのを実感しています。実際に統計を調べてみると、65歳以上の2021年の労働人口比率*は、男性で34.9%、女性で18.4%となっており、それぞれ14年前の2007年の29.8%、12.9%と比べて大きく増えてきています(総務省統計「労働力調査 2021」)。65歳になっても何らかの形で働き続ける人の割合が年々増加しているのです。

労働力人口比率

しかし、シニアを受け入れた企業様では、なかなかその対処に苦慮しているようです。「働き手は欲しい」、でも「シニアはなかなか難しい」。マッチングのお手伝いをしている私どもがよく聞く、その理由上位3つはだいたい次のようなものです。
 (1)「これまでの大企業でのやり方を押しつける」
 (2)「テーマが与えられれば一生懸命仕事をするが、指示待ち姿勢で自ら動き出せない」
 (3)「自分で手を動かせない」


 定年退職後に働く場は、多くの方にとってそれまでとは異なり、中小規模の会社となることがほとんどです。定年まで勤めた会社では、それなりの資本が揃っていて制度や仕組みもキチンとしていることがほとんどですが、そうはいかない企業様も多いのが現実です。これまでの大企業流のやり方を「べき論」で上から目線でもの申すと、職場で衝突が起きてしまいます。

 また、これまでの経験を活かしてその会社で足りない部分を補ってもらいたいと考えて採用を決めたのに、自分で仕事の範囲を決めてしまっていて期待したように動いてくれないといった不満もよく聞かれます。
さらには、これまで部下がやってくれていたような資料づくりを自分でやるのは“どうも苦手”という方が多いことも、「シニアは結局あまり役に立たない」と思われてしまう原因となっているようです。

 あくまで筆者の経験からの感触ですが、シニアが新しい企業で働くのに適応するには2年程度はかかるようです。

社員として求められることはどこでも同じ ~自分の価値を高めるということ~
 会社に雇用されている以上、会社に貢献するという話は、なにもシニアが新しい職場で働く場合に限ったことではありません。今や環境変化はものすごいスピードで起きており、どこの会社でも半年、一年のスパンで新たな会社に生まれ変わっていると言えるほどの変化が起きています。

 会社が必要としている人財とは、若手・中高年といった年齢にかかわらず、価値を生み出してくれる人たちのことです。企業は生き残っていくために常に進化をしていかなければなりません。立ち止まっていれば市場から退出させられてしまう圧力に常にさらされているからです。

 一方、人間は慣れたことを好む傾向にあります。長年働いてきた組織の考え方や仕事の進め方が染みついており、それを変えるにはエネルギーが必要なので、ついつい現状維持となってしまうのです。しかし、現実を直視して、自らの存在価値を探り、常にその価値を高めていく努力が求められています。

 米国企業の日本法人社長にインタビューしたとき話してくれたことが印象に残っています。「アメリカ人は、夜学に行って資格を取ったりして転職していく。結局自分の給料を稼ぐ道具は自分で手にするんだと考えていて、自分で自分を高めていくんですよ。与えられるんじゃなくて自分でもぎ取っていく姿勢がすごい。」

 終身雇用・年功序列などが徐々に変化していく中、もはや自分のキャリアを会社任せにしておくことはできません。自分のスキルはどこにあるのか、自分の価値はどういうところにあるのか客観的に見つめてみて、自ら価値を高める努力が欠かせません。今の自分の能力や立ち位置を客観視するためには、社内にばかりいてはわかりません。積極的に社外の人と交わって学習の場に出てみるなど、まず行動してみることが大切になってきます。

意識を変えることが先か、行動を変えることが先か
 現役で働いている会社員時代も含めてイキイキと働いている中高年の方は、どこかの時点で“行動を変えて”、自分の存在価値を見出しています。そんな方は活力があるので、周囲の人からも魅力ある方に映っています。一方、不満ばかりで他責思考の方は組織に老害をまき散らしているばかりでなく、定年退職後も何も決められず、半年・一年と仕事を見つけられないまま過ぎていきます。

 まず行動を起こしてみること。やってみたら意外に面白くなってきて、主体的な行動へ繋がっていきます。それはプライベートであっても構わないのです。前向きなエネルギーを発散している人は、仕事でも必ず周りに伝わっていきます。

中高年社員が貢献できる高い価値とは?
 定型的な仕事は、ものすごい勢いでAIやロボットに代替されていく時代です。これまで築きあげてきたオペレーション・エクセレンスな仕組みはシステム化され、人間はその最低限の管理をする仕事を担うだけになっていくでしょう。では、これまで価値を持っていた作業に替わって、私たち中高年社員は何をもって価値を提供していくことができるのでしょうか。それは、未だAIにはできない複雑なヒューマン・コミュニケーションの分野があげられます。

 中高年になると「人の話を聞かず、頑固になる」と敬遠されることが多いと聞きます。しかし、コミュニケーション力を磨くことによってそれを防ぎ、存在場所を確保していくことは可能です。雰囲気がよくて業績のよいチームは、一方的な情報伝達ではなく双方向のコミュニケーションがよく取れています。相手の話をよく聴くという、寄り添う姿勢がメンバー同士、自然とできていることによって信頼関係が築かれているからです。経験豊富で落ち着いた中高年こそ、「人の話をよく聴いて相手を理解してあげる」対話力を身につければ、組織のコミュニケーション・ハブとして貢献していくことも可能なのではないでしょうか。

 「あの人だから、話してみよう」と周りから思われる人は、“敬遠される存在から、必要とされる存在へ”と変化していきます。人間とは不思議なもので、居場所が見つかると新たなモチベーションが生まれ、主体的な行動を起こしていきます。コミュニケーション力UPは一つの方法ですが、中高年社員にとっての自律的な価値創出につながることは間違いありません。一度、今の自分のコミュニケーションのあり方を振り返ってみて、対話力UP講座などにご参加されてみてはいかがでしょうか。

【筆者略歴】
木暮淳子(こぐれ・じゅんこ)

一般社団法人ソシエトス 代表理事
国家資格キャリアコンサルタント、認定心理士

 都市圏で働くミドルシニアが持つチカラを人材が不足している地方創生に活かしてもらうために、「ネクストステージ・スキル開発プログラム」の提供を行う法人として2016年に設立。
理事にわが国のキャリア形成支援第一人者で数多くの著書を持つ筑波大学名誉教授・渡辺三枝子先生を迎え、個に寄り添ったミドルシニアのキャリア形成支援を目指している。大手企業向けの50歳代キャリア教育プログラムでは、年間1,000名以上のキャリア研修を行う。星和ビジネスリンクの『キャリア羅針盤~ライフキャリアプラン』のプログラム開発にも携わる。

このメールマガジンの筆者、木暮淳子氏にご協力いただき開発したeラーニングプログラム『キャリア羅針盤~ライフキャリアプラン』の詳細を弊社Webサイトで詳しく紹介しています。

2022年度の配信は今回が最後です。
2023年度の配信は4月12日より開始します。引き続き、よろしくお願い申し上げます。



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2023/03/15
お知らせ ハイパーチェンジ時代を生き抜く中高年社員のキャリア支援(2)

第2回 キャリア研修は中高年社員にこそ必要

 一般社団法人ソシエトスの代表理事木暮淳子氏のコラム。
 第2回は、キャリア教育を受けたことがない中高年社員が「働くこと」の意味を再発見するために必要なキャリア研修の重要性についてお伝えします。

自分の人生やキャリアについては会社任せで考えたことがないのが中高年
 「ただ何となく忙しく毎日を過ごしていて、自分の将来についてあまり考えていない、というか考えないようにしていた・・・。」これは、中高年向けキャリア研修に参加した方のアンケートから見えてくる研修前の中高年社員の姿です。

 40歳代後半~50歳代になると、親の介護が始まったり、子どもの自立前のさまざまな問題に直面したり、あるいは自身の体力の低下や健康にも不安を感じるようになってきます。加えて、老後の生活のためにはウン千万円以上必要だ、などとの情報もある中で、自分自身のことや将来のことに関する“ややこしい問題”について考えることを無意識に避けてしまうことが多いようです。

 現在50歳前後の社員の方は、就職したころから産業構造の変化や技術の進展に煽られながらも、会社から与えられた仕事を一生懸命こなし、実経験の中からキャリアを伸ばしてきました。また、自ら人生設計を考えなくても、定年まで勤めあげれば老後は親世代のようにつつましくも年金で暮らせる生活を想像してきたことでしょう。人生設計やキャリアのことは会社にお任せして、自分は一生懸命与えられた役割を果たすことにひたすら邁進してきたのが中高年社員なのです。しかし今になって見えてきた自分の未来は、想像したものと何かが違いそうだと気づいています。しかし、そうとわかってはいるものの、問題に向き合ことを恐れて意識の外に追いやってしまうことが少なくありません。

 中高年社員に実際に会ってお話を伺ってみると、本当は気がかりになっていることを実にさまざまにお話しされます(図1)。しかし、なかなかそれらに対処していくきっかけがないのです。だからこそ、そうした中高年の方々に、一旦立ち止まって自分の将来の課題について考えてもらうのが中高年に向けたキャリア教育の意義のひとつと言えるでしょう。

図1 中高年社員の気がかりなこと

バックキャストで考えるライフキャリア・プランニングから今やるべきことが見えてくる
 “定年後も含めた人生全般”という期間に時間軸を少し伸ばして自分の未来を考えていくことで、今やるべきことに気づくことができます。

 日本人の平均健康寿命は男性が72.68年、女性が75.38年となりました(内閣府「令和4年版高齢社会白書」より)。65歳で会社を定年退職してからも趣味や仕事、社会活動などを通して自分らしく元気で活動できる期間がおよそ10年あります。実は、定年になってから次にやることを考えればいいやと思っていても、気力/体力がついてこず、結局は何もやることがなくて一日中テレビを見ている人が多いそうです(図2)。

図2 60代無業者(男性)の時間の過ごし方

 「今日やらなければならないことが何もない」という状態に陥らないように、例えば70歳になったとき、自分はどんな人生を送っていたいのかを考え、バックキャストで50歳代の今からしておかなければならないことを捉えてみるのが、ライフキャリア・プランニングです。

 ライフキャリアとは、「生涯にわたって生きがいや働きがいを感じられる活動を通した生きかたや働きかた」のことです。今の仕事にとどまらず、将来にわたって社会とかかわる活動すべてを“キャリア”と捉える考え方として認識が広がってきており、自分自身の生きかたの軸や目標を定めてその実現に向けてプランニングするのが、ライフキャリア・プランニングなのです。そのプランニングでは、「自分の人生はこうありたい」というところから出発して、今するべきことに落とし込んでいきます。その第一歩の気づきが表1です。

表1 今あるべき姿への気づき

 筆者が出会う70歳以上の方でイキイキと活動されている方のほとんどは、現役時代から仕事以外にも情熱を傾けられる趣味やその他の活動を発掘し、それを続けている方々です。充実した人生を実現する資金を得るために、定年後のマネープランを50代のうちからプランニングし、準備を始めています。目標があるから、50代の今、「働く」意味をしっかり認識しているのです。

手あげ方式のキャリア研修では本当に必要な人に届いていない
 日常の仕事が忙しい人ほど、一旦立ち止まって将来のことを考えてみる時間を取れていないのが現状です。また、前述したように、忙しいことを理由に未来に起こりうる“困ったこと”について見て見ぬ振りをしてしまうことも・・・。

 近年は研修メニューも豊富なので、数ある研修の中から受講者自ら選んで参加する方式で研修を実施する企業様も多いですが、こと中高年向けキャリア研修に関しては、なるべく多くの方に一度は受けていただきたいものです。手あげ方式のキャリア研修では本当に必要な人に届いていないのが現状です。今、課題を認識していない人にこそ、必要なのです。

 企業に社員のキャリア開発支援の考え方が必要だと言われ始めたのは2000年頃。実際に浸透してきたのは2010年頃と言われています。ちょうど今50歳前後の方はキャリア教育を受けてこなかった世代でもあります。会社が求める業務執行能力に合わせるように自ら能力を磨いてきた中高年ですが、自分自身に向き合う機会はほとんどありませんでした。

 社員の能力開発は「自己責任」だと考える経営者も未だいらっしゃるようですが、今、社員の職業生活設計に即した能力開発を支援することは事業主の責務となっています。中高年社員にも、一旦立ち止まって自分の将来について考えてみる機会を平等につくっていくことが求められているのです。(参照:職業能力開発促進法)

中高年向けキャリア研修は「働くこと」を再考するきっかけとなる貴重な機会
 定年退職が近づいたり、役職定年を迎えると中高年社員のモチベーションが低下して組織に悪影響を及ぼしているという話をよく聞きます。即効性のある解決策はなかなかみつからないものの、「働く意欲」を失った原因は待遇の低下以外にも、「働く意義」を見失っているからに他なりません。

 中高年社員向けのライフキャリア研修で、今一度自分の価値観や存在意義を確認し、自分のありたい姿を考えてみると、今やるべきことが少しずつ見えてきます(図3)。組織や他者から必要とされる活動や後輩の成長を手助けすることに改めて気づいたり、自分のためにこれからどう生きるか、どう働くかを考える貴重な機会となっています。

 DXで仕事のやり方はずいぶん変化していますが、これまで中高年が経験してきたさまざまな事柄で無駄なことはひとつもありません。必要な変化は受け入れながら、新しい時代をつくっていく一員としてまだまだ活躍の場があります。自分の存在意義を再確認するのがキャリア教育の第一歩です。自分のことを後回しにしてきた中高年社員の皆さんだからこそ、これからの時代に自分らしい人生を描いていっていただきたいものです。

図3 中高年社員の今やるべきことが見えてくるキャリア教育

【筆者略歴】
木暮淳子(こぐれ・じゅんこ)

一般社団法人ソシエトス 代表理事
国家資格キャリアコンサルタント、認定心理士

 都市圏で働くミドルシニアが持つチカラを人材が不足している地方創生に活かしてもらうために、「ネクストステージ・スキル開発プログラム」の提供を行う法人として2016年に設立。
理事にわが国のキャリア形成支援第一人者で数多くの著書を持つ筑波大学名誉教授・渡辺三枝子先生を迎え、個に寄り添ったミドルシニアのキャリア形成支援を目指している。大手企業向けの50歳代キャリア教育プログラムでは、年間1,000名以上のキャリア研修を行う。星和ビジネスリンクの『キャリア羅針盤~ライフキャリアプラン』のプログラム開発にも携わる。

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2023/03/08
お知らせ ハイパーチェンジ時代を生き抜く中高年社員のキャリア支援(1)

第1回 中高年社員がハイパーチェンジに取り残されないための対処法

 本号から3回にわたって、一般社団法人ソシエトスの代表理事木暮淳子氏のコラムをお届けします。木暮氏は中高年社員のキャリア開発教育の専門家で1on1メンターコーチとしてご活躍中です。
 第1回は、「中高年がハイパーチェンジに取り残されないための対処法」です。
 木暮氏は「ハイパーチェンジ」を、変化のスピードが速いだけでなく、「目新しさ」と「予測不可能性」も含んだ誰も経験したことがない変化であると定義しています。

 コロナ禍を経て在宅勤務が多くなり、必要な書類はすべてメール送信、同僚や部下とはオンラインでミーティング、「あれはどうなった?」と部下に聞くだけでもタイムラグが発生。PCの画面という狭いバーチャル空間で仕事をしていると、どこに必要なファイルがあるのか探すだけでも頭がぐるぐる回ってくる。加えてコミュニケーションを円滑にしようと導入されたチャットシステムでの気軽なやり取りが増え、仕事のスピードは増すばかりで、一瞬たりとも気が抜けない。

 これは、筆者が日頃感じる仕事の変化ですが、おそらくリモートワークなどで仕事をしている多くの中高年の方が実感されている現象なのではないでしょうか。

 コロナ禍で助長された面もあり、こうした仕事のやり方ひとつとってみても、我々を取り巻く状況にはハイパーチェンジが起きています。

 ハイパーチェンジとは、「スーパー(超)」をさらに超えた極超高速変化という意味ですが、変化のスピードが速いだけではなく、「目新しさ」と「予測不可能性」も含んだ概念で、誰もが経験したことのない出来事が起きているというわけです。とりわけ変化への適応に少々弱くなった我々中高年には対応が難しい時代が訪れています。

 そうしたハイパーチェンジのど真ん中にあっても、現在50歳代の中高年社員の方はあと10年~20年は(収入を得る、得ないは別にして)社会参加により仕事をしていく可能性が高いと予想されます。こうしたハイパーチェンジに弱い中高年が、これからも活躍していくためには、どのように働いていけばいいのでしょうか。企業のミドルシニア向けキャリア研修を通じて多くの中高年社員と接してきた経験を交えて、このコラムでは皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

AIや情報技術といった自動化技術が中高年社員に与える影響
 アメリカのシンクタンク、マッキンゼー・グローバル・インスティテュート(MGI)の「The future of work(未来の仕事)in Japan」(2020年5月)によると、少子高齢化が進む日本では、労働力不足を補うために2030年にかけて現在の2.5倍の労働生産性向上をしないと現在のGDP成長率を維持できないという研究報告がされました。

 また、反復型ルーチンワークが多い日本の仕事は自動化される余地が高く、2030年までに既存業務のうち27%が自動化されると試算しています。その結果1,660万人分の雇用が代替される可能性があるとも報告されています。

 こういう話を研修などでしてもピンとこない大企業の中高年社員の方が多いのですが、1,660万人とはどういう数字かと言いますと、2021年3月期に上場している会社1,898社の従業員数(正社員)は約281万人(東京商工リサーチ調べ)ですから、日本の上場会社の正社員数の約6倍の人の仕事が自動化によって変っていくと予想されているのです。

 環境に適応できない中高年は、真っ先に存在価値を落としていくことになります。

「The future of work in Japan ~ポスト・コロナにおける「New Normal」の加速とその意味合い」(2020年5月)」資料


最近よく聞く「リスキリング」
 2021年の春頃から「リスキリング」という言葉を聞く機会が増えてきたように思います。
今後AIや情報技術によって仕事が変っていくことが避けられないとするならば、必要とされるスキルを身につける学び直し(=リスキリング)によって対応していきましょうね、という意味合いで使われています。デジタル化によって生まれる新しい仕事や、新たな仕事の進め方にも対応できる人材を育成するためのスキル習得を指していることが一般的です。

 IT系大手企業では、全社員にリスキリング研修を実施してデジタル化に対応しようとする動きも活発ですが、中高年社員が新たな仕事に転換するレベルにまでリスキリングするのはなかなか困難なのではないでしょうか。
では、どうしたら、中高年社員はこのハイパーチェンジ時代に取り残されずに、仕事をつづけていくことができるのでしょうか?

自分の価値を高める“学び”を見つける
 これだけさまざまな環境が変化しているにもかかわらず、日本では個人の社外学習・自己啓発を行っていない人の割合は46.3%と諸外国と比較しても際立って高いことが報告されています。これまでは、必要なトレーニングは会社が用意してくれていたかもしれませんが、これからは自ら「自分の価値」を高めていく努力が必要だということです。中高年になるとこれまでの経験に安住したり、あと定年まで数年だからとアクセルを緩めてしまう方が多いようですが、定年後も社会変化に取り残されないために、時間軸をもう少し伸ばして、学び続ける意識を持つことは大切でしょう。

「経済産業省の取組」令和4年2月経済産業省資料

 これまでの職業経験・人生経験で培ってきた能力に磨きをかけるのもよいでしょう。わたしたちがミドルシニア向けにご提供しているE-ラーニングのキャリア研修では、「自ら動き始める主体性」「規律性」「実行力」「挑戦する力」「計画力」「発信力」「傾聴力」など20個の能力の棚卸しをしていただき、自分自身の強みを点検していただいています。

 おそらく多くの中高年がこれからの仕事に活かすという意味では、デジタル技術やマネジメント能力というよりも、ヒアリング力やコミュニケーション力といった対人関係能力(ヒューマンスキル)のチカラを高めるという方向が合っているのではないでしょうか。ヒューマンスキルは人間性と考えれば、いくつになっても高めていきたい能力ですね。

学びは好奇心を刺激し、意欲を生み出す
 わたしたちが行動を起こすときの原動力には、社会環境要因や個人の性格などから形成された個々人の“欲求”が深く関係していると言われています。なかでも、「成長すること」についてあらゆる年齢の人が根本的な欲求を持っています。日々の生活が忙しくて忘れてしまっているかもしれませんが、わたしたち人間は何歳になっても褒められたいし、元気であれば何かに取り組んで挑戦したい、成長したいと考えているものなのです。 

 試しに時間と空間のスペースを少し空けて、仕事に役立ちそうな学びを取り入れてみてください。意外にそうした時間を捻出できることに気がついたり、楽しさを発見できるはずです。学ぶことでこれまで固定的だった人間関係から、新しいネットワークが広がったり、別の考え方があるということに気づいたり、新たな情報を手に入れることもできます。

 仕事を取り巻く環境の変化を「どうしようもない」とあきらめるのではなく、受け止めて一歩踏み出すためにも“学び”を利用してみましょう。

 たまたま頼まれた新たな仕事に挑戦してみる、新たな配属先の仕事に主体的に取り組んでみる、そんなところにも学びの種は転がっています。「こんなこともできるんだ」と自分の可能性を広げていくことで、居場所も見つけていくことが、きっとできるはずです。

【筆者略歴】
木暮淳子(こぐれ・じゅんこ)

一般社団法人ソシエトス 代表理事
国家資格キャリアコンサルタント、認定心理士

 都市圏で働くミドルシニアが持つチカラを人材が不足している地方創生に活かしてもらうために、「ネクストステージ・スキル開発プログラム」の提供を行う法人として2016年に設立。
理事にわが国のキャリア形成支援第一人者で数多くの著書を持つ筑波大学名誉教授・渡辺三枝子先生を迎え、個に寄り添ったミドルシニアのキャリア形成支援を目指している。大手企業向けの50歳代キャリア教育プログラムでは、年間1,000名以上のキャリア研修を行う。星和ビジネスリンクの『キャリア羅針盤~ライフキャリアプラン』のプログラム開発にも携わる。

このメールマガジンの筆者、木暮淳子氏にご協力いただき開発したeラーニングプログラム『キャリア羅針盤~ライフキャリアプラン』の詳細を弊社Webサイトで詳しく紹介しています。

*お申し込みをいただいた方には、キャリア自律に関する様々な情報をお届けするメールマガジン「星和HRインフォメーション」を送付させていただきます。是非ご活用ください。

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2023/03/02
お知らせ Google・Appleも導入しているメンタルケア 川野泰周氏連載(4)

第4回 仕事のパフォーマンスアップのためのマインドフルネス

 「星和 Career Next(公開セミナー)」本年度最後となる6回目では、人材育成と健康経営の両面から注目を集めている「マインドフルネス」の効果・効用と実践方法を、臨済宗建長寺派 林香寺 住職でRESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長の川野泰周氏よりご講演いただきました。
 ご講演前から「星和HRインフォメーション(メールマガジン)」では川野氏の集中連載を配信中です。
 4回目(最終回)は、ストレスが原因で発生する様々な心身の不具合の予防や治療に役立つマインドフルネスについて解説していただきます。

星和 Career Next 2022 (公開セミナー)
仕事に活かす「マインドフルネス」
マインドフルネスで心理的安全性を高める
■日  程:2023年2月22日(水) 13:30~15:00
■開催方式:オンラインライブ配信(Zoom)
■講  師:第1部 川野泰周氏/第2部 古畑克明
■定  員:300名
■主  催:株式会社星和ビジネスリンク(東京都港区芝4-1-23 三田NNビル4F)


 2000年代に入ってから、GoogleやMeta(旧Facebook)など、アメリカのグローバル企業が従業員のパフォーマンスアップのためにマインドフルネスを取り入れ始めたことは、大きなインパクトを世界に与えました。その後も、シリコンバレーやウォールストリートなど、ビジネスの最前線にいるビジネスパーソンたちを中心に、マインドフルネスの考え方やメソッドは広がっていきました。

 その背景には、IT企業でハードワークが常態化しているビジネスパーソンほど、脳を著しく疲労させている…ということがありました。

 脳には、常に外から与えられる情報に反応しようと備える「デフォルト・モード・ネットワーク(以下、DMN)」という機能があります。創造力を働かせて新しいアイデアを生んだり、収集した情報に合わせて柔軟に判断するために、重要な機能といわれています。一方、このDMNの機能は「脳のアイドリング状態」ともいわれるように、スイッチが入っている間じゅう、脳はエネルギーを消費し続けることになります。

デフォルト・モード・ネットワーク

 つまり、膨大な情報処理が必要なビジネスパーソンほど、このDMNを働かせ続けることになるため、過度な負担がかかり、脳のオーバーヒートを起こしやすくなるということです。すると、何が起こるのかというと、感情のコントロールができなくなったり、燃え尽き症候群やうつ症状を起こしたり――あるドイツの研究者は「うつ病患者の脳では、DMNが過剰になったまま収まらない傾向があり、それによって脳疲労を起こしている可能性がある」とも語っています。

 そんな中で登場したマインドフルネスは、オーバーヒートした脳をクールダウンさせ、疲労を癒すものとして、注目を集めました。

 呼吸瞑想などで「今、この瞬間」に意識を集中させることで、流れ込み続ける情報を一時遮断し、脳と精神を安らかにする。そうすることで脳がリフレッシュされ、集中力や思考力を取り戻し、パフォーマンスをアップさせることが期待されています。

マインドフルネスの効果

 実際に、マインドフルネスの呼吸瞑想が脳のパフォーマンスを高めることは、数々の研究で明らかになっています。

 その一つが、自己コントロールや判断力の向上です。2014年、カナダのブリティッシュコロンビア大学とドイツのケムニッツ工科大学の研究チームが行った研究によると、20件以上の研究データをメタ解析したところ、マインドフルネスによって脳の「前帯状皮質(ACC)」と呼ばれる部位が活性化することが確認されました。

 ACCは注意や行動、衝動のコントロールや判断力との関連が強い脳の部位です。また、学習した内容をもとに適切な判断をする力も司っています。

科学で裏付けされたマインドフルネスで生じる脳の変化

 また、アメリカのマサチューセッツ総合病院とハーバードメディカルスクールが行った研究では、8週間のマインドフルネスプログラムを行うことで、海馬の灰白質(神経細胞の集合体)の密度が有意に増加することも確認されました。

 脳の海馬は、記憶や学習、空間認識にかかわるだけでなく、レジリエンス(逆境から再起する力)にも関連していることが分かっています。つまり、マインドフルネスを実践することで、集中力、記憶力、学習する力だけでなく、立ち直るためのレジリエンスをも養うということが、科学的に明らかになったということです。

 特に注目したいのは、レジリエンスでしょう。10年先どころか、5年先も読めない、目まぐるしく変化をし続けている現代社会は、どんな困難がやってくるのか、どんな問題が急に降って湧いてくるのかが分かりにくくなっています。そんな時代のなかで仕事をしていれば、当然ながら、想定していなかったトラブルに対面することは少なくないでしょう。

 そんなとき、思考がストップして心が折れてしまう人、あっさりそれを受け入れて突破法を考え、即行動する人がいます。この2者の違いは何かというと「認知的柔軟性」があるかどうかです。

 認知的柔軟性とは、外部から刺激を受けたときにそれに合わせて柔軟に考え方や行動を変えられる力のこと。新しい環境にもすぐに対応できたり、急な変化をすぐに受け入れることができる、「こだわり過ぎない」能力ともいえます。

 この認知的柔軟性が、マインドフルネスの呼吸瞑想で養われることが、ボストン大学と北京大学が共同で行った研究で明らかにされました。

 呼吸瞑想を続けるうちに、「起きた出来事をありのままに見つめ、自分の感情で判断せずにただ受け入れる」――そんな「マインドフル」な状態にメンタルが整えられていきます。そのフラットなメンタルがあれば、トラブルに直面したときも、思考停止に陥ることなく、情報収集をしながら現状で最適と思われる突破法を見いだすことも可能になるでしょう。それこそが、見通しのつきにくい現代社会において、ビジネスパーソン必須のレジリエンス力になるといえます。

 ストレスと情報にあふれた現代社会で働くための防御力、そしてパフォーマンスを引き出すための秘策として、マインドフルネスを役立てていきましょう。

【筆者略歴】
川野泰周(かわの・たいしゅう)

臨済宗建長寺派 林香寺 住職
RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長

1980年横浜市生まれ。
2005年慶應義塾大学医学部医学科卒業。 臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。うつ病、不安障害、PTSD、睡眠障害、依存症などに対し、薬物療法や従来の精神療法と並び、禅やマインドフルネスの実践による心理療法を積極的に導入している。
2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行。
2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。
現在は檀務とともに、坐禅会を定期的に開催。
ビジネスパーソンに向けては伊藤忠商事、DeNA、荏原製作所など、国内大手企業でマインドフルネスによるメンタルヘルス向上のための社員研修を担当。医師、看護師、介護職、学校教員、子育て世代、シニア世代などを対象に幅広く講演活動を続けている。

 国内初のマインドフルネスのための通信教育講座「マインドフルネス実践講座」(キャリアカレッジ・ジャパン)の監修を務める。NHKラジオ「ラジオ深夜便」、TBSラジオなど、メディア出演を通してのマインドフルネス普及活動にも取り組む。著書・共著・監修多数。

【著書】
半分、減らす。 「1/2の心がけ」で人生はもっと良くなる
『半分、減らす。「1/2の心がけ」で
人生はもっと良くなる』
川野泰周〈著〉
三笠書房〈刊〉(2021年11月)文庫判 
定価814円(税込)
精神科医がすすめる疲れにくい生き方
『精神科医がすすめる
疲れにくい生き方』
川野泰周〈著〉
クロスメディア・パブリッシング〈刊〉
(2021年7月)四六判並製
定価1,628円(税込)
オーディオブック集中力がある人のストレス管理のキホン(CD)
『オーディオブック集中力がある人の
ストレス管理のキホン(CD)』
川野泰周〈語り・著〉
パンローリング〈刊〉(2021年5月)CD4枚
定価1,540円(税込)





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2023/02/24
お知らせ Google・Appleも導入しているメンタルケア 川野泰周氏連載(3)

第3回 メンタルケアやストレス軽減のためのマインドフルネス

 「星和 Career Next(公開セミナー)」本年度最後となる6回目では、人材育成と健康経営の両面から注目を集めている「マインドフルネス」の効果・効用と実践方法を、臨済宗建長寺派 林香寺住職でRESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長の川野泰周先生よりご講演いただきました。

 ご講演前から「星和HRインフォメーション(メールマガジン)」では川野先生の集中連載を4回にわたって配信中です。

 3回目は、ストレスが原因で発生する様々な心身の不具合の予防や治療に役立つマインドフルネスについて解説していただきます。

星和 Career Next 2022 (公開セミナー)
仕事に活かす「マインドフルネス」
マインドフルネスで心理的安全性を高める
■日  程:2023年2月22日(水) 13:30~15:00
■開催方式:オンラインライブ配信(Zoom)
■講  師:第1部 川野泰周氏/第2部 古畑克明
■定  員:300名
■主  催:株式会社星和ビジネスリンク(東京都港区芝4-1-23 三田NNビル4F)


 現在、マインドフルネスは世界各国の医療現場で取り入れられ、その効果が実証されています。中でも期待されているのが、薬に頼らないメンタルケア効果です。

 うつ病は、症状が緩和したあとも再発を繰り返すリスクが高いことが知られていますが、イギリスのオックスフォード大学の研究によると、マインドフルネスをベースとした認知療法を行うことで、うつ症状の再発を抑制できることが分かりました。しかも、その再発抑制効果は、抗うつ薬を用いた治療よりもわずかながら上回ることが判明したのです。

マインドフルネスのうつ病再発抑制効果

 イギリスのエクセター大学の研究でも、うつ病の再発抑制において、マインドフルネスを用いた治療は薬物治療と同等の高い効果があることが確認されました。さらに同研究では、うつ状態が重度であるほど、マインドフルネスによる治療が高い効果を示すことも判明したのです。

 最近では、国内でもマインドフルネスによる瞑想を実践する心療内科は増加傾向にあり、うつ病や不安障害の改善を目指す臨床療法の一つとして定着しつつあります。もちろん、薬物療法はうつ病の症状が重い時期や、発症早期には大変有効であり、積極的な活用が推奨されていますが、マインドフルネスを活用した認知療法は、うつ病の再発予防に大きな力を発揮する治療法として注目を集めているのです。

 また、日常的なストレスに対しても、マインドフルネスは有効です。ストレスによって引き起こされる心身の症状は様々です。

全身に分布する自律神経系

 その中でも現代人に多いのが、不眠でしょう。厚生労働省の調査では、日本人の5人に1人が「睡眠で休養がとれていない」「不眠がある」と答えています(厚生労働省情報サイトe-ヘルスネット※)。まさに、不眠症は国民病ともいえるものです。

 ストレス過多な生活をしている人は、自律神経が常に緊張モードの「交感神経」になっているため、休息モードである「副交感神経」への切り替えが難しくなりがちです。そのため、神経が常に休まらず、スムーズな入眠や深い眠りを得ることが難しくなってしまうのです。

 こうしたストレスを起因とする不眠に対して、一部の睡眠専門クリニックではマインドフルネスによる瞑想を治療に取り入れることで効果を上げています。とくに呼吸瞑想など、深い呼吸を繰り返すことで、交感神経から副交感神経への切り替えがスムーズに行えるようになります。また、呼吸へ集中することで入眠前のネガティブ思考にストップをかけ、不安感を軽減させることが、睡眠の改善につながります。

 実際に、マインドフルネスによる呼吸瞑想が不眠を改善することは、科学的にも実証されています。

不眠に対するマインドフルネスの効果

 アメリカの国立精神衛生研究所とコロンビア大学の研究チームが、ストレスのほか、PTSDや病気への不安を伴う不眠症に対してマインドフルネスプログラムを行った研究論文を分析したところ、睡眠時間の延長や熟睡感の増加、睡眠満足度などが向上する効果があることが確認されました。

 つまり、様々な要因を持つ睡眠障害において、マインドフルネスによる呼吸瞑想は有効に働くということです。

 睡眠薬には依存性や転倒リスクの増大、一時的な認知機能低下のリスクを指摘する声もあり、安易な服用は避けるべきとされています。不眠症状が現れた時の対処として、まずは副作用の心配のないマインドフルネス瞑想を試みることも選択肢の一つとなるでしょう。また、ストレス過多な出来事が続くことで、イライラとした感情が渦巻き、人や物に当たってしまう…という人も少なくありません。そのために、仕事やプライベートの人間関係に悪影響が及ぶこともあるでしょう。そんな“ネガティブ感情の連鎖”を、マインドフルネスによる瞑想が断ち切ってくれることが、昨今の研究で明らかになりました。

 筑波大学が行った実験によると、37名の大学生に1週間のマインドフルネス瞑想を行ってもらったところ、「怒りの反すう傾向(怒りが伴うネガティブ体験を繰り返し思い出す傾向)」が低減することが確認されました。同時に、瞑想の前後には、ネガティブな気分が改善されることも分かっています。

 不安や落ち込み、無気力といったうつ症状に加え、不眠やイライラといったストレス症状に対して改善効果が期待できるマインドフルネスは、ストレス過多な現代人にとっての常備薬ともいえるでしょう。

厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト

【筆者略歴】
川野泰周(かわの・たいしゅう)

臨済宗建長寺派 林香寺 住職
RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長

1980年横浜市生まれ。
2005年慶應義塾大学医学部医学科卒業。 臨床研修修了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。うつ病、不安障害、PTSD、睡眠障害、依存症などに対し、薬物療法や従来の精神療法と並び、禅やマインドフルネスの実践による心理療法を積極的に導入している。
2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行。
2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。
現在は檀務とともに、坐禅会を定期的に開催。
ビジネスパーソンに向けては伊藤忠商事、DeNA、荏原製作所など、国内大手企業でマインドフルネスによるメンタルヘルス向上のための社員研修を担当。医師、看護師、介護職、学校教員、子育て世代、シニア世代などを対象に幅広く講演活動を続けている。

 国内初のマインドフルネスのための通信教育講座「マインドフルネス実践講座」(キャリアカレッジ・ジャパン)の監修を務める。NHKラジオ「ラジオ深夜便」、TBSラジオなど、メディア出演を通してのマインドフルネス普及活動にも取り組む。著書・共著・監修多数。

【著書】
半分、減らす。 「1/2の心がけ」で人生はもっと良くなる
『半分、減らす。「1/2の心がけ」で
人生はもっと良くなる』
川野泰周〈著〉
三笠書房〈刊〉(2021年11月)文庫判 
定価814円(税込)
精神科医がすすめる疲れにくい生き方
『精神科医がすすめる
疲れにくい生き方』
川野泰周〈著〉
クロスメディア・パブリッシング〈刊〉
(2021年7月)四六判並製
定価1,628円(税込)
オーディオブック集中力がある人のストレス管理のキホン(CD)
『オーディオブック集中力がある人の
ストレス管理のキホン(CD)』
川野泰周〈語り・著〉
パンローリング〈刊〉(2021年5月)CD4枚
定価1,540円(税込)


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