ミドルシニアの羅針盤レター2025-08

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ミドルシニアの羅針盤レター 2025#8
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第4回 ミドル・シニアの活躍推進と人事部門・職場管理者の連携
ここまでの3回の連載で、日本企業の能力開発システムが、能力開発の分権化、個別化、早期分化、職場外化の方向に向けて変化しつつあることを確認した。こうしたなか、能力開発の当事者である人事部門と職場管理者の役割も変わりつつある。 すなわち、職場管理者は、能力開発を左右する配置の決定や、Off-JTと自己啓発への支援などを含め、職場メンバーの能力開発に関してより広い役割を担うこととなる。これにともない人事部門の役割として、このように職場管理者が担う能力開発を支援することの重要性がますます高まっている。 とはいえ、前回、確認したように、現状において、人事部門によるそうした取り組みには、企業ごとの差も大きい。職場管理者から見た、能力開発に関わる人事部門との連携についての評価も分かれている。人事部門が支援しているつもりでいても、職場管理者にそれが届いていないケースも多い。また実は、能力開発の分権化などが進んだ「変化型」能力開発システムに近い企業で、職場管理者支援に向けた取り組みがとくに進んでいるという関係も見られない。 職場管理者が担う能力開発にますます期待がかけられる一方で、これに向けた人事部門の支援が十分とはいえない企業が多いと見られる。前回も指摘したように、人事部門の取り組みとして、職場管理者に対して、企業としての能力開発の方針の周知・共有をはかるとともに、研修や個別の助言・相談対応などを実質的に行うことが課題となる。これをつうじて、職場管理者の担う能力開発を方向づけ、その実行を支援する取り組みを実質的に行うことが求められる。 職場管理者の担う能力開発に対する人事部門の支援は、もちろんミドル・シニア活躍推進の文脈のなかでも重要となる。これまでにも指摘したように、少子高齢化にともなう人材確保難を背景に、シニア社員の活用方針を積極化している企業は少なくない。これに向けて、ミドルのうちからシニア期までを含めたキャリア段階での能力開発の意義は高まっている。その充実をはかるうえで、職場管理者の担う能力開発の重要性は高く、これを支援する人事部門の役割がやはり欠かせない。 とくにミドル・シニア社員では、より若い年齢層の社員と比べても、これまでのキャリアのちがいを反映した能力の水準に差が大きい。またシニア期の役割と仕事の変化や、ワークライフバランスへの志向なども様々となる。各人のそうしたちがいに合わせて、個別に能力開発を進めるうえで、職場管理者の担う役割は一層重要といえる。 このように重要な役割を担う職場管理者に対して、人事部門が、企業としての能力開発の方針の周知・共有をはかり、研修や個別の助言・相談対応などの支援を行うことが有効となる。この点は、より若い年齢層の社員の能力開発と変わるところはないだろう。 これまでは、高齢者雇用安定法への対応を念頭に雇用確保をまずは重視し、シニア社員には、習得済みの能力の範囲内での貢献を期待してきた企業も多かったと見られる。近年になってそうした企業も、より積極的なシニア活用へと方針を転換してきている。しかし現状では、そうした積極活用の方針や、これに向けた能力開発の重要性が職場管理者に伝わっておらず、十分に認識されていないかもしれない。企業として職場管理者に対し、シニア社員の積極的な活用方針を伝え、シニア社員の能力開発を自らの役割として受け入れてもらう必要がある。 もちろん人事部門として、職場管理者に企業の方針を共有するだけでは足りない。併せて、能力開発に関する研修や情報提供、個別の相談などの機会をもうけて、職場管理者が担う能力開発を支援することが重要となる。この点は、職場メンバーの年齢を問わない。 加えてこれも、ミドル・シニアに限らないことながら、職場管理者への要員・労働時間面での手当ても課題となる。前回、確認したように、現状では職場管理者の担う能力開発の負担を踏まえた要員配置を行う企業はごく少ない。しかし様々な研究から、職場管理者の多忙さが、彼らによる能力開発への取り組みを阻害する要因であることが明らかとなっている。 ここまで確認したように、職場管理者には、ミドル・シニアも含め、職場メンバーの能力開発を担う役割がますます期待されている。これを十分に遂行できるよう、職場管理者の業務量や業務範囲、管理スパンを再考するなど、職場管理者が職場での能力開発に充てる時間を確保できるような支援が、今こそ求められる。 以上の点は、今回の連載で焦点を当てた能力開発に限らず、ミドル・シニアの活躍推進を進めるうえでも重要となろう。ミドル・シニアの活躍を直接支援するのは、やはり職場で日々、かれらに接する職場管理者であるためである。広くミドル・シニアのはば広い活躍推進に向けて、人事部門と職場管理者の連携が欠かせない。 以上
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