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2024/11/27
お知らせ 第2回「中高年女性会社員」のプロファイル#14<ミドルシニアの羅針盤レター>

ミドルシニアの羅針盤レター2024#14
  ミドルシニアの羅針盤レター 2024#14

第2回「中高年女性会社員」のプロファイル

 本年(2024年)3月14日の公開セミナー「中高年女性会社員の活躍に向けた現状と課題」に登壇、ご好評をいただいた、坊美生子氏(ニッセイ基礎研究所准主任研究員)の連載(全4回)の2回目です。

 前回は、「中高年女性会社員」の人数が増えてきたこと、人手不足の中で、企業にとっては、彼女たちにより能力を発揮し、役割を果たしてもらう必要があることを述べました。今回は、そんな「中高年女性会社員」のプロファイルについて、定年後研究所とニッセイ基礎研究所が共同研究として行ったアンケート「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」の結果からお伝えします。このアンケートは、従業員500人以上の大企業に勤める45歳以上の女性正社員を対象とし、「一般職」が回答者全体の約8割を占めているのが特徴です*。

*アンケートでは、勤務先にコースがある場合に「総合職」(エリア総合職等を含む)と「一般職」(「業務職」など旧一般職を含む)に分けた他、勤務先にコースがない場合でも、会社で基幹的な業務に就いている場合は「総合職」、定型的な業務に就いている場合は「一般職」に分類して集計しました。

 はじめに、中高年女性会社員の配偶関係をみていきましょう。企業からみると、社員の配偶関係はプライベート情報、という意識が強いと思いますが、こと、女性の働き方は、配偶関係や家族関係に大きく影響される場合もあるため、共同研究では踏み込んで尋ねました。

 その結果、全体では約4割が「配偶者あり」、約4割が「未婚」、1割強が「離別」、残りが「死別」でした(図1)。未婚の多さが目立つ結果です。総務省統計局の「国勢調査(2020)」によると、日本全体では、この年代の女性の平均未婚率は1~2割なので、平均を大きく上回っています。現在の中高年女性会社員が若い頃には、結婚・出産後に退職するケースが多く、いったん退職すると、パートなどの非正規雇用で再就職することが圧倒的なので、結果的に、正社員として中高年まで働き続けているのは、未婚が多くなっていると考えられます。ただし、共同研究は大企業を対象としていることなどから、未婚率が高めに出ている可能性があります。

 また同じ理由で、中高年女性会社員のうち子がいる割合も、全体の約3割にとどまりました。

 未婚や子がいないという状況であれば、比較的、働き方への制約は小さいと考えられますが、家計責任をシェアする家族がいないため、老後の経済的リスクが高いという側面があります。アンケートと同時並行して実施した大企業へのインタビュー調査では、未婚の女性社員が増えていることから、老後の暮らしも想定して、早めにマネープランなどの啓発を行っていきたい、という回答もありました。

図1.中高年女性会社員の配偶関係

 次に、中高年女性会社員の体調面をみていきましょう。中高年にもなると、病気や更年期症状など、様々な問題がでてくるのではないか、と予想される方も多いと思います。

 共同研究の結果、何らかの持病や不調を感じている人は、全体の約6割でした。年齢階級別に見ると、「持病(更年期障がいを除く)があり、通院している」は、「45~49歳」では14.1%、「50~54歳」では15.4%、「55~59歳」では19.9%と、年齢階級が上がるほど上昇していました。「60歳以上」では11.8%と低下しましたが、これは、体調に問題がない方が、定年を過ぎても多く働き続けているためだと考えられます。

 不調のうち、具体的な症状で最も多かったのは、「肩こり、腰痛、手足の関節の痛みなど、筋骨格系の症状」で、全体の34%でした。企業としては、このような症状を悪化させない職場づくりが必要となるのではないでしょうか。また、「更年期障がいで通院している」は2.9%、「通院はしていないが、更年期症状があると感じている」は16.3%でした。

 最後に、介護関連をみていきましょう。50歳代ともなると、皆さんの周りにも介護事情を抱えた方がポツポツいらっしゃるのではないでしょうか。

 共同研究の結果は、「過去に介護経験がある」は19.8%、「現在、介護をしている」は10.7%、「今後、介護する見込みがある」は36.6%でした。回答者の年齢階級別にみると、「過去に介護経験がある」は年齢階級が上がるほど高く、逆に「今後、介護する見込みがある」は年齢階級が下がるほど高くなっていました(図2)。「現在、介護をしている」が最も高かったのは「60歳以上」で16.2%でした。親の年代が関係していると考えられます。

 いずれにしても、「親の介護」は、中高年女性会社員の雇用管理や、60歳以上の方を再雇用する上で、外せないテーマだということが分かりました。企業側には、介護離職を防ぐ取組や、介護と仕事の両立をしやすくする社員同士の相互サポート体制、介護に関する情報共有の仕組みづくりなどが、期待されるのではないでしょうか。

 以上、中高年女性会社員のプロファイルを簡単にお伝えしました。次回は、中高年女性会社員のキャリアや、仕事への意識について取り上げます。

図2.中高年女性会社員の介護事情

【筆者プロフィール】
 坊 美生子(ぼう みおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任
神戸大学大学院国際協力研究科修了。読売新聞記者として、大阪社会部や東京社会部、地方部で、主に労働分野や地方行政を取材。現在は、ミドルシニア女性のライフデザインや、高齢者の移動サービス、ジェロントロジーなどを研究している。2018年から和歌山放送ゲストコメンテーター。



当メールマガジンは一般社団法人定年後研究所が総合監修し、配信運営は株式会社星和ビジネスリンクが行っております。

2024/11/13
お知らせ 第1回「中高年女性会社員」への注目#13<ミドルシニアの羅針盤レター>

ミドルシニアの羅針盤レター2024#13
  ミドルシニアの羅針盤レター 2024#13

第1回「中高年女性会社員」への注目

 本号からは、本年(2024年)3月14日の公開セミナー「中高年女性会社員の活躍に向けた現状と課題」で登壇、ご好評をいただいた、坊美生子氏(ニッセイ基礎研究所准主任研究員)より4回にわたり語っていただきます。

 「働く女性」の問題と言えば、少子化対策と関連して「仕事と子育ての両立」に注目が集まることが多いようです。また近年では、2016年に女性活躍推進法が施行されたことなどから、「女性管理職」への注目度も高いと言えます。この二つの課題に対しては、多くの企業が「次世代育成支援対策推進法」や「女性活躍推進法」に沿って行動計画を策定し、様々な取り組みを積み重ねてきたことと思います。「くるみん」マークや「えるぼし」マークの認証取得もその一環です。

 ですが、実際の職場に目を移すと、未婚の女性もいれば、結婚をしても子を持たない女性、子育てがひと段落した女性もいます。企業による「両立支援」は、どうしても小さい子を持つ若年女性が対象となりやすく、また「女性管理職」は“エース級”の女性に限られがちです。その結果、「両立支援」と「管理職登用」のいずれの射程からも微妙に外れた中高年女性会社員は多いのではないでしょうか。

 一方で、企業の人事管理の問題に目を向けると、採用難や若年層の離職増加により、人手不足感は強まっています。そこで、企業が既に抱えている中高年社員、とりわけ、これまであまり注目されてこなかった中高年“女性”会社員を活用することによって、組織の生産性や持続可能性を上げていく余地があるのではないでしょうか。子育て中ではなく、管理職候補でもない、「普通の中高年女性会社員」を、どのようにキャリア支援していくか、ということです。

 また、中高年女性会社員の側から見ても、退職前にスキルを磨いて成果を上げ、賃金水準を上げておくことには大きな意味があります。近年、シングルが増えている影響などにより、老後、貧困に陥る女性が増えているからです。実に、一人暮らしの高齢女性の4割以上は相対的貧困、という研究結果もあるのです。(阿部彩(2024)「相対的貧困率の動向(2022調査update)」JSPS 22H05098)したがって、企業側は生産性と持続可能性向上のため、女性会社員側は老後の経済基盤を強化するために、ともに協力して、より能力を発揮できるように取り組んでいくべきではないでしょうか。

 そのような観点から、定年後研究所とニッセイ基礎研究所は2023年9月から11月に、「中高年女性会社員の活躍に向けた現状と課題」をテーマに共同研究を行いました。今年1月のメルマガで、定年後研究所の池口所長からも紹介があったように、大企業で働く中高年女性会社員を対象としたアンケートと、企業の人事担当者らを対象としたインタビュー調査で構成したものです。筆者からは、このアンケートをもとに、中高年女性会社員の活躍に向けた現状と課題について、お話しします。

 アンケート結果の紹介に入る前に、連載1回目の今回は、国内における「中高年女性正社員」の状況について、政府統計から概観してみたいと思います。

 まず、総務省の「令和4年就業構造基本調査」で中高年の女性正社員の数を確認すると、例えば45歳から59歳までだと約400万人となり、男女合わせた正社員総数の1割強を占めています(図1)。次に、男女別に割合を見てみると、「45~49歳」でも、「50~54歳」や「55~59歳」でも、男女比はおおよそ7対3となっています。

図1.性・年齢階級別にみた正社員の人数

 このような「中高年女性正社員」の人数は、中長期的に、どのように変化してきたのでしょうか。上述の「就業構造基本調査」を遡って、1987年以降の5年ごとのデータを確認してみました。ここでは、「50歳代」に限って計算してみました。すると、1987年には145万人でしたが、徐々に増加して、2022年には初めて250万人を超えました。

図2.50歳代女性正社員の人数の推移(単位:万人)

 過去35年でなぜ50歳代女性正社員が増加したかと言えば、そもそも人口が増えたことと、特に現在の50歳代は「団塊ジュニア」を含むボリューム層であることに加え、女性の有業率(15歳以上人口に占める有業者の割合)が上昇してきたことが挙げられます。図3のように、1987年から2022までの35年間に、50代前半の有業率は16.5ポイント、50歳代後半の有業率は23.8ポイント上昇しました。

図3.50代女性の有業率の推移

 このように、「中高年女性会社員」が、企業で働く正社員の中で一定の存在になったのですから、その役割や、活用方法を今一度、考え直すことが必要ではないでしょうか。図1からも分かるように、特に男性は若い世代ほど正社員の数が減っていくので、今後、企業によっては社員全体に占める「中高年女性」のシェアは増してくるでしょう。更に、これらの中高年女性が今後、次々に定年を迎えていくので、「女性の定年」という問題も、より大きなテーマになるでしょう。

 そこで、中高年女性会社員に、職場でより役割を担ってもらい、また、定年まで生き生きと働き続けてもらうためには、どんなことが必要になるのでしょうか。次稿以降、定年後研究所とニッセイ基礎研究所の共同研究の成果をご紹介しながら、そのヒントについて、考えていきたいと思います。

【筆者プロフィール】
 坊 美生子(ぼう みおこ)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任
神戸大学大学院国際協力研究科修了。読売新聞記者として、大阪社会部や東京社会部、地方部で、主に労働分野や地方行政を取材。現在は、ミドルシニア女性のライフデザインや、高齢者の移動サービス、ジェロントロジーなどを研究している。2018年から和歌山放送ゲストコメンテーター。



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2024/10/23
お知らせ 第4回 心の高齢化を防ぐキーファクター#12<ミドルシニアの羅針盤レター>

ミドルシニアの羅針盤レター2024#12
  ミドルシニアの羅針盤レター 2024#12

第4回 心の高齢化を防ぐキーファクター

 定年後研究所「シニア活躍推進研究会」でご登壇いただき、ご好評をいただいた早稲田大学大学院経営管理研究科教授 竹内規彦氏より「シニア人材の積極活用に向けた視点」を語っていただいています。今回は4回目(最終回)です。

各回タイトル
第1回 「シニアの仕事エンゲイジメントが低い」は本当か?
第2回 シニアになっても衰えない能力はある
第3回 エイジ・ダイバーシティの本質を探る
第4回 心の高齢化を防ぐキーファクター

1.心の高齢化とは?
 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」という映画をご存じの方は多いでしょう。1985年にアメリカで公開され、その後世界中で大ヒットしたSF映画です。あまりに有名な映画なので内容は割愛しますが、「未来へ戻る」という逆説的な表現のタイトルに興味をそそられた人たちが多かったことでしょう。なぜなら、時間は不可逆であり、先に進むことはあっても戻ることはできないからです。

 このことは、人が生まれてから経験する時間、つまり「年齢」においても同じです。年齢は暦が進むにつれ、一時も止まることなく上昇します。したがって、暦年齢が「バック」することは、現実の世界では残念ながら起こりません。

 しかし、人の内面である「心の年齢」はどうでしょうか。心の年齢とは、本人の知覚や主観に基づく「心理的年齢」のことです。確かに、暦上の実年齢(How old you “are”.)に対して、私たちは逆らうことができませんが、この心理的年齢(How old you “feel”.)は、調整する余地が十分にありそうです。つまり、「エイジング・トゥ・ヤング」という逆説(パラドックス)は、心理的年齢に限って言えば、必ずしも不可能ではないでしょう。

2.心の高齢化がもたらす内面の変化
 スタンフォード大学ロンジェビティー研究所教授のローラ・カールステンセンが提起した「社会情動的選択性理論」(socio-emotional selectivity theory)とその後の実証研究による裏づけから、心の高齢化により以下のような変化が起こることがわかっています。まず、加齢に伴い個人の関心事は、自身に関連する「リソース・ゲイン(資源獲得)の最大化」から「リソース・ロス(資源損失)の最小化」へとシフトします。

 なかでも、若年では、個人の行動は「情報探索」や「知識獲得」により動機づけられる一方、一定の年齢を経ると、個人の行動は「感情調整」により動機づけられるようになります。つまり、若いうちは、「新たな情報や知識を得るには何をすべきか」を意識して行動しますが、年をとるにつれ、新たな経験よりも「自身の感情を安定させるためには何が必要か」を優先して行動するようになるのです。

 更に、個人の対人ネットワークの大きさにも変化をもたらします。すなわち、新鮮な情報や知識の獲得に強く動機づけられる若い時期は、より多くの人々、今まで知り合ったことのない人々と交流し、新たな情報や知識の獲得に役立てる傾向がみられます。一方で、加齢に伴い、自身の感情の安定や心の平穏をより強く求めるようになると、配偶者や家族、親友や近しい同僚など、過去に関係を築いてきた人たちとの継続的かつ安定した交流をし、自身の情緒面での安定を優先するようになります。

3.心の高齢化はいつから?
 暦年齢とは異なり、心の高齢化には個人差があります。とはいうものの、心の高齢化が見られるおおよその時期があることも、過去の研究で明らかになっています。

 ハイデルベルク大学老年心理学部教授のコーネリア・ヴルツらは、対人ネットワークと年齢の関係に関するメタ分析を行い、個人の対人ネットワークの大きさは30歳まで広がるものの、それ以降は徐々に小さくなる傾向にあることを報告しています。

 興味深いことに、この研究以外にも、上述のような内面変化について、「30歳」が一つのターニングポイントであることを示唆する研究が数多くみられ、筆者らによる日本人サンプルの研究でも確認しています。

 したがって、早い人では、30歳前後から、新たな知識獲得を通じた自己成長にブレーキをかけてしまい、対人関係の幅も限定的になりがちという状況が起こり始めます。そのため、個人の人生の中で、心の高齢化のターニングポイントをいかに後ろ倒しにできるか、また、変化のスピードをいかに遅らせられるかが重要だといえるでしょう。

4.心の高齢化を予防する職業的未来展望
 では、心理的年齢は何によって決まるのでしょうか。重要な指標として注目されているのが、「未来展望」(future time perspective)という概念です。未来展望とは、人生の中でこれから先にどの程度、時間や機会があるかに関する自己の主観的な評価を指します。すなわち、同い年の間でも、まだまだ人生は長い、チャンスはあると知覚する人もいれば、残された人生の時間やチャンスは非常に限られていると認知する人もいます。

 更に、この概念を職業生活に応用したものを「職業的未来展望」といいます。自身の職業生活はこれからも続き、まだまだ仕事や社会で活躍できる機会が待ち受けているという知覚です。ここで、職業的未来展望の効果に関するデータを紹介しましょう。

図1.「職業的未来展望」の違いから見た年齢別のワーク・エンゲイジメント

図1 年齢階級別に見た3つのパフォーマンス指標と「創造性」の変化

 図1、図2は、筆者の研究グループが実施した調査をもとに、各年代別で職業的未来展望の上位20%と下位20%、及びその中間の層のそれぞれのグループにおいて、ワーク・エンゲイジメントとイノベーション関連行動(新たなアイデアの提案、活用、普及にどの程度関与しているか)にどのような差があるかを示したものです。いずれも、縦軸のスコアは100が最高値です。

 図1、図2から、全年齢層において、職業的未来展望が高いグループでは、ワーク・エンゲイジメント及びイノベーション関連行動ともに安定して高い水準に推移している一方、低いグループではどの年齢区分でもエンゲイジメント・イノベーションともにスコアが低いことがわかります。すなわち、仕事場面で心を若く保つ秘訣は、この「職業的未来展望」をいかに高く保つことができるかだといえるでしょう。

5.「1人ひとりが活躍できる機会の創出」が鍵
 以上からわかるように、心の高齢化を防ぐキーワードは「1人ひとりが活躍できる機会の創出」であるといえます。本連載の初回で示したように、シニアのワーク・エンゲイジメントは、個人差こそあれ、決して低い水準にあるわけではありません(むしろ他の年齢層よりも高い水準を示していました)。また、連載2回目の記事でも示したとおり、シニアになっても言語理解の知的領域は衰えず、更にマルチタスクの実行力も高い水準を維持しています。なにより、長年培ってきた経験や人脈などの可視化できない重要な知をシニアは備えています。

 企業に叡智が求められるのは、単に定年年齢を延長するという物理的時間だけではなく、シニアの活躍のための機会を創造し、全従業員に活躍のイメージを見せることでしょう。つまり、残りの職業人生で、まだまだ活躍できるチャンスがあるという認識をシニア予備軍のみならず、全従業員にもってもらうことです。これが従業員の心の高齢化を予防する上で、最も留意しなければならない点でしょう。

【参考文献】
竹内規彦. (2019). シニアの 「心の高齢化」 をいかに防ぐか:心理学と経営学の知見を活かす. DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー, 4, 72-83.

【筆者プロフィール】
 名古屋大学大学院国際開発研究科博士後期課程修了。博士(学術)学位取得。専門は組織行動論及び人材マネジメント論。東京理科大学准教授、青山学院大学准教授等を経て、2012 年より早稲田大学ビジネススクールにて教鞭をとる。2017年4月より現職。2022年より京都大学経営管理大学院にて客員教授を兼務。
現在、Asia Pacific Journal of Management (Web of Science IF = 5.4; Springer Nature) 副編集長 (2019-)、 欧州Evidence-based HRM誌 (Web of Science IF = 1.6; Emerald Group Publishing) 編集顧問。
これまでに、Association of Japanese Business Studies(米国)会長、経営行動科学学会会長、産業・組織心理学会理事、組織学会評議員、『経営行動科学』副編集委員長 、國立成功大學(台湾)客員教授、京都大学・学習院大学 客員研究員等を歴任。組織診断用サーベイツールの開発及び企業での講演・研修等多数。



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2024/10/09
お知らせ 第3回 エイジ・ダイバーシティの本質を探る#11<ミドルシニアの羅針盤レター>

ミドルシニアの羅針盤レター2024#11
  ミドルシニアの羅針盤レター 2024#11

第3回 エイジ・ダイバーシティの本質を探る

 定年後研究所「シニア活躍推進研究会」でご登壇いただき、ご好評をいただいた早稲田大学大学院経営管理研究科教授 竹内規彦氏より「シニア人材の積極活用に向けた視点」を語っていただいています。今回は3回目です。

各回タイトル
第1回 「シニアの仕事エンゲイジメントが低い」は本当か?
第2回 シニアになっても衰えない能力はある
第3回 エイジ・ダイバーシティの本質を探る
第4回 心の高齢化を防ぐキーファクター

1.シニア人材活用をダイバーシティから見る視点
 今回は、シニア人材の活用について、「ダイバーシティ(多様性)」の観点から考えてみたいと思います。ダイバーシティとは、性別(ジェンダー)や人種、能力や価値観など様々な違いをもった人々が組織や集団の中で共存している状態を指します。日本では、ダイバーシティというと、ジェンダーや国籍の問題がよく取り上げられます。しかし、欧米では、エイジ、つまり「年齢」も重要なダイバーシティの属性として見られています。

 また、産業界や実務家の間では、ダイバーシティはイノベーションの文脈でよく議論されます。その多くは、ダイバーシティの促進が、組織や事業の革新を伴う成長をもたらすのか、に焦点が当てられています。なぜなら、今日、イノベーションの創出は、多くの企業において重要な課題となっているからです。

 イノベーションとは、一言でいえば、価値を生み出すためにこれまでとは異なる何かを行うことです。ビジネスの場面では、イノベーションは、新しいアイデア、方法、製品、サービスなどを導入するプロセスであり、その結果、組織内に大幅な改善や進歩がもたらされることを指します。イノベーションは、個人、対人(上司-部下間、同僚間)、職場(部署や部門レベル)、組織(事業部単位や全社レベル)など様々なレベルで起こりますが、果たしてシニア人材の活用は、イノベーションの創出に貢献できるのでしょうか? 以下、シニアの創造性という観点と職場やチームにおけるエイジ・ダイバーシティという観点から見ていきたいと思います。

2.加齢によって創造性は変化するか?
 前回の連載記事では、加齢に伴うパフォーマンスの変化について見てきました。図1は、前回示した年齢階級別の3つのパフォーマンスの推移に、新たに創造性の指標をグラフに加えたものです。この結果は、前回同様、日本企業10社に勤務する1,089名とその直属の上司から得られた回答データに基づいており、パフォーマンスと創造性はいずれも上司が評価・回答したデータを採用しています。

 図1から、どの年齢階層においても、タスクやチーム、組織への貢献領域に関するパフォーマンス評価よりも創造性の水準は、相対的に低いことがわかります。また、創造性のグラフを見ると、「55歳以上」で大きく落ち込んでいるのがわかります。

図1 年齢階級別に見た3つのパフォーマンス指標と「創造性」の変化

 この結果をストレートに解釈すると、シニア層は仕事場面における「創造性」が低下しているということになります。一方で、結果の解釈上、いくつか留意する点もあるでしょう。第1に、アサインされている仕事内容について、各年齢層で等しいとは限らないということです。特に、20歳代と55歳以上の層で創造性が低い水準にあることを考えると、入社から間もない若手と定年に近い(もしくは再雇用等の)シニアには、創造性を発揮できる業務があまり課されていない可能性があります。

 第2に、この結果は、社員の創造性の評価を上司が行っているため、上司によるステレオタイプ認知バイアスが働いている可能性もあります。つまり、評価する側の中に、評価者の年齢に対する固定観念(中高年は創造性が低い)がある場合、無意識のうちにシニアの創造性を低めに評価してしまうというバイアスが働いているかもしれません。

 したがって、業務のアサイン、評価を行う上司の年齢に対するバイアスを取り除くことで、シニアの創造性のスコアが上昇する可能性は十分にあるでしょう。

3.イノベーションに効果のあるダイバーシティとは?
 続いて、職場やチームのレベルで、エイジ・ダイバーシティがイノベーションにどのような効果を持つのか、既存の研究結果から見ていきましょう。

 組織行動論では、チームや組織におけるダイバーシティの効果を検証する研究は数多く蓄積されています。一言でダイバーシティといっても、性別や価値観、経験など様々な側面での多様性がありますが、大きく以下の3つの分類が用いられています。
 (1)「属性ダイバーシティ」・・・メンバーの性別、年齢、国籍が多様なこと。
 (2)「深層レベルダイバーシティ」・・・メンバーの性格、価値観などが多様なこと。
 (3)「仕事関連ダイバーシティ」・・・メンバーの仕事の専門領域、スキル、経験値などが多様なこと。

 この分類に基づき、既存のダイバーシティの効果検証を行った膨大な研究報告をメタ分析という手法で整理し再検証した論文(van Dijk et al., 2012)によると、チームのイノベーションを高める効果が確認されたのは、「仕事関連ダイバーシティ」のみでした。また、仕事関連ダイバーシティはチームレベルのパフォーマンスを高める効果があることも確認されています。

 興味深いことに、メンバーの年齢多様性は、イノベーションやパフォーマンスに効果が見られませんでした。このことは、単に年齢の異なるメンバーの組み合わせだけでは、イノベーション喚起もパフォーマンス向上も期待できないということでしょう。

4.シニアの「情報資源」に着目したエイジ・ダイバーシティの促進
 上述のとおり、シニアの「年齢」そのものはあくまで属性・シンボルであり、ダイバーシティには必ずしも貢献しないのです。この点は、エイジ・ダイバーシティの議論で誤解されがちな部分です。

 大事な点は、シニアが長年培った仕事経験やスキル、専門性、人脈などが、いかに職場やチームの「情報資源」となり得るかという視点でしょう。そもそもイノベーションを引き起こすメカニズムで重要なのは、「異なる知の組み合わせ」です。したがって、シニア人材を採用(再雇用)・配置(再配置)する際に、シニア本人の経験や専門領域が採用・配属後の職場・組織にとって、どのような情報の「新規性」と「補完性」があるかを考える必要があるでしょう。

【参考文献】
van Dijk, H., van Engen, M. L., & van Knippenberg, D. (2012). Defying conventional wisdom: A meta-analytical examination of the differences between demographic and job-related diversity relationships with performance. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 119(1), 38-53.

【筆者プロフィール】
 名古屋大学大学院国際開発研究科博士後期課程修了。博士(学術)学位取得。専門は組織行動論及び人材マネジメント論。東京理科大学准教授、青山学院大学准教授等を経て、2012 年より早稲田大学ビジネススクールにて教鞭をとる。2017年4月より現職。2022年より京都大学経営管理大学院にて客員教授を兼務。
現在、Asia Pacific Journal of Management (Web of Science IF = 5.4; Springer Nature) 副編集長 (2019-)、 欧州Evidence-based HRM誌 (Web of Science IF = 1.6; Emerald Group Publishing) 編集顧問。
これまでに、Association of Japanese Business Studies(米国)会長、経営行動科学学会会長、産業・組織心理学会理事、組織学会評議員、『経営行動科学』副編集委員長 、國立成功大學(台湾)客員教授、京都大学・学習院大学 客員研究員等を歴任。組織診断用サーベイツールの開発及び企業での講演・研修等多数。



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2024/09/25
お知らせ 第2回 シニアになっても衰えない能力はある#10<ミドルシニアの羅針盤レター>
ミドルシニアの羅針盤レター2024#10
  ミドルシニアの羅針盤レター 2024#10

第2回 シニアになっても衰えない能力はある

 定年後研究所「シニア活躍推進研究会」でご登壇いただき、ご好評をいただいた早稲田大学大学院経営管理研究科教授 竹内規彦氏より「シニア人材の積極活用に向けた視点」を語っていただいています。今回は2回目です。
各回タイトル
第1回 「シニアの仕事エンゲイジメントが低い」は本当か?
第2回 シニアになっても衰えない能力はある
第3回 エイジ・ダイバーシティの本質を探る
第4回 心の高齢化を防ぐキーファクター
1.知能検査からみた加齢の能力(知能)への影響
 前回は、加齢とモチベーション、特に仕事へのエンゲイジメントとの関係について、筆者のデータをもとにその実態を示しました。具体的には、加齢に伴い仕事エンゲイジメントは低下するどころか、むしろ高まる傾向にあり、特に55歳以上で大きく上昇していることを紹介しました。今回は、加齢と能力(知能)や仕事のパフォーマンスとの関係を見ていきたいと思います。

 あくまで一般論としてですが、中高年以降、加齢に伴い知能はおおむね低下していく、という見方を持っている読者は少なくないと思います。この点について、知能と年齢の関係を長年研究しているアラン・カウフマン(イェール大学小児研究センター元教授)らの研究成果をもとに見ていきましょう。

 知能検査の世界標準として知られる「ウェクスラー成人知能検査」の第四版(WAIS-IV)では、4つの知能領域と加齢の関係について報告をしています。図1では、25歳の時の知能水準を100とした場合、それぞれの知能が加齢に伴いどのように変化するのかを示しています。この図から、「言語理解」と「ワーキングメモリ」は、加齢による影響を受けにくいことがわかります。

 言語理解とは、蓄積された経験・知識を活用したり、言葉によって物事を説明したり考えたりする能力を指します。この言語理解の知能は、25歳を超えてから40代後半辺りまで伸び続けます。その後低下には転じますが、その落ち方は非常に緩やかであり、個人差はもちろんありますが、80歳でも25歳の時とほぼ同水準の言語理解力を維持しています。

 また、ワーキングメモリとは、情報の一時的な記憶と処理を同時に行うような一時的記憶力や二重課題の遂行力を指します。暗黙の裡に、シニアは「マルチ・タスク」は苦手と考えがちですが、必ずしもそうではないのです。

 一方で、図1より、「知覚推理」(視覚的な情報処理や新たな環境適応)と「処理速度」(情報処理のスピードや筆記能力)は、加齢に伴い低下しやすい能力であることがわかります。このように、シニアの知的能力は、必ずしも一様に低下しているわけではなく、むしろ言語理解は、高い水準を維持しているのです。個人差はあるものの、職場での指導的な役割や社内外のステークホルダーに説明が求められる場面などで活躍できる可能性は十分にあります。加えて、記憶と処理を同時並行してこなすワーキングメモリも決して低くはありません。こうした特性を活かしたシニアの職務配置や仕事のアサインメントは有効だと考えられます。

図1 4つの能力の加齢変化

2.シニアの仕事のパフォーマンスは低い?
 従業員のパフォーマンスをどのように捉えるかは、職種や部門、業種などの違いにより一様ではないため、その測定は必ずしも容易ではありません。一方で、このような限界はあるものの、より普遍的にパフォーマンスを測定するニーズが存在することも事実です。職種や部門、業種などを横断的に測定する際によく用いられる指標として、(1)タスク・パフォーマンス(個人にアサインされた日々の業務(タスク)そのものの遂行度合い)、(2)チーム・パフォーマンス(職場などにおける他のチームメンバーとうまく協力して仕事を遂行する度合い)、(3)組織パフォーマンス(職場よりも更に上位のレイヤーである「会社全体」にとって必要なことは何かを考え行動する度合い)の3つがあります。

 図2は、上記3つのパフォーマンス水準に関する直属の上司から見た評価結果を、部下の年齢階級に沿って図示したものです。つまり、ここでの回答スコアの数値は、従業員本人の自己申告によるパフォーマンスではなく、多くの企業で行われている人事評価(一次評定:直属上司による部下のパフォーマンス評価)の結果に近いものとなります。

図2 3つのパフォーマンス水準の加齢変化

 図2より、3つのパフォーマンス指標のうち、日々の業務そのものの遂行度合いに関するタスク・パフォーマンスは30代以降、ほぼ同水準で推移しており、シニア層でも必ずしも低くないことがわかります。一方で、55歳以降でやや落ち込みが大きいのは、他のメンバーとの協働と関連するチーム・パフォーマンスであることがわかります。とはいえ、数値としてはそれほど大きな差ではなく、全般的にみて、加齢に伴うパフォーマンスの低下はそれほど顕著なものではありません。少なくとも、与えられた業務(役割)をしっかりとこなす能力は、シニアでも高いことがわかります。

 以上のことから、本人のニーズや能力面で個人差はあるものの、シニア社員に対して、(1)言語理解の知的領域を活かせる業務アサインメントや職務配置を検討する、(2)本人がやりがいを感じるマルチ・タスクが何かを把握しその業務割り当てを検討する、そして(3)シニアの業務役割を明確にする、などは、シニアの能力的な特性に合致した対応と言えそうです。

【参考文献】
Lichtenberger, E. O., & Kaufman, A. S. (2009). Essentials of WAIS-IV assessment. Wiley.

【筆者プロフィール】
 名古屋大学大学院国際開発研究科博士後期課程修了。博士(学術)学位取得。専門は組織行動論及び人材マネジメント論。東京理科大学准教授、青山学院大学准教授等を経て、2012 年より早稲田大学ビジネススクールにて教鞭をとる。2017年4月より現職。2022年より京都大学経営管理大学院にて客員教授を兼務。
現在、Asia Pacific Journal of Management (Web of Science IF = 5.4; Springer Nature) 副編集長 (2019-)、 欧州Evidence-based HRM誌 (Web of Science IF = 1.6; Emerald Group Publishing) 編集顧問。
これまでに、Association of Japanese Business Studies(米国)会長、経営行動科学学会会長、産業・組織心理学会理事、組織学会評議員、『経営行動科学』副編集委員長 、國立成功大學(台湾)客員教授、京都大学・学習院大学 客員研究員等を歴任。組織診断用サーベイツールの開発及び企業での講演・研修等多数。

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