ミドルシニアの羅針盤レター2025-07 2025/11/05 メールマガジン Tweet ミドルシニアの羅針盤レター 2025#7 第3回 能力開発に向けた人事部門と職場管理者の連携 定年後研究所主催シニア活躍推進研究会で講演、ご好評をいただいた佐野嘉秀氏(法政大学経営学部教授)より4回にわたり語っていただきます。今回は3回目です。 前回は、日本企業の能力開発システムが、分権化、個別化、早期分化、職場外化という変化を受けていわば「変化型」へと変化してきていることを確認した。こうしたなか、職場管理者が能力開発において果たす役割は、ますます大きくなる。 すなわち、職場管理者は、職場メンバーの配置からOff-JTや自己啓発の支援までを含めて、広く能力開発の実質的な意思決定と実行を担う。こうしたなか、職場メンバーごとのワークライフバランスやキャリアの希望を、各人の能力開発に反映させる。そうしながらも、職場そして企業としての能力開発をつうじた人材確保に貢献することが求められる。 ミドル・シニアの活躍推進に向けても、このような職場管理者の果たす役割は重要となろう。ミドル期以降のキャリアこそ、社員のこれまでのキャリアの到達点や、役職定年や定年などにともなう役割や仕事の変化、ワークライフバランスに関わる志向のちがいなどに応じて、社員ごとに様々となる。これに応じた個別的な能力開発が求められるなかで、ミドル・シニア社員と職場で直接、接する職場管理者の果たす役割が欠かせない。 とはいえ、このように能力開発において、職場管理者の果たす役割が大きくなるなかでも、人事部門の役割は決して小さくならない。職場任せにすればよいというわけではなく、人事部門として、職場管理者の担う能力開発を支援することが、一層重要になるためである。 図は、こうした関係のイメージである。「変化型」能力開発システムのもとでは、配置の決定などに関する人事部門の権限が、大きく職場管理者に移譲される。そうした面に関しては、上記のように、人事部門による社員各人への直接的な能力開発への関与は少なくなる。しかし他方で、人事部門の役割として、職場管理者が広く担う能力開発を支援することの重要性は高まろう。能力開発において、人事部門と職場管理者の連携が、ますます重要になるといえる。 その実態について、藤本真・佐野嘉秀編著(2024)『日本企業の能力開発システム 変化のなかの能力開発と人事・職場・社員』(労働政策研究・研修機構)からの知見を紹介したい。 企業調査(正社員数300名以上の企業を集計)によれば、人事部門が職場管理者に対して、①部下育成に関する管理職研修、②セミナー・研修に関する情報提供、③企業の能力開発方針の作成・周知を5割前後の企業で実施している。ある程度、広く普及した取り組みといえる。 これに対し、④部下育成の人事評価への反映、⑤求める人材像のすり合わせ、⑥部下育成に関する情報提供は、2~3割程度の実施となる。⑦個別の社員に関する助言・意見交換や、⑧部下育成の負担を考慮した要員配置、⑨部下育成に関わるコンサルティングは、1割前後が実施するにとどまる。 人事部門による職場管理者の担う能力開発に対する支援は、企業によっても、また施策によっても実施率にちがいがある。こうしたなか、職場管理者調査をもとに、能力開発に向けた人事部門との連携についての職場管理者の評価を見ると、「十分に」あるいは「ある程度」「連携できている」とする割合は合わせて4割程度となり、評価は分かれている。 そして、人事部門との連携への評価が高い職場管理者ほど、部下社員に対する能力開発の自己評価が高い。実際にも部下社員の能力開発に向けて広く取り組む傾向にある。とくに部下社員に対して、次に目指すべき仕事や役割を示したり、今後のキャリアに向けて相談に乗ったりなどしている。職場メンバーが現在担当している仕事に関わる能力開発だけでなく、さらに今後のキャリアに向けた支援にも取り組む傾向にある。 この背景として、人事部門による職場管理者への支援を通じて、職場管理者が、企業としての能力開発の方針を理解し、部下社員のキャリア支援も含めた能力開発を自らの役割として受け入れる。また、これに向けた能力開発に関わるノウハウを高めているものと考えられる。人事部門による職場管理者の担う能力開発支援は、職場での能力開発を充実させる効果がある。 しかし、上述のように、こうした取り組みには企業間で差がある。また、企業調査と職場管理者調査とを組み合わせて分析すると、企業が管理職への支援を行っているつもりでも、職場管理者がそう認識していないケースが多いことも分かった。 人事部門として、職場管理者に対し、企業としての能力開発の方針の周知・共有、研修の提供、個別の助言・相談対応などの取り組みを実質的に行うことが課題となる。そうすることで、職場管理者の担う能力開発を方向づけ、その実行を支援することが求められる。 以上 【筆者プロフィール】 佐野 嘉秀 (さの よしひで) 法政大学経営学部教授 東京大学人文社会系研究科博士課程修了,博士(社会学)。専門は人的資源管理論及び産業社会学。東京大学社会科学研究所を経て2013年より現職。労働政策研究・研修機構(JILPT)や労働政策に関する各種審議会で委員・座長を務める。著書に『英国の人事管理・日本の人事管理―日英百貨店の仕事と雇用システム』東京大学出版会(2021年),冲永賞・日本労務学会賞(学術賞)を受賞。『日本企業の能力開発システム―変化のなかの能力開発と人事・職場・社員』(共編著)労働政策研究・研修機構(2024年)などがある。 当メールマガジンは一般社団法人定年後研究所が総合監修し、配信運営は株式会社星和ビジネスリンクが行っております。 Tweet