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ミドルシニアの羅針盤レター2025-06
ミドルシニアの羅針盤レター  2025#6

第2回 能力開発システムの変化と職場管理者の役割

定年後研究所主催シニア活躍推進研究会で講演、ご好評をいただいた佐野嘉秀氏(法政大学経営学部教授)より4回にわたり語っていただきます。今回は2回目です。

 前回は、ミドル・シニアの活躍に向けて、これらの社員層の能力開発の充実がますます重要となっていることを確認した。そしてミドル・シニアも含め、企業の能力開発について考えるうえでは、日本企業で進みつつある能力開発システムの変化を把握することが大事となる。そこで、そうした変化の起点となる「古典的」能力開発システムの特徴づけまでを行った。

 日本企業の現状を見ると、そのような「古典的」能力開発システムとは異なる特徴をもつ企業がすでに少なくない。新たに広がりつつある、いわば「変化型」能力開発システムの実態はどのようなものか。これについてのデータにもとづく詳しい分析は、藤本真・佐野嘉秀編著(2024)『日本企業の能力開発システム 変化のなかの能力開発と人事・職場・社員』(労働政策研究・研修機構)で行っている。ここでは、その知見をもとに、新たな能力開発システムの特徴を紹介したい。

表 日本企業の能力開発システムの変化

 変化の起点となる「古典的」能力開発システムは、分権化、個別化、早期分化、職場外化という4つの変化の波にさらされつつある。これらの変化を整理すると、表のようになる。

 1つ目の変化は、(a)分権化である。人事部門がもっていた配置転換に関する権限が、職場管理者に大きく委譲される。これにともない、配置転換を通じた社員のキャリア形成にも、職場管理者がより広く関わるようになる。

 2つ目は、(b)個別化である。配置の決定を含む能力開発の決定に、社員の意向をより大きく反映させるようになる。例えば、ワークライフバランスの観点から、社員の育児や介護の都合に配慮して、転勤(転居をともなう配置転換)を一時的に免除するなどがこれにあたる。あるいは、「キャリア自律」の掛け声のもと、社員選択型の研修制度を拡充したり、社内公募制度の対象を広げたりする企業などもある。こうした企業の取り組みは、教育訓練や異動を通じた社員のキャリア形成に、社員の意向を反映させる点で、能力開発の個別化の動きを示す。

 3つ目は、(c)早期分化である。日本企業の中にも、「抜擢」を重視して、社員の昇進選抜の時期を早める企業が広がっている。欧米企業と比べるとそれでも遅い面がある。とはいえ、一部には、30歳台前半から、課長への登用を始める企業も見られる。

 4つ目は、(d)職場外化である。OJTに加えて、以前よりもOff-JTとしての研修や、社員の自己啓発支援に投資する企業が増えてきた。

 このような4つの変化の延長線上にある「変化型」能力開発システムは、職場ごと、社員ごとの能力開発の多様性を受け入れる性格をもつ。しかし、これにともない、能力開発が、まったくの職場任せ、社員任せになってしまうわけではない。

 すなわち、(a)分権化にともない、職場管理者に能力開発に関わる主な意思決定をゆだねつつも、人事部門がこれに関与して調整をはかる。また(b)個別化も、企業主導のもと、配置などに社員の意向を反映させる範囲で進められる。(c)早期分化でも、およそ30歳台前半くらいまでの社員の育成は重点的に行おうとしている。さらに(d)職場外化として、Off-JT等を強化するなかでも、OJTを重視する姿勢は変わらない。

 総じて、人事部門と職場管理者の連携のもと、企業として安定的に、能力開発をつうじた人材確保を実現できる範囲内で、職場ごと、社員ごとの能力開発の多様化が進められている。企業として、採用に頼るというのではなく、社内での能力開発をつうじて人材確保をはかろうという方針が保たれているといえる。

 ところで、このような「変化型」能力開発システムのもとでは、職場管理者により大きな期待がかけられよう。すなわち(a)分権化にともない、職場管理者は、能力開発の意思決定をより大きく担う。そうしたなか、(b)個別化や(c)早期分化に応じて、職場メンバー各人のワークライフバランスの都合やキャリアへの志向を各人の能力開発に反映させる役割を担う。(d)職場外化のもと、OJTに加えて、参加する研修や自己啓発への取り組みを情報面、時間面で支援する役割も大きくなる。

 こうしたなかにあって、人事部門が果たすべき役割は何か。たしかに能力開発において職場管理者が果たす役割は大きくなる。しかし、企業として能力開発を進めていくうえで、人事部門の役割は決して小さくはならない。職場管理者の担う能力開発を支援する役割がますます重要となるためである。これについては、次回のテーマとしたい。

以上

【筆者プロフィール】
佐野 嘉秀 (さの よしひで)
法政大学経営学部教授
東京大学人文社会系研究科博士課程修了,博士(社会学)。専門は人的資源管理論及び産業社会学。東京大学社会科学研究所を経て2013年より現職。労働政策研究・研修機構(JILPT)や労働政策に関する各種審議会で委員・座長を務める。著書に『英国の人事管理・日本の人事管理―日英百貨店の仕事と雇用システム』東京大学出版会(2021年),冲永賞・日本労務学会賞(学術賞)を受賞。『日本企業の能力開発システム―変化のなかの能力開発と人事・職場・社員』(共編著)労働政策研究・研修機構(2024年)などがある。

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